第368話「少数決の結果」
明日追記します! すみません!
11/25追記しました。
「やったぜ! 少数派最高! これからガンガン少数派になって、モンスターをあの世に送りまくってやるぜ! ヒャッハー!」
「さすがブッチ殿。やはり我々に逆らう者は生かして帰さないが鉄則ですね。」
あちゃー。危険人物ならぬ危険野郎どもの意見が採用されてしまったか、なんてそうなるんじゃないのかなーとも思っていたんだけれどね私は! というか、正直これを狙っていたっていうのもある。私はよくブッチが、さっさと敵を倒したいとか面倒な事やらないで、戦えば早くないみたいな事を言ってたのを覚えているから。
「ねっこちゃん! マジでいいんだよね!? ね!?」
「そんながっつかないの! いいっての!」
おばけは、見た目が結構可愛らしいけれど、これであの世行きになっても別に構わなかった。私はこういう敵を葬り去るのが苦手なほうだし、ここでブッチが倒してくれるならそれで良かった。ついでにこのおばけがゴーストロガノフだったらもっと嬉しいんだけどなぁ。その可能性は低いんじゃないかとは思うけれど、そうだったらいいのになぁと言う感じだ。だって、こういう奴が実はボスでしたみたいなのは使い古されている気がするからありえないだろうな。
「ねっこちゃんは融通を利かせてくれるから俺、ねっこちゃんにマジで惚れちゃいそうだぜ!」
「おうおう、惚れたなら、私がピンチの時はもっとかけつけてくれ! そんでもって、私と敵対する奴をもっとぼこぼこにしてくれ。」
「任せてくれ! 逆らう奴は死刑だ! ヒャーッハッハッハ!」
うわー、なんかすごい楽しそうだよ。やっぱり日頃ストレスが溜まっていたのかな。私が抑えてばかりいたもんだからいけないのか。
「ブッチさん、なんだかテンション高くないですか。」
「だって、これからゴーストロガノフと戦えると思うと楽しくて!」
え、何で確定事項になっているんだ。ほぼ無理だろ。このおばけを倒せば何か起きるかもしれなくても、ここでいきなりボスが出ましたみたいなのは、今までのゲームでは未経験…のはずだな私は。こんなタイミングでいきなり戦うことになったなんて、そんなのむしろ私が驚くっての!
「ううっ。お願いします。お許しくださいいいい。」
涙をうるうるさせているおばけだった。可哀想な気もするけれど、ここは容赦なく倒してもらいたい。こういう敵は見た目に反して強くてぼこぼこにされたゲームもあったしなあ。それを思い出すと、なんだか怒りがこみ上げてくるなあ。
「生まれ変わったらきっと、ボスになれるから頑張ろうぜ!」
「うあー!うあー! くそー! こうなったらやってやるぞー!」
あれ、なんだ? おばけが黒ずんでいく。何かしようってのか?
「ギャアアア!」
おばけの姿が、悪魔のような形に変わっていく。
「おりゃ。」
「ぐべっ!?」
おばけが変身しようとした瞬間に、ブッチが張り手で攻撃した。更にそこから何度も張り手をくらわせていく。おばけはなすがままにぼこぼこにされていくのだった。
「ナナ、ナンダ!?」
「いやー。変身中に攻撃するのって誰もが憧れる事だし!」
あるある。アニメなんかで一分以上変身の時間をとっていたりするけれど、その間殴りに行けとか変身にそんなに時間がかかるならもっと前に変身しておけなんて思うようになってしまった。なんで敵の前に無防備な姿を晒さないといけないんだと誰もが思うだろう。
相手の変身をじっくり見続ける必要性なんてない。戦いはそんな甘いものじゃない。いつ、どんな時でも襲われるか分かったもんじゃないんだから、それを理解しないといけない。
「さぁ、本当の姿を見せてもらおうか。」
「シ、シラナイ! シラナイ!」
ブッチが、半分黒ずんでいるおばけを片手で掴み、往復ビンタをくらわしていた。その光景をみんな黙って見ている。
ここは、町はずれにある森林に近い場所だったのだけれど、そこで私達はただ、ブッチが攻撃するところを見続けているだけ。なんだかとてもシュールな気がしてきた。いまいち盛り上がりに欠ける。激しい戦闘をするわけでも、なんでもない、ただ弱い者いじめをしているようなそんな光景だった。
「グッグッグッ!」
「早く姿を現せよ。なぁ!」
「ウググググ! グアアアア!」
おばけもなかなかしぶといなと思ったのだけれど、ここで疑問に感じたことがあった。なんでブッチが何度も攻撃をしているのに、死なないんだこいつ、というところだ。異常にタフといえばそうかもしれないが、あれだけ何度もビンタされているのに、こんないかにも弱そうな奴がそこまで耐久性があるというのは驚くしかない。
それともブッチが手加減をしているんだろうかとも思ったが、それもなさそうだ。ブッチはさっさとゴーストロガノフと戦いたいと思っているし、本心からさっさと倒してしまおうと思っていたはずだ。であれば、やっぱりこいつがゴーストロガノフということになるんじゃないだろうか。これは、ただじゃ済まないと思った私は、鎌を持つ事にした。
私と同じように、他の皆も武器を構えたり、戦闘態勢に入ったり警戒を強めていた。おばけが異常にタフなだけで本当にゴーストロガノフなのかどうかはよく分からないが、何かが起きるかもしれないと感じ取った。
「命の危機に迫った時に本当の姿を見せるとかそういう奴なんだろ? 俺には分かっているぞ!」
「グググ! ヤメロ! クソッ! フザケルナ!」
おばけは苦しそうにもがいている。なんだか黒い靄のような物をどんどん放出していっており、それがブッチに触れていく。何か悪いものじゃないかと思ったが、ブッチは平気そうだった。
「ナ、ナンデキカナイ!?」
「あー? おっ。この黒いのは。ヴァンパイアロードも出してきたな。最初は動くのが不調になったけれど、段々慣れてきて平気になっちゃったんだよな。」
あの黒いの、絶対に健康に悪そうな感じがするんだけれど。あれ? でも確かにヴァンパイアロードが出してきた漆黒の壁みたいな感じはするなあ。あれも魔素みたいなものか。
「グゥウウ! コ、コンナトコロデシヌワケニハ!」
「じゃあ、さっさと本気を出してみろって。」
「グ…! グソガキガアアアアア!!!」
ブッチに握られていたおばけの全身から、激しく黒い靄が吹き出した。それはブッチの全身も包み込んだ。え、あれ結構やばい奴だったりしないか!? ブッチが乗りうつられるか何かして行動不能になるかもしくは操られちゃうなんて事はない…よね!?
