第404話「こそこそ動く般若レディ」
明日追記します!
12/31追記しました!
モンスターの咆哮が森全体を振動させるかのように響いてくる。モンスターの足音が、まるで雪崩でも起きたかのように唸りを上げてくる。
エリーちゃん達は撤退していった。転移石は無事に使えたようだ。なのでたけのこにも首につけている転移石で撤退して貰った。だけど私は残っている。私だけ残った理由は、魔者を目標にしているかどうかの確認が取りたかったからだ。
大量にモンスターがいるのであれば、私のように気配感知を使える奴がいてもおかしくはない。そうしたら私に向かって突撃して来るに違いないが、今の所そんなことはなく、ひたすら、南方向に進んでいる。やはりナテハ王国が狙い何だろうか。
上空からも鳥の鳴き声のようなものが聞こえてくる。陸と空、両方から攻撃を仕掛けようとしているということだろう。
これだけ大量のモンスター、当然ながら私が相手にできるわけもないので、向かって来たら逃げるしかない。魔者を狙ってきているのか確認した後は転移石を使って逃げてしまえばいいだろう。だけどここで怖いのは、転移石を封じられたらということだ。まぁそうなった場合は、最悪ログアウトしてしまえばいいだろう。
だけど、ここでブッチがどう出てくるのかって言うのが気になってしまうんだよなあ。今は他のプレイヤーとの戦闘を楽しんでいるのかもしれないけれど、大量発生しているなんて伝えたらこっちでも戦いたいって言いそうな気がする。返事は来ないだろうけれど一応メッセージ入れておくか。
マブダチからのメッセージ:今もプレイヤーと戦闘中! だけどそっちも面白そうな事になっているね! よーし、俺に逆らう奴は全員死刑だー! プレイヤーもモンスターも全部俺が倒すよ!
まさかの返事が来た。それで、なぜそこで燃え上がるんだろうか。本当に大量にいると伝えたのに。まぁ今は返事をしてきたことだし割と余裕ができてきたってことだろうな。一体どれだけのプレイヤーを屠ったのかは分からないけれど、やる気が凄そうだし。
当然、私はブッチが戦いたいと言ってても逃げる。見捨てるも何もなく、こんな大量に来られたら対処のしようがなく、ボコボコにされて死ぬだろうし。ブッチだったら、やられる前にやればいいんだよとか言い出しそうな気がする。実際その通りなんだろうが、私にはそんな器用な事は出来ない。まぁ、先生のところで作ったアイテムを使えばある程度までは戦えるだろうけれど、ここでは使いたくない。
マオウペンギンを相手に使うのならまだしも、ここで使ってしまったらまた先生のところに戻って作り直さなければいけないし、そうなると時間がかかる。
鎌と薬草を持って戦うということもできなくはないが、ここで戦って私が得する事はそう多くはないと思う。大量発生した敵を沢山倒せるから経験値が沢山貰えるなんて思わないし。こういう時に出てくる敵はむしろ経験値が減らされている可能性もあり得るので、下手したらただ消耗するだけで、得るものが全然ないって結果になる恐れがある。そんなことになるくらいだったら戦いたくない。私はブッチとは違う。
そんなことを考えていると、私の近辺にもモンスターが寄ってきていたので、いない方向へ移動する事にした。でも今も周りが赤いままだし、迷いの森だからここから出られないんだよな。もしかしたらループ開始位置に移動してしまってそのまま潰される可能性も考えられるな。
でもこうやってこそこそと動き回るのは結構楽しいかもしれないな。相手に自分の位置がばれないように潜入するとかハラハラドキドキする。そういうゲームが好きなのもあるので、今の状況は結構楽しめているような気がする。
いつもは誰かを守りながらのゲームプレイをしていたりするけれど、ここでは一人のプレイヤーみたいなものなので、自由だ。
「…!」
心臓が高鳴る。自分のいる位置がバレるかもしれないと思いながらも茂みに隠れたりして、少しずつ移動する。まぁ土潜りを使ってしまえば楽に隠れることもできるけれど、それをやるのも勿体ない気がしているのでまだ使わない。ぎりぎりまで待ってから使う。
気配感知でこちらに近づいてきているのがわかるとはいえ、かなりの重圧を感じる。ローグライクゲームみたいに、こちらが動いたら相手も動くみたいなものだった余裕もあるんだけれど、そうじゃない。常に敵が動き回っているような状況で、次の瞬間には、どこからか攻撃されるかもしれない緊張感がある。
落ち着け、私、落ち着くんだ。VRだから、息の音すらも伝わってしまうのだから、それも我慢しよう。あ、そういえばゲーム内でも呼吸はしているのかってことに今さら気が付いてしまった。現実では呼吸しているけれど、こちらでは息を止めていても別に平気なはずだろう。そんな感じで息を止めてみるけれど、なんだか少し苦しさを感じた。
現実の健康には影響がでない安全性が確保されているのが<アノニマスターオンライン>のはずだけれど、こうやって呼吸を我慢すると不快さが生じるな。これが現実レベルにまでなっていたらどれだけのものになっていたのかなんて怖い想像をしてしまう。
