第377話「ごろごろ」
メッセージ:赤鬼の金棒を手に入れました。
おっ、久々にアイテムが手に入ったな。でもこれ、赤鬼が持っていたサイズだったら私には使えないな。こういうのって、ゲームによってはサイズが変更されて入手されるけれど、どうだろう。ちょっと取り出してみるか。
「うぉおおっと! やっぱり大きいままじゃんか!」
「姉御にそれは使えないんやないか? ブッチニキにでもあげたほうがええと思うやで。」
「そうだね。折角手に入れたけど、それがいいね。」
こんなの持てるなんて確かにブッチくらいだろうしなぁ。私が頑張って使ってもよろよろしてまともに使えないだろう。街で売るなんて事も考えたけれど、折角手に入れたしそれは勿体しね。よし、それじゃ金棒はアイテムインベントリにしまってしまおっと。ブッチは多分気に入ってくれるだろう。
「母上。お疲れ様でした。それにしても、母上はどんどん強くなっていきますね。」
確かに強くなった気がするなあ。<アノニマスターオンライン>を始めた頃はしまうま相手に必死で戦っていたもんなぁ。今でも簡単に思い出せる。あの頃に比べたら…いやいやどうだろう!? なんかいっつも死に物狂いだった気がするし、今回だって結構苦戦した気がする。
「私が強くなったと思ったら敵も強くなっているから、強くなったって実感があんまりない!」
「大丈夫やで。姉御は最終的にはこの世の支配者とかになるはずやからな。」
そんなことになるわけないじゃないか。このゲームの最強プレイヤーになれっていってるようなものだし。その領域に行けるのはきっとブッチみたいな奴なんだろうなあ。
「はいはい。というわけで、先に進むとしようか。」
赤鬼も倒したことだし、ダンジョン内の移動を再開した。さっさと出てしまいたいのと、そろそろ誰かと合流できないもんかな。みんなの状況が分からないって言うのは不安になるし。
「エリーちゃんとネガティブータとの戦いがどうなっているかなんだよなぁ。」
「ワイは結構心配やで。エリーネキは姉御やブッチニキと比べると化物じみた力がないわけやし。」
「…私のどこが化物かっ!? ねぇひじき?」
「え? 化物とは言いませんが母上は魔者なので恐るべき力を持っているかと。」
…。はっ!? 一瞬何を言われたのか分からなくなってしまった。ひじきが真面目タイプだったからじゃないか。真面目に魔者なんて言われたらそりゃまぁそうですかとしか言いようがない。ぐぬぬ。だけど私、魔者だけど恐るべき力とか全然ないのにね!
「私に恐るべき力があれば、手をかざすだけで、クロウニンを一発撃破ができるはずなのにねぇ。」
「そのうちできるようになると思うから安心していいやで。」
そんな日が来るんだろうか。私がそこまで強くなる前に<アノニマスターオンライン>のサービスが終了するほうが先なんじゃないだろうか。
「まぁ気長に頑張っていくよ。っとうぉっ!? あぶなっ! うぉおおおお!?」
「なんやこれ!? 姉御頑張ってよけるんや!」
「母上! どんどんきますよ!」
目の前の通路から、豚の石像の頭部部分だけがごろごろと転がってきている。なんだこの悪趣味なやり方は!? ふざけるなよ! なんでこんなにごろごろと!? あぶなっ! うわっととと!?
「誰だよこんなことしやがるのは!?」
アクションゲームだと丸太が転がってきたり、岩が転がってきたりするのはよくあったけれど、なんで豚の石像の頭部だよ!? ふざけるなっての! というか坂道でもなんでもないのにどうして動いてこれるんだよ!? もしかしてこれ、魔力か何かで動いているのか? なんて考えている暇がないぞ! ごろごろ転がりすぎだ!
「母上、私が魔法で壊していきますので前に突き進みましょう!」
「分かった! ありがとうひじき!」
ひじきが羨ましい! 浮いているからこんな事されてもどうってことないみたいだし!
「ワイは姉御の方に乗って一緒に移動するから楽ちんやで!」
「だいこん! 巨大化してこのままつっきるとかはできないの!?」
「ワイにそんなパワーはないやで」
「じゃあこの石を全部飲み込むとか!」
「ワイはそんな悪食やないで」
だーっ! もうっ! 私だけ頑張って突き進むしかないんじゃないか! あ! いい事考えた! 土潜りでこのまままっすぐ進めばいいんじゃないか!? それなら一気に行ける気がする! ああ、今度はだいこんが大変になるか? いやでも、そこはひじきに持ってもらうとかできないかな?
「ひっ! ひじき! だいこんの事って持てる!?」
「すみません。だいこんさんを持つ事ができません。」
「えぇぇ!? やっぱり異臭を放っていたりするから?」
「放ってないやで!! 捏造するのはだめやで姉御!」
とまぁ冗談は置いといて、なんで持てないんだろう?
「えっと。だいこんさんは、魔力を無効にしてしまう力があるからです!」
え? 何それ? どういうことだ。そんなの初めて聞いたよ!? そんな便利な能力があるならなんでさっさと教えないのだいこん!?
「だいこん!? そんな能力あったの!?」
「し、知らんやで! ワイにそんな力があったとばれたら、きっとワイの事を盾にされるかもしれないなんて思った事もないやで!?」
こ、こいつううう!? やっぱり黙ってたんじゃないかああ! そんな便利な能力があったら、もっと前から利用させてもらったのに! 一体いつから使えるようになっていたんだ!
