第398話「般若レディ、リンチに遭う」
明日追記します!
12/25追記しました。
エリーからのメッセージ:プレイヤーに襲われました! 迎撃します!
こんなことを言われてしまったら急ぐしかないんだけれど、土潜り中は、移動速度が多少落ちるというのが発覚したので急いでも遅い! だったらさっさと地上に戻れば良いんじゃないかと思ったんだけれど、地上には、私が移動すると追いかけてくる奴がいることを気配感知で確認した。
つまり、私がいるということは気づかれているということで、むこうは、いつここから出てくるのかというのを待っている状態だ。
これならいっそ出て攻撃してしまえばいい気もするのだが、それは嫌だった。なぜなら、相手の方が今、とても嫌な気分でいるだろうから。ここに敵がいるかもしれない。だけど、どんな敵なのかが分からない。だけどここにいる、という状態は、相手を不安に陥れることができる。ならば、さっさと出ていくよりも、少しでも相手に不安な気持ちを与えている方がいい。
私としては、さっさと地上に戻って、エリーちゃん達の救援に行きたいんだけれど、こっちもこっちで駆け引きが重要なんだ。どうするかなぁ。人間化して話し合いをするか、姿を偽装するアイテムのほうを使うかなあ? それとも、この般若の面を外すか? なんて思ったけれど。どれも止めておきたい。
今はまだこの鬼ごっこを楽しんでいたい。えっほえっほ。
…なんだか面倒くさくなってきたなあ。一応今の状況についてエリーちゃんにメッセージを送るか。
エリーからのメッセージ:こっちはもうプレイヤーを倒しましたよ。3人だけでした。どうします? そっちに行きます?
ええっ!? 助けに行かないといけないなあなんて思っていたら、あっという間に倒してしまってた!? というか私の判断遅すぎ!?
…そういえば最近決断力が鈍っているって思っていたんだっけ。魔者だとかばれるのが怖いって思っているせいでこうなっているのは分かっているつもりだったけれど。うっ。なんか急に腹が立ってきたな。なんで私がびびらなきゃいけないんだ。ええい。もう出てやる!
「とぅっ!!!」
「うぉっ!? やっぱり何かいやがったか!」
「みんなかかれー! ってうぉおお!? なんだこいつ! 気持ちが悪い!?」
プレイヤーが6人ほどいるのが確認できた。そんでもって私の姿を見るなり、いきなり気持ちが悪いとかほざきおった。これはもう許せないな。
「フレイムブラスト!!」
「真空斬り!」
攻撃してきたってことは、私をモンスターだと認識しているって事だな。まぁそんなもんだろうな。だけど、攻撃してきたってことは反撃されてもいってことなんだよねえ!
「狐火! そんでもって真空波!」
いかにも魔法使いっぽい恰好をした女が放ってきた魔法には狐火を、割とイケメン系の騎士っぽい恰好をした男には真空波で迎撃した。
「きゃっ!?」
「うぉ!?」
…どうやら私の使ったスキルの方が、この二人の魔法とスキルよりも威力が強かったみたいだ。やったね! 私、結構強いのかもしれないな! おっと調子に乗ってやられないように注意しないと!
「ば、化け物だ! こいつの恰好は異常だ! レアモンスターかもしれん! みんな、注意しろ!」
「ライトニング!」
「フリーズショット!」
「おっとっ!?」
他にもいた魔法使いの電撃の魔法と氷の魔法が私に襲い掛かってくる。これを回避しようとしたのだが左肩と右足にかすってしまった。危ないなあ。
「こいつ、結構素早いっす!? ぬおりゃああ!」
男の戦士が斧を持って私に襲い掛かってきた。こいつらぁあ! 寄ってたかって私のような、か弱い般若レディに何してくれてんの!?
「こっのぉお!黒薔薇の型ッ! でりゃっ!」
「だりゃあああ! うぉおっ! あっ!?」
私の鎌と戦士の斧がぶつかった瞬間、斧が粉々に砕け散った。うぉお。すごいぞ鎌!
「なななな!? 斧が、ぶ、ぶっ壊れた? えええええ!?」
「こいつの鎌は、武器破壊のスキルを持っているかもしれない! 気を付けろ!」
…そんなスキルあったのこれ? そんなのがあったらすごい便利だね。それにしても敵が多くて動きにくいなあ。私は一人だっていうのにさぁ!
