第366話「聖者になんてなりません」
すみません。眠気が爆発しているんので明日追記します。
11/23追記しました。
モヒカン野郎どもには、私のことを絶対に聖者と呼ぶな、噂を広めるなと口を酸っぱくして言い続けておいた。これで聖者なんて存在が広まってしまった日には、聖者の称号も得てしまうかもしれなかったからだ。そんな称号はこちらから願い下げだ。
魔者の正反対とも言えそうな聖者の称号なんて、そんなもの私にはいらない。
「あーあー。結局目立ちたくないとか言いながらも目立つ行動をしてしまったよ。衝動で動いてしまってもう嫌になってくるね。」
「ねこますさんは、たまに感情に身を任せて行動する時がありますよね。でもそれも個性ですよ。嫌になる必要なんてないですよ!」
ううっ、確かに感情に身を任せちゃうときがあるんだよなー。それも結構重大な事が起こった際に多い気がする。
私、これでも一応大人だし、感情に身を任せて大暴れするなんて良くないことだとは分かっているつもりだったんだけれどなぁ。<アノニマスターオンライン>では結構頻繁にやってしまっている気がする。
現実では当然そんなことはないんだけれどね。だってそんなことをしてしまえば法律違反で犯罪者になってしまうし。感情に身を任せて暴れて刑務所行きにはなりたくない。
うーん、こうやって考えてみると普段は何とも意識していない法律だけれど悪いことはさせないようにしっかり抑止力にはなっているんだね。まぁ、たまに抑えきれない感情が爆発して犯罪行為を起こす奴はいるけれど。
その一方で、<アノニマスターオンライン>だと、現実のように我慢しなければいけない理由がほぼないようなものだから、感情に身を任せてしまいやすいのかもしれないなあ。でも、他のプレイヤーも関わってくることだって沢山あるんだろうから、あまり好き勝手に暴れすぎないようにしないといけないんだよなぁ。
「…あいつら、絶対に私の事を話すと思うんだよね。あそこまで怒鳴りつけてやめろなんて言ったけれど、こういう話の展開って大体オチがついちゃうしさぁ。」
絶対にばらすなよって言ったことはほぼ100%ばらされる。なので私のことも100%ばれると思っていいだろう。結局、他人に関わってしまった時点で、伝えたくない情報なんていつか必ず伝わってしまう。伝わらずに終わるなんてことはないだろう。遅かれ早かれ、情報が伝わっていってしまうというのは私が今まで経験してきたゲームの物語ではそうだったのだから。
そう、これが私の悪いところなんだよなあ。結局自分で首を絞めているんだから。馬鹿だなあとは思う。でも私だって人間だもの! こう決めたことを絶対そのまま守れるかって言ったらそうじゃないし! 厳格な人間だったら、自分を律して絶対に間違わないんだろうけれどさ。私のようないい加減な奴に初志貫徹なんてやれるわけがないんだよなぁ。
「そうですねー。あたしなら喋っちゃいますね。あんなに大量の薬草を渡されたら、売値の高さから、足が震えてしまいますし。最初のうちは約束を守らないといけないって思いますけれど、時間が経つと、あれ、別にいいんじゃないかなぁなんてなってしまいそうです。」
それもよくある話なんだよなあ。私が常にあのモヒカン野郎どもを監視しているわけじゃないから、もうばらしてしまえみたいなことになるんだろうな。あー。そうだ。こういう約束をして破ったら発動する呪いの道具というか契約書みたいなものが欲しいなあ。 錬金術でそういう道具を作れないか先生に聞いてみようかな。
「あ、そういえばエリーちゃんも薬草売ってたんだっけ。ソレヲウレヤってとこだったかな。普通に買い取ってもらえた?」
「ええ、いいお金になりましたよ。ふふふ。ちゃんと交渉してかなり儲けました。」
あっ。エリーちゃんが悪い顔をしている。流石は悪魔だ。笑顔が可愛すぎる。私の人間化状態なんて普通過ぎる見た目だからなあ。どこにでもいそうな感じの。だからちょっと羨ましい。
「薬草ビジネスがこれからどれだけできるのか分からないけれど、私も頑張るよ。だからモヒカン野郎どもにやったようなことは多分もうしない。現実のお金も手に入るんだったらやっぱりね。」
「夢は薬草を売ってがっぽがっぽ稼ぐことですよね! 現実のお金にできたら、レトロゲームの筐体が欲しいですね!」
ん? あれ。なんか話の流れが変わったような気がするんだけれど。え、なんだって。レトロゲームの筐体が欲しい? エリーちゃんが?
