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アノニマスターオンライン  作者: 超電撃豚豚丸
第5章「般若レディは備えたい」
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第350話「熱帯雨林と夜明け」

「ぐはははー! この俺がヴァンパイアロードだったのだー!」

 ブッチは両手を広げてそれらしいポーズをとっているのだが、どう見てもいつもの悪ふざけにしか見えなかった。そして、ヴァンパイアロードっぽさは微塵も感じられなかった。

「すげー! 憧れのブッチ先輩すげー! まじかっけー!」

「お? おぉ。ねっこちゃんから聞いてたけれど、ゴーレムのビスケットかい? 俺の正式な名前はマブダチって言うんだ! よろしくな! 今日からマブダチだ!」

「まじかっけぇです! ブッチ兄貴って呼ばせてもらいます!」

「いいねいいねぇ! ふはは! で、そのあんちゃんはヴァンパイアロードになってしまったんだなーこれが!」

「ノリでなれるって憧れるなー! すごいなー!」

「フハハハ! そうだろうそうだろう!」


 いきなりうざくなったぞ。何でヴァンパイアロードになれたかを説明して貰えていないけれど、倒したってところは確実なんだろうか。

「あー、なんか無駄に盛り上がっている所悪いんだけれど、結局ヴァンパイアロードは倒したの?」

「倒した倒した! すげー楽しかった。不老不死だとか言ってたから、ひたすら攻撃しまくって、楽しくてたまらなかったよ。面白い攻撃も沢山してきて最高だった!」

 すごい気分良さそうに、晴れやかになって答えるブッチだった。そんな楽しい相手だったのか。というか不老不死なのにどうやって倒したって言うんだ。

「あー、だけど攻撃に関しては微妙だったなあ。段々攻撃パターンが単調になってきたのが駄目だったし、手の動きとかでどのパターンをしてくるのかが分かっちゃって。ひょっとしてわざとやってこっちの油断を誘おうとしているのかなーなんて思って警戒していたら自分の癖にも気づいていなかっただけって言うね。」


(ブッチ様は、何と言いますか、規格外ですね。)

 どんな攻撃をしてくるのか分かっていても、普通はそれを見切るまで相当時間がかかると思うんだけれど、よく見切れたなあとしか思えない。攻撃パターンが単調になるって言うのは確かにありえる。ただし、これについてもそう簡単に見切れないだろう。

「そうか。それでブッチがヴァンパイアロードを倒して、今度はブッチがヴァンパイアロードになったというわけだね。よし、それじゃあ帰ろう。」

「ええっ!? ちょっと待ってよ! ここから俺の武勇伝をねっこちゃんに語って聞かせようと思っていたのと、なんでヴァンパイアロードになってしまったのかを説明しようと思っていたんだからそれを無視したら駄目だよ!」

 面倒くさい流れになりそうだったので、そこらへんは別に聞かなくていいと思っていたんだけれどやっぱり聞かなきゃだめなんだろうか。


「結果だけ分かれば十分だからね。」

「過程も大事だよ! それで、俺がヴァンパイアロードになったのは、ヴァンパイアロードが俺に降参してきたからなんだ。」

 聞いていないというのにそのまま続けるブッチだった。これは強引に話を進めてくる自宅に来るセールスマンのノリだけれど、ブッチも実はそういうセールスマンだったりするんだろうか。

「ああ、俺はひたすら張り手で攻撃し続けてきただけだよ。そしたら、ヴァンパイアロードが真の姿を見せるとか言ってきたんだよ。」

 真の姿、変身能力だな。大体強いボスモンスターは一回倒したと思ったら、復活して第二戦、第三戦

と続くこともある。こういう何度も戦わなきゃいけないボスって私は苦手なんだよなあ。


「ここが重要なんだけれどさ! 真の姿って割に全然強くなかったみたいなんだよね。もっと戦って強くなって楽しめるようになった楽しめるだろうと思っていたらそんな調子だからまいっちゃったよ。確かに攻撃力が上がってそうな魔法とかを使ってきたんだけれど、のろのろした攻撃だったのでこれも簡単にかわせちゃったんだ。」

 ヴァンパイアロードは本気を出していたことに間違いないだろう。しかしどの攻撃もブッチに当てられずに逆に一方的に攻撃され続けたことでプライドでもへし折れたんじゃないだろうか。だけど、それなりにというかとても強いはずのヴァンパイアロードがこの短時間でそこまでなるものなんだろうか。ここにいるブッチが偽物で、まだ本物が隠れているとでも言われた方が分かるんだけれどなあ。


「ああ、戦っている途中に真っ暗闇の空間に移動したんだけれどさ。そこでかなり長時間戦っていた気がするよ。感覚的には何日間もずっと攻撃し続けたような気がする。」

 <アノニマスターオンライン>は、健康上の理由から、そんなに長時間は遊べないようになっているはずだけれど、そういう感覚を引き延ばすような事って出来るんだろうか。それともブッチが感覚的にそれだけ遊んだと言ってるだけなんだろうか。

「ヴァンパイアロードはタフだったみたいでさあ、かなり攻撃をしてから、降参だなんて言ってきて、こいつ、嘘をついているかもしれない! ってねっこちゃんのように疑心暗鬼になって更にひたすら張り手をくらわし続けたんだ。」

「それ、私関係ないよね!?」


 私も疑心暗鬼になる事はあるってだけで、そんなに疑ってばかりじゃなかったんだけれどなあ。騙しうちをしようとしてくる敵が多いのは確かだけれど。最低限の安全を確保できないと疑っちゃうよ。

