第392話「無から有を」
明日追記します!
12/19追記しました!
「ちょ、ちょっとねこます!? 今どうやって肉を出したの!?」
「お、お、落ち着いて下さい先生!?」
「あ、姉御もお嬢も落ち着くんやで!?」
先生は、私に歩み寄ってきて、体をぶんぶん揺さぶった。わわわ。どうしたっていうんだろう? そんなに肉が食べたくてたまらなかったのかなぁ? 可愛い所があるなあ先生も。で、でもなんでまだ揺さぶるんですかー。
「あ、あの、私は肉生成ってスキルを持っているんですよ~。」
「は!? 何よそれ!? 無から有を作り出すようなものよね!? ありえないでしょう!?」
…言われてみれば確かに。あ、でもスキルポイントとか消費しているはずなんで、別におかしなことはないような。いやおかしいか。物品自体を作り出しているんだから。錬金術で言えば、素材自体を無から作り出しているのに近いのか?
「ああ、でも、こんな感じで肉生成! ね?」
またしても、私の手から肉が突然現れて、台所の上に落とされた。原理は不明だけれど、肉が出てくるとかいう不気味なスキルではある。だけどこの肉が上手いことは検証済み。そして食べる事へのデメリットがないことも検証済み。食べてから長期間経過後に何らかの副作用がある可能性はあるけれど、検証する時間がかかりすぎるので、問題が起こったらそれまでということにした。
「~~~!? だ、だからそれは!? そんなの神の奇跡のようなものじゃないの! あなたね! 金を作り出すよりもとんでもないことをしているのよ!? 分かっているの!?」
そそそそそ、そんなに凄まないでくださいっ!? 先生、先生!? なんか我を忘れて揺さぶらないでください!
「お、お嬢まず落ち着くんやで! そんな興奮したら駄目やで!?」
「あ、あのね! だいこん! こ、これがどれだけすごいことか分かっているの!?」
「し、知っとるやで! 美味しいお肉が食べ放題ってことやろ!? 姉御はすごいんやで! どや!」
先生ごめんなさい。私もだいこんと同じような認識です。お肉食べ放題になるだけって気持ちしかありませんでした。無から有とかそこまで言われても、何が凄いのかよく分かっていません。いや実際に凄いのはなんとなく理解できるんですが、出来上がって言るのは肉だけなので、いまいち感動ができないといったところなんです。
「ねこます。あなたねえ。ああもう、心臓に悪いことをしないで。すーはー。」
深呼吸をする先生だった。あーもうびっくりしたなあ。先生ってばあんなに興奮することないのに。
「姉御。肉を出すのってそんなにすごいんか?」
「そうらしいんだけど、私はいまいちその凄さが分かっていないようなので、残念!」
「本当に残念なんだからね!?」
おおっと、また先生が復活したかのように怒鳴ってきた。もう、そこまで言わなくてもいいのに。
「あぁー。無から有。無から有を創り出す? そんなの神の技よ。なんなのよこの弟子は。」
実は般若レディでしたとか言い出したらどうなるんだろうか。というか私はまだ先生に自分の正体もばらしていないからなあ。そう考えるとちょっと心苦しいかな。
「でも、有から無にすることは結構簡単にできますよね。」
物を生み出すよりも、物を壊すほうが簡単というのが悲しいところだな。
「そうね。素材なんてすぐに無くなっちゃうし。ってそういうことじゃなくて! はぁ…。あなたが心底羨ましいわ。」
肉を大量に生み出せれば、食事に困らないから、そう思われるのはしょうがないか。後は水があればとりあえずどこに出かけても心配事がなくなるもんなあ。現実でこんな能力があったら、生きるのが大分楽になるのになあなんて思ってしまった。
「…本当にそのお肉だけなの? 創れるのは。」
「そうですよ。肉限定です。これで水も作れたらもっと良かったんですけどね。あれ? でも水とかは魔法でも創り出せたりするじゃないですか。それは凄い事じゃないんですか?」
そして思い出す。私は忍術の水遁で水が出せるじゃないかと。あー、ますます現実でこういう能力があったらいいのになあなんて考えてしまう。
「魔力では、こんなお肉を生み出せないわ。魔力は火や水などの現象を起こすことはできるけれど、こういう物自体を生み出すのは極めて特殊な魔力が必要になるはずよ。」
…なるほど分からない。なんとなくで理解すると有機物と無機物の違いみたいなものなのなんだろか。
「よく分かりませんでした。もっと勉学に励みたいと思います! ところで、お肉を焼きたいんですが、いいでしょうかっ!」
みんなお腹が空いているので、とりあえず食事にしておきたかった。私はここで腹いっぱいにしたところで現実に戻ったら、全く関係ないんだけどね。あぁー、なんて悲しいんだろうか。まぁ、<アノニマスターオンライン>が現実になんてなってしまったらそれは嫌だけどね。あくまで私はゲームとして楽しみたいだけだし。古い漫画とかで、ゲームの世界に入ったら現実になっちゃったとかそういうのがあったけれど、私は絶対嫌だなあ。
もしも<アノニマスターオンライン>の世界が現実化したらなんて考えたくもないな。だって、プレイできるゲームがこのゲームだけになるってことだし。それに私は般若レディとか魔者だし、普通の人間としては生活ができないってことになるから、色々詰んでしまうもんなあ。
それこそまさに恐怖でしかないな。ブッチとかだったら、永久に戦い続けていられる! みたいな事を思いついて楽しいのかもしれないけれど。
「へい先生! ただ火で焼いただけの肉お待ちぃ!」
「…いきなりだけれど、これ、食べても大丈夫なの? 本当に大丈夫なの?」
「お嬢、そんな心配せんでも大丈夫やで! ワイも姉御もこれを腹いっぱい食べまくったやで。ワイの子分のわんころなんて、そりゃあもうがつがつくいまくとったやで。」
いや、たけのこはだいこんの子分じゃないから。何を言ってるんだこいつはということで、軽く小突いておくことにした。嘘は良くないぞ。
「ううっ。神の技で創りだした肉。気になるけれど、やっぱり怖いわね。」
先生はたじろいでいる。私も最初はそうだった。だけど一口入れてしまえば後は慣れる。そうだ、慣れてしまうのだ。さぁ先生もこの肉をがっつり食べておくんなせえ!
