第337話「闇を突破?」
明日少し追記します!
日が徐々に沈んでいき、世界がに闇に包み込まれようとしていた。ブッチが暗闇の中でどれほど頑張っているのかは分からないが、今だ突破の兆しは見えていない。私達にとってはまずい状況になってきてきた。
ヴァンパイアと言えば闇夜に生きるモンスターなので、夜になれば能力が強化されるということもありえるだろう。そのヴァンパイアの中でもひときわ強いと思われるヴァンパイアロードであるのならば、著しい強化がされてもおかしくないだろう。
そんな強い奴を誰が相手にするんだと言うと、当然ブッチしかいない。こんな事を言ってしまうと、私が襲い掛かられてきそうな気がするけれど、私に危害を加えようものなら、絶対に許さない。もういい加減私じゃなくてブッチと戦えと思っているし。
強い敵と戦いたいのはブッチなのであって、私は名前を聞くからに強そうな敵を相手にしたくはない。というか相手をしたら即死する可能性もある。
なぜなら相手はヴァンパイアロード。油断も隙もあったもんじゃないだろう。今の所は姑息な手段で攻めてこようとしてきているので大したことはないと思いたくなったが、名前が強そうなイメージしかでてこないので、できれば戦うのを避けたい。
そんな強そうと思っている奴にどうしてブッチと戦わせるのかというと、私はそれだけブッチを信頼しているからだ。これまでも何度も頼ってきたし、戦いを任せれば何が何でも勝つという強い意志を感じるため、安心感がある。つまり、頼れる仲間というわけだ。
ブッチは言葉だけじゃなくて、実力もあるプレイヤーだ。なぜそこまで動けるのかと思わせる動きをする。とてもじゃないが私には真似できない。そんな動きを軽くこなしてしまうブッチはすごいとしか思えない。
「まだかブッチ…。」
ブッチなら暗闇の中ら出て来られるだろうと思っているのだが、いまだ出てこない。ひょっとして、どこか別な場所から出てきてないだろうかと思ったがそれもなさそうだ。つまり今もひたすら闇に向かって攻撃をし続けているのだと思われる。
「ねこますサマ。コノママ、コチラデマチマスカ?」
「ここじゃない場所でブッチ達が頑張っている可能性もあるけれど、結局どこにいるか分からないので、ここで待つよ。」
「カシコマリマシタ。」
この暗闇を壊すか何かしても、私達が今いる場所から出てくるかどうかまでは分からない。だとしたらどこで待っていても同じだと思うので移動するつもりはなかった。
「マスター。何か音が聞こえてきませんか? 何かを叩くような音と言いますか。」
「え…ビスケットには何か聞こえるの?」
「はい。少し遠くからドンドン何かを叩きつけているような音が。段々強くなってきているような気がします。」
それ、ブッチじゃないのかな。何かを叩きつけているって張り手で暗闇をひたすら攻撃しているんじゃないのかな。それしか考えられない。
「多分、ブッチが攻撃をしているんだと思う。音が聞こえてきているのはの証拠じゃないかな。もうすぐどこかでこの闇を吹っ飛ばししまうんじゃないかな。」
闇を吹っ飛ばした直後にまた闇に覆われてしまうなんてことも考えられるけれど、その時は流石に私もぶっ壊すのに参加させてもらう。一生懸命頑張ってもそれを一瞬で無にされるのは腹が立つし。それと、私達だけを狙ってきた場合もだ。隕石拳でも使ってやろうかとすら考えている。
「どうしたヴァンパイアロード! お前みたいな雑魚はビビって攻撃をすることもできないんだろう! マスターはお前みたいな奴は軽く倒してしまうぞ!」
どうしてそこで挑発をしてしまうんだビスケット! そういうことを言うと、プライドが高そうなヴァンパイアロードがこちらに向かってくるかもしれないじゃないか! 高貴とか高潔なイメージがありそうだから、怒りだすっていうのも考えられるんだぞ。
「ビスケット! そういうのはいいから! 油断しないで警戒して!」
「はい!」
潔い返事だけれど、多分、分かっていないだろうな。まぁしょうがないか。そう思っていた時、私にも何かを叩きつけるような音が聞こえてきた。ブッチだ。間違いない。ブッチの張り手としか考えられない。
(ブッチ様は、すごいですね。ずっと、この暗闇に向かって攻撃し続けるなんて、正気の沙汰じゃないと思いますよ。)
私もそう思う。飽きもせずにひたすら愚直に攻撃を続けるというのが凄い。壊せるかどうかも分からないことを壊そうとするという執念が凄まじい。
「ナニカオトガキコエルノダガ、コレハモシカシナクテモ。」
「キットブッチドノダロウナ。」
ドンドンと、何かを叩きつける音がとても強くなってきた。だけど、おかしくないか? 大分前よりも日が沈んできて、ヴァンパイアロードに有利な展開になってきたというのに、その状況下で間もなくこの闇を突破できそうだなんて。逆境に強い設定とかスキルがあるんじゃないだろうか。
「これで、だんだん追い詰められているような気分になってくるんだよなぁ。」
圧倒的に不利な状況を覆すものだから、ブッチとは戦いたくなくなる。どうしていつの間にか形勢逆転されているんだとかそんな感じだし。あらゆる手段を講じて追い詰めたと思ったら反撃されて、自分の方が追い詰められるなんて経験したくないことだ。
「ブッチドノハ、ツヨイデス。ミンナソレヲヨクシッテイマス。」
「マスターの友達はマジ凄いんですね! おっ! また音が高くなった!」
もう全部ブッチだけでいいんじゃないかな。じゃなくてぇ、こんな絶賛されるような主人公タイプなんだからもうブッチが魔者でもいいじゃないか。私みたいな奴を魔者になんてしておくのがおかしいんだよおおお! ううう。私だってブッチみたいにかっこよく決めたいときが多いのに、かっこがつかない戦い方ばかりだよ! ってこれ嫉妬じゃん私!
