第393話「擬人化には納得がいかない」
明日追記します!
12/20追記しました。
私とだいこんが先生と一緒に暮らすようになってから一か月が経過した。現実での日数換算だけれど、毎日<アノニマスターオンライン>をプレイできているわけでもないので、もう少し短い期間だったけれど。
この間に、真っ先に教わったのは、変化の腕輪というアイテムの作り方だった。これがあれば姿を変えることができるという大変便利な物だった。しかもこれ、使う物の手や体のサイズに自動的に切り替わるとか言うすごいものだった。流石先生だ。
そして私は、それを作る事に成功した。やったね。ちなみに素材は先生に提供して貰った。勿論薬草を渡してそのお金で市場まで行って貰って素材を買ってもらったのだ。割高になるとのことだったけれど、薬草がまだまだたくさんあるので買ってもらうことにした。
私としても、素材集めからしたかったんだけれど、時間がかかるのは困るし。これ以外のアイテムを作るときはもうちょっと素材集めから始めたいなあ。
「あ、姉御! ワ、ワイがニンゲンになっとるやで!!」
私の目の前に、ツリ目で銀髪のロン毛で割とイケメン系の男が姿を現し、歓声を上げていた。変身したら服はどうなるのかと思ったけれど、真っ白いシャツとハーフパンツに、スニーカーのような靴を履いていた。そう、これはあの白蛇のだいこんだった。
「えいっ!」
「ファッ!? 姉御何するやで! 今のめっちゃくすぐったかったやで!」
思わず脇腹をくすぐってしまった。いや、なんでこんなかっこよくするんだろうね。私は擬人化とかそういうのがあんまり好きじゃないから、これはこれですごい腹が立ってきたな。なんだよこいつ。あー擬人化とかつまらないなあ! これはたけのことかにはできれば使いたくないなあ。私は安易な擬人化には反対なんだよ! なんだかむかついてきた。
そりゃあね、街の中にみんなが安全に入れるためには必要だよ? だけどねえ!? だからって擬人化とかなめてんのかと。しかもこういうイケメンとか! 私はどっちかっていうとだいこんのイメージはどこかのおっちゃんみたいな感じだと思っていたのに騙された!
くそう! この腕輪、失敗作何じゃないのかな! 私の想像しているイメージ通りならまだしも、安易なイケメンかとかそういうのは気に入らん! 納得がいかない!
「姉御、なんでそんな怒っているんや?」
「だって! だいこんはどっからどう考えてもおっちゃん枠だったじゃないの! 私達の中でちょっとうっかりしていそうなドジで間の抜けた癒し系おっちゃん!」
まぁそういうイメージがついていたのに、イケメンだったとか駄目過ぎる。きぃい! すごい腹が立ってきたぞ!
「姉御、なんかワイをゲテモノ扱いしとるんやないか?」
「いやいや、私達のチームのムードメーカーだと思っているよ!」
だいこんには気軽にツッコミをいれられる雰囲気があるのがいいんだよなー。といっても、やりすぎるといじめのようになるから、軽い感じでやるけれどね。そんでもって、その軽い感じも頻繁にはやらないようにする。
人からからかわれたり、いじられたりするのは、実の所ストレスになったりするからね。本当はそういう扱いが嫌だったなんていうのもよくあったなぁ。オンラインゲームって、そういう人間関係でチームが崩壊したことが結構あったし。
「お嬢はどうや? ワイかっこいいか?」
「ええ。ワイルドね。ワイだけに。」
アウト! 先生アウト! それは駄目だ! それはやっちゃいけないことです! なんということだ。先生はこういうことが苦手だったのか。いや、私もやるけどさ。ブッチもやるけどさ。先生が言うなんて、まさか私に毒されてしまったのか!?
「お嬢。それはどうかと思うやで。流石のワイもホワイトキックや。」
何ホワイトキックって。ホワイト…? 白…蹴る。ああ、白ける!? ってなんじゃそりゃ!
