第38話「千匹」
囲まれているというブッチの予想通り、蜂が何度も襲い掛かってくるようになった。数
は1回の襲撃で多くて10匹程度だ。油断さえしなければ簡単に倒せるが、倒してもすぐに
何匹かくるので休む暇がない。
「残り900匹くらいか。フッ。余裕だな。」
ブッチは、本気で全滅させるつもりだ。まだまだ余裕がありそうだ。だけど問題は、も
っとでかいとか強い奴がきたらやばいってことだろう。攻撃を当てても倒せないとなると
思わぬ反撃を食らうかもしれない。一応今はそういうことがあるかもしれないと考慮して
戦っている。
昔プレイしたゲームでは、色違いの強化版というか上位種がでてきて、全滅してしまっ
た苦い思い出がある。そういう奴がでてくることを想定すると、二撃目を考えた戦いをし
ないといけなくなる。
「俺は多分一撃でいけると思うけど、上位種がでてきたらねっこちゃんとたけのこちゃん
は辛いかも。」
「ワタシモジシンガアリマスヨ!」
おおっ。たけのこは随分張り切っているようだ。だけど毒になったりはしないでくれ。
「イザトナッタラ、だいこんヲオトリニシマショウ」
「わんころ~!それはないで!針の痛みはやばいいってるやろー!」
「ヤクソウヲ、タベツヅケレバイイダロウ」
「なかなか酷いこと言うやんけ!窒息するわ!」
窒息をネタにするなよな!つーかそんな状況じゃないだろ!何匹もやってきているんだ
からそんなアホみたいなこと言うんじゃない。
「こんなにけしかけてくるのは、女王蜂のせいかもしれないねえ。」
「女王蜂だと。」
そうか、女王蜂がこいつらに指示をだしてきているのか。私達をぶっ殺してきなさいみ
たいな感じか。なんて嫌な奴だ。先に手を出してきたのは、あ、ブッチだった。速攻で叩
き潰したんだった。まぁしょうがないよな。あの見た目の蜂がでたら、誰だってそうする。
「ちょっとお前ら死んでこいってノリでこいつらは向かってきているのかもしれないよ。
いやあ女王蜂って怖いねえ。おっとオラオラ!俺の邪魔をするな!」
ブッチが向かってくる蜂を叩き潰しながら会話してくる。あまりにあっさり倒しすぎて
蜂なんて大したことないんじゃないかという気分にさせられる。
「女王蜂の傀儡になる一般蜂どもかぁ。女王のいう事ばかり聞いて楽しいのかねえ。」
自分の意思を持たずただ命令だけ聞くだけって嫌だよなあ。私だったら反旗を翻すね。
「そうだね薬草。やっぱり自分の意思で薬草。動かないと薬草。だよね!」
ブッチが何故か薬草を連呼する。また草むしりにいきたいってことなのだろうか。よし
今回の遠征が終わったら、沢山させてあげないとな。私は、ブッチに微笑みかけた。
「ブッチニキ、なんか嫌な予感がプンプンしおったで。」
「ああうん。まずいことを言ってしまったようだ。女王蜂なんかよりやばいよあれ。」
やばいのはお前だろうブッチ。雑談しながらモーニングスターをぶんぶん振り回して蜂を
叩き潰すとかどこに目がついているんだ。しかもあれ、後ろからやってきているぞって
そういえば…目?まさか?
「もしかして、ブッチのサイコロの目ってみんな目なの?」
「おりょ?いってなかったっけ?そうだよ。ちなみに回転もできる優れものだよ。」
知らなかったぞオイ。だからどこにでも攻撃ができたのか。というか色んな方向が見える
とかどんな感覚なんだ。
「回転か。首の部分だけ数値がまともにみえないからなのかな。」
「そうだねー。ちなみに俺はやっぱり正面は1の目が好きなのでこうしているよ。」
1だけ赤いから好きなんだろうか。ブッチの正面が1なので後ろは6だ。サイコロは反対の
面と合わせると必ず合計が7になるようになっているので、当然っちゃ当然だが。
「口はどうなっているの?」
「口は正面だけあるよ。」
そうなのかってこんなところで新事実を知ってどうするんだろう。とにかく、後ろに目が
6個もあれば、奇襲を食らうことはそうそうないってことだよな。これ、サイコロプスか
なり強くないか?私の般若レディは弱すぎな気がするんだけど!
「サイコロプス強すぎじゃない?」
「パワーが取り柄でそれしかできないってとこがデメリットだよ。」
「ブッチのパワーがあったらもっと楽に草刈りができるのに!」
「えーっそこ!?草刈りのためにパワー欲しいの!?」
ブッチがかなり驚いている。草刈りの効率化はみんなが望んでいるんだぞ。
「っと、ちょっとここからはマジにならないとやばそうだからみんな気を付けてくれ。」
カチカチという力強い音が何度も聞こえてくる。これまでよりもずっと大きい音だ。これは
20匹くらい一気にきているかもしれない。というわけで、
「獣の骨!」
実は豚狩りをしまくっていたのでかなり本数があるのだ。これを遠くからひたすら投げつ
けて、怯ませる。え?何本あるかって?クックック。かなりあるぞ。それこそ1000匹に
当てられる分はあるんだ。それにゴブ棒だって余っているんだ。これをひたすら投げつけ
るだけの簡単なお仕事だ。
「ねっこちゃん。それ俺にも貸して!」
「おっどうぞどうぞ!」
ブッチが、獣の骨を蜂の集団に向かって投擲していく。しかも百発百中で。そしてその一
発を当てただけで、蜂は潰れた。骨もひしゃげた。あーー私の獣の骨がああああああ!
「こりゃいいね。勿体ないけどどんどんくれない?」
「わかったけど、今度集めるの手伝ってもらうよ!なくなった分の2倍!」
「まじっすか。くそっ!この蜂野郎!お前のせいだぞ!くたばれこの野郎!お前ら絶対に
生かして帰さんぞ!延々豚を狩りつづけて骨拾いする地獄を思い知れ!この野郎!お前ら!
絶対に許さんぞ!俺はお前ら!」
何かブッチが騒ぎ始めたけど無視してどんどん獣の骨を渡していく。ブッチがここまで自
暴自棄になるなんて、この蜂どもは逆鱗にでも触れたんだろうか。馬鹿な奴らだ。
「ワイはあの気持ちわかるんやで。もうおしまいやと思ったら、まだ始まりと言われるん
や。あれは精神的にくるで。」
「ねこますサマのシュウネンはスサマジイノダ。」
何かだいこんとたけのこが話し合っているがどうしたんだろう。
「オラオラオラオラオラオラ!ブッチ様に逆らったらどうなるか知っているか!」
四方八方に投げ続けるブッチ。疲れる様子はない。というか初めからこうやっておけば
よかったな。すごい勢いで投げつけるし、このままどんどん数を減らしていければいいな。
そう思った矢先───。
全方向から、そして空中から、夥しい数の蜂が姿を現した。ブッチはひたすら投げ続けて
いるが、到底処理が追いつきそうもないレベルだった。これはついに、蜂が最終決戦をし
かけてきたということだろう。私も腹をくくらなければいけなくなった。