「私も主役っぽさが欲しい。」
「ねこますサマハシュヤクデスヨ!!!?」
「ねこますドノハ、ワレラガリーダーデスヨ!!」
うわぁ照れるなあ。じゃないよもう! くそーなんだこの敗北感は! 褒めてよっておねだりしているような感じじゃないか。こんな目に遭ったのも全てヴァンパイアロードのせいだと決めつけよう。全部あいつが悪いんだと思えばなんか気分が晴れるし。よし、そうしよっと。
「みんな、ありがとう。私は負けないよ。」
何に負けないかはよく分からないけれどそう宣言しておく。
「ナニカキュウニサムケガ!?」
ニヒキメが叫ぶ。私も何か不気味な気配を感じた。その時、どこか遠くて爆発でも起こったかのような音が鳴り響いた。ブッチが闇を突破したと考えるのが妥当だ。となるとこのやばそうな気配が、ヴァンパイアロードってことか!? まるで、熱帯雨林全域を包み込むかのような禍々しい気配を感じる。うおおお、これ、いつ攻撃されてもおかしくないんじゃないだろうか!?
「い、威圧!! そんでもって邪気!!!」
邪気は初めて使ってみるスキルだ。死人の髪飾りを手に入れた時に使えるようになっていたが、これまでは使ってこなかった。が、ここはヴァンパイアロードの強烈な気配に対抗するために使用する。まずは舐められないように、こっちも本気で戦うと言う事を証明してやることにした。
「来るなら来い! 私が相手になってやる!」
ブッチに相手にして貰いたかったんだけれど、私達の方にもこんな強烈な気配を感じさせてきたので、私が率先して動かないと駄目だと判断した。私以外のみんなに危害を加えられたら嫌だし。ヴァンパイアロードは高貴なので戦意がないものを狙ってこないと思ったので、まずは私を狙ってこいという意志を表明した。
しかし、私の声は熱帯雨林に空しく響き渡っただけだった。何の反応もない。おいおい、ここはいきなり襲い掛かってくるっていうのが定番だろうに、なんで何も起きないんだ。それとも何だ。姿を現さないということでこちらの恐怖心を煽ろうって魂胆か。そんなものは私達には通用しないぞ。だからだっさと出てこい。
「…何も出てこないとかふざけるなー!」
何かがいるような気配だけがそこにある。とても嫌な状態だ。これはつまり、いつ襲われるのか分からないという状態の方が不安になると知っているって事だな。流石ヴァンパイアロードだ。
どこかに潜んでいるけれど、すぐには出てこない。何もしなくても私達にプレッシャーをかけるのに十分なやり方だな。だけど、私の場合はこれで不安になると言うよりも、苛立ってしまう。なんでヴァンパイアロードの癖に弱者のような行動をするんだと思う。やっぱり強そうなボスっていったらそこにどっしりと構えていて、常に余裕が見える様な奴の事を言うんじゃないだろうか。
「マスターの言う通りだぞー! ヴァンパイアロードはこんな姑息な戦い方しかできないのか! この臆病者め! 何がロードだ! お前なんかそこらのヴァンパイアの100倍は劣るぞ!」
ビスケットの言いたいことは分かったけれど、煽りすぎて狙われないようにだけして貰いたいな。まぁそのうち誰かからきついお説教をくらうんじゃないかと思うけれどね。
「あー、ビスケット。しょうがないよ。ヴァンパイアロードって言うのは、ヴァンパイアの中で一番の臆病者がなれるってことなんだろうからさぁ。」
無謀なヴァンパイアなんていたら、能力が高くても多勢に無勢で真っ先にやられてしまいそうだな。 ヴァンパイアになると不老になるだなんてよく言うけれど、血を飲め続けなければ結局老いるということをみんな知っているわけでもないのが残念だな。
「もう一回! 威圧と邪気!」
念のためにもう一回使ってみたが、特に何も問題はなかった。これは、意地でも出てこないってことなんだろうか。腹が立ってきたなあ。さっさとこちらに向かってこいっての!
ブッチ達の動きについて特に変わったところはないな。この辺りにいるはずのにわざわざ探すのが面倒くさい気はしたけれどそのくらいならいいか。
あーもう! どこかに隠れているボスとかもっと自分に自信を持てと言いたくなるな! もうこんな面倒くさい事やってきたのが腹立ったし、さっさとボコボコにしてやりたいな!