第383話「懐かしのアレ」
実は、ブッチにネガティブータに投げつけてもらうというのは、考えていた。多分ブッチならやってくれるだろうという考えはあった。というか肩車をした時点でブッチだったら、私を投げ飛ばすという考えがすぐに浮かぶだろうと言う確信もあった。
もしもブッチが私を投げ飛ばしてくれなかったら、それこそ自分で飛び掛かろうと思っていたのだけれど、結果は上々だった。さて、ここからが勝負だ。私はある一匹のネガティブータの頭の後ろに飛び乗る事が目的だった。これで失敗してしまったら、また最初からやり直しだ。
「ブヒヒぃ! 馬鹿め! これならいい的だああ!」
丁度私はネガティブータに向かって一直線飛び込んでいたので、確かにいい的だった。ネガティブータの3つの頭が大きく口を開けて、炎を吐いて来ようとしているのが分かる。狐火では打ち消しきれないので、このままだと大ダメージ確定だろう。
「ライトニングブラスト!」
そこへひじきの電撃魔法が飛んできて、頭1つ分に命中した。よし! これであと一匹分なんとかなれば、私でも攻撃が防げる!
「うぉりゃあああ!」
ブッチが体当たりを仕掛けていた。横にあった首に向かって、張り手を繰り出している。これで更に一匹分の攻撃が防ぐことができた。最後は正面の頭! こいつさえなんとかなれば、私がやろうとしていることが上手くいく! そう思っていると口から炎を吐いてきた。この一回程度であれば狐火でなんとかなる!!
「狐火ぃい!」
久々に全力で、全開で狐火を放つ。今度はネガティブータの吐く炎に押負けないようにと、全力で放つ。地味だけれど、渡脚もこういうところで負けず嫌いな面があったようだ。だって、ほんの少しだけれどこちらの威力が劣っていたままというが納得がいかないし。一回負けたからといって、何度も負け続けるというのは嫌だ。しかもそれが狐火という結構前からあるスキルで負けたのだったらなおさらだ。
「負けてたまるかぁあああ!」
通常のゲームであれば、敵の攻撃との威力の差というのがきっちり決まっているので、押し負けてしまったら別の手段を講じる。だけど<アノニマスターオンライン>では違う。スキルや魔法の威力はその時々で何らかの補正を受けているようだ。その中に恐らく感情も補正が入っていると思われる。これまでプレイしてきたゲームではそんなもので補正が入るなんてことは無かった。
私がこれまでに使ってきたスキルの多くは感情だけじゃなく、使い方次第で威力が威力が変化するなんてことがあった。だからこそ、一回二回押し負けた程度で諦めてはいけないと思える。何度だって挑戦し続けることで、変化することだってあると信じることができる。
とんでもなく威力に補正がかかるなんてことは今の所ないけれど、それでもネガティブータの吐く炎と私の吐く狐火がほぼ互角であるといのなら、上を目指してもいいなんて考えが出てくる。
「燃え尽きろ!」
「それはお前だああ!」
こうして力が拮抗しているというのは良いことだろう。相手に負けたくないという気持ちが強くなってくる。
「ぐお…お!?」
私の狐火が押している!いけっ! いけええええ!
「なっ!? ぐ!? ブヒイ!?」
ネガティブータの黒い炎に私の赤い炎が覆いかぶさり、そのまま顔を焼いていく。おし! それじゃあここからが本番だ!
「うぉりゃあっ!」
「ごふぁっ!? ん!?」
私は、ネガティブータの頭の後ろにしがみついた。よし! やっとこさ狙い通りにいってくれた!