「さぁさぁ!」
「…えいっ!」
よし! 先生もこれでこの肉の犠牲者じゃなかった、この肉を食べた仲間になった! これでこの肉に何か問題があったときは先生も一緒になって悲しいことになるはずだ! 旅は道連れというし、これも同じような感じでいいよね多分! よく分からないけれど!
「…美味しいじゃない。まさかこれが神の肉?」
いや、神の肉って。ちょっとなんか言い方がグロテスクなんですが、なんですか神の肉って。神様にも肉があるんですかと。
「いや、これ豚肉やで。」
「まさかこれが豚神の肉?」
「ぶっぶっ豚神! ふっふっふふ。ぶ、豚神って。せ、先生ちょっと、面白すぎますっ!!!」
豚神って、あはははははは! いやまぁ合っているとは思うけれど。これを創り出せるようになったのはネガティブータの指輪だし。あ、違うか。あいつ豚じゃなくて猪とか言ってたし。まぁ細かい事はどうでもいいか。
「ワイら、豚のモンスターと戦ったんやで。そいつを倒したら、姉御がこんな力を使えるようになったんやで。」
「…豚のモンスター?」
「ああまぁ。かなり手強い奴だったんですけどね。なんとか倒したら、こういうことができるようになりましたってだけです。きっと運が良かったんですよ。」
私は、一回だけ倒したことがあるモンスターは、大体運で勝ったと思っている。そいつと何回も戦ってほぼ必ず勝てるのなら、勝てたと誇ってもいいと思っているんだけれど、そうじゃないのはたまたまなんて思う事が多い。
一般的なゲームだったら、何度もプレイして、ボスモンスターなんかの攻略方法を見つけて確実に倒せるようになるまで練習する事ができるけれど、残念ながら<アノニマスターオンライン>では、そういうことが全然できていない。まぁ、またクロウニンを倒せとかなったらそれはそれで嫌だけれど。
「豚でそんな強力なモンスターなんて、強力なオークか何かだったのかしら?」
「オークがどういうものなのか見たことがないのでよく分かりません。」
なんか定番のモンスターっぽいけれど、西遊記の猪八戒みたいな感じだと思えばいいんだっけ? でもなんかスキンヘッドで豚鼻を持っているだけの奴もオークとか言われていた気がするし、いまいちイメージが安定しないんだよね。
「豚の顔を持って、丸々太っていて巨体なモンスターよ。」
「え、二足歩行ですか?」
「二足歩行ね。」
じゃあ違うか。あいつは四足歩行だったしなあ。
「四足歩行でしたよ。」
「何よその珍妙なモンスターは。かなりの希少種だったんじゃないの? なんであなたはそんなに面白そうな事に成っているのよ!」
いやいや、そう言われましても、というか私的には面白くはないんですけどね。魔者としてクロウニンに命を狙われているとか言う設定ですし。悲しいなあ。
ここで、だいこんが涎を出しているのに気が付いたので、どんどん肉を出しては焼いていく事にした。さぁいつものようにお食べ。
「先生。私ってば、命を狙われているんですよ。だから変装する道具とかそういうのが欲しいんです。それがあれば、私は平穏に暮らせる気がするんです。」
「ふーん。なら私と一緒にしばらく暮らす? 一応そこそこ戦えるつもりだから、あなたを守ってやることもできるわよ。」
先生! 先生かっこいいっ! マジでかっこいいです! もう本当にか弱い般若レディとしてはときめきましたよ! 胸キュンですよ! そうそう、そうなんですよ! 私はもっとそういう風に優しく扱って欲しかったんですよ!
「せ、先生。ありがとうございます! 嬉しいです! 草原に鎌一本で投げ出された時のことを思い出すと、とても感動しました!!!」
昔のレトロゲームのようにいきなり草原だったもんな。それでここまでやってきたんだから、たまには私も守ってもらう的な立場でもいいんじゃないでしょうか!? ねえ!? 豚神さん!? ぶ、あはははははは!