第341話「おじいちゃんヴァンパイア」
明日追記しまあああああす!
最近1話を2500字~3000字程度にとどめて毎日1話ずつ投稿できるようにしたいと考えています。
10/29追記しました
おじいちゃんヴァンパイアに苦戦していると言えばその通りだと思う。決定打に欠けるし、接近戦を挑もうにも、重力魔法をくらうとそのまま一気にやられかねないので攻めきれない。一方おじいちゃんヴァンパイアも同じようなものだった。どうやら私の鎌を警戒しているようで、下手に攻め込んでこないので、膠着状態が続く。面倒くさいがしょうがない。
本当ならここまで苦戦するということはないと判断していていたんだけれど、どうにもヴァンパイアロードの事が気がかりなので、攻め切れていないのが実情だ。このおじいちゃんヴァンパイアを倒すことだけに集中すればいいんだけれど、ヴァンパイアロードがどこからか攻撃を仕掛けてきたらその時点で死ぬ可能性がある。それが困る。非常に厄介だ。
「とはいえ。覚悟を決める必要はあるな、と。」
「ほう、何の覚悟ですかな?」
聞き返されるが答えない。答えたくはない。この戦いが仕組まれたものである可能性なども考慮しようと思ったが、やはりそれは置いておく。戦う必要が無いのに戦っていましたなんていうのはよくある展開だし。むしろさっさと倒したほうが問題解決に早い事の方が多い。あるいはここで私がやられてしまえばよかったのかもしれないが、負けるというのも嫌だったので、勝ちを目指す。
(母上。ヴァンパイアロードについては一旦忘れて、目の前のヴァンパイアに集中してください。集中し過ぎて警戒が疎かになっている間も私がついています。すぐに連絡をします。)
そうか、ひじきだったら私に心の声的な感じで語り掛けてこれるか。よし、それならこいつに集中してみるか。ありがとうひじき。
(いえ。母上、頑張りましょう!)
「なるほど。吾輩を本気で倒す気でいるということですな。」
いきなり、踏み込んできた。おじいちゃんヴァンパイア。あれ、向こうも本気になったのかな。まぁそれはそれでいいか。今の私は守りを捨てる様な戦いを仕掛ける覚悟が決まったので、本気で戦いに行ける。後ろから狙われるんじゃないかとひやひやすることも、もはやどうでもいい。まずはこいつだ。
「黒薔薇の型!」
手に持った鎌が赤黒く光る。強く握った鎌を私はおじいちゃんヴァンパイアに向けて振り上げる。
「むぅ!? ブラックムー…」
「浮遊!」
私は、魔法を使おうとしたおじいちゃんヴァンパイアに向けて浮遊を放った。態勢を崩した直後に鎌を振り上げると、おじいちゃんヴァンパイアの左手が吹っ飛んだ。
「ぐっ!?」
「あれ!? おじいちゃんの動き遅すぎ!」
ここでも挑発は欠かさない。私はここで一気に決めなければ、反撃をくらうことは必死だったので、黒薔薇の型の鎌でとどめまで刺す勢いで攻撃を仕掛けていく。
「これでどうです!」
おじいちゃんヴァンパイアは、残った右手で爪を伸ばして攻撃してきたが、私はそれをかわさずに腹で受け止めることにした。そう。口の中には薬草があるので、これを飲み込み、ダメージは多少軽減されただろう。これで攻撃手段は限定される。
毒か何かが仕込まれている可能性もあったが、私には耐性があるし、そのくらい大丈夫だろうとふんでの行動だった。そして私は、動きがとれなくなったおじいちゃんヴァンパイアの左手を掴み取った。
「一度、これをやってみようと思っていたんだよね。」
「はなっ・・・!?」
おじいちゃんヴァンパイアの左手、いや左腕に私は、齧りついた。ヴァンパイアって噛みついて血を吸うとかあるけれど、そういう相手が得意な事をやり返したくなるよね。逆に噛みついてやればいいのにって何度も思ってきただけに、これはどうしてもやってみたいと思っていた。
般若レディの私の牙は鋭いので、意外と効果はある気がした。ううむ。たまには噛みつき攻撃をしてみてもいいのかもしれないと思ったけれど、かなり近づかないと使えないので基本使う事はないな。
「ぐっ!? まさか専売特許を奪われる形になるとは・・!」
うんうん。でもおじいちゃんまだ余裕がありそうだよね。焦っているけれど、どこか何とかなるみたいな表情をしている。何か奥の手がありそうなので、そこは警戒しておく。
「雷獣破!」
「う、オオオオオ!?」
手を掴んでいる状態なので、そのまま雷獣破を使うことにした。これでかなりのダメージを与えることができるだろうが、生き残りそうなのがまずいな。できればこのまま倒してしまいたいが懸念事項があった。
金髪の女ヴァンパイアの方が、このおじいちゃんヴァンパイアが死んだら激昂して襲い掛かってくるかもしれないということが1つ。恐らくその場合は強化されるというか覚醒するというかかなり強くなるのではないかと想定される。
次に、自動回復。ヴァンパイアともなると戦闘中にダメージを負っても時間経過で自動回復するという能力を持っていることが考えられる。というのは大体この手の不死系とも言われるモンスターはそういった特性持ちであることが多いからだ。自動回復を持っていれば、いくら追い込んでもとどめを刺さなければ、回復されてしまう。