「な、何よ。私だってたまには冗談くらい言ってもいいじゃない!」
ここで先生のキレ芸が始まったけれど、それはそれで一旦置いて貰うことにした。
「ところで先生。私は常識に疎いことがあるので教えて貰いたいことがあるんですが。」
ちょっと上目遣いで媚びる様な感じで先生に頼み込む。ふふふ。ねこます流の処世術って奴だね。
「しょ。しょうがないわねえ。それで、何が聞きたいの?」
やはりこれで機嫌が直ったか。やっぱり先生は頼られるのが嬉しいんだろうな。今まで一人で頑張っていたわけだしなあ。
「モンスターの国、ってあるんですか?」
ストレートに聞いてみた。こういうのが、自分たちで調べるから面白いんだろうけれど、闇雲に探しているだけなんてレトロゲームじゃないのだから、ヒントくらいは欲しい。ああ、でもRPGなんて基本的に聞き込みが基本になるからこういう行動も間違いではないんだよね。
特に私なんてノーヒントで何十時間も同じような所で彷徨っていたなんてことがあったくらいだし、 このままだと、<アノニマスターオンライン>のサービス終了までモンスターの国を探しているかもしれないし。
そういえば、魔者の大陸も血眼になって探している人もいるかもしれないんだろうなぁ。私は残念ながらヒントは教えるつもりはないけれどね。
「ええ。あるわよ。ああ、だから変身する道具なんて…なんでモンスターの国に行きたいの?」
「モンスター達の生態をもっと知るためですけれどそれは建前です。」
「姉御、建前って言ってしまったら意味がないやんけ。」
こういうところが大事なんだよ。建前がそれで本音がこうって説明するのって意外と重要なんだよ。ゲームのNPCなんか、行動が建前で、本音が何を考えているのか分からないって事も多いし。一部のイベントで、どういう性格なのかとか判断しなきゃいけないし。
建前はこうです。でも本当はって言うのは、真実を知るためには必要な手順だったりする。
「で、本当の目的は?」
「魔王を倒しに行きます。」
魔王ってマオウペンギンってことでいいんだよね多分。そうなると魔王マオウペンギンになるんだろうか。へんてこりんな名前だなあ。
「あなた、国を滅ぼすなんて、どういうことが分かっているの? モンスター達にだって一応暮らしというものがあるのよ。」
先生がため息交じりに言ってくる。慈悲があるんだなあ先生には。でも私には無慈悲な現実、ではないかゲームだし。無慈悲な仮想現実が待っているんですよ。
「国を滅ぼすつもりはないんですけどね。要があるのが魔王だけなんです。」
「魔王に挑んで生き残って帰ってきた者は勇者だけよ。それでも行くと言うの?」
なるほど。勇者だけか。それにしても久々にどこかへ行って帰ってきた者は勇者だけみたいな言葉を聞いたなあ。私が思うに。、ちょこっとだけ行ってすぐ逃げかえるとかしてもいいんじゃないのかな。それともやっぱり魔王から逃げることができないってことなのかなぁ? あっ、なんだか魔王から逃げて見たくなってきたな。
でも無理か。そういうところって転移石の力が封じ込められたりするし、逃げるなんて容易じゃないんだろうなあ。
「死にたくはないです。ちなみに勇者って世の中に存在しているんですか?」
「どこかにいるみたいだけれど、今は活躍を全然聞かないわねえ。」
なんだくそぅ! 勇者が魔王を倒してくれれば面倒くさいことをしなくて済むと思っていたんだけれど、結局何の役にも立ってくれないって事じゃないか! 何さぼっているんだ勇者! さっさと一念発起して魔王に立ち向かうんだ!
「ねこます。まさかだと思うけれど、魔王に目をつけられているとか、なの?」
「そういうわけじゃないと思うんですが、魔王のせいで酷い目にあっているので、さっさと倒されてくれればいいのになぁって思っているんです。」
別に、私がクロウニン全員を倒さなきゃいけないわけじゃないんだよね。誰かが代わりに倒してくれるのならそれでいいし。あ、それとも私じゃないと倒せないなんて設定はないよね。
「姉御、ワイ思ったんやけど。」
「ん?」
「もしも姉御が魔王を倒してしまったら、姉御が勇者になるんやないか?」
…。あっ!? そ、そうだよ! そういうことか! 倒した後で称号が与えられるなんてことも十分考えられるじゃないか! しかも私が戦って倒したら、私が勇者って扱いになってしまう! きっと<アノニマスターオンライン>のプレイヤー全体にも大々的にお知らせが行くな! 最悪だあ! 倒さなければ命を狙われ、倒したら目立って周りのプレイヤーからも狙われる。
「いや、勇者にはなりたくない。」
「それなら、他の誰かが倒すのを待つしかないって事になるわねえ。気の長い話になると思うけれど。」
魔王って、私が何もしなければ襲い掛かってこないなんて平和主義者だったりしないかなぁ。それだったら私も大助かりなのに。
「それで先生。モンスターの国ってどこにあります?」
「この国から果てしなく北の方角にあるなんて言われているけれど、本当にあるのかどうかで言うと信憑性は低い気がするわねえ。」
人間に居場所を知られないようにしているってことなんだろうか。幻覚とかあるいは特殊な移動方法をしないと、ずっと抜けられないみたいな。だけど、これ、いいことを聞いたな。ブッチ達は北の方角に行ってるようだし、そのうちちゃっかり見つけてくれる気がしてきた。
「もしかしたらブッチニキ達が見つけてしまっているかもしれないやで。」
「ねこますの仲間たち? ちょっと、危険じゃないの? モンスターなんて強い奴は本当に恐ろしい力を持っているのに。」
先生が言う事はごもっともなんだけれど、ブッチはその強い奴を求めているから問題ないな。ここは俺に任せろ! とか言って一人でぶっ倒しまくるかもしれないし。でもなぁ、いつまでもそんな無双状態が続く気はしないんだけどね。いくらブッチと言えど、何万とかの敵を倒せるかと言うと厳しいと思うし。オンラインゲームってそういうのを沢山のプレイヤーが共闘して倒すのが常になるから、一人の力って実はたかが知れていたりするんだよねえ。
なんて言ってもブッチってば時間をかけてじわじわとひたすら攻撃し続けて倒しちゃうけど。
「まぁなんとかなるはずですよ。」
それよりも、魔王と戦うことになったらどうするかってことを考えないといけないな。