「エリーちゃん。筐体が好きだったんだ。初めて知ったよ…。」
「あれ? 話していませんでしたっけ。ああ、でも筐体もそうですけれど、それが設置できる広い部屋にも引っ越したいですね。えへへ。」
「そうだね。筐体って結構大きいもんねえ。だけどそんな大きいの欲しいの?」
筐体のサイズはピンからキリまであるけれど、大きいのは本当に大分スペースをとるからなあ。それだけ大きいと本当に広い部屋が必要になる気がするんだけれど。
「えっとですね。一番欲しいのは、画面が3つになっているシューティングゲームの筐体なんです。すごい高いんですけれど、あれが欲しくてたまらないんです。」
画面が3つっていうのは私が思いつくゲームが1つしかない。確かにあれはすごいゲームだ。あの時代にあそこまでのゲームを仕上げるなんて凄いとしか思えなかった。続編も出ているけれど、最初にでた作品の筐体が欲しいってことか。
「あっ、その顔はやっぱり、ねこますさんは知っていますね! 流石です!」
「えっ。うんまぁね。魚がでてくる奴だよね。」
「そうなんです! あぁやっぱりねこますさんも知っていましたか。嬉しいです!」
そりゃあ、一応自称ゲーマーだからね私も。しかも有名な作品なので知らないわけがない。レトロゲームがプレイできる店まで行ったこともあるし。今では割とマニアックな部類にはなるので、プレイヤーはそこまで多くないんだよなぁ。
「もしかしてさぁ。あのすごい数のボタンがあるゲームとかも知っていたりする?」
「あああっ! それも、欲しいと思っていたんです! というか欲しいんです! 薬草を売って大金持ちになったら絶対に買います!」
分かる。分かってしまう。エリーちゃんの気持ちがとてつもなく分かってしまう。今まで手の届かなかったゲームが、ずっと諦めていたゲームが手に入るんだったら、欲しくなってしまうだろう。ゲーム好きだからこそ分かる。気に入った作品はずっと手元に置いてプレイし続けたい、と。
「うんうん。エリーちゃんの気持ちはよく分かるよ。私も、手に入れたいゲームがあるしねえ。」
「ねこますさんにも欲しいゲームがあるんですか。」
「そりゃああるよ。沢山あるよ…。」
ざっと、欲しいと思っていたゲームをエリーちゃんに話をしてみた。そしたら話が盛り上がってしまっていた。ゴーストロガノフのことなんてすっかり忘れてしまったので、しまったと気が付いたが後の祭りだった。
「あぁ、すみません。普段あまりゲームの話ができないので盛り上がってしまいました。」
「いや、私も楽しくなりすぎちゃったよ。あはは…。」
折角ブッチたちが頑張っているのに何をしているんだろうか私たちは。ちなみに途中で切り上げることができたのは、ひじきやだいこんやねずおが、声がけをしてくれたからだ。私たち二人だけだったら我を忘れて話し続けていただろう。危なかった。
「それで、あのおかしな二人組はまきましたけれど、戻ったらまた会いそうですよね。」
「結構時間が経っているしそういうこともない気がするんだけれどねえ。さてどうするかな。」
スラム街からはもう出ていたが、元来た道のほうには戻る気がしなかった。ああいう奴らは結構粘着質なので、どこまでも追いかけてくるし。はぁ、面倒くさいことになったなあ。
「それなら、ねこますさんの先生のところに行くのがいいんじゃないですか。もしかしたら何か知っているんじゃないかと思いますし。」
「先生か。そうだね。結局全然顔を見せられていなかったし。」
私はまだ基礎しか教わっていないから、そこも色々教えてもらいたい。だけどその前にゴーストロガノフの件だな。そちらを調べないと、ブッチたちが困るし。ああ、そうだ。ブッチたちに連絡を取っておこう。
マブダチからのメッセージ:何にも見つからない! もしかしてこれ、ねっこちゃんがいないと入れないダンジョンとかそういうのじゃないのかなぁ!?
…ありえるなあ。私がいないとネガティブータのいるところまで行けないとかそれは大いにあり得る。
あぁー。じゃあ私が先にそっちにいってればよかったのかなぁ。だけどそうなると、こっちにはエリーちゃんだけになっていたかもしれないし。
「うーん。失敗だったかもしれないなあ。」
「あのーねこますさん。」
「ん? なぁに。」
「あたしが一人…ではないですね。あたしとねずおちゃんとサンショウさんで、ゴーストロガノフを倒すとかそっちはだめですか?」
…あれ、なんかエリーちゃんが燃えているような気がしてきた。一体どうしたんだろうか。
「いえ、あのー。いつもねこますさんやブッチさんに頼ってばかりな気がしてきたので、ここであたしも、クロウニンの一匹でも倒してみたいなあって思って。なんだか足手まといになってばかりなのが嫌と言いますか。」
ゲ、ゲーマー魂だ! これはエリーちゃんのゲーマー魂に火がついている状態だ。やる気になっているゲームプレイヤーがいるところで、私がダメなんて言うわけがないだろうに。そういうところで制限をかけられるとゲーマーは意欲を失いやすい。そんなことになってはだめだ。ここはエリーちゃんに任せてもよさそうだ。といっても、すぐにってわけじゃないけれど。
「一回、街の外にでて、みんなで相談してからにしよっか。私も先生に会う用事もあるし、サンショウも連れてこないといけないし。」
「それは、いいってことですか!?」
「当然だよ。ゲームがしたい、やってみたいって人を邪魔するなんて私は絶対にしたくないよ。ゲームなんて楽しいからやるわけだしさ。」
うん、ちょっといいこと言ったな私! でもこれ、私がいつも思っていることだしな!