第385話「ダンジョンじゃない?」
すみません。明日追記しますorz
12/12追記しました。
薄暗い空間の中を、私は隕石拳の効果で真っ直ぐ突き進んでいた。相変わらずいつ止まるのか分からないスキルだなぁ。
これは、一体どこまで続くんだろうと見回してみるが、何も無い。まるで、時間が止まっているのではないかと思うくらい、同じ景色ばかりが見えてくる。
こういう時、レトロゲームだったらバグったなんて言葉を使うことが多い。通常のゲームプレイでは起こり得ないような現象が発生するのはバグがあるからと考えるのが一般的でもある。
ゲームを構成しているプログラムは人間が作っている。その人間が作ったプログラムには間違いが含まれている事がある。その結果、ゲームの進行不可となるような出来事も起こり得る。
ここでずっと同じような場所を移動し続けているのも、バグが原因かもしれない。だけど、まだどうなるかは決まったわけではないので、安易にログアウトなんてしない。
魔者の試練は…このタイミングだったら嫌だなあ。だけどこうやってずっと同じような場所を繰り返していると、すぐに魔者の試練だと思ってしまう。
「はぁ。ネガティブータを倒したら終わりだと思ったのに、一体何なんだ。」
ダンジョンが消えていないのが一番気がかりだ。これは、ひょっとして黒幕がネガティブータじゃなくてゴーストロガノフだったりするんじゃないだろうか。
こういう暗い場所といえばゴーストなんかは好みそうな気がするし。だけど、ここからまさかの連戦なんてことになったら勝てる気がしないな。私一人じゃなければなんとかなりそうな気がするけれど。
マブダチからのメッセージ:ねっこちゃん! 今どこにいる? 俺らはダンジョンが消えたからダンジョン外って言うか、街の近くにいるんだけどさ。
…は? ダンジョンが消えた。じゃあ今、私がいる場所はどこだって言うんだろう。ダンジョンの中心部とかになるのか? それとも全く別なダンジョンに転移してきたなんてことも考えられないだろうか。…ひとまずブッチ達にメッセージしておくか。
マブダチからのメッセージ:あっ! いつも通り面倒事に巻き込まれたってことだね! やばそうだけれど、転移石を使えば戻れるんじゃないのかな。
…いつも通りとはなんだと言いたくなったけれど…そうだ、転移石は、私も使おうと思っていたんだよね。だけどいざって時の為に極力使わないようにしていたからなぁ。転移石は、私の場合、海底洞窟付近や街と王国付近に移動する事ができるから、かなり便利になっている。
まぁ今がいざって時なんだろうけれど。転移石は取り出せない。何故かというと、片手が隕石拳になっていて、高速移動している状況で転移石を取り出して、うっかり落としてしまったら一巻の終わりだから。隕石拳を無理矢理ねじまげればなんとかなりそうだけれど、そう簡単に上手くいくとは思えない。
「…これがあとどれだけ続くかなんだけれど…。いつまでなんだ。」
今回は長い気がしている。こんなに長くていいのか? そろそろ切れてくれないだろうか。そう思っていても消える気配が全然ない。まじでどうしたらいいんだ。やっぱり必死こいて止まれ止まれって念じてみるとか? 確か前もそれで速度低下にはなかった気がするし、それも試してみるかな。
「止まれ、止まれ!」
止まらない。止まってくれない。これがこのスキルの弱点なんだよなあ。一回発動したら最後、いつ止まってくれるのか分からないという。だからあまり使いたくないというのがある。制御がまったくできない力なんてほとんどの場合役に立たないし。
こういう暴走系の能力ってよくあるものだけれど、使い所が肝心なんだよなぁ。ネガティブータをあっさり潰すくらい強いけれど、外れたらおしまいとかいうギャンブル要素満載だし。
「…スキルの分析のお時間ってわけでもないんだけれど、これどうしようもないもんな。」
気合いで止めようとするべきなのは分かっているんだけれど、歯を食いしばって踏ん張ろうが、全く効果無し。なんなの今回は?
「止まれっての!」
「お困りのようですね~。」
「ゴーストロガノフだったら間に合っています。」
このタイミングでどこからか声が聞こえたらまず間違いなくこいつしかいないだろう。何の用件か知らないけれど、ここでは拒絶の態度をとっておくことにする。だって今の話し方だと、助けてあげるから何かしてくれみたいな事を言いだしそうだったから。
「はぁ。魔者というのはどうしてこうもひねくれているんでしょうね。」
今の所どこにも姿は見えない。ただ声だけ聞こえてきている。ひねくれているとは酷いな。私は今までプレイしてきたゲームの経験則で物事を判断しているだけなのに。
「また、名乗らずともいいですよね。ひとまずこの大きな岩をなんとかしたいのですが、いいですか?」
答えるわけがない。勝手にやってくれるならいいが、私から頼み込んだということにするのはよくない。こいつに借りを作るみたいな流れになって、その後、どうせろくでもないお願いを聞いて欲しいと言う展開になる。絶対にそうだ。これだけやってやったんだから今度はこうしろよっていう。
誰がそんなことに従うものか! 私はなあ! そういう先の展開が読めてしまうような事が嫌なんだ!
