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アノニマスターオンライン  作者: 超電撃豚豚丸
第5章「般若レディは備えたい」
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第365話「万能薬と聖者」

 こんなモヒカンが、なんて言ったらモヒカンにしている人全員に恨まれそうだが、こんなモヒカンでいかにも悪そうな奴が、薬草を万能薬にする方法を知っているなんて到底思えなかった。 

 そして、なんだか無性に腹が立ってきた。錬金術士の私が知らない調合方法を、こいつが知っているとでも言うんだろうか。それはかなり悔しいんだが。

「ほう、聞かせてもらおうか。」

 ここで、モヒカン野郎を図に乗らせるのも癪に障るので、上から目線な態度で応じることにした。

「なぁに。簡単だ。聖水が入った瓶の中にこいつをぶち込んでやって、ガンガン振りまくれば、それだけでできるぞ。」


 まるでコーンフレークに牛乳をかけるだけみたいな手ごろさだな。たったそれだけで万能薬になるとか納得がいかないんだけれど。聖水って確かゲームだとそこらの道具屋で買えたり、教会なんかで買えたりするのが定番で、ゲームの序盤から手に入れることが容易だった気がする。そんなものを使って簡単に万能薬を作れるなんて、バランス崩壊じゃないのか。

 あ、それは、もしかして、その聖水が高いってことなのかな。それなら納得できる。聖水が高ければ薬草を持っていてもそう簡単には作れないもんな。

「それで作れると本当に思っているのか?」

「当然だろう。むしろお前の持っているその万能薬の材料になる草がどれだけのものなのか知らないのか。そんな草を食べるだけで、傷が治り、体調がよくなるなんてそもそも、その時点で万能薬といってもいいのに、聖水を加えりゃ病気まで治っちまうんだぞ。」


 草を食べるだけで回復するのなんて確かによくよく考えてみたらおかしいとは思う。が、ゲームの設定としてはありふれたものなので、そういうものだという思い込みはあったかもしれない。現実でそんなものがあったら、とんでもないものだとなるだろうな。

 そういえばゲームのアイテムって毒消し草も使ったら即座に毒が消えるなんて言うのが定番だけれど、そちらについても、そんな簡単に治るなんて早すぎだろうってなるな。

 

「ところで、お前結構元気だな。とりあえずもうちょっとぼこぼこにしておいたほうが良かった?」

「いやいや! お前の強さはよく分かった! もう手は出さねえよ!」

 ここで無謀に手を出してくる輩もいるからなあ。背中を向けた途端に斬りかかってくるなんて一体どれだけやられてきたことか。ゲームですら信じた者から裏切られるなんてことが多いのが悲しいところだな。

「聖水は教会でしか買えないんですか?」

 今度は、エリーちゃんがモヒカン野郎に聞く。

「ああ。教会での専売になっている。道具屋なんかじゃ勝手に売ることはできねぇようになっているからな。ああ、それと聖水自体はそんなに高いもんではねぇから簡単に買えちまうぞ。」


くれば万能薬を作り放題ってわけか。

「それで、そんな貴重な万能薬の材料をほいほい渡してしまうお前は何者なんだ? まさか教会の偉いやつってわけでもないだろうし。」

「まったく関係ないよ。だから教会に襲い掛かるような真似はやめろよ。」

 年のため、釘を刺しておく。私が勝手にやったことが原因で、教会にいる人たちが何らかの問題に巻き込まれたりしたら嫌だし。もしかしたら私がしたことで既に問題が起こってしまったのならそれはしょうがないけれど。

「そんなことするわけねーよ。聖水が買えなくなったらおしまいだろ。それに、そんなことやったら半端じゃない恨みを買うことになるぞ。お前も覚えておくといいぞ。教会に手を出したら、教会じゃなくて教会に世話になってきた奴らが黙っちゃいねえ。」


 孤児院だとかなんだとか結構色々やっているんだよなぁ教会って。そんな所に手を出したら、そりゃ黙っちゃいない人が多いに決まっているよね。私でいえば、草原に手を出されたり、ももりーずVの仲間に手を出されたりするようなものだし、そんなことをする輩がいたら、地獄を見せてやりたいと思う。

