第34話「収穫発表」
へとへとになりながら、草原に帰ってきた。川に洗濯しに行っただけであんな目に遭う
なんて理不尽すぎる。火薬草もちょっと使ってしまったし、減った分はちゃんと集めない
と気が済まないな。
まだ誰も帰ってきていないようだ。私が一番乗りのようだ。よし、ここは気晴らしに
草刈りでもするかと思って動こうとしたら、木を担いで歩いてくるブッチがいた。くそう
やっぱりパワー系はいいなあ。あのパワーがあれば魚なんて引きずって持ってこれただろ
うになあ。あーくやしいなあ。
「おっ何々ねっこちゃん。そんな見つめちゃって。俺にほれた?」
「そのパワーには惚れるな。」
「おっ!?ふふふ。俺の魅力に今さら気づいたのかい?ふふふ。」
いつも通りに調子に乗るブッチ。
「そのパワーがさっきあれば、とても助かったのに、肝心な時にいないんだもんな。」
「うっそまじで。うわー。チャンスを逃したか、俺としたことが。」
がっくりとうなだれるブッチ。こいつ面白いな。
「まぁ色々あったんだけど。ところで、その木があるってことは。」
「モーニングスターで殴ったら簡単にばきぃって折れたので、それを持ってきた。まぁそ
こそこ重いけどなんとかなる。」
木を一本丸ごと担ぐのがそこそこ重いで済むのか。すげーパワーだな。
「これがあれば加工すれば柵とか家とか建てられそうだね。まぁその加工をどうするかだ
けど。」
確かに、素材があっても、それを使いこなすことができればどうにもならない。素人が
魚を鎌で捌いた結果があれだからなぁ。はぁ。そういうスキルとか道具が欲しいなあ。
「やっぱり、道具を集めたり、しないとどうしようもないと思うよ。一応素材だけ集めた
ら遠出しない?」
鋸とか、道具を作るスキルが欲しいって言うのはよくわかる。そもそも私達は、初心者
プレイヤーで右も左も分からないままなので、できることが限られ過ぎている。これでは
まともにやりたいこともできないのは当然だ。
何をするにしても、道具は必要だ。
「ここを離れると薬草が手に入らなくなるから嫌だけどしょうがないね。あぁー薬草と離れ
離れになるとか不安しかない。」
「もう大量にあるからいいじゃん…。そろそろ他の物を集めようよ」
ブッチが呆れた顔でこちらを見てくる。薬草の素晴らしさを分かっていないのか。
「ところで、そっちは川に行ってたみたいだけど何かあったの?」
「般若レディのねこますさんは、川で洗濯していたら、巨大な鮎に襲われて酷い目にあった
のです。そして、激闘の末に倒した後は、あまりにでかすぎて持ってこれずに必死に鎌で解
体していたのです。ブッチの役立たず!」
「最後の罵倒はスルーするとして、巨大な鮎?あの川にそんなのいたのか。戦ってみたか
ったなあ。ねっこちゃん羨ましい。」
ブッチだったら多分楽だっただろう。私は戦闘が得意ではないので毎回苦労するしかな
い。ああ強くなりたい。
「散々苦労して倒したけどブッチなら余裕だっただろうね。パワー系いいなあ。」
「パワーしか取り柄がないからそれが通じない敵は死ぬまで殴り続けなきゃいけないから結構
大変だよ。俺ならやるけど。」
なんでこいつはこんなに自信に満ち溢れているんだ。意味が分からんぞ。
「はぁそうですか。んで解体した鮎はあとたけのことだいこんが戻ってきてから食べるよ。」
そういえばあの二匹は食料確保とか言ってたけど、何をしているんだろうか。豚でも狩
っているのかな。
「あ、姉御~。」
「ねこますサマ~!」
おっと、噂をすればだ。どうやら帰ってきたようだ。お?豚が何匹かだいこんの上に乗っか
っているぞ。
「ワイとわんころは豚狩りをしとったんやで。そんでいくつかは持っていこうって話になっ
たんやが、ワイの背中からたまに転がり落ちて、そのたびにわんころが怒るねん。
「オマエガタルンデイルカラダ!」
「これやこれ。わんころも、もうちょっと落ち着けや。」
「ワタシハ、タケノコダ!チャントヨベ!」
「わかったから勘弁してくれや~もういきなり豚の群れに投げつけるとか酷いんやで。」
たけのこが、鍛えなおしてやると言っていたがこういうことか。確かに大蛇になれたり
するのにちょっとびびりすぎだよなあこいつは。
「頑張って噛みついたりしたんやけど、ワイの牙は大して痛くないんや。毒もないし。」
「え?毒なかったの?それって初めて戦った時も?」
「そうやで。」
あれだけみんな頑張って回避していたのに、衝撃の事実を突きつけられた。なんだよ。毒
がないんだったらもうちょっと気が楽だったぞ。
「あっ、ちなみにワイに毒は効かんのやで。褒めてくれていいんやで。」
「それはすごいな!もしかしてだいこんの血があれば解毒薬になったりするのかな!?」
ブッチがさらりととんでもないことを言い出す。
「ファッ!?いや多分そんなことはないと思うんやで!」
「いいことを聞いた。いつか血を貰うから楽しみにしててなだいこん。」
「なんでや!ワイの血関係ないやろ!」
「ヨカッタナ。ミンナノヤクニタテルゾ。」
「血を抜かれるなんて嫌やねん!」
そんなアホみたいな雑談をしつつ、本題に入った。
「川のほうに巨大な鮎がいてそいつを倒したんだ。んでこれがその鮎の身だよ。」
川で綺麗に洗った鮎の身だ。一応まだ腐ってはいないと思う。
「ねっこちゃん。鮎って寄生虫がいるみたいだから焼かないとだよ。」
「おぅ。やっぱりいるのか。よし。じゃあみんなちょっと離れてくれ。あとブッチ。
たき火をしたいので木をくれ。」
「あいあいさー。」
狐火で焼いてもいいんだけれど、たき火があればそこで少しずつ焼けるし、そっちのほうが
いいだろう。身を直接持ってだけど。串とかあればいいんだけどなあ。
「狐火!」
薪というかただの木片みたいなものに狐火を放つ。ゆっくりとだが火が燃え上がった。
「ブッチはこれとこれ。だいこんと食べて。私はたけのこの分を焼くから。」
こうしてみんなで鮎を焼いて食べた。とても美味しかった。苦労して倒して解体までした
かいがあった。みんなとても喜んでくれたし結果オーライだ。
たけのこは更に豚を食べて満足そうにしていた。やっぱり食いしん坊だなあ。