「グアアアア!」
…っ! 思わず反応しそうになった。モンスターの叫び声だけれど、わざわざこんなところで叫ばなくでもいいじゃないか。私の間近にまで迫ってきているのは分かっているけれど、木と茂みが重なっている所に隠れているのでまだバレてはいないな。
匂いだとか何かで怪しまれることはありそうだけれど、そうなったら土潜りだ。もしかしたらここにいるモンスターの中で土潜りを使える奴がいたらまずいことになるかもしれないけれど、その時はその時だ。
モンスター達は多分、私を無視しているというか気が付いていない。こういうスタンピード特有の発狂状態にでもなっていそうだ。発狂状態になると、同じ攻撃ばかりを繰り返すだけになるというのが特徴だ。ただしその攻撃力が通常よりも遥かに高いものになっていることがある。
「グォオ!」
「ブォオオ!」
沢山の唸り声が聞こえてくる。もう十分だな。私はこのスタンピードと無関係だろう。これを確認したかったのは、私が目標だったとしたら街に戻ればそこを襲撃される危険性があったから。流石に私が原因で街が滅びましたとか被害に遭ったみたいな事になるのは嫌だ。私が無関係で滅びるっていうのなら別に構いやしない。
ただ、もうちょっと、見ていきたい気もするんだよなあ。だって、多分ここにいるモンスターって、将来的には私も戦うことになるかもしれないんだから。モンスターの国から来ているって言ったらそうなりそうだ。
「グヴォオオオ!」
背後にある木が、めきめきと音を立てて崩れそうになるのを感じた。これはまずいと思い、ついに私は、土潜りを使った。
「土潜り!」
そして無事に潜れた。だけど、いつものように真っ暗闇の空間ではなかった。真っ赤にもなっていないようだ。どういうことだろう。ただひたすら落下しているような、そんな感覚がある。どういうことだ? 失敗したってわけでもないと思うけれど、なんだかおかしいな。
この森の地面が何か特殊だったからとか? なんか怖くなってきたぞ。地上波危険だと思受けr度、一旦解除してすぐもう一回使ってみるか転移石を使うか。
…解除ができない! そしてやっぱり緩やかに落下している気がする。どういうこと? この森の地下に何かがあったってことか?
いや、もしかして地底にモンスターの国があるとかいうオチじゃないよね!? だからずっと突き抜けて行ってるとかいうことじゃないよね!? 本当に大丈夫かこれ!?
「うっぉおっ!?」
なんだか落下速度が速くなってきた。というかすごい勢いがついてきた。な!? う、うあああ! こ、これ、絶叫マシンに乗っている時に内臓が浮くときの感覚が襲い掛かってくる! ひゃああ! でも周りには何も見えないよ! これ、これまたバグってたり何かするんじゃないの!?
何でもかんでもバグって言うのはよくないけれどおお! これずっと落下しているよよよ! ひ、ひゃああ~!? あ。あ。あぁぁぁー!? 下に森が見える! あれ、じゃあ空は? 空も見える!?
ど。どういうこと!? 地底なのに空がある!? 作られた空か何かなのか!? くそっ! 完全に予想外だ! このままだと落下死するんじゃないのか! ままま、まずーい!
「ふ、浮遊も飛行も自分には使えないし! どうしろとおお!?」
毎度のことながら自分に使えないって事を呪いたくなってくるな本当に! 戦闘中はすごい役立っているけれど、こういう時はどうにもならない。
こうなったら、さ、最後の手段だ。もうやるしかない! あと少しで森に落下してしまう。死ぬくらいならやってやる! いくぞっ!
「隕石拳!」
私の右手が徐々に大きな岩に変化していく。これで、地面に対して攻撃をする。というか本当に空から降ってくるわけだから隕石拳って名前の通りになるなってそんなこと言ってる場合じゃないな! これで衝撃を軽減できるかどうかもよく分からないし、地面を直接殴るような感じでやらないと! うおおおおお! いけえええええ!
「あっぐううう!?」
隕石拳となった私の拳が地面に激突した衝撃が全身を襲う。ゆ、揺れる! すごい揺れる! うわぁぁぁぁ!? なんかどんどんめり込んでいく! 地面に直下したから、そのまま地面をぶっ壊そうとしているってことか。うぐぐぐ。そういえばこれ、まともに止めたことがなかったんだよな!
「こ、こんにゃろう! 言う事を聞けええええええ!」
私がいくらそう言っても、制御ができない。隕石拳最大のデメリットだ。いつ終わるかも分からない。だけどここで使うしかなかった。生き延びるためには。
「隕石拳!! 言う事を聞けってのおおお!」
根性だ根性。そろそろこのスキルも自由自在に使えるようになってもいい頃だろう。こんな風に制御できずに暴れ回られても困る。スキルに使われている現状はよくない。それに現在進行形で困っているんだから止まってもらわなきゃ困る!
「もういいんだっつーの! これ以上めりこむなあああああ!」
こうして私は一人、未知の領域で自分の放ったスキルと対決するのだった。