「ねっこちゃんと言えば、石橋を叩きまくるのが基本なのは俺もよく知っているから!」

「ブッチ兄貴の言う通りです! マスターは石橋に全力で攻撃して壊れなければ、その場合も逆に疑うタイプです!」

「そんな私を疑り深い奴にしなくていいから続きをよろしく!」

「紆余曲折を経て、ヴァンパイアロードが、生きるのを諦めて、俺にその力を譲って消えていきましたとさ。ちゃんちゃん。」

 …だから初めからその紆余曲折ってことでいいっていったじゃないか! ああ、逆に気になる事ができてしまったじゃないか。真っ暗闇の空間に閉じ込められただの、真の姿になっただので、そこまで抵抗したヴァンパイアロードがなんでブッチに力を譲ることにしたのか。」


「ん? でもサイコロプスじゃなくなっちゃったってこと? それともサイコロプスでヴァンパイアロードになったってこと?」

 種族が複数あると言ってもおかしくないと思うけれど、元々サイコロプスだったようなので、そのあたりどうなるのか気になった。

「ああ、正しくはヴァンパイアロードの称号を手に入れたんだよ。種族自体はサイコロプスのままで。ふふふ。かっけえでしょ。」

「へぇー。そういうのもありなのか。かっこいいかは知らないけれど。」


 となると、私が般若レディで魔者。ブッチがサイコロプスでヴァンパイアロードって事になるのか。うーん。分かりにくいけれどそういうことか。

「…。もしかして、自由自在に飛べるようになっていたり、日光に弱くなっていたりするんじゃないの? 大丈夫?」

「日航は大丈夫みたいだねー。サイコロプスがベースで、そこにヴァンパイアロードがおまけみたいになっているようだから。空は、これから飛べるようになるか挑戦してみるよ。」

 ブッチが単体で空を飛べるようになったら、かなり凶悪になる気がする。あれ、それと不老不死って設定も追加されるのかな。いや、そこまではないか。無敵みたいな状態になるようなことは一介のプレイヤーにさせることはないだろうから。むしろあったらゲームバランスが崩壊しそうだ。


「不老不死にはなった気がする?」

「うーん。なってないんじゃないかな。そもそもヴァンパイアロード自体が結局不老不死じゃなかったし。それと、そもそも俺らプレイヤーって設定上は不老不死になるというか死んでも復活するだろうからあんまり意味がないだろうね。」

 ゲームや漫画では不老不死なんてよく聞くんだけれど、実際死ぬ方法があることが多いので、完全な不老不死なんていうのはそうそういない。だから、不老不死って聞くと、ああ、いつもの言葉だけが強そうなアレか、なんてなることも多い。

「えっ。もしかしてマスターも不老不死なんですか!? すげー!」

「いや、私は不老不死じゃないって! そんな人間離れしたようなものになれないよ!」

「ねっこちゃんは般若レディじゃん。もしかして不老不死なのかもよ。」


 そもそも般若レディって種族自体が謎だけれどね! そのミステリアスな感じが大好きだけど!

「それで激戦の末、この戦いを制したのはブッチってことになったってことだね。おめでとう。これで一旦草原に帰れるね。」

「ありがとう。あっ、転移石頂戴!」

「はいどうぞ。」

「おっしゃー! でも一回は徒歩で戻らないといけないってことだよね。」

「そのあたりはご愛敬って事で。はぁ…戻らないといけないんだなあ。熱帯雨林もこんなに荒れ果ててしまったし。」

 ドラゴンフルーツをもう一回とれるようになるまで、果たしてどれだけの時間が必要になるんだろうか。森林の時みたいにすぐに復活するって保証がないのが辛い所だなあ。

「ねっこちゃんは、人間の大陸にもう一回行くつもりなの?」

「クロウニンがいるからあんまり行きたくないんだよね。絶対に戦わないといけない敵って嫌だなーってなってさぁ。」

 ゴーストロガノフに目をつけられていたので、きっと戦う必要があるだろう。

「じゃあ、他に何かしようと思っている事は?」

「魔者の塔にもう一回行ってみようかなって思っているけれど、またしばらくは草原でのんびりしたいよ! なんだかここに来てからほぼずっと戦いみたいになってたからさー。」


「そんなの羨ましすぎる! 贅沢だよ! 俺だったら戦って戦って戦いに明け暮れたいのに! 狡い! 俺にもっと敵をくれ!」

「私がブッチにやられたら、ブッチに魔者の称号が行くとかだったらいいと思ったことはあるんだけれど、私も死にたくはないからなあ。」

「俺も魔者の称号はいらないや。なんかめんどくさそうだし。」

「強そうな敵と戦えるじゃん!」

「そうだね。でもねっこちゃんがめんどくさそうにしているし、ちょっとなーって。」


 なんだとぅ。私としては魔者の称号はブッチに移したいと思っているくらいなのに! くそぅ。

「はぁ。それにしても、疲れたなあ。」

「ねっこちゃんってば、また強くなっているのにそんな疲れたなんて!」

「そうですよ! マスターは闇の素を吸収して滅茶苦茶強くなっているじゃないですか!」

 あっコラ! ビスケット! 余計な事を言うんじゃない! あぁぁ、ブッチが嬉しそうな顔をしてこっちを見ているじゃないか!

「やっぱり! ねっこちゃんまた強くなっているんだったら俺と戦ってよ!」

「嫌だよ! もうとっとと草原に帰ろう! 戦いはしばらくこりごりだ!」


 こうして、長かった熱帯雨林での戦いは終わりを迎えた。


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