第370話「話が進まないんだよ!」
明日追記します!
11/27追記しました。
「あー。ブッチ。話が進まないので、そろそろ本気になって貰いたいんだけれど。」
威圧を使って、ブッチにもうそろそろ悪ふざけをやめさせようと思った。おばけはブッチから脱出しようとしているので、他の誰かに乗り移るかもしれなかったけれど、多分そこはブッチが何とかしてくれるだろう。
多分、こうやってふざけている間も、自分の体からおばけが外に出た後の事も考えて行動しているに違いないだろう。…あくまで多分だけれど。
「えー? もうしょうがないなあ。ねっこちゃんがどうしてもって言うからには俺もそのお願いを聞き入れないといけないよねぇ。」
うざいっ! なんだこいつぅ! 調子に乗りやがって!
「よし、おばけ。喜べ! 外に出してやるよ!」
「ウオオオ!? マジッスカ!? チョウウレシイ!」
お前、なんかキャラが変わっているぞとみんなが思ったに違いない。余程ブッチの体から出たかったようだ。乗り移る能力って便利だけれど相手を間違うと、大変なんだなあ。自由に操れないどころか、むしろ自分の方が支配されてしまうって、なかなか怖いもんだな。
「よーし出ていけー。」
「ッシャー! シャバニデチマエバコッチノモンダゼー!」
ブッチの体から大量の黒い靄が出て行った。すると、その黒い靄が悪魔のような形になり、しっかりと具現化された。三又の槍を持ち、蝙蝠の羽というか所謂悪魔の羽を何枚も持っている、定番の悪魔の姿だった。何のひねりもないただの悪魔で、眼つきが鋭く、いかにもなイメージしかなかった。身長は170cmくらいだろうか。
「けけけけ。貴様ら、よくもこの俺様をこけにしてくれたな! ここから地獄を見せてやるぞ。んげ!?」
いつの間にかブッチが、この悪魔の背中に立って、チョークスリーパーをかましていた。早い。早すぎるぞブッチ!?
「俺たちは一蓮托生って約束したよな。俺たちは運命共同体だぜ! もう離さないぜ相棒!」
「ぎゃあ!? また貴様かぁ!? ぐぐぐぐ。首がくるじい! なんなんだ貴様、ぐぎぎぎ!?」
「なんだお前!? 体に触れると毒になるとか麻痺になるとか体が勝手に操られてしまうようになるとかそういうのはないのか! 特に最後の!」
「ね、ねえよ! ぐぎぎぎ!」
こいつら、真面目にやる気はないのか。いい加減にしろっての。私もそろそろ怒るぞ?
「マスター。多分あれもブッチ殿の作戦か何かでござる。そんな殺気を出して威嚇するのはよくないでござる。」
「こ、怖いチウ。」
いや、そうは言うけれどさぁ。話が進まないんだよね! こんな悪ふざけばかりしていたら戦いは終わらないしさあ! だからさっさとなんとかしてくれと!
「お前のせいで俺がねっこちゃんから怒られる羽目になったから、そろそろ本気で行くけれどいいか?」
「何!? ぐあああああ!?」
ブッチが、背中から生えている悪魔の羽をぶち抜いた。うわっ、何だあれ痛そう。
「ぎゃあああああ!? なっなっ!?」
「ブッチが悪魔の羽をブッチ抜いた。なんてね!」
…。もうツッコミ気にもならなかったけれど。なかなかグロテスクな光景な気がした。まさかそこで羽をひっこ抜いてしまうとは。
「なんか、畑の野菜を引っこ抜いた感じと似ているなあ。」
「ぐううう!? 貴様、よくもこの俺の羽を、死ね!!」
「うるさい!」
ブッチが悪魔の頬に張り手を食らわせた。すると物凄い轟音が鳴り響いた。なんだ今の。すごいいい音だったぞ。そして地面に叩きつけられた悪魔だけれど、めりこんでいた。深く地面に。それだけでどれだけ強烈な威力だったのかがよく分かった。ブッチってやっぱり強いんだよなあ。
「あー。まだ終わってないけど、後は俺がやってもいいんだよね?」
「おーけー。そろそろ本気でやらないと私が怒るところだったよ。」
「うわー! ねっこちゃんに怒られる。マジ怖い! さっさとこいつをぶっ倒さねえと!」
わざとらしく焦ったふりをするブッチだった。
「ぎぎぎ! こうなったら奥の手だ! これで貴様らもおしまいだぞ! もうおしまいだぞお!」
いやいや、そこで奥の手だ! じゃないだろう。そんな手があるならさっさと出しておけよ。ここまで大事にしていたなんて馬鹿じゃないのか。そんなんでブッチに勝てると思っていたのか。最初から本気を出せ本気を。戦いをなめているのか!
