第338話「膠着状態」
明日追記します!
10/26追記しました!
しばらくすると、辺りはすっかり夜になってしまったが、ヴァンパイアロードは姿を見せることがかった。あるいはもう既に姿を見せているのかもしれないが、どこにいるのかは全く分からない。
闇討ちでもしてくるのだろうか。いや、高貴なヴァンパイアロードがそんな事をするわけがないと信じたいが、やってきそうな雰囲気しかないなぁ。
ああそうだ、そういえば、ブッチ達の姿も見えないままだ。メッセージで連絡を取ってみるとするか。
メッセージ:現在メッセージを送ることができません。
なんだと。まさかのメッセージが送れない状況になってしまった。という事は既に何らかのイベントが発生していると考えてもよさそうだな。それにしたって、今までメッセージが送れなかったことなんてなかったのにな。
さてどうするか。照眼は下手に使えない。使ってしまったらこちらの居場所が確実にばれるだろうから。いや、ヴァンパイアロードというからには夜目がきくだろう。だとすれば別に使ってもいいのかと思ったけれどそれも自分で待ったをかけた。弱点を突くというのは理にかなっている事だというのは分かるのだが、ことゲームにおいて安易に弱点を突くと痛い目にあうことがある。
敵の弱点ということで攻撃を仕掛けると、その攻撃をされたことで怒り狂い、普段なら使ってこない強力な攻撃をしてくることがある。折角弱点があるのに弱点を狙ってはいけないというのはいかがなものかと思うのだが、そういう設定はよくある。
だが、これにも理由がある。それはある程度敵の体力を削ってからとどめに弱点を狙うと言った戦い方だ。これなら反撃されることもなく安全に倒すことができる。
今はとりあえず様子見、といったところだろうが、向こうがどういう出方をするのか分からない。
もしかすると、私から攻撃するのを待っているのかもしれないし、しばらく待って何も内容であれば私から攻撃を仕掛けるとするか。
それか、ブッチ達が何か仕掛けたりしないのだろうか。大暴れしてもおかしくないと思うんだけれど、どうしているんだろう。メッセージが送れず、分断されているような状況なので判断に困るな。
「ねこますサマ。ドウシマスカ? マダココデタイキシマス?」
「それが悩ましい所なんだよねえ。」
ここで下手に動いたら、狙われそうな気がするし、ここで動かなければ狙われそうな気がするというどちらに転んでも嫌な思いをしそうな気がしてならない。判断に困るけれど、決断は私が下さないといけないな。
「うーん。ブッチ達が動いているかも分からない事だし、もしかしたらブッチ達も私達が行動を起こすことに期待しているかもしれないし。」
これが会社だと、勝手に行動するなと言われ、ではどうすればいいか聞いたら自分で考えろとなるんだよなー。そんでもって自分の今ある情報などを整理してこういう風にしたいんですがどうでしょうかって提案をするのがベストになるんだけれど、そこから、そんな考えでいいと思っているのかとか、更にそれをする根拠も用意しなきゃいけないしで…おっと待て、ここは会社じゃない。
はぁ、何を考えているんだ私は。折角ゲームをプレイしているのに会社の事なんて考えちゃだめじゃないか。切り替えないといけないな。でも…何をするべきなのか参考にはなるか。
真っ暗闇の熱帯雨林で、いつどこから襲われるか分からない状況で、しかも仲間を守らなきゃいけない不安な時に、神出鬼没と思われる凶悪な敵に襲われたらどうするか?
「熱帯雨林を燃やすか。」
「エ?」
我ながら、いつも通りの考えが頭に浮かんでしまった。だって、この暗闇の中にヴァンパイアロードがいて、いつ襲われてもおかしくないんだったら、この辺り一帯を火の海にしてしまえばそう簡単に手も出せなくなるじゃないか。そんでもって、火のおかげで当たりは明るくなるし、ヴァンパイアロードだってこちらに簡単に手を出せなくなると思う。
いつ襲われるかで怯えるくらいなら火に襲われていた方がまだ安心だろう。ヴァンパイアロードがどんな攻撃を仕掛けてくるのかも分からないし。よし。早速やるか。
「マスター。マジでやるんですか?」
「マジでやろう。」
<アノニマスターオンライン>では私がやりたいようにやると決めている。たまに我慢する時もあるけれど、それはそれ。まぁ確かにここで森林火災を起こしてしまえば、ドラゴンフルーツが犠牲になってしまうだろうし極力やりたくはない。だけど、それよりも今大事なのは私達の命なわけだ。
ドラゴンフルーツよりも仲間の命の方が大事。当然のことだというわけで早速燃やすか。
「すげぇ! ここで燃やすなんてやべー考えができるなんてマスター超やべえ! マジすげぇ! 俺、一生マスターについていきますよ!!」
「ビスケット。コレガ、ねこますサマノ、ヤリカタダ。ねこますサマハ、ナニヨリモイノチガダイジデアルコトヲシッテイルノダ。」
「すげぇ! マスターマジ半端ねぇ! おい、ヴァンパイアロード! お前のような奴にはできない決断をマスターはしたぞ! 今からその目ん玉かっぽじってよーく見ておけ!」
「ウム! キサマハタダノヴァンパイアゴトキダ!」
「ワレラガねこますドノニ、サカラッタラドウナルカ! ミヲモッテシレ!」
ちょっと待て…なんでみんなそんなに興奮しているの? なんかヴァンパイアロードにそういう状態異常にされる攻撃でもされているんじゃないのか? もしかして私もそういう攻撃をくらっているってことはないか? いやいや考えすぎか?
