第40話「深層森林」
ブッチは、私たちを持って森の中を走り抜ける。とんでもなく早くて酔いそうだ。とい
うかブッチがこれならだいこんって不要なんじゃないのかと思ってしまった。
「なんでこんな足場の悪い所をそんな簡単に走れるんや!おかしいんやで!ワイやったら
もっといろんなところぶつかっとるで!」
「はっはっは!これがサイコロプスの力、いや俺の力ってことさ!」
自慢げに言うブッチ。すぐに調子に乗るんだからなぁこいつは。
「ワイに残るのは乗り心地くらいやんけ・・・。」
おっ自虐が始まったぞ。乗り心地がいいだけってそれがいいんだろう。つーか私なんて肩
車されて恥ずかしいんだからな。くそう。
「今のところ同じところぐるぐる回ったりはないね。確実に移動は出来ているはず。いや
それも錯覚させられている可能性はあるかもしれないけれど。」
だけど、ひとまず蜂を振り切っている感じはある。むしろ最初からこうしておけばよかっ
たとさえ思えるのだけれど、それは後の祭りなのでしょうがない。
「ところで、俺たちはなぜ「森の奥地」に行かなければならないんだ?」
ブッチが、突然何かを言い出した。いや、それはこの先に何かがあるかもしれないから行
ってみようとなっただけなんだが、どうしたこいつ。
「ここまで苦労していく必要ってないと思うんだよ。」
「つまり、私たちは森の奥地に行かなければいけないと思い込まされたなんて言うつもりじ
ゃないよね?」
「そうだと言っているんだよ。いや、危険な所に冒険しにいくのは普通の事だけど、どう
も後ろに戻りたいって気持ちにはさせられないように誘導されている気がしてさ。」
折角ここまで来たんだから、先に進みたいって言うのは当然じゃないのか。
「あの場から離れて、影響が小さくなったんだと俺は思っている。つまり、あの場のどこか
に女王蜂か何かがいたんじゃないかって思えてきてさ。」
私は、ブッチが何を言い出しているのだと疑問に思った。思考能力自体に影響を及ぼす
というのはさすがにゲームの範疇を超えているのではないかと。
もしも、この世界で「思考が変えられている」のであればそれはそれで、<アノニマス
ターオンライン>は色々と問題があるゲームではないかと考えてしまうからだ。それとも、
私たち以外誰も見かけていないと推測できるこの場所でのみ起こることなのか。
とにかく、ここは、ブッチのいう事を鵜呑みにし過ぎてはだめだ
「さすがに考えすぎな気がする。ブッチも分かっていると思うけど」
「この森は、俺たちの考えを強く汲み取って、それを反映しているなんてそこまで行くと
考えすぎだけど、あー俺らしくなくてごめん。」
確かにらしくないっちゃらしくない。ほとんど茶化してくることばかりなブッチがここ
にイメチェンするとか怖すぎる。いや、それもこの森の影響・・・あーもうこれちょっと
ループに入りそうだからやめておこう。
「ちょっと全員でイメージしてみようか。私は女王蜂をぶっ殺したい。腹が立っている。」
「俺も。なんか調子が狂わされてむかついてきている。女王バチはぶっ殺したい。」
「ワタシモ、ブタガイナクナッタラ、アイツラノセイナノデヤツザキニシタイデス。」
「ワイも許さんのやで!しこたま針で刺しおってからに!」
意見は満場一致だ。女王蜂というのがいるのなら、絶対に倒したいという事だ。いつま
でも姿を現さず、追いかけっこしてこようとするのがむかつく。安全なところから一方的
に攻撃されるなんて絶対に許せない。むしろそういうのは、私がやりたい派だ。
「よーし!じゃあ、もう女王蜂を倒したいってことだけ考えよう。もしこの森がそういう
思いにこたえるならその通りになるだろうし。」
余計なことを考えるよりも、やりたいと思ったことを明確にして前に突き進むほうがいい。
それに折角ここまで来たんだし今さら戻りたくはない。骨折り損のくたびれ儲けは嫌だ。
「じゃあひたすら前に突き進んでみるか!」
ブッチは更に加速する。走るのが早すぎる。
「はええええええええっての!」
「いやーなんかねっこちゃんと話していたらすっきりしたよ。蜂ばっかり倒していたら洞
窟でゴブリンしか倒していなかったとき思い出してイライラしてたのかもなー。」
プレイして1か月はずっと洞窟で1人で戦っていたんだよなあブッチって。いつもの陽気さ
を考えると、1人じゃ泣き出しそうな気がするな。
「そこをこの般若レディ様がすくってやったのだ。褒めろ褒めろ!」
「そうっすね!豚を生で食べるなんてすごいっす!」
「うるせえええええええ!」
いつもの調子に戻ってきた気がする。まぁブッチはこんなキャラだろう。無駄に考えす
ぎてもいい事は無いしこんなんでいい。
「よっしゃ。この森から生きて出られたら俺」
「そういうフラグを立てるんじゃねええええ!こういうのはどうだ?この森から生きてかえ
られたら、みんなで草刈りをいつもの3倍頑張るとかさ」
やっぱり草刈りは楽しいもんね。みんな大好きだよね。
「それはもう死んでも・・いや生きてかえ・・かえりたいね。」
「生きても死んでも地獄な気がするで…なんやこの敗北感は。」
「ヤルシカナイノデスカ。」
神妙な面持ちでみんなが語っている。どうしたやる気を出せ!
「あっ…ここでもし女王蜂に負けたら色々失いそうだし10倍頑張らないとな。」
そんなことにはなりたくないが、色々失いそうなので、もし失ったら本当にそのくらいや
らないといけなくなる。
そういうと、みんなは黙り込んだ。ブッチは一直線に駆け抜けてこう叫んだ。
「俺は、女王蜂を叩き潰すぞおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
すると…森の奥が光り、私たちは吸いこまれたのだった。
私は、草刈りではないんですが、延々と同じマップで狩りをしていたことがあります。
それも年単位です。そこで、まだそこにいるの?と呆れられたことがありました。