第325話「また偽物か!」
10/13追記しました
ビスケットが見えているというドラゴンフルーツは偽物だった。だがおかしい。黒騎士が東に行けばドラゴンフルーツはあると言っていた。それにも関わらず一向に見つからない。行き過ぎたと思って一西側に移動してみたりもしたが、何も見つからなかった。明らかにおかしい。どう考えたっておかしいと思った私が下した結論があった。
「毒狸か何かが私達に幻覚攻撃を仕掛けてきているに違いない!」
そう断言する。黒騎士はその性格上嘘を言うわけがないと思っている。ああいう奴は無駄に真面目な時があるので、そこで嘘を言うのはそのプライドが許さないだろう。だからこの辺りには必ずドラゴンフルーツがあるはずだ。なければおかしい。
「幻覚って、俺にも効果があるんですかね?」
「ある。絶対にある。」
ビスケット相手には視覚を錯覚させているというか、別の位置にあるように見せかけるなんらかの攻撃をしているに違いないし、私達は既に術中にはまっているのだろう。ここが本当に行こうとしていた場所ではなくなってしまったかもしれない。
「絶対に毒狸の仕業だ。」
「ねこますドノ。ドクタヌキ、トイウノハナニカシタノデスカ?」
「前に私がくろごまと一緒にドラゴンフルーツを沢山採ってきた時に邪魔してきた。ここは自分たちの縄張りだみたいな主張してきて。多分私がまたここに来たことを警戒しているんだと思う。」
あいつらぁ、ちょっとくらいいいじゃないか。ドラゴンフルーツがないと、私はこの先とても困ったことになるんだぞ! それをこんなふざけたことをしてくれてぇ! ビスケットじゃないが、このあたり一帯を吹っ飛ばした方がいいんじゃないかとすら思い始めてきた。
「ねこますサマ。ドウシマスカ?」
「そうだねえ。」
試しにやってみたいことがあったのでやってみるとするか。毒狸どもに目にもの見せてくれる。私は、一旦深呼吸をする。そして、この熱帯雨林全体を見渡してから、気合いを込める。
「気配感知! と! 威圧!」
両方同時に使ってみることにした。どちらも全力で使ってみる。私の威圧を全力で使えば恐らく毒狸の一匹くらいは気圧されるだろう。そしたらどれだけ隠れていても、例えスキルか何かで潜伏していても気配感知で発見できるはずだ。
それは、予想通りだった。4匹ほど私の気配感知に引っかかった。へへへやっぱりそういうことだったんじゃないか。狸め。こういう風に化かしてくるのはお前らだって定番なんだからな。私がそれに気が付かないとでも思ったか。よし、急いで今見つけた奴らの所に急ごう。
「ねこますドノハ、ドンドンハクリョクヲマシテイキマスネ。」
イッピキメにそんなことを言われて思ったのだが、やっぱり威圧も威力が上がっているんだな。これで今後強そうな奴と戦うことがあっても気持ちで負けることはないだろう。
「とにかく急ごう。あいつらまたすぐに隠れて私の気配感知に引っかからなくなりそうだし。」
私も威圧を持っていそうな敵と戦った時にそうだったが、威圧には恐らく慣れがあると思われる。だから何度も使っていけば慣れた奴にはあまり効果がなくなってしまうだろう。
「いい加減ドラゴンフルーツを出せと言ってるだけなんだからな!!」
私は毒狸たちに聞こえるように叫ぶ。もしかすると、このタイミングで毒狸の母が出てくるかもしれなかったが、こっちはもう戦う準備もしている。生憎負けるつもりは一切なかった。黒騎士に勝って自信がついた気はしている。
ただ、黒騎士と違うのは、恐らく毒狸の母は奇怪な動きが得意そうだということだろう。正々堂々戦うなんて事はないと思われる。それが厄介だな。
「ねこますサマ。ドクタヌキトゼンメンコウソウッテコトデスネ?」
「そうだね。」
領地争いってことになるな。私はなんとしてもドラゴンフルーツを手に入れなきゃいけないので、ここでとれる数を制限されるのは困る。邪魔立てしてくるというのであれば、ここにいる毒狸を絶滅させる事すら考慮しなければいけない。あまりやりたくはないことだけれど。
「そんなにドラゴンフルーツがないと駄目なんですか? 代わりの物を探すとかは駄目なんですか?」
「スキルが沢山使えるようになる回復アイテムでもあればいいんだけどねえ。」
現状沢山手に入れられるのがこれしかないから集めようとしているのであって、そんなものがないから集めざるを得ないんだ。
「俺もそれは知らないですね。」
知っていたらすぐにそれを集めにいってたくらいだよ。だからここでドラゴンフルーツを集めなきゃいけない。将来を見据えると必ずだ。それが邪魔されるということが私には破滅しかない! 絶対に破滅がやってくる。アイテムがなくて全滅したゲームを思い出す。
「クロウニンが後ろに控えている以上はここで集めないと…!」
あいつらを常に意識する必要がある。そのためにここで何としても、ドラゴンフルーツを集めなきゃいけないんだ。さぁ毒狸、とっととかかってくるならかかってこい! そう思った時に、大きな反応が1つ、近づいてきている。毒狸の母か? また私にちょっかいかけられないように出張ってきているんだろうか。それもいいだろう。ここで決着をつけてやろうじゃないか。
「もう一回威圧!」
連発は控えようと思ったが、毒狸の母への牽制もかねて、連続で放つことにした。こういうのはなめられたら負けなので、ここで私の力を誇示する必要がある。どんどん反応が近づいてきていると思ったが、反応が更に大きくなった。
私に対抗してきたってことか。とことん張り合ってやろうじゃないか。私の邪魔をする奴は誰だろうとぶっ倒す!
