第357話「本ばかり」
本棚を漁っていくと、服飾関係の本に料理の本、野菜の本や武器の本など、一般社会に流通していそうな本ばかりが見つかった。そして大体みんな似通った内容だった。鉱石の本だとか、ゲーム内にあるアイテムの物なのかもしれないのはあったけれど、それが本当にあるのかどうかも分からない。だけどこういうのが後々重要になってくるということも考えられるので、掲載している鉱石については極力覚えようと思った。
ところで、私が読書している間、他の皆は何をしていたのかというと、この部屋の中を探索していた。テーブルだの何かの台だの、家具のような物を動かしたり、叩いてみたりしていた。あれは大丈夫なんだろうか。何かを触ったら突然爆発したりしそうな気もするんだけれど。
「エリーちゃん。色々触ったりしたら危なくない?」
「そうなんですけれど、あらかた探し尽くしてしまったので、後はねこますさんが一生懸命本を探すのを見守るか、家にある物を動かしてみるくらいしかないです。」
つまり最初にやるべき仕事を早く終わらせたから暇になってしまったというところか。どうしようか。ブッチやエリーちゃんにも本を読むのを手伝ってもらおうかな。
「暇してそうだったら、ブッチもエリーちゃんも本棚漁りする?」
「魔者以外が触れると爆裂四散するみたいな設定とかありそうで怖いなー!」
「なんで爆裂四散とか恐ろしい言葉使うんですか。触りたくなくなりましたよ。」
今、目の前にいる私がその本を持っているというのにそういうことを言わないでくれと思った。これに触れたら爆裂四散ねぇ。それだったらこれを武器にしてモンスターに触れれば簡単に倒せてしまうじゃないか。まぁどうせそんな強力な道具ではないと思うけれど。
「本を持って戦う作品って多分あったと思うから、ねっこちゃんが持っているそれも結構いい感じで使えるんじゃないのかな。」
「爆裂四散してくれるなら強いかもね!!!」
むしろそのくらいしてくれないと射程距離も短そうなこの本が役に立つとは思えない。投げ使えばいいんだろうけれど、それが他の人に当たったらなんて事を考えると接近戦くらいでしか使えなさそうだし。
「まぁそんな効果はないと思うけれどね。さっき俺も触れてたし。」
「そうだね。それなのに何言ってんだコイツって思っちゃったよ。あはは。」
「あはは。本の角でツッコミ入れるのは反則だよ。あはは。」
まったくブッチってば、大して効いていないくせによく言うよ。
「マスター。そのような効果がある本ならば、リュックの中に一冊入れていってもいいのではないでござるか?」
「持ち帰って大丈夫そうならそうしたいところだねー。というか持ち帰りたい。この部屋でずっと読まなきゃいけないのが嫌になってきた。」
他人の家というか他人の部屋なのでそこに勝手に入り込んで本を読んでいるっていうのがなんだかあまりいい気分がしない。ゲームで散々民家を荒らしてきた私が言うのもなんだけれど、VRだけに誰かの家にいるという感覚が強すぎて気が引けてくる。
「…。あれ?なんか。本棚が…。というか部屋が?」
「え?」
気が付いたら本棚の数が増えていた。性格には、部屋が広がっておりそこに本棚がいくつも追加されていた。これは、もしかすると…。
「読んだら読んだ分だけ増えていく本棚ってことなのかな。」
「…俺、全く気が付かなかった。どんな仕掛けなのか気になってきた。これは駄目だ。こんなことに気づけないようじゃ俺も、まだまだってことじゃないか。くそ、すげー悔しい。」
ブッチでも気が付かなかったということは、本当に突然出てきたって事か。なんかそういう認識をずらすような事が起きたって事なんだろうか。うぅ気になってきたなあ。
「エリーちゃんは、気づいた?」
「全然ですよー。正直かなり悔しいです。この手の仕掛けで一番早く気が付かないといけないのはあたしなのに、それが出来なかったなんて。」
盗賊と言えばそういう事が得意なタイプのはずなのに、騙されてしまってはお株を奪われるようなものだもんなぁ。確かに悔しくもなる。
「ねっこちゃんは、あんまり悔しくなさそうだけれど、何で?」
「認識を阻害させられていた可能性があるからね。そんなの気づきようがなかったし、次からそういうのがあるかもしれないってことは意識すればいいかなって。」
ゲームをしていると見えない攻撃なんてものはよくあって、それを回避するためにはどうすればいいのかと言う事が考えさせられることがある。見えない攻撃であっても、画面がブレたり、風が吹いてきたりしてなんとなく位置が読めてしまうっていうのがあるし。
それについて必要な事は慣れるというものでしかない。直感で大体どこから攻めてくるのかというのが理解できるようになるし。
「まぁそれは置いといて、だよ。私としてはこの増えた本棚が…はぁ。」
これ、読めば読むほど、どんどん増えてくるって設定だよね多分。無限に増え続けるのかどうかが分からないけれど、もしそうだったら面倒な事になるなあ。
「勿論、これを全部読むんだよね!」
「これじゃあもう読書オンラインだよ!?」
なぜゲームをプレイしていると言うのにそのゲーム内で読書をしなければならないんだ。知りたい内容の本があればいいだけなのに。
「これが罠なんじゃないですか。ここで沢山本を読ませて時間をとらせようって感じがします。」
「私もそうだと思うんだよねえ。ここで本を全部読み終わっても、また同じ本が出てくるだけなんじゃないのかなーって思うし。」
実際どうなるのかは分からないけれど、そう言う事が起こってもおかしくはないだろう。
「この部屋が転移石に登録出来たら楽そうだけれど、多分出来ないよね。」
そんな事ができればかなり便利だ。いちいち移動しなければいけない手間が減ると言うのは大きい。
「…。あれ? 登録できた?」
転移先に魔者の部屋なんて居場所が追加されている。当然ここの事だろう。ということは。だ。何があればここに飛んでくればいいし、必要なければここから出てしまえばいい。なかないいじゃないかそれ。これはついている!
