第375話「般若レディ無双」
骸骨くたばれ、骸骨くたばれ、なんだこの骸骨共、この世から消えてしまえ。しつこいぞ骸骨。いい加減にしろ骸骨。骸骨、骸骨、骸骨!!!
「うああああ! お前らどこまで出てくれば気が済むんだボケぇ!」
無限に湧き出てくる骸骨剣士たちを、鎌でひたすら、ばっさばっさと斬り捨てる私だった。初めのうちは、般若レディ無双みたいなノリで楽しくやっていたのだが、きりがないくらい骸骨剣士が出てきたので、もううんざりしているところだった。
「は、母上。私もお手伝いを…。」
「駄目! ここは魔力を温存しておいて!」
「は、はい…。」
こういう無限湧きをしてくる敵を倒すためだけに魔力を消費していたら無駄になる。そしてこういう敵を倒した先には、大体ボスが待ち構えていたりする。ここの一番のボスはネガティブータだと思うけれど、それ以外のボスがいたっておかしくない。つまりは、ダンジョンのボス。そいつがこれだけ大量に骸骨剣士を生成しているのかもしれない。
私は、ここにでてきた骸骨剣士程度なら鎌で斬り捨てられる。これは黒薔薇の型を使わなくてもだ。数が多いので、どうしてもたまに剣で斬られることはあるけれど、そこは薬草があるので平気だ。そうだ。こういう時の為に大量に用意してある薬草なんだよ。私の薬草が尽きるのが先か、こいつら全員ぶっ倒すのが先か、それともボスを倒すのが先かのどれかしかない。
ただ、ちょっとこの状況が嬉しくもあった。なぜなら、そう、なぜなら。
「私はこういう状況の為に薬草を集めてきたんだよおおおお!」
備えあれば憂いなし! 一体どれだけ薬草を集めてきたと思っている。来る日も来る日も、草原にいる時はひたすら草刈りに励んできた。そして集まった薬草。大量の薬草。それが今の私を支えているんだよ!
「簡単に私を倒せると思うなよお! むしゃむしゃぁ! 私が今まで草刈りしてきた日々に比べればお前ら程度を刈り取るのわけないんだよお!」
この骸骨剣士たちを倒すのは、草刈りよりも容易に感じられた。そうか。あの草原での草刈りは、こういう事態を想定しての訓練として運営が用意していたものだったのかもしれない!
「ファッ!? そうやで姉御! ここを草原と思うんやで! こいつらは草や! こいつらはいつも姉御が刈っている草やと思えばええんやで! ほな、わいの背中に乗って突撃やで!」
「ごめん! だいこんの背中に乗ると正面からは狩りにくいから無理!」
いつも、横からずさーっと刈っているので、ここでだいこんからの提案は却下する事にした。うん。我ながら冷静な判断だったな。まぁ草刈りをしていると意識するのはいいけどね!
「姉御!ワイは頭を下げて這いつくばるから大丈夫なんやで!? なんなら頭に乗ってくれてもいいんやで! 姉御!」
おおっ。なんだ、なぜこんなに勢いがあるんだ、だいこん。やはり私と一緒に沢山草刈りをしてきたのが馴染んでしまっていたというのだろうか。そうか、だいこんも草刈りがしたくてたまらないんだな。よぉし、そこまで言うのならやってやろうじゃないか!
「巨大化やで! 姉御!」
「よおおし! いくぞお!」
私は普段草刈りをどんな感じでやっているのか? 無心でやっていることもあれば一心不乱にやっていることもある。考え事をしながらやっている時だって当然ある。そうだ、そんな感じでやっていると自然に、いつのまにか草が刈れていた。
「カカカカ!?」
だいこんの頭の上に乗っかりながら、一直線に突撃して、ぶんぶん鎌を振り回していく。あぁぁ、これは楽しい! 骸骨があっという間に分解されていくよ!
メッセージ:ドクロソードを手に入れました。
…え。なんで今さら手に入った? もしかして、大量に倒さないと手に入らないレアアイテムだったりするのかな!? というか倒せばそこらへんに落ちて…ない!? ああ、こいつらを倒しちゃうと消滅してしまうのか。
ということは、ここで手に入ったこの一本は、やっぱりレアなんじゃないだろうか。、これは嬉しいな!
「だいこん。こいつら倒してたらいい物を手に入れちゃったよ!」
「おう、良かったやないか!」
「というわけで、前に進みながら、あと何本か手に入れたいなーって思うよ。」
「…ファッ!?」
「もしかしたらここでしか手に入らない物かもしれないし! それなら今ここで無限湧きしている時がチャンス! というわけで、10本くらいは手に入れておかないといけないので、ここで草刈りじゃなかった骸骨狩りをするよ!」
「な、なんやて!? みんなの事が心配やったんやなかったんか!?」
「それはこれ、これはこれ! みんなはきっと何とかなっているし、それよりもここで私達が骸骨剣士どもを足止めしていたほうがいいんじゃないのかなって思って!」
「母上! む、無理をなさらず!」
「大丈夫大丈夫! 今最高に楽しいし!」
なんだかすごいストレス発散になっている。骸骨剣士を沢山狩り続けるだけの簡単なお仕事というような感じなのが最高だ。今まで、毎回毎回強い敵ばかり相手にしてきたし、これはこれでいいんじゃないのかなーと思っている。
「ああー何も考えずにただこうやって狩りができるのがこんなに楽しいなんてね!」
実にそう思う。私は苦労ばかりしているのだから、たまにはこうやってのんびり雑魚敵を倒すことだって必要じゃないのか。必要だな。毎回神経とがらせて、やれクロウニンだの、黒騎士マーシャルだの油断ならない敵が襲い掛かってきて、正直しんどかった。これは、そんな私へのご褒美みたいなもんだ。
「カカカカカ!」
あぁ、なんか骸骨剣士たちも、私に倒されるのが本望みたいに笑いかけているように見えてきたよ。ふふっ。こうしてみると案外可愛くも見えるなあ。
「土に還れええ!」
でも倒す。だって倒さないとレアアイテムが手に入らないし。
「うはははーって、ん!? あれ!?」
「姉御…。もうおらんやで。骸骨。」
え。え。あれ? 本当だ。お、おいおい。どうしたんだよ無限湧きは。さっきまであんなに、え? ちょっと待ってよ。これからが本番だったじゃないか。それがどうしてこんなことになったの。まだ始まったばかりだよ? ねぇ?
