第400話「赤に染まる」
記念400回目!ですが、明日追記します。
ここまでお読みになってくださっている皆様、ありがとうございます。
12/27追記しました!
「何も見つからない! 広すぎるね、この森!」
だいこんに乗って既に1時間以上が経過している。終わりが見えない。というか同じような景色が繰り返されているので、久々に魔者の試練が発生したのだと思われる。あの目的を達成するまで同じ所何度もぐるぐるさせられる嫌な現象だ。何か変わった物がないか見回しているが、さっぱり分からないので色々と詰んでいるような状況だ。
「目印をつけても消えちゃうみたいですね。ここはさっきも通った気がしますし。」
エリーちゃんは盗賊なので、こういったことを見破るのは得意だ。さっきも通ったというからにはやはり魔者の試練ということだろう。うわぁ面倒くさいことになったなあ。
「姉御。ワイ、そろそろ休憩したいやで…。」
「ああ、同じ所をひたすらずっとじゃ疲れるよね。みんな、一旦だいこんから降りて探索しようか。」
というわけで、邪馬の森内を探索する事にした。
「真っ赤な森って言うのがまた不気味感を出していますよね。」
木全体が真っ赤なので、恐ろしい事件があったような感じを受ける。本当に真っ赤だなあ。なんだか地面まで真っ赤に見えてきた気が…いや本当に真っ赤だよ!? あれ!? その辺の草も真っ赤!? ついでに空も真っ赤!? 全部赤いよ! こえーよ!?
「な、なんだか色々な物が赤く見えます!」
「私もだよ…。」
「ワ、ワタシモデス。」
みんながそう言っていた。ええ…全てが赤く染まるって何それ。嫌なんだけれど。ホラーゲームなんかで敵の攻撃を受けて瀕死状態になると、画面が淡く赤くなったりするけれど、それを思い出す。私、もうすぐ死ぬのか? というような気がしてくる。
「まさか私達全員、何かに呪われてしまったとか?」
だけど私には呪い耐性があるんだよね。それを考えると呪いってわけじゃない気がするんだけれど。
「ウオオ。アカイ。アカイ。」
「ねこますドノ。コレハイッタイナンナノデショウ?」
毒ってわけではないか。それなら毒耐性を持っていないエリーちゃんとか大変な事になっているだろうし。麻痺とかそういうのも、なさそうな気がするな。単純に視界がとても不快になるような現象ってことでいい気がしてきたな。でもこれを発生させている原因がどこかにいるはずだ。それを探して倒せば今回の魔者の試練は終わりって事でいいのかな。
「どこかにこの現象を発生させている敵がいると思う。そいつを叩けば解決するはず。だけど。」
気配感知には引っかかってこない。ということは何か仕掛けがあるはずだな。それを見つけて壊せばいいのかな。でもその仕掛けも一個とは限らない気がするな。私達全員にこの現象を発生させているわけだし。
「目がぁ~。ワイの目がぁ~。なんなんやこれ~!」
だいこんだけじゃなく、他の皆も真っ赤になっている視界がきつそうだ。私の場合は精神的にきつい。ゲームに慣れているだけあって、常に瀕死になっているような状況を思い出して心臓に悪い。すごい焦燥感に駆られる。
落ち着こうと思っても、慣れ親しんできた画面だ。慣れたくもなかったけれど。別に問題がない事は分かっているのにどうもそわそわしてしまう。そして今うっかりと薬草を食べてしまったが、この現象が回復する事は無かった。もう! 腹が立ってくるなあ! 視界が悪くなるだけでここまでストレスが溜まってくるなんて思わなかったよ! これからはこういうことがあっても大丈夫なように視界をならす特訓もしておこう! ついでにブッチにも教えておこうっと! あ、ブッチもこの森にいるのなら今、同じようになっているか。
「…この状況で転移石を使ったらどうなるんだろう。」
使ってみたい衝動に駆られる。だけど、使った先でもこの赤くなる現象が続いてしまったら嫌なので使いたくはない。それと、使うのなら誰かを置いてけぼりにするのも嫌なので全員で使わないといけなくなる。
仮に転移石を使ってしまった場合、ここまで移動してきたことも全部無駄になってしまうのでやっぱり使うわけにはいかない。だけどこういう状況で使ったらどうなるのかって検証したくなってくるんだよなあ。
「ねこますさん。最初からやり直しになるのは嫌ですよ…。」
エリーちゃんもどうなることか分かっているようなので、やっぱり止めておくのが無難だろう。
「そうだね。ここは赤いのを我慢して何かおかしなものがないかひたすら探さないといけないね。」
…まずはこの辺りの木を一本切り倒してみようかな。一本だけにするのは、切り倒すと状況を悪化させる可能性も考慮してのことだ。つまり、切り倒してもいい木だけを切り倒すのが本来の目的だとして、それ以外の木を切り倒すとペナルティが与えられてしまう可能性がある。
元々赤かったのは木だけなのだから、何かあるのは間違いないと思う。というか何かやってみるにしてもそれくらいしか思いつかない。
「木を一本、切り倒してみよう。やれそうなことがそれくらいだと思う。」
「えっ!? ねこますさんだったら。いつものように森林火災を狙うんだと思っていましたけれど、一本だけでいいんですか?」
