第374話「黒アゲハのひじき」
すみません。あと少し明日追記しますorz
12/1追記しました。
「ひぃひぃ。疲れた。ちょっと休ませて。」
「姉御。まだこの壁は消えてないやで。」
「分かってるけれど、これ結構疲れるんだよ。」
あれから30分くらいずっと壁から吸収をし続けていたんだけれど、どこまでやっても終わりが見えないし、一旦休憩する事にした。だけど、30分の間何も変化が無かったというのが気になる。エリーちゃん達がネガティブータと交戦してからも結構時間が経過しているはずだけれど、戦いの行方がどうなっているのかもよく分からないままだし。
簡単にやられてしまうことはないと思うし、むしろ既に勝っていることも考えられる。ただこのダンジョンが、ネガティブータを倒しても崩壊しないだけという可能性もあるな。
「それにしても…。」
「…はい?」
床にぺたりと座り込んだ私の隣に、羽の生えた女の子がいた。これに納得がいかなかった。
「あ。あのー。母上。怒っていませんか?」
「え? いやぁ。ひじきは悪くないんだよ? うん。悪くない。絶対に悪くない。ギギギ!」
「姉御、滅茶苦茶不機嫌やん。一体どうしたんやギギギって。」
そりゃあね! これが許しがたいんだよ。何が許しがたいって!? そう、擬人化だよ! ギ・ジ・ン・カアアア! 動物が人間に変身するとか、動物が人間みたいだったらとかそういう奴。ひじきがそんな感じで人間に近い姿になったのがすごく腹がたっているんだよ私は! 確かにこの人型になったひじきは可愛いいかもしれないよ!? だけどこれ! 安易な擬人化には私は反対なんだ! なんだなんだ! こんな簡単に人になっちゃうなんてさぁ!?
何でもかんでも人間になるなんてどうかしているっての! どうして人なんだよ! 人があらゆる生命体の頂点だとでもいうのか!? ええいおこがましい!
「ギギギッ! 何でもないよ!」
「やっぱり私のせいですか?」
涙目でこっちを見ないでくれ! 私が納得できないだけなんだから! だって! だってさぁ! こんな定番中の定番なんて嫌じゃん! 竜が人間になるとか、犬や猫が人間になるとか、もう色んな動物が人間になるのやめない!? やめたほうがよくない!? なんで人間にしなきゃいけないの! 別に人間が一番すごいわけじゃないでしょ! ええもうこれは納得がいかないの! 例えばここでたけのこが人間になってしまったら私はその安直っぷりに激怒しそうだ。いまのひじきの件ですらこんなだしさぁ!
「すみません母上。あの、元の姿に戻る事もできますよ。」
「大丈夫! ひじきが戻りたいと思った時だけ戻ればいいよ!」
「あ、姉御はやっぱりひじきちゃんの見た目を気にしとったんやな! 見た目を重視するとか母親失格やでえ!」
「人間が優遇されていることが納得できないだけだっての!」
蛾や蝶として存在していたはずが、人に進化する必要性はどこにあるというのか。わざわざ人に近い姿に変化してどうするというのか。私だったら、ある日突然別な生物になってしまったなんていうのは耐えがたいんだけどなぁ。
ああもう、誰かに分かって欲しい。安易な擬人化なんて許されないだろうってことに! だけどもうひじきの身に起こってしまったんだよなあ。くそおおおお。これも全てネガティブータのせいだ。そうに違いない。あの豚野郎が。
「ところでひじきちゃんは、その姿になったって事は、もうずっと召喚されたままでもいいってことになるんか?」
「あ、そうですね。母上から貰った魔力のおかげで完全に成長することができたので、母上の中に戻らなくても大丈夫になりましたよ。」
「あれ、そうだったんだ。でも戻る事もできるよね?」
「はい。あれ、母上は私といるのが嫌ですか?」
そんなもじもじとして悲しそうな顔をしないでくれと。私はそこまで鬼じゃない。般若顔で言われてそう思われるかもしれないけれど。
「全然そんなことはないんだけれど。戦い方の問題だよ。ひじきがいつでも召喚できればいいのになーって。」
「それなら心配いりません。私の本体はあくまで母上が持っているからです。召喚契約があるので私がここに存在していても、どこからでも召喚できますし、いつでも私の姿を消すこともできますよ。」
それは使い勝手良すぎると思ったけれど、召喚が使える者がみんなそうかもしれないってことだよね。となると、今後はそれも警戒しないといけなくなるな。私が鎌で斬りかかった瞬間にゴーレムなんかを召喚されたら防御されてしまうだろうし。相手が召喚士とかの可能性も考慮しないと駄目だな。
私の場合は、防御してもらうよりかは、攻撃して貰うってことになるか。あとは、突然呼び出して相手の隙を狙うとかだろうなぁ。
「ひとまずは、このままでいいよ。その姿を見るのも慣れないといけないし。」
「なんや姉御。そんなに慣れないんか。」
「やっぱり今までと姿が変わったら驚くよ。だいこんがいきなり人間になってもそれは同じだよ。むしろなったら殴る。」
「ファッ!? なんでや! まぁワイは人間になることなんて絶対ないと思うやで!」
もしなったら殴ろう。まぁそれよりも前に人間にさせないように頑張らないといけないけど。あ、でも私が狼になったり蛇になったりはしたいなあ。そういう変身するのは楽しいだろうから。
「さぁてと。そろそろ続きを頑張りますかねぇ。」
「母上が魔力を沢山吸収したので、このあたりの壁が相当脆くなっていますよ。もう吸収しなくても、鎌で攻撃していれば、自然と崩れて先に進めると思います。」
「お。それはいいね!」
ここから更に吸収してって言うとやっぱり時間がかかるし、他の皆がどうなっているのか気になっているので、そろそろ先に進みたいと思っていたところだ。
「ですが、あれだけ母上が魔力を吸い取ったはずなのに、維持されているこのダンジョンは凄いです。」
「ネガティブータ自身が魔力の塊、みたいなものなのかもしれないね。」
こんなダンジョンを作り出してしまうのだとすれば、ネガティブータの魔力総量はとんでもないってことだろうな。エリーちゃん大丈夫かなぁ。
「みんなが心配だし、早速出かけるとするか。それじゃ試しに鎌でおいしょっと。」
壁を軽くどついただけだったが、本当にあっさりと崩れ去ってしまった。魔力の有無でこんなに強度が変わるとは。そういえばこの崩れて砂みたいになったのも魔力の塊になるのか?