「だいこん! ちょっと能力の事は今後話し合おうなあ!!?」
「ファッ!? ファー!?」
「すみません。だいこんさん。」
「ひじきが謝ることないから!! だいこんが言わないのが悪いんだから! あと、だいこんが隠していそうな事あったら教えてね!」
「グエー。死んだンゴ。」
これは、まだ隠していることがありそうだなぁ。そういえば私、みんなの能力とか詳しく知らないし、そのあたりしっかり聞いておかなきゃいけないな。サンショウとかも結構色んな魔法が使えると思うし、こういう魔法が使えるって分かったら銭湯の幅も広がりそうだ。むしろなんで今までそれを聞かないようにしていたんだっけ。あ、思い出した。味方であっても手の内はあまり明かさないようにとかそういうことをなんとなく考えていたからか。
でもこれは、ブッチとエリーちゃん限定にしておこう。たけのことかみんなの能力が分からないままなのは今回みたいに困る事になるし。あーでも、聞いたら聞いたで私の能力もみんなに公開しないと狡いって事になるかなー。あー悩むなーってあぶなっ!? この! 豚の頭がぁあああ!
「この通路どこまで続くんだよおお!?」
全然終わりが見えない。転がってくる豚の石像の頭部を回避するのも必死なので、なかなか前に進めないし、これは結構しんどい。現実のように疲れたりすることはないけれど、それでもそれなりに動いているので、大変だ。
「そ、そや! 姉御! 飛行や! 飛行を使うんやで!」
「飛行は自分に使えないんだってば!!!」
「違うやで! ワイや! ワイに使うんや!」
…あっそうか! だいこんにある程度サイズ大きくなってもらって、それにしがみついて飛行して移動する感じか!
「じゃあさっさと使ってしまおう!」
「ちょっと待つんや! ワイも巨大化するのに時間がかかるやで!」
「いや! 巨大化したら、この石に巻き込まれるでしょ!? 先に使ってからだよ!」
「ファッ!? 危ないとこやったで!」
私もそうだけれど、だいこんもボケてしまうことがあるんだぁ。というか私もなんか気が抜けてしまっている気がするな。飛行を使って移動なんて普段なら考えているはずなのに。
「飛行!」
「おおー。浮いたやでー! ほな巨大化するやで!」
ふよふよ浮いているだいこんだった。おっと! うぉっと! なんか豚の頭増えてないか!? そんでもってサイズがまばらになってきた気がする! やたら大きいのや小さいのとか、何だよこれ! 難易度上がってきてるだろ!
「姉御! 掴まってやで!」
「おいしょっと!」
浮き上がっているだいこんにしがみつく。よし! 後はこのまま一直線に突き進んでもらうだけだ!
「だいこん! 飛行は制限時間が5分くらいのはずだから。さっさと前に突き進んでね! 飛行が切れたら大変な事になるし!」
「や、やばいやでー!? 残り4分何秒や! ああもう気にしている余裕もないやで! いくやで!」
だいこんは、通路を一気に駆け抜けていく。その後ろからひじきがついてきている。空が飛べるって便利だなぁ! 本当に羨ましいっての! 自分に使えるように練習はしているのに未だ上手くいかないしさぁ。あー、私も自由自在に空を駆け抜けたいなあ!
「姉御おおお! 終わりが見えてこないやでえ!」
「それでも行くしかないんだから頑張れ!」
なんだか全然前に進んでいってる気がしなかった。まさか、懐かしの魔者の試練とかいうイベントが発生しているじゃないだろうな。このタイミングでそんなことになったら最悪だぞ。無限によけ続けなければいけないとか神経すり減らすっての。
「いや! だいこん! 奥に敵の気配がするよ! 多分この豚の石像の頭を転がしてきているやつだと思う!」
「やったやで! そいつをぶっ倒せばこんなのとはおさらばできるってことやな! 頑張るやで!」
だけど、突然気配感知で引っかかってきたのが気になる。もしかして、罠に誘われていたりするんじゃないだろうか。だけど罠だと分かっていても行くしかない時ってあるよね! それが今のはずだよね!
「うおおおお! 姉御! 敵はまだなんか!」
「もう少し! よっし! ここで 真空波! ひじきも攻撃して!」
「はいっ! ライトニングブラスト!」
私の漆黒の真空波とひじきの雷撃が一直線に飛んでいく。そして私達もそのまま突っ切っていく。
「ブ。ブヒイイイイイ!?」
少しサイズの大きな豚がいて、攻撃はそいつに命中したようだ。体が切り刻まれた挙句、電撃をくらって死んでしまったようだ。さっきの反応はこいつで正解か。
「ナイス! これであの頭はなくなるは…!?」
「がぁああああっはっはっは!? よく来たな魔者ぁぁぁ!?」
大きな広間のような場所にでたと思ったら、そこには、台座に腰掛けるネガティブータがいた。なんでここにいるのかは分からなかった。しかし分からなかったことをいちいち口にしてこちらの動揺を知らせる必要もなかった。
「おうっ! 待ちくたびれたぞ! さぁあの世に送ってやろうか!」
エリーちゃんがどうなったのかは全く分からなかったが、ここにネガティブータがでてきてしまった以上戦うしかない。やったるぞー!