「ほいほい。んーところで、お前は自分の家族を救ったらどうするんだ。こんなところでごろつきやっているのをやめるのか?」

「ぐ。そりゃあな。家族の命が助かるんだ。そのためにやっていたが、その必要もなくなるならまっとうに働いてやる、が、そう簡単にいくかはわかんねーよ。」


 こいつらはNPCってことで確定なのはいいんだけれど、なんだかなー。こういうゲームの設定的な部分に感情移入しすぎてしまいそうになるな。ゲームの中の設定でキャラクターが出来上がっているのはわかっているんだけれど、もう現実の人間みたいな感じだからなあ。

 たけのこ達もそうだけれど、自我が確立されているから、愛着がわいてくるんだよな。そこが普通のゲームとの違いだな。

「んー。で、そこの二人も同じようなものなのか?」

「あ、あぁ。そうだ。ここにいる連中は大体家族がみんなひでぇ目にあってるやつらばっかりだ。国が何もしてくれねえってのがあるしな。高い治療費ばかりとりやがるくせに、完全に治してもくれない。病気が完全に治らないようにして金をせしめやがるんだ。」

「この国、滅ぼすか。」

「いいですね。」

なんとなくそう思ってしまったのが言葉に出てしまっただけなのだが、エリーちゃんも即同意してくれた。そんな腐った国は滅ぼしてしまえばいいんじゃないだろうか。だけどそういうのってゲームの設定だと勇者だとか色んな人たちができるはずなんだけれど、どうしてやらないんだろうか。


「おいおい。物騒なことを言うなよ。そんなことを考えている奴は結構いるみたいだが、そんな無謀なことを考える奴はいねえよ。この国を守ろうとする奴らも沢山いるし、そいつらは腕が立つしな。」

 だけどなぁ。この国、滅ぼしたくなるなあ。ゴーストロガノフがこの国が危機とか言ってたけれど、ドーラ先生とハーツ以外は大体無くなってくれて構わないしなあ。

「気に入らない連中がいたら、潰しにはかかろうと思うよ。むかついたことがあって我慢するのはよくないし。というわけで、ついでにこれ持って仲間をみんな救ってやれ。」

 布の中に大量に薬草を入れて、モヒカン野郎に渡してやる。こいつが言ってることなんて信じる要素なんて一切ないけれど、私はどちらかというと悪に属するプレイヤーなのと、むしろこういう分かりやすいごろつきのほうが面倒くさいことがないので好きなほうだったりする。

 我ながら馬鹿な事をしているなーなんて思ったが、このくらいいいだろう。

「なななななななななななななな!? なんじゃあこりゃあ!? お、お前これは、こんな万能薬の。おおおおおい。おいおいおい!? こんなの俺みたいなやつにぱっと渡していいもんじゃねえだろ! つーか俺が命を狙われるわ!」

 面白い反応が見れて大満足だった。いやーいいね。大きな力を持つと、それがどれだけ危険なのかわかってくれる奴の反応は。これだけ薬草があれば、命を狙われる危険性なんてとんでもないことになるだろう。いやー、私の日ごろの苦労が分かってくれるなんて嬉しいなあ。


「頑張れよ。このスラム街の奴らを救えるのはお前だけだ。モヒカン一号。」

「な、なんだよ一号ってよぉ! いや、ちょっと待ってくれや。こんなん本当にやべーよ。俺が死ぬ。つーか教会にも相談するからな! こんな危ない橋を渡れるわけがねーし!」

「どうぞご自由に。つーわけで、そろそろ私たちはここを出たいので、さらばしたいんだけれど。」

「あ、いや。その、襲い掛かったのは悪かった。それより、なんでお前はこんなところにわざわざ来たんだ。ん? …いやまさか、そんな、そんなわけないよな。」

 あっ、私の大嫌いな思わせぶりな態度だ。何が言いたいんだ、さっさと言えとモヒカン野郎をにらみつけた。


「もしかして、お前さんは、いえ、あなた様は、聖者様なのか?」

 ……。は? 何、なんて言った? せ、聖者ぁああああ!? おいおい! ここにきて何が聖者だよ。んなわけないだろ。私は魔者だっての!? 言うに事を欠いて聖者だとおおお!?

「なんで聖者だよ!? そんな大層なものじゃないでしょ!!!」

「ねこ…。あの、落ち着いてください!」

 私の名前を言いそうになったが、抑えてくれたエリーちゃんだった。まぁ名前がばれたらそれはそれでまずいからね。だけど、聖者なんて納得いかないって! 魔者って言われて、そこから聖者とも言われるなんて勘弁してくれ。もうそんな存在になりたくない。

 ああーもう魔者も聖者もどっちも嫌だ!!!


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