「え。ええ…。私も好き好んで燃やしてばかりいるわけじゃないよ…。」
心外だ。私が森を燃やすのが好きだと思われているなんて。あながち間違いじゃない気もするけれど、面倒くさくなったらそれをやってもいいかなとは思っている。
「姉御。でも燃やしてしまえば早いとか思っているんやないか?」
「それは思う。正直思う。でもみんなが見えるもの全てが赤くなるような状態で、それをやってしまってもっと赤くなってしまったらどうしようもないので簡単にはできないよ。」
私は、こういう時、最悪な結果を避ける傾向にある。木を燃やしまくったことで、森の逆鱗に触れ、死ぬまでこの赤くなる現象が止まらなくなってしまった場合を考えている。
よくあるゲームでは、状態異常になっても大体一回死ねば元通りになる。というか元通りにならないゲームを私は知らない。二度と生き返る事がないというゲームは知っているがそれはここでは置いておく。私の場合は、ここで死ぬのは絶対に嫌なので、極力安全重視にやっていきたいと思っている。
「では、ねこます様の言う通り、木を一本、切り倒してみましょう。それで何か分かるやもしれません。」
「あ、木を切り倒す役目は私ね。何かペナルティが与えられるにしても、実際切り倒した者だけに限定されると思うし。」
連帯責任なんて軍隊じゃあるまいしないだろう。多分。チームメンバー全員にペナルティが与えられるなんてことになったら不和を生み出すきっかけになりそうだし。失敗した一人だけが責任を押し付けられるようになるような仕組みは…あ、あるな。
仲間割れを生み出すような仕組み。例えば一定時間だけ発生するゲリライベント。この時に出現するボスを沢山倒せればレアアイテムを手に入れられる可能性が大きく上がる。だけど、誰かの攻撃力が低い場合はボスを倒すのに時間がかかってしまい、結果として倒せるボスの数が減少して、レアアイテムが手に入らなくなる。ということでお前の攻撃力が低いから悪いんだという話になってくる。
実際私もそういう扱いを受けたことが何度もある。攻撃力が低いんだから来るなとか、ボス戦が初めてだったのに、初心者が来るなとかね。じゃあいつになったらボスと戦えるんだという答えにしかならないので、もう、文句言われようがボス戦に行くようになったっけなぁ。懐かしいな。
という具合でオンラインゲームは仲間割れがありそうなので、注意しないといけない。
「ここで、私が敢えて森林火災を起こすことで仲間割れイベントが勃発できそうな気がしてきた。」
「え? ねこますさん。やっぱり燃やし尽くしたいんですか? あたしは別に構いませんけど。面白そうですし。」
なんでだーっ!? そこは、なんてことをしようとしているんだ。馬鹿な真似はよせ! みたいな感じでお互い譲らない立場になって醜い争いが始まって…。
「ねこますサマ。ねこますサマ。モノオモイニフケッテイルヨウデスガ、マズハキヲキリマショウ!」
はっ!? また悪い癖が始まってしまった。ああもういいや。その辺の木を適当に切ってみるか。
「それじゃ、切り倒してみまーす!」
「ヨロシクオネガイシマス!」
みんなに応援されながら、近くにある木を見据える。そういえば切り倒すなんて言ってしまったけれど、こんな鎌一本で切り倒せるものなのだろうか。黒薔薇の型で切れ味を良くすれば行ける気もするけれど、まぁ物は試しだ。
「えいやっ!!」
近くにあった赤い木というかもう赤くしか見えてないので本当に赤なのかどうかは分からないけれど木を切ってみた。黒薔薇の型のおかげか、あっさりと斬る事が出来てしまった。これ、本当に切れ味が抜群だなあ。現実でここまでとは言わないまでもこんな感じでスパスパッと切れる包丁が欲しいなあ。当然人の体は傷つけられないようになっている安全装置付きで。
「…。おっとっと! 危ない危ない!」
木が倒れていくので距離を置く。普通、こういうのは斧で時間をかけて切り倒したり、チェーンソーなんかで切り倒したりするんだろうけれどなぁ。そう考えるとこの鎌は破格の性能になったものだな。
「いつも思いますけれど、その鎌すごいですよね。最初から持っていたものなのに。」
「私が大事に使っているからかもしれないね。といっても謎が多い事は確かだけれど。」
この鎌、絶対何か秘密があると思うけれど、考えても分からない事だから放置しているんだよなあ。まぁ特別な鎌ってことにしておけばいいんだけどね。
「マスター。それでこの木を切り倒して、何か変わったところはありましたか?」
「…いや、特に何か変わったことはないね。」
赤く見えるものが濃くなってはいないし薄くなってもいない。何の変化もない。一本だけだったからなのかは分からないけれど。そして私は今、唐突にしまったと思った。この邪馬の森、先生だったら詳しかったかもしれない。来る前に聞いてくれば良かった。なんて痛恨のミスなんだろうか。いつも通り私は抜けているなあと思ってしまった。やれやれ。
「とりあえず、もうちょっと切ってみるよ。」
私はため息をつきながらも、何か変化が訪れることを期待して木こりの真似事をするのだった。