「何ッ!?」
「これを待っていたんだあああ!」
大きな口を開けているネガティブータ。バカでかい口を開けているネガティブータ。ならば、それにふさわしいものを入れてあげないとだめじゃないか。
「火薬草だあああああ!」
「ぼっボエエエエ!?」
口の中にがんがん、火薬草を詰め込む作戦! こいつの体内にどんどん火薬草を詰め込んでいくのだ。いや、当然火を吐いてくるくらいだから火に耐性があるかもしれないよ? でも体内に突然爆発物をいれられたらどうなるかな? それは体内で生成しているわけじゃない異物だ。そんなものが大量に入ってきたら、胃を荒らすんじゃないだろうか。それが私の狙いだ。
「どんどん詰め込むぞ!」
「ふごごご!?」
一匹だけに集中して火薬草を詰め込んでいく。懐かしの窒息作戦のようになってきた。そうだ。鼻にも当然詰め込んでいく。まぁ他の頭があるから窒息なんてことはないと思うけれど、それでも一匹動かせなくなるならそれもいい感じになるし!
「ぼが。むが。」
「ま、魔者ああああ!」
「ヴェッ!? なんだ、気持ちが悪く…。」
胃袋も3つあるのかと思ったがどうやら違うようだ。つまり頭が3つあるけれど、胃袋などは共有ということだな。単純に頭だけが3つになっているってだけでよかった。
「ふ、ふざけんなぁ!」
「ほいほいっと! じゃあ俺もやりますかねえ!?」
「むぐぶっ!?」
「よーしよし。たくさん食べろよ!」
「な、お前も!?」
ブッチは別な頭に火薬草を詰め込んでいった。え? ブッチも当然火薬草を持っているに決まっているじゃないか。私が仲間の分も火薬草を作らないなんてわけがない。アイテムは分散して持っておくことでリスク回避ができるんだし!
「むごごごご!?」
「お前ええ! やめろおお!」
「あぶなっ!」
最後に残った頭が、私に噛みつこうとしてきたのでかわす。すると、そのまま中央の頭にがぶりと牙が刺さってしまった。さらには火薬草がその衝撃を受けて、爆発した。
「ボゲェエエエエ!?」
「ウゲエエエエ!?」
頭2つ分、大きな爆発が起こったようだ。私とブッチもその衝撃で吹っ飛ばされたが、体内で爆発がおきたことでネガティブータはそのまま地面に突っ伏した。
「おしチャンス! まだ余っているあの頭に詰め込むぞブッチ!」
「いいね! あの一匹だけ可哀想だし!」
「ブ、ブヒイイ!?」
他の頭と違って何も詰め込まれていないので、最後の一匹は元気そうだった。すぐさまブッチが頭の上に乗っかったかと思えばそこから口をこじ開ける。その中に私は火薬草をガンガン詰め込んでいった。「ブヒヒ!? ブブ!? ヤメ! ブゴゴ!?」
「たっぷり召し上がれ! 美味しい火薬草を! へっへっへ!」
「あ、あんまりやで。なんやあの光景!? 地獄絵図やないか。地獄の番犬ならぬ地獄の番豚みたいな奴があんなに苦しそうにしとるなんてありえないやで!」
火薬草は大量にある。こんな風に動けなくなってしまえば、あとはひたすら投げ込んでいくだけだ。
「あっ!? ねこますさん。ブッチさん!? ず、ずるいです! 私もそれ参加させてください!」
お!? エリーちゃんが来た! そんでもって他の皆も引き連れている! やったね! 後はこのままガンガン、ネガティブータの口の中に火薬草を詰め込んでいってもらえばいいね! 私とブッチとエリーちゃんで、頭一個分ずつ火薬草を詰め込むだけの簡単な作業!
「やあやあエリーちゃん! じゃあそっちの頭を頼むよ!」
「はい! 任せてください!」
火薬草を詰め込むだけ詰め込む。うーん。こうしてみていると…。なんだか赤ずきんちゃんを思い出すなあ。ってそれは狼の中に石ころを詰め込むってやり方だけど。ああ、たけのこが狼だけれどたけのこにはそんなことは絶対にしない。後は…三匹の子豚には狼がいたっけ。うーん。なんだか逆の立場というかなんというかね。
「ブヒヒヒ!? やべ。ヤベロオオ!」
止めるわけがない。こいつはここで倒す。倒してしまおう。
「火薬草を集めておいてよかったなぁ。」
私はしみじみと思った。これのおかげでこいつをここまで追い詰めることができたわけだし。よしあともうひと踏ん張りだ。頑張るぞ。