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アノニマスターオンライン  作者: 超電撃豚豚丸
第5章「般若レディは備えたい」
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第364話「スラム街と万能薬」

 どうやら、三人組と思われる連中はまいたようだったが、ひたすら走ってしまったので、今度は現在地がどこなのかさっぱり分からなくなってしまった。

 エリーちゃんと一緒になって辺りを見渡してみるのだが、どこか不気味な廃墟のようなところに来てしまったようだった。

「なんか嫌な予感がするんですけれど、ここっていわゆる、スラム街とかそういう場所だったりするんでしょうか。」

「多分それで合っていると思う。はぁ、一難去ってまた一難かぁ。」

 スラム街と言えば、イベントの宝庫だ。治安が悪いので、ごろつきに絡まれたりして、スラム街を取り仕切っている連中との抗争に発展していき、裏社会の連中とつながりを持っていく事で、様々な問題が解決できるようになるなんてことも多い。


 が、そんなご都合主義の展開が起こってくれるかと言えば、きっとないだろう。世の中はそんなに甘くはない。どうせ頭のおかしいごろつきとかスリの子供が出てきて、私達に襲い掛かってくるだろう。ああ、乞食もいたりするか。うーん。じゃあいっそ金をばらまくべきだろうか。いや、ばらまいたらそれはそれで問題が起こりそうだし。

「ねこますさーん。考えるのはいいですけれど、まずはここから動きましょうよ。悪目立ちしてしまいそうですよ。」

「あ、あーうん。分かった。」

 少し歩くと浮浪者っぽい人やら、いかにも体当たりしてくる子供がいるなど、やはり治安が悪そうだ。早くここから出ないといけないと思い、元きた道と思われる方向に戻ってみたのだけれど、全然出口にはたどり着けなかった。それどころか、どうやら私達は迷ってしまったというのが分かった。


「踏んだり蹴ったりってまさにこの事だと思う。」

 ゴーストロガノフの足取りを掴むために街中に来たのに、どうしていつの間にか全く関係ないことをやるはめになっているのだろうか。私って実はとても運が悪かったりするんじゃないだろうか。エリーちゃんが一人で来た時はこんなことが起こらなかったようだし。私が不運すぎる。

「へっへっへ。なぁお嬢ちゃん達。わざわざこんなところに来たのはなんでだい?」

 ふいに、浮浪者の中年男性から話しかけられる。

「へっへっへ。なぁおじさん。わざわざこんなところに来たのはなんでだと思う?」

 質問に質問で返されるとキれるタイプがいる。このおじさんがそうだった場合は、なんかそういうヤバイ物を取り扱っている人物だと言うのが分かる。そうでなければそこそこまともかもしれない。

「そりゃあ~お嬢ちゃん達が、馬鹿で阿呆で間抜けで何よりも馬鹿で阿呆で間抜けだからだよなー。へっへっへ。」

「そうそう、そうなんだよ。というわけで帰り道を教えて。」

 安い挑発をされるのはむしろ好感が持てるんだよなあ。なんか都合の良いことを話されるよりかは余程信用してもいい気がするし。


「ハハハハ。いや~参った参った。どうしようもなく愚鈍なお嬢ちゃん達に帰り道を教えてやるよ。心臓にナイフを一突き! これで魂が元ある場所に帰れるんだよ~ひっひっひ。」

 ああうん。はいとしか思えなかった。最初から期待はしていなかったけれどまぁこんなもんだろう。スラム街にいるよく分からない浮浪者の狂言なんてしっかり聞く方が間違いだ。

「あー。はい。ありがとう。それじゃ、お礼にこれやるよ。」

「あー? おうおう。ありが…。」

そして浮浪者の中年男性は、顔色を変えた。

「おっおっおっ!? お嬢ちゃん。こっ、これっ、これがなんだか分かってて俺にわ、渡しちまったのか!? 本当にどっ、どーしようもねーくらい愚かだぞ! こ、こんな貴重な!?」


 薬草を1個、浮浪者の中年男性にそっと手渡しただけだのだが、突然挙動不審になり始めた。一体全体何がどうなっているのか分からなかったが、浮浪者の中年男性は、全身を震わせて顔面蒼白になってしまった。え、何。普通に薬草を上げたことが何か問題だったんだろうか。

「貴重? それならここから出る方法くらい教えてくれてもいいんじゃない?」

「本当に馬鹿なのか!!!! お前が今渡したのは…万能薬の素材だぞっ!?」


 はい? これはただの薬草なのに何を言ってるんだこの浮浪者。本当に頭がおかしくなってしまったんじゃないだろうか。

「ただの薬草でしょ。ボケてるんじゃないの?」

「その薬草が万能薬になるんだぞ!? こ、こんなもの俺が持っていたら、くっくそっ。こんな物を持っていたら狙われちまう。くそっ! おい、これは返す!」

「いや、上げるってば。」

「~~! くそっ! いいか、ここから東に真っ直ぐ進め。そこから大きな鐘のある広場人出たら次は南に進め。そうすればここから出られる。これでいいだろう! これは返す!」

「おー。そうかそうか。ありがとう。それじゃあもう1個どうぞ。」

「やっやめろ! これもかえ。」

「じゃあねー! どうもありがとう! それは自由に使ってね!」

「おっ! おおおい! ま、待ってくれええ!」


 中年の浮浪者を無視して、私とエリーちゃんは走り出した。

「良かったんですか? あれで。」

「いいのいいの。きっとなんかボケちゃっているだけなんだから。」

 薬草が万能薬なんて言ってたけれど、信憑性が低い。あるいは調合で万能薬が作れるようになるのかもしれないけれど、それも多分面倒な作業が必要になるんじゃないかと推測される。というか万能薬なんて言われてもなぁとしか思えない。