「魔者。あなたが考えていることを当ててみましょうか。返事をしたら、借りを作るから嫌だということなのでしょう?」
分かっているならさっさと率先して行動してくれたまえ。というかこんな面倒なやり取りしないでさっさとやってくれりゃいいじゃないか。こいつも面倒くさい奴だなあ。
「あっ。今、あからさまに、こいつ面倒くさい奴だなあって顔になりましたね。」
だからそれが分かっているんだったら、さっさとやってくれって。
「まぁいいでしょう。ホイホイホイコーロー!」
…何だ今の? なぜいきなりホイコーローなんだ。なんて思っていたら、お!? 隕石拳が解除されている!? 私はすぐに鎌を持って迎撃態勢に出た。
こいつ、スキルを無効化する能力持ちって事じゃないのか。これはまずいな。今後、崖っぷちの状況で隕石拳を使っても解除してくる敵が出てくるかもしれないってことだろう。これじゃあ切り札としては役に立たなくなってしまうな。
「スキルを解除された事に警戒するのはいいですけれど、とりあえず落ち着いてくれませんかね。」
「姿を見せろ! この卑怯者! びびっているのか軟弱者! 逃げるな臆病者!」
「うわぁ~。折角暴走しているスキルを解除してあげたのに清々しいほどのクズっぷりですねあなた。やはり魔者に向いてますよ。」
魔者に向き、不向きなんてあること自体どうでもいいんだけれど。
「で、私に何の用?」
「順応性早ッ! まぁいいでしょう。まずはネガティブータを倒してくれたことを感謝します。」
「いえ結構です。」
「まぁまぁ。そう遠慮なさらずに。ところで、私があなたと会った時に助けを乞うていたのを覚えてますか?」
「ママに聞け。」
「は?」
「いや、こっちのネタだから。続けてどうぞ。」
「はぁ。覚えていないというわけですね。この国に危機が迫っていたと言ってたのですが、それがまぁネガティブータのせいだったわけですね。」
あいつの目的なんて今さら知るつもりはないし、襲い掛かってきたから倒した、だけで良い気がするのにここでいちいち説明回に入ってしまうのか。何の興味もないんだけれどな。
「あいつは、あの国にいる者たちから、養分を吸収していたんですよ。」
「それで世界を破滅させようとか目論んでいたと?」
「さて、どうなんでしょうねえ。」
なぜそこではぐらかすのか分からないな。むかついたので、そこら中を鎌で斬ってみる。こいつの姿は見えないけれど、運が良ければ当たるんじゃないかと思ったし。
「養分っていうのは生命力とかそういうのでしょどうせ。そんでもって、それがそれが無くなったら人が死ぬって寸法だよね。」
「おー! 流石ご聡明な魔者です!」
これ、知ってる。相手を褒めながら内心馬鹿にしているやり口だ。私もよくやるけれど、こいつはなかなか上手なタイミングでやるなあ。
「それでなんだ? その生命力が無くなって死なれると、魂とかも消滅してしまうからお前は困っていたってところか?」
「概ね合っています。魂と肉体といったほうが正しいんですがね。私にとってはその両方がエネルギーとなるので、ネガティブータの糞豚野郎が過剰なまでにやりやがるので始末したかったんですよ。」
「なんて言っておいて、自分では始末するだけの力がなかったってことなんだろ。」
あるいは、始末するのに力を使いたくなかったか、クロウニン同士の争いはご法度なのか、それとも相性が悪くて戦いたくなかったのかってところだな。
「ふふふ。まぁそれはさておき、邪魔者がいなくなったので私としてはすっきりしているわけです。」
「で、今度は私が邪魔だってことだろ。」
「いえいえ! 邪魔だなんてそんなことはございません!」
嘘だな。確実に嘘。クロウニンは大体私の存在が目障りなはず。ジャガーちゃんはちょっと違う感じがするけれど、魔者という存在自体を毛嫌いしているのが基本のはずなので、こいつも私が油断した隙に何かやろうとしているのは明白だ。
「それに、もし邪魔だったら先ほど既にやっていたと思いませんか?」
「それは私に利用価値があるからだろ? 私に何かさせたがっていて、その目的を達成するまで利用してやろうって魂胆が見え見え。今回も結局利用されたわけだしなー。」
私としては魔者に問答無用で襲い掛かってくるクロウニンが邪魔なのでさっさと始末してしまいたい。
「話が早くて助かります。おとなしく利用されてくれません?」
「お前の狙いって、実体がないからその実体を得るために大きな力を必要にしているってところだろ? そんでもって、そういう力を手に入れたら、結局自分の存在をひけらかしたいから、世界を支配するのが目的なんだろ。うんうん。分かってるよ。」
色々思う所はあるけれど、こいつ、ラスボスにでもなりそうな感じだよなあ。こういう何考えているのか分からない奴ほどそういうタイプだったりするし。
「まさか、私がそんなことをするわけないじゃないですか。」
…今、一瞬戸惑ったかのような声になっていたな。何か狙いがあるのは確実か。さてどうするかなあ。