「…もしかして、本を読めばここが広がるって言うんだったら、ここを倉庫にするのもいいんじゃないのかな。」
本を読み終えれば、本棚がどんどん出現していくから、それと同じように部屋も拡張される。従って、沢山本を読みさえすれば何かに仕えそうな部屋を1つ手に入れられると言う事だ。
「私だけがこの部屋で作業するって言うのも出来るな。」
「魔者の部屋だし、ここはもうねっこちゃんの部屋ってことかぁ。でもここに一人でずっと本だけ読んでいたら、段々嫌になってきそうな気がするんだけれど。」
この部屋に何かが仕掛けられてそうな気がするのは分かる。部屋の中も外も違和感しかない。もうちょっと恐ろしいモンスターの一匹くらいは期待していたんだけどなぁ。
「あー。私は魔者の事をもう少し調べていくから、ブッチ達は先に人間の大陸に行っててもいいよ。」
「折角だしみんなで行きたいな。ねっこちゃんだけここに置いていくのもマブダチとしてはちょっと悲しくなるよ! そう、俺らは一蓮托生で行こうぜ!」
待ってもらうっていうのが悪い気がするので、ここは私に任せて先に行ってくれというようになってしまうんだよなぁ私。そんでもって、相手を待たせていると、それは早くしないとなんて焦る事もあるので、できれば時間を要する事があるときは、相手に先に行動して貰いたいと思っている。
「ねこますサマ。ミンナ、ねこますサマノオカゲデココマデコレテイルノデス。ねこますサマヲオイテサキニススンデバカリジャアリマセンヨ。」
たけのこが優しい言葉をかけてくれる。なんていい子なんだ。ああもふもふ。もっふもっふと。あー、これが癒しなんだ。
「ありがとう。私はどうしても私より前の魔者の事が知りたいと思っているだけだからね。それが分かったら先に進もうとは思っているから。」
少しでいいから何か手掛かりが欲しい。魔者の部屋なんだから魔者の事が何も分からないと言うのはおかしい。情報が入手できないようになっているのかもしれないけれど、ならばその理由についてを調べたい。魔者とは何たるかを確認しないと気が済まなくなってきているし。
「ねっこちゃん、魔者とかどうでもいいなんて言ってた気がするのに、実は気になって気になってしょうがなかったんだね。」
「今だからだよ。どうでもいいって思っていたのに、魔者むかつく、魔者ふざけんなみたいに相手に勝手にキれられて襲い掛かられるってもう納得いかないし。そういう存在だからというので言い訳ばかりしているのも嫌になってきたんだよ。」
この称号に振り回されるようになったのはこの部屋からだった。ならばこの部屋に魔者の手かがりが絶対にあるはずだ。ここで私が何をしたいと思っているのか、現状、魔者については3つの事をなんとかしたい。
1つは魔者について、特に初代となる魔者についてどんなキャラクターだったのかが知りたい。2つめは、魔者の力とはなんなのかということが知りたい。3つめ、それは。
なんで私、ブッチ、エリーちゃんの3名は、魔者の大陸から開始することのなったかが知りたい。そのヒントがここに隠されている気がしてきたので、こうして頑張っているわけだ。
前はここまで興味がわかなかったし、それこそこの塔に来てボスと戦っていたので、さっさと帰りたいと思っていた、。だけど、それからしばらく経過して変わったこともあるので、今度は知りたいと思うようになっただけだ。
「姉御は、なんかよく相手から恨まれたりしているような気がするやで。完全な逆恨みやけれど。」
「いい迷惑なんだよね。身に覚えがないことで絡まれて、ツラかせぇなんてそんな理不尽があってたまるかと腹が立ってくるよ。あはは。はぁ。」
これまでのことを思い出してまた腹が立ってきた。一回帰ろうかなぁなんて思ったけれど、まだ続けようという気持ちが湧いてきた。ええい、まだまだ、まだ終わらないぞ!