「ブラストソード!!!」
イケメン騎士の男が、光り輝く両手剣を持って、私に襲い掛かってきていた。その姿はとてもかっこよくて、まるでゲームのパッケージにでも使われそうな光景そのものだった。
「サンダーボルト!」
「フレイムブラスト!」
「フリーズショット!」
魔法使いたちも私に向けて一斉に魔法を放ってきた。電撃に火炎に氷の刃が、私を死に至らしめんという勢いで飛んできている。くそう、寄ってたかって酷い! 酷すぎる! 私が何をしたっていうんだ。六対一とか狡い! ええい、こうなったら。
「威圧!!!」
私が威圧を放つと、全員の動きが、ぴたりと止まった。え? これが効くのか? 一瞬だけでも足止めできればいいと思っていたら、効果抜群!? ってうわわっ!? 拍子抜けしてしまったことで魔法が飛んできているのをうっかり忘れてしまい、全ての魔法に直撃してしまった。
「わっ!? …あれ?」
無傷だった。今、確かに私に当たった感じがしたんだけれど、まさか回避した? というぐらい別に何ともなかった。いや、違う。なんとなく痺れたような、焦げたような、冷ややかな感覚があるような気はしていた。どういうことだと疑問に感じたが、今さらながら自分の耐性の事を思い出した。
トラゴンの腕輪に雷耐性が、ファイアームフロンの首飾りには火耐性が、そしてフロストジャッカルの耳飾りには氷耐性があるのだった。そういえば今まであまり役に立っていなかったから気がつかなかったよ! 私良い感じで耐性持っているんだな! 防御面が結構優秀だな。だけど耐性があるだけで全く無傷ってわけでもないと思うので、すぐにこそこそと薬草を食べて回復を図った。
「な、何だ!? 体が…。動かない。何かされた?」
「よく分かんないけれど、特殊攻撃されたかも! というかあいつ全然攻撃効いてない!」
「マジかよ気持ちが悪い! なんなんだあのゲテモノ!」
は? ゲテモノって私の事かこの野郎。あの斧を持っていた戦士だな。初対面の相手にそんな事を言ってのけるとか酷くないか。通報ものだぞ。か弱く可憐な般若レディ様に向かってよお!
「う、動いた! うおおおおお!」
「待て! 奴が何をするか分からん! 一旦引け! アトム!」
「ぐっ。 分かった。補助を頼むぞマサオ!」
私に向かって突撃しようとしてきた騎士を止めたのは、筋骨隆々でスキンヘッドにマッチョの男だった。なんとなく修行僧っぽい感じだから、あれが回復役ってところだな。つまりパーティ構成は、イケメン騎士、斧戦士、魔法使いの女の子二人、男が一人、回復戦士で6人ってことか。そこそこバランスが良さそうだな。
「補助魔法をかけたぞ。それとリュウオウ。予備の武器があるだろ。そっちで頼んだ。」
「くそー。まさか武器が壊れるとは思わなかったぜ。っしゃ。さぁてリベンジだぞ。ゲテモノ!」
「浮遊。」
「わっ!?」
今度は全員の体を浮かせた。あのさぁ。そんなぺちゃくちゃ喋りながら戦っているなんて随分余裕があるんだねえ君ら。武器が壊れるかもしれない事も想定していないことから初心者だか素人だか分からないけれど、甘いよ。私だって、この鎌が壊れるかもしれないと思っていることはあるんだからねえ。
「なっ。なんでこれっ!?」
「―!」
最初に魔法使いの女の子二人と男に狙いを定めて黒薔薇の型を使った鎌で斬り裂いた。すると、三人とも、姿が消えてしまった。
メッセージ:プレイヤー、マイ、リサ、テイオウを倒しました。
あれ? 他のプレイヤーを倒したらこんなメッセージが出るんだっけ? 前もなんか倒したような気がするんだけれど、あーよく覚えてないな。まぁいいか。プレイヤーキルをしても別に何とも思わないと言うか、先に襲われたのが私だったので、まあしょうがないよねって感じでしかなかった。これであと三人。騎士と戦士と僧侶ってことにしておくか。
魔法使いをこんなにあっさり倒せたのは、体力が少なかったからだろう。魔法使い系統ってなぜか病弱というか、体力が少なめに設定されていることが多いから、あっさり倒せるかもしれないと思ったらいけたのがよかった。
この三人を狙ったのは、遠距離からの攻撃がうっとおしかったから。そしてこんな感じで倒せると思ったからだ。これで厄介な奴らが消えてくれたので多少楽になったな。
「こいつ! マイとリサと、テイオウを!!!」
テイオウって多分あの帝王ってことだよね。さっきは戦士の事はリュウオウとか言ってたけれど、こっちは竜王ってことだよね多分。そういえばオンラインゲームってそういう名前が結構人気あるんだよなあ。覇王とか大魔王とか軍神とかそういうのをつけていた人が結構いたなあ。でも名前の通り凄かったかと言えば…まぁ一握りはって言った感じだったな。
「よ、よし! 体制を立て直したぞ! うおおお! ブラストソード!」
「俺も行くぞおおお! スパークラッシャアア!」
「ぬおおおお!」
浮遊の効果が切れて、三人が再び私に襲い掛かろうとしてきた。あっ! 三人一斉に飛び掛かってくるのはまずい! これはピンチ!
「浮遊。」
「うおあっ!? まっまたっ!?」
「ぐ、あっ!?」
「うおっ。ぐううう!」
おっ。スキンヘッドの僧侶だけなんとか気合いで耐えやがった! すごい! だけど。
「えいえいえいえいえい。」
火薬草を投げつけまくる。ひたすら。もう何個も投げつける。この三人、馬鹿なのか、同じような位置から攻撃を仕掛けてきていたから、火薬草を投げつければ全員に当たる。
「なっ。くそ! なんだこいつ! ぐあっ!」
「うぉっ! 動けん!」
「ほいほいほいほいほい!」
火薬草を投げつけるだけの簡単なお仕事です。というわけでもないんだけれど、火薬草ってそこまで威力が低いってわけでもないから、地味に沢山使われるときついんだよね。私が散々使ってきたから一番分かっているんだけれど。対人戦でこれを簡単に防ぐ手段がなければ、投げていくだけで勝ててしまいそうな気がしていたんだけれど、予想通りだった。
「な、なんなんだこいつはああ!?」
え? なんだって? 私が何者かって?
…か弱い般若レディだよ。
リンチにあったものの返り討ちにしてしまいました。