第379話「三匹の子豚?」
自分の名前が嫌なら改名すればいいのになんて思ったけれど、そう簡単にいかなかったってことなんだろうか。なんて私がこいつの事を気にする必要はないか。にしてもまさかの猪かあ。でもどこからどう見ても黒豚だよなぁ。
「畜生!」
…というか腹にどでかい穴が開いているのに、どうしてこいつは生きているんだ? そもそもエリーちゃんがこいつと戦っていたはずなんだけれど、それはどうなった? 分からないことだらけだな。
こいつが偽物で、エリーちゃんが戦っているのが本物、あるいはその逆も考えられそうだ。
「ふんっ!」
「グアッ!?」
黒薔薇の型を使った鎌で、ネガティブータの体を斬り裂く。すると、また悲鳴を上げていた。あれ? この様子だとやっぱりまだこいつは倒していないって事じゃないか。えーと、この場合、腹に大きな穴が開いていても、回復することができるような状態なのかもしれないな。やれやれ、かなり厄介だな。一体どこまでダメージを与えればくたばるんだろうか。
「空気読めやこのくそ馬鹿魔者! ブヒイイ!」
急にじたばたしだすネガティブータだった。どうやら癇癪を起したようだ。
「いい加減にくたばれっての!」
腹に穴が開いたくらいなんだし、このまま斬り続けていけばやがて倒せるだろうと見込んでいたのだけれど、どうも致命傷になっていない気がする。
「ブヒイイイ!? 許さないぞ! 絶対にだ! 魔者ぁ! お前もお前の仲間も絶対に苦しめてやるぞおお!」
「おーおー。前向きだなぁ。もうネガティブータじゃなくてポジティブータにでも改名すればいいんじゃないか?」
私がそう言った瞬間に、ネガティブータから猛烈な殺気が漂ってきた。おうぅっと! これはなかなかのものだなぁ。ポジティブータって言葉が癪に障ったのか? まぁいいや。この迫力に押されそうになっているし、ここは私も威圧を使っておくとするか。
「威圧! んで、何でそんなにキれているのかなぁ?」
「何がポジティブータだ! 俺は猪だ! 誰が何と言おうと猪なんだ! ふざけやがって! もういい。ここで終わらせてやる! ブヒヒヒ! お前の仲間達をもっと苦しめてやろうと思っていたがそれもおしまいだ! まずはお前をじわじわとなぶり殺してやる! ブヒヒヒ!」
何か苦い思い出でもあるのか知らないが、こいつは煽り耐性が低いと言う事はよく分かった。
それにしても、私の仲間達を苦しめるなんて言ってるが、こいつの手下がエリーちゃんやブッチの相手をしていたということなんだろうか。
「ブヒイイ!! 俺様の真の姿を見せてやるぜえええ!」
「雷獣破!」
「ブヒ!? い、イギギギギギギ!?」
赤鬼といいネガティブータといい馬鹿しかいないのか。何が真の姿だ。パワーアップするかもしれないのに手を出さないわけがないだろう! 徹底的に邪魔するに決まっている! 雷獣破なら高威力なので、こいつのパワーアップとやらを取り消する事ができるだろうと考えたが、上手くいったようだ。
私の手から放たれた激しい電撃が、ネガティブータから出ていた不穏な気配を吹き飛ばしたし。
今は全身をぴくぴくと震わせてその場に寝そべっていた。この隙を狙って私はドラゴンフルーツを取り出し、むしゃむしゃ食べ始める。スキルを沢山使っているので、いざって時に使えなくならないように回復する事にした。
「ブ…ヒイ! くそ…魔者がぁぁ!? 邪魔をしおってえええ! 今のは卑怯だぞ!」
卑怯か? 私は卑怯なのか? 攻撃できそうな隙を晒すほうが悪いのに、なぜ私が卑怯なんて言われなければいけないのか理解に苦しむなあ。
「むしゃむしゃむしゃむしゃ!」
「む、無視するな! くおおおお! こうなったら奥の手だぁぁあ!」
また何かやらかすつもりか? どうせまた時間のかかることをやるんじゃないのだろうか。そうなったらさっきと同じように雷獣破を使っておくか。
「ブ、ブヒイイイイ!」
ん!? さっきとは違うな! なんかネガティブータとの両脇に影が2つ現れたな。よし、何か危険そうだし、念のため真空波でも撃っておくか。
「真空波!」
ネガティブータ本体とその両脇の影に向かって真空波を放った。これが吹っ飛ばせるか?
「ブヒヒ!」
「ブヒイイヒヒ!」
「効かねーぞ! ブヒヒヒ!」
ん!? いつの間にか影が、ネガティブータと全く同じ姿に変身していた。なるほど、分身体ってわけか。本物そっくりの分身か。
「死ね魔者! ネガティブラスト!」
真正面にいたネガティブータが電撃を放ってきた。相変わらず腹に大きな穴を開けたまま平然としている。なんなんだよこいつは。おっと危ないなぁ! だけど、こいつの攻撃を回避するのも慣れてきた気がするぞ!
「ネガティブラスト!」
「グラビトン!」
何!? ちょっと待てい! 重力魔法で動けなくなっている状態で、更に電撃魔法だと!? こ、こいつらもしかして分身体とかじゃなくて本物か!? うわっ!? ぐぐぐぐぐ!?