「母上。多分もう1万匹以上は倒していたと思いますよ。骸骨を呼び出すものが力尽きてもおかしくありません…。」
えー。何それ、これから盛り上がっていこうって時に、何だよそれ白けるなあ。どこのどいつだよその根性なしは!
「貴様かぁ! 我の可愛い兵士達を皆殺しにしおった輩は!」
道の奥の方から、鬼のような大男が、姿を現した。全身が赤い鬼。金棒を持っている。ブッチと同じくらいの大きさの鬼だった。
「私だぁ! お前の可愛い兵士たちとやらをもっと出してこいやぁ!」
折角の骸骨剣士狩りを中断させられて不満が募っていたので、この赤鬼もぶっ倒してやろうという気持ちしかなかった。私の狩りの邪魔をした奴は絶対に許さないのだ。
「ほほう、お前も角持ちかぁ!?」
「お前も二本の角を持っているな。で、お前は誰だ?」
「我に名前を訪ねる前に自分から名乗れい!!」
「死ね!」
私はブチ切れて、すぐさまだいこんから降り、赤鬼に襲い掛かった。私が嫌いな事の1つ。人に名を聞くなら自分から名乗れ、だ。うるせぇとっとと名乗れというのが私の持論なので、やられたら真っ先に攻撃しにいくことにしている。
私の鎌の一撃を、赤鬼は金棒で軽く受け止めた。
「ほう、なかなかいい一撃ではないか。が、この程度か!? がっはっは。死ぬのは貴様だ!」
「黒薔薇の型! 全開!」
今度は、こいつの持っている金棒をぶっ壊すつもりで鎌を金棒に当てた。しかし、金棒は壊れることは なかった。
「ぐぎぎぎ! なかなか、やるようだなぁ! だがその程度の力なら、たかが知れているな!」
おいおい、こいつの金棒、かなり耐久性があるじゃないか。それともこいつの力で金棒が強化されているから壊せなかったんだろうか。どちらにせよ、このまま鍔迫り合いのようなことをするつもりはなかった。
「真空波!」
「烈風破!」
三度、私の鎌と、赤鬼の金棒が交差した。なんだこいつ。私と似たような攻撃をしてきやがって。烈風破? 真空波みたいに風が飛んできていたけれど。
「ぐぬぅ! 貴様、なかなかやりおるではないか!」
「お前如き、今さら私の敵じゃないからね!」
とはいうものの、なんだこいつ、結構強いんじゃないだろうか。なぜ、こんな奴がネガティブータの子分をやっているのかどうかは分からなかったが、倒さなければいけない敵であることは確かだ。
「ひじき!」
「ライトニングブラスト!」
「ぬぐっ!? 烈風破!」
「じゃあその隙に真空波!」
ひじきの魔法と赤鬼の烈風破で相殺しあったその隙に私が鎌で真空波を使って、赤鬼の体を斬り裂いた。甘い甘い、私は別に一対一なんて言ってないしな。それこそこいつが先に大量に骸骨剣士を差し向けてきていたんだろうから、文句を言われる筋合いなんて一切ない!
「ぐ、ぐぬぬ。貴様ぁ! そこは一対一で戦う所だろう!」
なんだこいつ。正々堂々と戦っているだろう。私はか弱い般若レディだぞ。だからこれくらいやったって普通なんだよ。それをなんとかできなかった自分が悪いんだろうが。ここは戦場だぞ。そんな甘い事を言いたいなら家に帰れ!
「戦に卑怯もくそもないんだよ! 私はそうやって戦ってきたんだよ! 勝利! そのためだけに!」
勝てばいいんだよ。負けたら何も残らないし。大体勝利すれば全て満足する結果になるし。ここで負けてしまったらそれこそ意味がない。
エリーちゃんが頑張っているんだから、ここは私もリーダーとしてこいつをぼこぼこにするくらいしないとね。それに、だ。
「クロウニンでもない相手に苦戦する事はあっちゃいけないんだよ。ここでお前を倒して私はもっと強くなってやる!」
「ぐぬうう! いいだろう! 受けて立ってやるぞ!」
「よし! じゃあお前は名を名乗れ!」
「名前を聞くならまずは自分から!」
「うるせええええ!」
しつこい奴だな! 名前を聞いたからには自分から名乗れっての!