「薬草って、本当に万能薬ってなるんじゃないでしょうか。」

「ありえなくもないけれどさー。ああいう浮浪者の言う事を真に受け過ぎてもね。」

 いつもなら、可能性が低い事でも信じなければいけないように思っている私だけれど、今回はいつもと逆の考えだった。万能薬を作れるかもしれないけれど、その手順や他に必要なアイテムなどを揃えるのに手間がとてもかかるんだろうと思ったからだ。

 薬草だけで簡単に作れるなんてなっているとしたら、それこそ私の生体調合で作れてもおかしくないわけだし。かといって薬草を食べて万能薬に調合なんてできたことがないので、きっと何か特殊な方法が必要なのだと思う。


「げへへ。聞いたぜえ。万能薬だってえ!?」

「面白そうなもん持ってるってえ? ぐへへ。」

「お嬢ちゃんたち。いいもん持ってるんだって? 出しなよ! 今すぐよー!」

 突然物陰から三人の男が姿を現したのだが、この瞬間私は笑ってしまった。だって三人とも似たような顔と服装、そして全員が髪型をモヒカンにしていたからだ。いかにもな、私の中で想像しているごろつきそのものだったので、これは理想のごろつきだと笑ってしまった。

「あはははははははは! ご、ごろつきだ!? あはははははあー! こ、こんな時代遅れの姿をした奴がまだ生き残っていたなんて! あ、あははははっははは!!」


 登場の仕方、見た目、言葉遣い、どれをとっても私のイメージするそこらのごろつきでしかなかった。いやぁいいね、本当にこういう直球でこられるとこっちも威風堂々といられるよ。

「ねこますさん。流石に失礼なんじゃ。」

「だ、だって今時、て、鉄パイプ持ってたり、マスクつけてたり、サングラスつけてたりってさぁ。これはもうさぁ、笑うしかないよ。ねぇモヒカンさん兄弟君。」


「俺たちをなめんじゃねーぞコラァ!」

 いきりたって、鉄パイプで殴りかかってくる一人目のモヒカンだった。あぁ、分かりやすい、単純な動きだなと思って反撃に出たのだが。素手だったことに気が付いた。だけど、モヒカンの動きがあまりに遅かったせいか、そのまま腹にパンチを見舞った。あれ、まさか当たるなんて思わなかったんだけれど、思いっきり命中してしまった。

 硬い腹筋に当たったらこちらがダメージを受けてしまうだろうなと思っていたら、モヒカン男はそのまま吹っ飛んでしまった。えっ!? このモヒカン弱すぎっ!? なんて言いたくなってしまった。

「あっ、ごめん。正当防衛ってことで許して。」

「…あの。ねこますさんも、結構好戦的なところないですか?」

「あ。いやー。だって。ねぇ。」

 言い訳になってしまうが私だって別に暴力を振るいたかったわけでけではない。鉄パイプなんて持って襲い掛かってくるほうが悪いんだ。こっちだって手がでてしまってもしょうがないだろう。


「こ、コノクソアマあ!」

「ウォータープレッシャー。」

 エリーちゃんが、杖なしで魔法を唱える。すると右手から勢いよく水が出てきて、それが残りのモヒカン達に命中し、後方に吹っ飛んでしまった。

「エリーちゃん。結構強くなっているんじゃない? 威力が上がっているような。」

「サンショウさんに鍛えてもらったんですよ。」

 それは知らなかった。サンショウめ。なかなかやるじゃないか。流石リッチ。あれ、というかそんな魔法を鍛えるのが得意だったら、一応魔力がある私にも教えてくれたらよかったじゃないか。今度サンショウにお願いしとこっと。


「ぐ、くそう。てめーら…こんなところに何の用だったんだよ。」

「迷い込んだんだよ。なんか変な奴に追いかけられちゃってたらこの有様。」

「な。そんな奴らに。」

 最初に襲い掛かってきた一人目のモヒカンは、悔しそうによろよろと起き上がった。まぁ軽くパンチを食らわせただけなので、頑張れば起き上がれちゃうよね。

「で、私達はここから出るために頑張っているってところ。さっさと消えるので邪魔しないで欲しいな。」

「万能薬。お前、持ってんだろ? 聞こえてきてたんだぜ…俺らにはよぉ。」

「あー。なんで欲しいの?」

「病気の家族がいる。が、んなたけーもんには手を出せねえ。」


 おお。なんだこいつ。家族のために襲い掛かってきたのか。熱い展開じゃないか! 嘘の可能性が高いけど。家族想いのいいモヒカンだったなんて悪いことしたな! 嘘の可能性が高いけど。

「これ。やるよ。ただの薬草なのに万能薬って勘違いされちゃたまんないし。」

モヒカンに薬草を何個か投げて渡した。

「おい、お前。やっぱり勘違いしていやがるな。これだぞ。これが万能薬なんだ。」

「それはただの薬草だっての。」

「いいや。これは万能薬だ。これを簡単に万能薬にする方法。知りたくねえか?」


 そりゃあ知りたいところだな。このモヒカンが言う事が本当かどうかは分からないけれど、ね。


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