第329話「魔者へのメッセージ」
毒狸の母もどきは、口から煙を吐いた後、そのまま地面に倒れた。うーん、おかしいなぁ、体内を爆発させているはずだから内臓というかまぁ色んな物も吹っ飛ぶんじゃないかと思ったんだけれど、そうじゃないようだ。
空間転移ボールの一発目を使った時にはそんなことになるんじゃないかと予想していたんだけれど、やっぱり表現の規制か何かがあるからなんだろうか。まぁいいか。
「ねこますサマ! ヤリマシタネ!」
「いや、まだ倒したかどうか分からないよ。死んだふりをしているかもしれない!」
誰がどう見ても、既に息を引き取っているように見えるが、私の場合はそれでも警戒することをやめない。もう終わったと思ったら復活して襲い掛かってきたことが何度あると思っているんだ。
私はそれが原因で疑心暗鬼になったようなものだしな。
「マ、マスター。」
後ろから、ビスケットがよろよろと、移動してきた。お、良かった、ちゃんと生き残っていてくれたか。仲間になったばかりでやられたらそれも嫌だったので、生きてて良かったな。
「ビスケット、よく生き残った! というわけで薬草やるからエネルギー補給してね。」
「おお、さすがマスター! ありがとうございます!」
あの時、ビスケットが毒狸の母もどきの攻撃を受けてくれたから消耗させることができたのかもしれないし、今回は本当に助かった。私だったら即死していたかもしれないし。
「ほいどうぞっと。そんでもってポイっと。」
ビスケットに薬草を渡した後、毒狸の母もどきに火薬草を投げつける。死体蹴りとは思うが、こうまでしないと安心できない。妖怪で化け狸なんて聞いたことがあるけれど、人に化けるだけじゃなくて、魂だけになっても襲い掛かってきそうなイメージがある。
そうそう、子狸というか普通の毒狸たちは、十数匹もいたけれど生命力を吸われつくされたのか、ひらかびたような状態で息を引き取っているようだった。子供を養分扱いしていたってことなんだよなぁこの毒狸の母もどきは。最初に会った時は子供想いみたいだったけれど、あれも演技だったのだろう。 やはり、どんなに優しそうにしていても信用できない奴って言うのはいるもんだなぁ。
親切そうな奴にこそ気をつけなきゃいけないっていうのは、現実にしろゲームにしろ同じだって言うのが皮肉な話だなあ。まぁでもこんなことはどこにでもありふれた話でもあるからなあ。海外に行けばぼったくられたというのと同じようなものだしな。
「うーん。近づきたくないなあ。」
気配感知には引っかかってこないのを見ると絶対に倒していると思うが近寄りがたい。だけど、アイテムが入手できるかもしれなかったので、近づきたいという気持ちがある。ここで無視してもいいとも思ったけれど紫色のワイバーンからも何も入手できていないのでここは入手しておきたかった。
「ねぇ、みんな、あいつが死んだふりをしていると思う?」
「スデニシンデイルトオモイマス。」
「ワレワレモソウオモイマス。」
「あそこまでやったのなら死んでいると思います。」
(母上、私も死んでいると思います。)
全員が死んでいると思っているか。ああもう、誰か一名くらい生きているかもとか言ってくれた方が良かったんだけれど、誰もいないとは思わなかった。くそう、近づいたら呪われたりしそうなのが嫌なんだよなあ。私にやられた恨みで悪霊化したり怨念で呪い殺そうとしたりしてきそうだ。
「はぁ、分かった、ちょっと様子を見てみるよ。みんなは遠くに離れていて。」
仮にここで呪われたとしても、多分私だけを対象にするのではないかと思うので、他の皆が犠牲にならないように対処しておく。私だって憑りつかれるとか嫌だけれど、覚悟を決めた。
「よーし! 何かアイテムをくれっ!」
意を決して毒狸の母もどきの亡骸に近づいた。さぁ何かアイテム手に入れ!
メッセージ:毒狸の徳利を手に入れました。
メッセージ:毒狸の仕込み傘を手に入れました。
お、おお! アイテムが2個も手に入った! やったぞ! これで紫色のワイバーンから手に入れられなかった件がすっきりした。ここで2個手に入ったのならもういいや。
それにしても徳利って、お酒を入れる奴だろうけれど、どんな効果があるんだろう。まぁまだ出さなくてもいいか。むしろ嬉しいのが、仕込み傘! これは絶対、和風の傘のことだよね! この流れからいくと絶対そうだよね! 多分、傘の中に刀が仕込まれていると思うので期待大だな。なんかこう傘を持って戦うとかカッコイイ気がしていたし、ふふふ。楽しみだな。
「よし! 呪われるとかそういうのは無かったみたいで良かった!」
何事もなく終わってよかった。これで後は、本当にドラゴンフルーツを集めればいいだけになったはずだ。いい加減私の邪魔をしてくるモンスターどもはいなくなってくれたよね!? もう私は思う存分ドラゴンフルーツを集められるよね!?
