第35話「森の奥へ行こう」
「みんなはどこか行きたいところはある?ないならしばらく・・・。」
「森の奥とかどうかな!?」
「ワイもええと思うで!森の奥!」
「ブタモイマスシモリガイイカト!」
私が言いかけると、みんなが一斉に声を上げた。そうか、そんなに森の奥に行きたかっ
たのか。みんな森が大好きなのか。知らなかったな。
「でも森は結構危険だからねえ。前にしまうまがいてさあ。」
薬草のおかげで辛うじて勝てたんだよなあ。やっぱり薬草は素晴らしい。
「森の中にしまうまがでるのが、すげーな。そんでそいつは倒したの?」
「私の華麗な鎌さばきでね!」
チラリとたけのこを見る。一応薬草を口にも鼻にも詰め込んでいるところをたけのこは
目撃しているけれど、うまくごまかしてねという感じの合図だ。頼むよたけのこ!
「ハイ。ソウデス。」
ナイスたけのこ!賢い!流石だ!それでこそたけのこだ!
「ねっこちゃんは鎌以外で何かやってなかった?」
「クチトハナノナカニ、ヤクソウヲツメコンデイマシタ。」
たけのこおおおおおおおお!どうして言ってしまうの!くそう。今後は誘導に引っかから
ないように教育せねば。
「薬草を詰め込む。、ねっこちゃん詳しく聞かせてもらおう。俺たちもフヒッ。た、倒し
方を学んでおいても損はないだろうしプップ…。」
ブッチはどうやら笑いを隠せないらしい。この野郎、あの時は必死だったんだぞ!
「しまうまが強くてなんとかしがみついて持っていた薬草全部口と鼻の何に詰め込んだ
んだよね。そしたら、そのうち動かなくなっちゃった。」
「プーッ。もうだめ。ハハハハハハハハハハハハ!何それ!あはあはあははは。窒息死さ
させるとか普通思いつかないって。や、やばー。その時のねっこちゃん見たかったあ。」
こうなるからこいつには言いたくなかったんだよ!こっちは創意工夫して倒したってん
だぞ!笑い事じゃないぞ!
「ワイは素直にすごいと思うで。そんな非常識な発想は思いつかないで!」
多分、追い詰められたら誰だって思いつくぞ。
「まーとにかくそういう強いしまうまがでるかもしれないから警戒はしような!まぁ今な
ら火薬草もあるし、ブッチがモーニングスターで頭かち割ってくれるから楽勝だろうけど。」
「あいよー。そんな面白そうな奴がでたら今度は俺に任せてよ」
そんな雑談をしながら、私たちは、森の奥を目指すことになったのだった。奥に何があ
るのかは分からないので久々の冒険になる。未知の領域に踏み込むときはいつだって興奮
する。
私たち以外のプレイヤーがここに姿が現さないということから、<アノニマスターオン
ライン>でここを探索する初めてのプレイヤーが自分かもしれないというのにも喜びを感
じてしまう。
ちなみに1つ、予想していることがある。それはたけのこの親だ。たけのこには親とな
る存在がいないか聞いてみたが、生まれた時から一匹だったと言っていた。ゲームなので
自然発生したと言われてみればその通りだが、単純に湧き出るだけというのは考えにくい。
たけのこ以外の狼とは一匹も出くわさないことからも、何かしら特別な存在ではないかと
いうのが予測される。
ここにたけのこの親的なボスがいるかもしれない。狼と言えば北欧神話で言えばフェン
リルと言うのがいたはずだが、そんな感じじゃないだろうか。でもそんな安直な展開がこ
のゲームにあるとは思えない。種族に般若レディやサイコロプスなんて導入する運営があ
りきたりなことをするのかという疑問があるし。
だけど、もしそんな化け物出て来たらどうするかっていうと戦うけどね私は。たけのこ
のパパなのだとかママなのだとか名乗られたらやらないけど、そうじゃないなら赤の他人
だから情け容赦なく戦うよ。たけのこも最初そうやって躾けたわけだしね。
「大分暗くなってきたなあ。ちょっと寒い感じもする。」
森の中は、非常に暗い。木々で太陽が遮られているが、木の葉の特徴なのか遮光性能が
高い。葉っぱを使って何か作れるのではないかと思えるくらいだ。
「そこら辺の木に狐火使えば明るくなるだろうねえ。ねっこちゃんやってみたら?」
「森が燃えて私たちも危険だぞ。森林火災をなめるな。」
ものすごい勢いで火が広がり一面が火の海になるのをドキュメンタリー映画なんかで観
たことがある。そういうのがここで発生したら逃げ場はない。照明が欲しいとは思うがこ
んなところで焼け死ぬのはごめんだ。
「俺ならやってみるけどね。燃やしたら森の主的な奴が姿を現してくるかもしれないし。
そしてそいつがなんとかしてくれるかもしれないしさ。わざとそういう風にやるのも俺は
ありって思っているよ。」
なるほどな。ゲームのイベントっていうのは確かに色々ある。そういう事をやらないと
イベントが発生しない可能性もあるので、何でもやってみるというのは大事だろう。だけ
どこの状況は逃げ場がないのでどちらにせよ森林火災を起こしたらアウトだ。
それとも、草原の草みたいに一度燃えた木があったらすぐに復活して森林火災なんてお
きないかもしれないっていうのはあるかもしれない。
今ここでやる気はしないが、人道的とか道徳とかそういうことばかりに気がとられてし
まうと見落としてしまうこともあるのを忘れないようにしようと思った。この世界は基本
的に自由なはずだし。
「そうだね。安全を確保できるようになったらそういうのもありかもね。」
「おっ?ねっこちゃんなら嫌がりそうだと思ったけど意外だ。」
「私はゲームでは全てのイベントをコンプリートしないと気が済まないタイプなんだ。」
「あー。それは分かる。薬草中毒なところをみてもよくわかる。」
「誰が薬草中毒だ!アホ!」
ブッチを小突く。
「うっうっ。だいこん。俺セクハラされた。もうお嫁にいけない。」
両手でサイコロの頭を隠してだいこんに訴える。
「ワイがお婿にしてやるから安心するんやで」
「キモイゾだいこん。」
すかさず、たけのこがツッコミを入れる。
「そういえば、火の不始末で森が焦土になったら、豚が食えなくなるかもしれないな。そ
う考えるとやっぱり、安易に火は使うわけにはいかないな。火薬草もか。」
「いざってときは薬草を詰め込んで窒息させればいいもんね!!」
「うるせー!!!!」
一言多いなあこいつは!
「あっちなみに私、夜目はいいみたい。」
「般若レディにそんな特徴が…。ちなみに俺も洞窟の時からよく見えてたからいいよ。」
「ワタシモヨクミエテイマスヨ。」
「ワイだけ仲間はずれやないけ。あまり目がよくないで。まぁ気配で感知できるからな。」
そんな特技があったのか。早くいえやこいつ。
「何かでてきたら真っ先に知らせるんで安心してくれや。」
おう、頼りにしているぞ。
「そんじゃまあどんどん奥を目指して行こう。」
みんなは、なぜかオーッと叫んだ。敵がいたら位置がばれるじゃないかと叱りながらも前
に進む私達だった。