「…少し空き瓶にでもいれていくかな。」
これが魔力だというのなら、何かに使えるかもしれないし、余っている空き瓶はそこそこあるので、それに詰め込んでから先に進む事にした。
「こんなことやっている場合じゃないと思うんだけれど、エリーちゃんが頑張ってネガティブータを倒しますって言ってたことだしね。」
なので私はあくまでブッチ達を探す方に集中しないといけないな。その後にエリーちゃんの所にかけつけるといった感じだ。
「ブッチニキやったら、もう壁をガンガンぶっ壊してそうな気もするんやけど。」
「ありえるね。それに向こうも私達の事を探しているかもしれないしねー。おいしょっと。」
「カカカカ!」
「突然現れるなくたばれ!!」
壁を壊していくと、いきなり骸骨剣士が数匹出てきた。なるほどー。やっぱりモンスターはいたってわけか。でもなぜ骸骨剣士なんだろう。まるで脂肪を抜き取られたみたいなっていかんいかん。脂肪から離れないと。
「骨、脂肪がない。これは脂肪が抜き取られて死亡したんやないんかっていたーっ!?」
「そういうブッチみたいな事言わない! というか他にもいるんだから油断しないの!」
久々の戦いだよ。なんだか待ちくたびれた気がする。こうやって体を動かすほうが楽に思えてくるのもなんだかな。でもいいストレス発散になりそうな気がする。
「カカカカ!」
「どりゃっ!」
骸骨剣士の攻撃をあっさり防いだというか、鎌が剣を粉砕してしまった。そしてそのまま骸骨剣士の頭を粉砕した。本当にこの鎌の威力は凄まじいものになったなあ。最初から持っていた武器だったってのに。
「カカカカカ!」
「ファッ!? 姉御、なんか大量にきてるやで!? サンショウの劣化版が!」
いや劣化版言うなよと。むしろ超劣化版だろう。動きが単調だし、ただ剣をぶんぶん振り回しているだけで本当に大したことがない敵だ。それが数で襲い掛かってこようとどうにでも…!?
「多すぎだろ!!!?」
骸骨剣士が、すし詰め状態でこちらに向かってきている。なんだこの大量発生は! 多すぎだろ!
「ライトニングブラスト!!」
私の後ろから、青白い光が放たれる。それが骸骨剣士に当たったと思ったら、更に周囲の骸骨剣士を巻き込み、衝撃がほとばしった。これは、電撃の魔法?
「ひ、ひじきの魔法!?」
「はい! まだまだ連発出来ますよ!」
今ので100匹くらいは吹っ飛んだんじゃないかという勢いだったな。だけど、骸骨剣士はなおも、うじゃうじゃ湧いて出てきている。こいつらの発生源はどこだよ!? というかここから先こいつらを倒さないと進めないなんて言うんじゃないだろうな。
「あーもう。面倒くさいなあ! 狐火!」
…軽く放ったつもりだった。本当に軽く放ったつもりだった。だけど私の口から出てきた狐火は、それまで見たこともないくらいの勢いで燃え上がった。火なんてレベルではない。炎とか爆炎とか、それ以上のものだった。
「カカァァアア!?」
直線状にいた骸骨剣士があっという間に燃え尽きてしまった。
「すごいやで! まるで火葬場や!」
「な、何で!?」
「母上、流石です!」
…これってやっぱり漆黒の壁を吸収して強くなっているってことだよね。段々強くなってきているのは嬉しい事だけれど、自分で使いこなせないような威力になっているのは駄目だな。これは出力を調整できるように練習しないといけないな。
何も常に最大威力を出さなきゃいけないわけでもないし。下手にあちこちにこの火力で攻撃してしまったら、敵の姿を見失いかねない。そういう事も考えて使わないといけない。
「…姉御! まだまだきてるやで!」
「だーっ! もう突っ切るしかないじゃん!」
「お手伝いします!」
ここから私とひじきで大量にいる骸骨剣士と戦う羽目になったのだった。