「ねっこちゃん。俺、ああいうの白けるんだけど。」
悪魔を指しながらため息をつくブッチだった。私だって白けるけれど、そこで言う台詞じゃないだろう。なんで最初から全力を出さないんだ。舐めたことをして負けてもいいのだろうか。まぁ奥の手というからには使うリスクがたかいものなのかもしれないけれど、既にブッチにぼこぼこにされていたのだから、さっさと使うべきだっただろう。
「グオオオオオ!」
「えい。」
「ゲハッ!? は!?」
悪魔が小刻みに体を震わせていて、何かやらかそうとしていたのだけれど、そこでブッチが思いっきり張り手でどついた。
「グオオオオ!」
「えいっ。」
「グハッ!? き、貴様!? 何をする! 死ね!」
「うるせぇ!!」
ブッチがあまりの出来事にキれたようだった。そりゃそうなるよね。なんで目の前で変身みたいなことをしようとしているんだろうか。あまりに無防備な状態で何かやらかそうとしているので、攻撃してくれと言わんばかりの状態だった。
「お前おかしいだろ。普通そういう変身している時は無敵状態みたいになってて、こっちの攻撃が通らないようになっていないと駄目だろ。なんで無防備に変身しているんだよ! 敵がいるんだぞ敵が! 戦場に遊びに来ているのか!」
珍しくブッチから説教がでた。要するに真面目にやれよって事なんだろうけれど、ブッチが言うと不真面目にしか聞こえないなあ。
「この、この、この俺様をこけにしやがってええええ! ぐあああああ!」
悪魔の全身があっという間に、大きく膨れ上がっていった。なんだこいつ、やればできるんじゃないか。もしかして、ここまでわざとふざけてやっていたんじゃないだろうか。
「ぐへはははあ。俺様の真の姿を見せてやるぞおおおお!」
「あー。特別に待ってやるからさっさとしろよ。」
ブッチがため息混じりに挑発している。だけど、油断している様子はない。もしかしたらこの悪魔が更に強くなるのかもしれないと警戒しているのかもしれない。それはそうだよね。ここまでの悪魔の動きは全部こちらを油断させるための物だったなんて事もあり得るからなあ。
実際に他のゲームではそういうモンスターが結構いる。特定のタイミングでのみ恐ろしく強くなるとか、極稀に発生する強敵とかそういうのだ。
「グヘゲハハハハア! じゃあ遠慮なくなぁ! ブハハハハア!」
悪魔がどんどん大きく膨れ上がっていき、その姿は、豚の形になった。おおっ。つまり、つまりこいつこそが!?
