第322話「答えなさい」
10/10追記しました。
3時間が経過したその時だった。黒騎士の体から黒い光が輝いた。その瞬間に、黒騎士は起き上がり、体を軽く動かし始めた。やっと復活か。ふざけやがって。私が折角集めた薬草を大量に使わせたのがとてつもなく憎い。今すぐもう一回倒してあの世に送ってやりたい気分だ。
「で、復活した気分はどうだ、黒騎士マーシャルさんよぉ!」
「む、俺のその名前を知っていると言う事は、先代の魔者と会ったのか?」
「さぁてなぁ。それよりも、この大陸の管理者というからには色々やっていたんだろ。それを私達に何でも話してもらおうか!」
「断る。」
なんだこいつ。私と契約したんだから主従関係があるんじゃないのか。何でこんな逆らってきやがっているの。本当に腹が立つ奴だな。
「理由を聞かせてもらおうか。」
「お前はまだ、その領域に到達して。むっ!」
むかついのたで真空波を2発ほど放ってやった。黒騎士はあっさりと剣で止めてしまったが、少しすっきりした。
それにしても、いるんだよなあこういう奴。さっさと事情を話せばいいものを今はまだ無理とか決めつけてくる奴。ゲーム序盤に意味深なことを喋ったと思ったら、ゲーム後半に重要な意味を持っていたみたいな設定がある。こいつがやってきているのはその類なんだろうがむかつく。
「さっさと話せ。」
「貴様にはまだ早い。」
「早くない。四の五の言わずにさっさと言え。雷獣破。」
私はここで黒騎士を倒しにかかった。これでまた重傷まで追い込んでもお構いなしだ。納得がいかないことに対しては絶対になんとかする。それが私の主義だ。どうせ後で知ることになる情報なのに、ここで伏せられるのは絶対に納得がいかない。
「ぐっ!」
黒騎士は剣で防御態勢をとったが、その件に直接雷獣破を当ててやった。そして衝撃で黒騎士は後方へと吹っ飛んだ。
(おいおい、病み上がりの相手に普通そこまでやるか?)
おいおい、病み上がりの癖に普通私の質問を拒否するか? というのが私の意見だ。ここで私に話すことの何が問題だというんだ。まだその資格がないとかまだ権利が無いとか、そういうのは間に合っている。知りたいときに教えろと。魔者の大陸の管理者として何をどんなことをやって何をしなければいけなかったのかを全部話す。それっぽっちの事だろう。
「やはり、魔者というのは強引だな。」
黒騎士は、膝をつきながら、地面に剣を突き立てていた。あれ、生命力が完全に回復したとか言う割には苦しそうに見えるな。ああ、疲労までは回復しないって事なのかな。それなら分かりやすいな。
「強引も何もないっての。さっさと教えてくればいいだけの話をぐだぐだ言い出しているのが分からないだけ。後、単刀直入に言うと、私はお前の秘密主義が大嫌いなだけ。」
「お前はまだ知らない方がいいことだと言っている。」
「そんなのは関係ない。私が今ここで知りたいと思っているのに話さないのは許さん。」
というわけで威圧も使った。あのねえ、私はさっさと話せと言っているのにどうして頑なに話そうとしないんだろうね。私が回復してやったっていうのにその恩も忘れて今は話せないとかさぁ。どうせ大したこと無い話だろう絶対。
「ふーぅ。助けてもらった恩は忘れん。が、ここでお前に話すわけにはいかない。いかにお前が魔者だったとしてもな。」
「ならもう一回死ぬか?」
私は、ゲームをプレイしていて特に気に入らなかったことが、こういう事情を知っている奴らがそれをずっと隠し続けたことで大きな問題が発生してしまう事だ。何らかの事件の真相を特定の人物だけが知っている状態だったために起こる悲劇なんてものも沢山ある。
要するにすれ違いという奴で、お互い相手の為を思っていた事があるのにそれを口に出さなかったことで最悪の結果を招いてしまうことがある。最初からそれを話しておけば問題なんて起こらなかったのにというの沢山経験してきた。そういうことにならないために、最初に情報を教えろと言っている。
「いいか。知ると言う事には責任が伴う。その覚悟が無ければ。」
「ある。」
あーこういうやり取り面倒くさくて嫌いだなあ。誰かに聞かれている可能性があるから話せないとか言うなら分かるけれど、そうでもないのにこうやってひた隠しにされるのが面倒くさい。このやり取りを後何回繰り返せばいいんだろうか。
「私はな、何でもかんでも話せって言ってるだけなんだよ。それで白黒はっきりつけられるからね。だけど中途半端なままだと、何もしようがないだろ。」
私の意見としては、事情をしっかり知っていれば様々な状況に対応できるというものだ。ここで黒騎士から何も情報が得られないというのは、今後考えられる問題に対して対応がしきれないということでもあるので、早く答えろとしか言いようが無かった。