ああいうおばけといえば、体を乗っ取るなんて定番なはずだけれど、まさかそんな定番にブッチがやられたりは…してる気がするううう!?
「ノ、ノリウツッテヤッタゾオオ!」
「やっべ。乗り移られた。」
ん? なんだ? 何かおかしいような。ブッチの姿は黒い靄にと包まれていて見えなくなっているが、何が起こっているのかは分からない。だけど、さっきの気の抜けた声は間違いないブッチなので、実は大丈夫なのではないだろうか。
「グハハハハ! オマエノカラダハモウ、オレサマノモノダ!」
「よし、じゃあまずはねっこちゃんを攻撃しに行くぜ! ほら、あのリーダーが一番手強んだからさっさと動け!」
「アア!? ナンダテメエ! オレニサシズスンジャ、うごおおお!?」
ブッチが姿を現したと思ったら、全身が、真っ黒くなっていた。なんか闇の力に飲み込まれたっぽい姿だけれど、大丈夫なんだろうか。いや大丈夫じゃないからこっちに来ている!
「ウワァ! ナンダコイツゥウ!? カッテニウゴクゾオオ!」
「うわぁ! 体が勝手に動くぅうう!」
「うわっ! あっぶなああ!?」
三者三様というか、なんだこの状況。ブッチがまっすぐ私に拳で殴りかかってきて、私は鎌でそれを防いだ。当然ブッチの攻撃を受け止めるなんてただじゃすまないから、黒薔薇の型を使っている。これでなんとか凌いだが、重たい! 重たすぎる! 地面に体がめり込むし!
「ちょっとブッチぃ! 何良いように操られているの! そういう冗談はだめでしょ!」
「ご、ごめん! 体が勝手に動いちゃうんだ!」
「笑ってるじゃないか! そんなすぐバレる嘘をつくな!」
「オマエラ! フザケルナ! コウナッタラ、オマエモノットッテヤル!」
ブッチの体から黒い靄が私の方に伸びてきた。うわぁなんだこれ、と思ったけれど、そういえばこれが魔素か何かだとしたら・
「吸収!」
漆黒の壁を吸収した時の要領で、黒い靄を取り込んでみようとする。すると一瞬で黒い靄が私の体の中に吸い込まれていった。え、特に何ともないんだけれど、この靄は結局何がしたいんだ?
「ゲ、ゲゲ!? マジャ、オマエ、マサカキュウシュウヲ!?」
「お、はっきり私の事を魔者って言うあたり、やっぱりお前がゴーストロガノフじゃないのか。この間ぶりだね? 国の危機とか言ってたのはどうしたのかなー?」
「ヒ、ヒヒィ! サァナア! ソレヨリモオマエノナカマガドウナッテモイイノカ!」
「えーっとこういう時は、煮るなり焼くなり、廃棄物に出すなり好きにしな! とか言うんだっけ。」
「ちょ。ねっこちゃんひでぇー!? そこは、私の命はどうなってもいいから、助けてあげてとかさぁ!」
私がそんな恥ずかしい台詞を吐くわけがないだろう! それに私の命がどうなってもいいとかそんなことを軽々しく言ったら、自分には打つ手なし何ですと公開するようなものじゃん! そんな台詞は絶対に言わないからな!
「フザケルナ! コウナレバオマエヲカクジツニノットッテヤル! グハハハハアア! コレデオマエハモウ、ニドト、タタカイヲスルコトハデキナイゾ!」
「それは絶対に困るな。だけどな、よし、じゃあ俺の事を乗っ取ってみろよ。そして俺以上に俺を操作してみろ。やれるもんならやってみな!」
え、何でこのタイミングでかっこいい台詞を吐いてるんだブッチは。自分以外の誰も自分を操作できないとでも言いたげだな。
「ヨクイッタナアア! デハエンリョナクオマエノカラダヲイタダクゾ!」
ブッチの体から、黒い靄が大量に噴出する。そして次の瞬間、黒い甲冑のようなものを纏っているブッチがいた。
「うわ、かっけぇ。」
私はそんな感想しか抱かなかった。