恐らく、吹っ飛ばした右手も再生するくらいはやってのけるだろう。私はゲームにおけるヴァンパイアの強さを決して侮る事はない。散々凶悪な性能を持った奴と戦ってきた苦い思い出があるし。
「どうする? まだやる?」
ドラゴンフルーツを食べながら、私はおじいちゃんヴァンパイアに語り掛けた。雷獣破をくらったあと、そのまま倒れてしまっているが、意識を失ったということはないだろう。というかこの程度がヴァンパイアだとは思っていないし、ここからいきなり反撃されるかもしれないことは想定している。それでも今ドラゴンフルーツを食べておかないといけないと判断して食べている。うーん美味しいな。
「ふ、フフフフ。全く、だから魔者とは関わり合いになりたくなかったのですよ。」
「私だってヴァンパイアなんて強そうな奴らとは戦いたくなかったんだけれどね。」
お互い本音で話しているような感じになった。現状私がヴァンパイアと戦って得られるものは全然ない。むしろ失っている物のほうが多い。多すぎる。折角のドラゴンフルーツ収集が上手くいかなくなってしまったのが痛手だし、熱帯雨林はろくでもないことが起こりすぎている。さっさと引きあげたかったのにどうしてこうなったんだか。
「おかしなことを言いますね。あなたがこの熱帯雨林を手中に収めようとしていたのではないですか。」
「いいや、私はドラゴンフルーツが欲しいだけで他は何もいらん。」
「!?」
目を見開くな! そんな驚いた表情をするなおじいちゃんよぉ! そして次の瞬間呆れたような顔になるのは辞めろ。まさか、そんなみたいな顔もするな。あー、なんかやってしまったみたいな顔までするし、つまり誤解があったというわけだな。
「あなたの真意は分かりかねますが」
「ドラゴンフルーツが欲しいだけ。ほら。こんな感じで。」
何個か取り出して見せてみた。さらにそのままむしゃむしゃと食べる私だった。
「だから…。だから言ったのです。魔者というのは得体が知れず、意味不明の行動をとり、常識では計り知れない謎の生物だと。それを…。」
先代の魔者と一緒にしないで欲しいというか、それは私に対して言ってるのか? 失礼なおじいちゃんヴァンパイアだなぁ。因縁をつけてきたのはそっちの癖に、私が悪いかのような態度じゃないか。そんで、この流れだと、あっちの金髪ヴァンパイアのほうが率先して戦いを仕掛けてこようとした元凶って事でいいんだろうか。まぁ知ったこっちゃないけれど。
「マスター。こっちは終わりました。」
「くそっ! 話せ! 私をどうするつもりだ!」
うわぁあああああああ! すごい嫌な流れ。金髪の女ヴァンパイアをたけのこが咥えてこちらに戻ってきた。そこで思わず腹が立ってきた。私はこういう展開が嫌いなんだよなあ。なぁなぁで済まされるみたいになりそうな雰囲気。責任の所在をきっちり決めて、悪かったところはしっかりと償えと思っているのに、ただの謝罪だけで終わりそうなこの展開。
こっちはさぁ、死にそうな目に遭わされたってのにそりゃないでしょうって。というわけで、絶対に許さない方向で行こう。
「貴様らには死んでもらう!」
「流石マスター! やっぱりそうですよね! こいつ、何度も俺に攻撃してきたんですけれど自動修復機能で簡単に回復できちゃう程度だったので、弱くてたまりませんでした!」
「お、お前はおかしいぞ! クソゴーレム風情が!」
「うるさい黙れ。いいかお前ら、ヴァンパイアロードはどこにいる?」
大事なのはそこだった。全ての元凶はヴァンパイアロードだろう。こちらに襲い掛かってきているのは知っているんだ。ヴァンパイアロードを倒さないと安心ができない状況なので、私も少し苛立ってしまっているから、さっさと答えを言えと。
「フフフ。ロード様は今頃お前の仲間を血祭りにあげている所だろう。この闇こそがヴァンパイアロード様の力なのだ。」
「というわけらしいがどうなのおじいちゃん。」
「おじ…。まぁそうですが。この闇こそロード様の力であることは確かです。あなた方であっても、ロード様の力には到底及ばないでしょう。」
「じゃあなんでそのロードとやらはさっさと襲い掛かってこないんだ?」
「お前の仲間を血祭りにあげているところだろうと言っただろ。はっはっは。お前らもおしまいだ。」
「えいっ。」
「んぐぐ!?」
金髪の女ヴァンパイアがうるさかったので、つい電撃の鞭で叩いてしまった。
「私はこの熱帯雨林はどうでもいいんで、おじいちゃん。ヴァンパイアロードと話付けてくれない?」
ということでさっさと終わりにしたい。どうせ無理だろうけれど。
「吾輩ではどうにもなりませんね。ロード様が決めたことです。」
なんだかなあ。このままだと戦う流れになりそうだな。面倒くさいなあ。さっさと襲い掛かってきてくれればいいんだけれど、何で来ないのかも不思議だし。うーん。あー。面倒くさいことはさっさと終わらせたいのになあ。