「私はここにいるぞおお!!」
思わず、大声で叫びだす私だった。自分の居場所をわざわざ知らせるなんて自殺行為に等しいだろうが、ここでそこらのモンスターが私に襲い掛かってくることはないだろう。威圧を連発してやったんだ。そこまでやって威勢よく飛びしてくる奴はそうそういないだろう。もしそんな奴がいたらそれこそ、既に私へ攻撃をしかけようとしていただろうし。
「ねこますサマ! ナニカオオキナハンノウガアリマスヨ! ワタシデモワカリマス!」
「強い反応が一体! ワイバーン級かもしれませんね!」
うんまぁここまで来たら絶対毒狸の母だな。他の奴は考えられない。私は鎌を取り出し、強く握る。今なら絶対に勝てるだろうと考えている。クロウニンを一匹倒しているし、戦い方なんてどうにでもなるだろう。
問題なのは毒狸の母がどんな能力を持っているのかというもので、それ次第で苦戦するかもしれない。
「やあやあ! 呼ばれたみたいなんで来てやったよ! あんたなんだろう!? 私を呼んだのは!」
ここで、巨大な狸が当たりの樹を潰しながら目の前に現れた。とはいえ3メートルちょっとか。最近はこの程度のサイズは見慣れてきたので大きいと思えなくなってきたな。
「いやぁ急な呼び出しにわざわざ来てくれるとはご苦労様だね。というわけで私の邪魔をするな。」
「いきなりそんな要求が通ると思うかい? 今のあんたには、何の後ろ盾もないんだよ?」
迫力満点の怒り顔をこちらに向けてきている。これはかなりキれているな。自分の縄張りを荒らす奴を許さないって事か。
「ああ、あのちょこっとだけドラゴンフルーツをとれるようにした施し程度じゃあ意味が無かったからね。本気を出してとらせてもらおうと思ってねえ!」
私も負けじと毒狸の母を睨みつけた。そう、この間少しだけ成っていたドラゴンフルーツ。あそこにはこいつの誘導されたような気がしていた。つまりこれで我慢して帰れという警告だったのだと私は判断した。が、そんなもので納得できるわけがないだろう。だからここまでやってきた。私が必要としている分だけ集めさせてもらえなければ意味がない。
「そこまで気づいておきながらわざさざ反抗的な態度をとってくるなんて正気じゃないねあんた。どれだけ強欲なんだい。」
私が強欲だ? そんなわけないだろう。私にはそんなものはない。ただ生き残るために必要な事をやると決めただけだ。
「ドラゴンフルーツが沢山必要なだけだ。」
「はっ。一体いくら必要だって言うんだい?」
「軽く30万くらい。」
最低限このくらいは欲しい。普通に考えたら100万は欲しいので、30万は本当に少ない。
「は・・・はぁ!? なんだって!? どうしたらそんな数のドラゴンフルーツを使うって言うんだい!」
なんでこんなに驚いているんだ。使うに決まっているだろう。こちとらクロウニンと抗争、いや戦争をしようって考えているわけだし、それだけじゃない、将来的には他のプレイヤーと大規模な大戦があると予想している。
将来を見据えると、どうしてもこのくらい必要になってくる。こういうのは余る分にはいくらでもいいが、足りなくなったらゲームオーバーだーだから、必死になっている。それだけの話だ。
「たった30万、そんなの簡単になくなってしまうだろ。」
「…あんた、異常だよ。やっぱりあんたも魔者だね。そんな膨大な数を求めてくるなんてイかれちまっている。」
私の言ってることが理解できないとは、こいつこそおかしな狸だなあと思ってしまった。強敵と戦うためにはとことんアイテムを用意するに決まっているだろう。例えばアクションゲームでは、プレイヤーが何回までやられてもいいのかどうかというので残機という単位がある。難しい場所だと残機がどんどん減っていき簡単にゲームオーバーになってしまう。
これを回避するために残機を大量に集める方法を実施する事になる。つまり最初に残機を大量に増やしておくことで、何度も挑戦することができるので、ゲームオーバーを回避する事だって可能になるということだ。私がやろうとしているのはこれと同じようなものだ。
私の、今現在の残機が1だとしたら、これを100や200に増やしたいと思うのは当然のことだ。そう、これはリスクを回避するためにやるべきことだ。勝てるかどうかも分からない相手、クロウニンと戦うことになるのだから、私の想定を超えてくるかもしれない。それがどこまでなのか分からないのだから、徹底的にやるしかないだろう。
「膨大でも何でもない。それがなきゃ私が死ぬからな。」
話は平行線だ。このままこいつと戦うことになるか、それとも話し合いでなんとかなるのかはまだ分からないが、どこからか奇襲されないように注意しないといけないな。