「ん? あれ?」
「ムッ?」
突然辺りが真っ暗になった。えー、毒狸の母を倒したから何かイベントが始まったとでも言うんだろうか。勘弁してくれ。これでやっとこさ面倒事が解決したと思ったのに。もういいでしょう。ドラゴンフルーツを集めたいだけなんだよ私は!
運営からのメッセージ:皆様、日頃は<アノニマスターオンライン>をプレイしていただきまして誠にありがとうございます。本日は、ゲーム内で話題となっている、お問い合わせの多い内容についてご回答させていただきます。
ん!? えっ!? 何それ! こ、こんなの今までプレイしてきて初めて表示されるメッセージなんだけれど! というか音声でも聞こえてきているし、一体何が始まろうって言うんだ!? やばいな、すごいわくわくしてきたよ。なんかすごい発表でもあるのかな! うわぁ、一体どんなイベントが始まろうとしているんだ!?
運営からのメッセージ:今回は、ゲーム内にて特例のご案内となりますことをよろしくお願いいたします。
な、何を勿体つけてくれちゃっているんですか運営さん! そういうのはいいから! 今までで一番期待しちゃっている私がいるんだから! ああもう何々!? すごいアイテムが手に入っちゃうイベントとかそういうのを紹介してくれるのかな! あぁーもうドキドキする! 年甲斐もなくこんなのでわくわくしてしまうなんて! もう私ってば駄目じゃないか!
運営からのメッセージ:称号「魔者」を持つプレイヤーが現在ゲーム内で1名のみ存在しています。魔者は特別な称号であり、1名のみが取得する事が可能です。なお、称号の所持プレイヤーについての詳細についてのご回答は控えさせていただきますのでご了承ください。
…。え。え、え、ええええええええええええええええ!? はっ!? な、何それ!? そ、それって私の事じゃん!? ななな、なんでよ! なんでこのタイミングでそんな案内を出すわけ!? ちょっと待ってよ! なんで!? わざわざ魔者の事を案内したのってどうして!? 何の理由があってそんなことを公開したの!? い、意味が分からないんだけれど!
運営からのメッセージ:今回は、称号「魔者」への質問が爆発的に増えたため、ご回答させていただきました。魔者の称号を取得する方法についての回答も控えさせていただきますのでご了承ください。それでは、引き続き<アノニマスターオンライン>をお楽しみください。
メッセージが終了すると、真っ暗になった空が、明るい空へと戻っていった。あはは、これで一件落着だ。ってそんなわけないじゃん! 何それ今の!? ありえなくない!? これ、私が魔者だってばれたら絶対に襲われるよね! どうせ他のプレイヤーが取得する条件って私を倒したらとかそういうのでしょ!? 絶対そうだ! そうじゃなくてもそういう風に予想したプレイヤーが襲い掛かってくる事間違いなしじゃん!
というかゲーム内でただ1名だけとかそんな煽りいれないでよ!? 何それ! ふざけんじゃないっての! これは抗議だ抗議! 運営から無視されそうだけれど、こんなの納得がいくわけないでしょ! 私が称号の事を話さなきゃいいだけって言うのもあるけれど、この展開って多分称号が見えるようになるアイテムとかあったりするんでしょ! まずいじゃん!
私、絶対に狙われるじゃないか! うあー! 別に魔者の称号にこれっぽっちも未練なんかないんだけれど、死にたくない! 絶対に死にたくない! どうしてこうなったんだよ!
普通に譲り渡すとかできないものなのかな! それとも私が死んでも譲れなかったりしたら、何度でも襲われそうなんだけれど! あーもう運営何やってんの!? 私はか弱い般若レディだし。ただの一般人だよ!
うう、私以外のプレイヤーはみんな盛り上がっているかもしれないけれど、私は全然盛り上がれないよ! どうしてこんなことになったんだー! くそー! 納得がいかない!
「ね、ねこますサマ。ダイジョウブデスカ?」
大丈夫じゃないよたけのこー! 私は争いごとが嫌いなのに、平和に過ごしたいだけなのにってこう考えてしまっているから逆に争いが発生しやすくなっているのか!?
「うあー! 魔者なんて称号いらないんだよおおおお!」
私は、熱帯雨林のど真ん中か分からないけれど、大声で叫ぶのだった。