「まさかお前が!」
「ソウダァア! へっへっへ。まんまと引っかかりおって、この俺様こそがぁ!」
「ゴーストロガノフだな!!」
「なんでじゃい!!? 俺様ぁ! ネガティブータ様だあああ! ぐへへへへ! 魔者とその仲間たちぃ! よくぞ俺の正体を見破ったなあ! ぐひひ。」
「クロブタ…。ウマソウデス。ねこますサマ。アノクロブタ。ウマソウデス。」
あーうん。たけのこ、分かったからそんなに涎をだらだらしないでくれ。賢そうな顔が崩れてしまってすっかり駄目そうな顔になっているからさぁ。いや、美味そうなのは私も分かるよ。
あのでかい黒豚。立派に四足歩行をしそうな黒豚は美味そうだ。こういう豚のボスって言えば、なぜか二足歩行している人型が多いのに、まさかここで、四足歩行型とは恐れ入った。
「マスターにかかれば、貴様の正体など容易く見破れるのでござる!」
「あぁー? そういえばそうだったなぁ糞魔者がぁ。姿は変わってもてめえへの恨みは忘れたことはねえぞ!」
「何? 豚肉でも目の前で食われたの?」
「共食いなど誰がするか!! 相変わらずの糞魔者じゃねえか。ケケケ。いいかてめえら。俺様はなあ、ゴーストロガノフと偽っておいて、てめえらを罠に嵌めようって目論んでいたんだ。だが、それを簡単に暴いちまいやがって。おかげで楽しみが減っちまったじゃねえか。」
「えっ!? あんなので罠に嵌めようと企んでいたんですか…。ちょっとそれは…。」
うっわきっつい。エリーちゃんそれはきっつい。そんな気まずそうな顔をしてネガティブータをじっと見つめるなんて。
「な、何言ってやがるんだ。てめえらはこの俺様の正体が分からなかった癖によぉ! どこを探してもどうにもならなかったかもしれねえんだぞ。ケケケ。」
「どうにかなったから何も問題がないんだが。」
「またいつもの強がりかぁ魔者!? ケケケ。だが残念だったなあ。既にここは俺が支配する空間になっているんだぞ。でりゃあ!」
ネガティブータの目が不気味に赤く光ったと思ったら、周りからどんどん壁が現れてくる。そして、私達の周囲の空間がどんどんねじ曲がっていった。これってひょっとして。
「げへへへへ! ダンジョン生成だぁ! これでお前らもおしまいだなぁ! 一匹一匹じわじわと苦しめてくれるわ!」
「そうはさせるか!」
ブッチがネガティブータに向かって突進していく。が、それは壁に阻まれ、弾かれてしまった。更にそこへたけのこやくろごまも同様に向かっていくが壁がどんどん高くなり、姿が見えなくなってくる。
「ねっこちゃん! 早い者勝ちってことでいい!?」
「いーや。今回は、エリーちゃん! 行けるね!!!!?」
「はいっ!」
「……!? マジで!? いいねいいね! よっしゃエリーちゃん頑張れ! 俺もこっから頑張って抜け出すからなああああ!」
「はい! 私もこのクロウニン一人くらい倒してみせますよ!」
「エリーちゃん! これを受け取って! 何かに使えるかも!」
「これは…!? はい。分かりました!!!」
咄嗟にエリーちゃんに投げつけたのは、毒狸の徳利と仕込み傘だった。私はこれを使ったことがなかったのだけれど、何か特殊な効果があると思ったので、エリーちゃんに渡したのだった。いや、どうなるかは分からないけれどね。
「ほう、そこの小娘がこの俺様と戦うだと!? ハハハハハハハハハア! いいだろう! 受けて立ってやる! 魔者ぁ! この小娘が俺に食われてしまう所を期待して待っていると良いぞ! ぐはははははははあああ!」
周囲から壁がどんどん現れていく。更にここに来て、床も移動し初めた。うわっ。危ないなあ。今回はダンジョン内を冒険して、早くエリーちゃんの所に着かなきゃいけないってことか!
「良かったやで。ワイは姉御と一緒やった。」
「そうか。だいこん以外とは分断されちゃったか。」
これは参ったなあ。まぁいつも通りなるようになるだろう。ダンジョン探索頑張るぞ!