「みんな、もうちょっと落ち着いて。いい? これからこの辺り燃やすにしてもみんなも危険になるんだからね。特にビスケット! 巨体だからこそ燃えやすくなるから気を付けてね」
「えっ!? そこはねこますサマの飛行とかのスキルで飛んで逃げられるようにしてくれるんじゃ!?」
あれ、そういえばそういう事もできるじゃないか私。そうか、それで逃げるって手もあるか。なかなかいいやり方じゃないか。熱帯雨林に火をつけてそのまま飛行で逃げる。な、なんかこうやって考えるとかなり酷いことをしているような気分になってくるけれど、これも命が大事だからしょうがない。そう自分に言い聞かせることにした。
「ああ、うんまぁ。それはやるけれど、まずは火がつかないことにはね。いきなり空飛んで逃げるなんてしたらそれこそ狙い撃ちされそうだし。」
とりあえずこう言っておけばいいだろう。問題はブッチ達だけれど、多分なんとかしてくれると思う。というかなんとかしてくれると思うしかない。
「えー。それじゃあこの膠着状態をなんとかするために、やるけれどみんな覚悟はできてる? 私はできてる。」
(母上、大丈夫ですか? 危険ではないですか?)
おっと、ひじきだけは冷静だったな。うん、大丈夫だって。むしろここで何もしないままでいるほうが危険だよ。みんな眠くなってきて油断したころに攻撃されるかもしれないし。そうなる前にこちらが先に打って出るのがいいはず!
(何かを探るときは私を召喚してくださいね。囮にはなれますから。)
分かったよ。今のところは大丈夫だけれど、あてにしているからね。
「ワレワレノジュンビハデキテイマス。ねこますサマ。ヨロシクオネガイシマス。」
「OK! じゃあ狐火! そんでもって火薬草! おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃ!」
まずは狐火で景気づけというわけでもないけれど、これで思いっきり草木を燃やす。そこへ大量の火薬草を投げつけていく。あっ、なんだかこれ楽しくなってきたかも。だけどそれで我を忘れてはいけないので、慎重に、冷静に行動を起こしていく。
気になる事だけれど、ヴァンパイアロードは、私の行動を見てはいないんだろうか。それとも森林火災を起こされても別にどうってことはないってことか? 分からないな。あるいはヴァンパイアロードという存在に偽装したモンスターだったりしないか? あらゆる事態を想定しておかないといけないから可能性が低い事もきっちり考えていかないとな。
「ねこますサマ! イイカンジデヒガツイテマスヨ!」
「おっ。よーし。じゃあ火に囲まれないようにしながら逃げるよ!」
熱帯雨林から脱出するのが優先し、ヴァンパイアロードが姿を現したら戦う事にする。熱帯雨林の外で戦えたら一番なんだけれどそう上手くいくかどうかが問題だな。それと一番考えたくない事がある。
「ねこますサマ。ナニカ、フアンニナルコトデモアリマスカ?」
「たけのこ。そうだね。やっぱりこういう時は、はっきり言わないとだね。ヴァンパイアが沢山いるかもしれないって考えてたんだ。」
不安に思っていることを、考えていることをはっきり出すのは大事だ。抱え込むよりはっきり言う。これはとても重要だ。思ったことをはっきり言わないと後で問題になる。そう、私はさっさと結論を出すのが好きなんだ。だからはっきり言う!
「タクサン!? マサカソンナ。」
「ヴァンパイアロードって言うのは要するにヴァンパイアの中で偉い奴なわけで、だとしたらその配下のヴァンパイアがいてもおかしくないと思ったんだよ。」
ヴァンパイアロード一匹だけがいきなり攻めてくるものだろうか。他のゲームではそういう強い奴がいきなり一匹だけで攻めてくるっていうのもあったけれど、高貴なヴァンパイアロード様とやらが、わざわざそんなことをするのかと考えた。
「タシカニ、カンガエラレソウデスネ。デスガ、ロードデハナイノナラ。」
「ヴァンパイアって種族自体が割と強いモンスターのはずだからね。」
それが徒党を組んでいるとなったら結構きつい。高位種族なだけあって大体手強い設定をされているし、太陽の光を浴びない限り不老不死みたいな設定もあることが考えられるので、もしそうだとしたらかなり追い詰められている状況だ。
「でも、負ける気がしないんだよね。ブッチがいるし。」
「オオ、ブッチドノ! レンラクハトレタノデスカ?」
「いや、取れてないけれど、多分何とかしてくれる。」
多分、ヴァンパイアに襲われても、楽しくてしょうがないみたいになって戦ってくれるだろうからそこはブッチに任せたいなあ。私達は、ひとまずヴァンパイアロードに襲われないように祈るしかないな。
こうして、私はたけのこの背に乗り、リザードマン達はビスケットに乗り。熱帯雨林からの脱出をはかるのであった。