「ブヒイイイイイ! ざまあみろ魔者ぁ! やっと当たったぜえ! ブヒイイ!」
「ブヒヒヒ! 魔者が苦しむのは楽しいなぁ! ブヒヒ!」
「あれあれー!? もう終わりか魔者ぁぁー!? ブヒヒ!」
く、くそっ! もろに電撃を浴びてしまった。かなりきついぞこれ。うぐぐ。すぐに薬草を食べて回復したが、これはやばいぞ。単純計算でネガティブータが三匹いるってことになる。というかどういうことなんだ! こいつ、三つ子が何かなのか!?
「グラビトン! ブヒヒ! どうしたどうしたぁ!?」
「ネガティブラスト! 逃げろ逃げろ~! ブヒヒィ!」
「俺様達の攻撃でお前はもうおしまいだぞぅ! ネガティブラスト! ブヒイ!」
達? 最後の奴は達って言ったな。聞き逃さなかったぞ。つまりこいつらは三匹だったってことになるんじゃないのか!? おっとぉおお! 一番危ないグラビトンをかわして! 電撃も、ブッチの攻撃よりは遅いのでかわせる!!! だけどぎりぎりだよ!? こんなのかわし続けるのきつすぎるぞ!
この二匹は一体どこから出てきたんだよ!? 三匹も相手するなんて辛すぎるぞ! ん? 三匹?
「…。三匹…豚? 三匹の子豚?」
脳裏に浮かんだのは、おとぎ話の三匹の子豚だった。
「ライトニングブラスト! もう母上に手は出させません!」
「おぅおぅ!? 蝶風情がこのネガティブータ様に勝てると思っているのかぁ!?」
まずいな。今ひじきに攻撃されても困る。標的が私だけのほうがむしろ戦いやすいのだが、ひじきが狙われてしまうと、戦いにくくなってしまう。
「あぁもう! おい、三匹のネガティブータ共! お前ら三下は私が相手してやるよ! おっと違ったな、三匹の子豚ちゃんかぁ!?」
安い挑発を投げつけてみた。これで標的が私に移れば幸運だ。こんなのに引っかかってくれるとは思わなかったが、何もしないよりはましだと判断した。
「魔者。クソ魔者がぁ! 相変わらず俺様達をイライラさせやがる! 猪だってのに勝手に豚にしやがってよぉ!!」
「俺様達は猪なのに、そうお前が作った癖に! おとぎ話の三匹の子豚をモチーフにしているなんて言い出しやがって!」
「何が猪なのに豚って笑えるだ! 何が三匹の子豚でいいよな? だああああ! ブヒイイ! お前には地獄の苦しみを与えてやるぞお!」
おい、私の前の魔者、何やってんだお前! やっぱり三匹の子豚モチーフだったんじゃないか! そんでもって、こいつら兄弟だったってことじゃないか! さらに言えば、多分他の二匹はエリーちゃんとブッチと戦っていたかもしれなかったんじゃないか! そんで私がここにいたネガティブータを倒しそうになったからこちらに呼び寄せたってことだな! くそー! なんでよりによって私の所に集まってくるんだよ! そこはブッチのところにいってくれと。あと、エリーちゃんが結構頑張って戦ってくれていたと思うんだけれど、それなのに私がここで戦って倒したらエリーちゃんの苦労が報われないじゃないか!
「姉御! そういえばワイがいると何かできることが増えるとかいっとらんかったか!? それがやれればこいつらを倒せるんやないんか!?」
突然、だいこんから声を掛けられる。はっ!? そういえば 真蛇モードとかいうのがあったけれど、だいこんがいないから使えなかったんだったな。よし! 今なら使えると思うから早速使ってみるとするか!
「よし! それじゃあ真蛇モード!」
しかし何も起こらなかった。だぁあああ!? こういうピンチな時ってぶっつけ本番のスキルが初つどうして形勢逆転するみたいな展開じゃないの!? うう! いつもこういうありきたりな展開が駄目って言ってるせいでこんなことになっているのか!?
「あ、姉御何をしているんや!? なんか強くなれるんやなかったんか!?」
「もしかしたらもう強くなっている可能性も…!」
いや、これ絶対に明らかな失敗だね。何かしら変化があってもいいと思うのに何も変わっていないし。
「ブヒヒヒ! 意味の分からないことをやり始めたな。まさか新手の命乞いか!?」
命乞いって成功率低いよね。命乞いをして生き残ったキャラクターって全然聞かない気がするしってそうじゃない! なんで真蛇モードっていうのが上手く使えないんだ!? ひょっとして、まだ他にも発動条件があるってことか!? 元々だいこんが必要ってことから、いつでも使えるスキルではなく、特定の条件下でのみ使えるスキルってことだろうし。
でもその条件は一体何なのか分からないってのおおお! 検証している暇もない!
「このまま戦うっきゃない…!」
私が主体で三匹の子豚、いや子豚じゃなくて三匹の豚、ネガティブータ達を相手にしていかないといけないな。まとめて相手にするなんてかなりきついけれどやるしかない。ひじきが狙われたらそれこそ大変だし、だいこんはまともに戦えるような感じではないし。
というかエリーちゃんやブッチは早くこっちに来てくれ! 私一人でどれだけ持ちこたえられるか分からないし!
「ブヒヒ。我ら兄弟の絆の力見せてくれる!」
…。モンスターが絆とか爽やか系なこと言ってくるとなんか違和感があるなあ。むしろこいつら脂ぎっている系だから、もっと醜い感じとか見せてくれた方がいい気がするよ。
「なら、私は魔者の孤独の力を見せてやる!」
「ブヒヒ。お前、友達いなさそーだもんあぁブヒヒ。」
…なんだこの野郎!!!! ぶっ潰す!!
たまには宣伝的な事を。
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