「話すことが問題になるとは考えないのか。」
「考えないね。どこかの誰かが私達の会話を聞いているかもしれないとかそういうことならそれを今ここで言えばいいだけだし、話せないならまずはその事情を話せ。」
どこかの誰かに盗み聞きされることを警戒しているならそれを言えばいい。誰かに知られたらまずいことなんて沢山あるが、ならばそれを初めに言えばいい。知っている癖に何も話さない事には腹が立つ。
「魔者の大陸は何故他の大陸にいる奴らから発見されない?」
「…それは言えない。」
魔者の大陸は一体どこにあるという事が問題ではなく、何故誰もがこの大陸に訪れることがないのかというのが疑問だった。海底洞窟から移動できるが、それ以外の方法でだってここに来ることができるのではないか。だが、これまで他のプレイヤーが来るということは全然なかった。
<アノニマスターオンライン>がサービスを開始してそれなりに時間が経過しているが、、未発見のままというのに違和感を覚えている。だから、それがどうしてなのかを黒騎士に聞いてみたがこの有様だ。というわけで魔者に聞いてみるとするか。
(さぁな。俺は何も知らない。)
こいつも明らかに知っているはずなのに話そうとしないのが不愉快だった。これは、そういう風にゲーム的に設定されているってことか? ここでいくら聞いてもそういう風に回答するようになってしまっているんだろうか。
魔者の大陸に関する情報が秘匿されている可能性がある、なんて考えてもいいんだろうか。設定上は確かに存在しているが、その内容についてはNPCから説明はできないようになっている、と。そうであればこの黒騎士や魔者が回答できないのも納得ができる。だけどこれが確定していることではないので、それをここで確定したいという気持ちが強い。
「なら次だ。魔者の大陸は何をするためにある場所なんだ?」
「それも言えない。」
もういい。私の予想だ。魔者の大陸には貴重な資源が沢山あると推測される。そしてそれを使えば、人間の大陸を滅ぼすことができるのだと思われる。なぜそんな事を考えているのかと言うと、ここが秘匿されるならそのくらいの事情がなければ納得できないから。
「なんでたけのこ達を襲った?」
「…そこのゴーレムが暴走している可能性が高かったからな。」
「で、実際はどうだった?」
「あぁ、確かめてみたが現状は何ともないようだな。だがそれを邪魔してきたからには戦わざるを得なかった。」
ビスケットを危険視したということか。ビスケットも結局どこからともなくやってきたゴーレムだったし、恐るべき兵器みたいなものなのかもしれないなあ。最初に戦った時みたいな完全な状態でかつ大量にいた場合は、それこそ人間の大陸を支配できてしまいそうだ。
「はぁ。なんで私が妥協点を見出さなきゃいけないんだか。いいか。この大陸の管理とやらはお前に任せる。が、ビスケットとか私の仲間に手を出すのは断じて許さん。」
「手を出さないことを約束しよう。」
これで私の不愉快な気持ちが収まることはないのだが、これ以上やっても無駄そうな事をいつまでも続けるのもうんざりしてきた。ドラゴンフルーツを集めに来ただけでまた面倒くさいことになってきているわけだし。
「マスター。俺はちょっと聞き捨てならない。なんでいきなり俺が暴走していると思われなきゃいけなかったのか。」
「貴様のコアが通常ゴーレムが持っているコアとは全く異質なものになっていたから、だ。暴走の可能性が極めて高いと判断した。その見た目もそうだがな。」
あー。これは私がコアを半分にしたからか。あっ、これは私が原因とか言う流れにしたいってことじゃないのか。冗談じゃないぞ。最初にビスケットに襲われたのも私が何かしたわけでもないし、倒した後に半分にしたのだって、何か問題が起こらないように努力した結果だし、それで黒騎士に襲われたのだって私には関係ないし!
「ビスケットは暴走も何もしていない。そういうことは辞めてもらおうか。」
「あぁ。魔者のお前の所有物になっていたというのなら問題はないだろう。」
なんだこいつ。偉そうに言いやがってというわけで真空波を撃っておく。私だけじゃなくてビスケットだってこんな言われ方したら腹が立つと思ったので、ここまでしなきゃ気が済まない。まぁ大剣で防がれてしまったけれど。
「納得がいかないので撃った。」
「そうか。」
「そういう態度が駄目なんだよ! 誠意を現せ誠意を! こういう時は潔く謝るんだよ!」
「…すまなかった。」
私は気が済んだ。ビスケットも気が済んだようだ。こういう分かりやすいことをしてくれれば私は怒らずに済むんだよ。ったくこの黒騎士め。
(マーシャルに謝らせるとはやるなお前。こいつは機械的な奴だというのに。)
確かにこいつもひょっとしてゴーレムなんじゃないのかなあ? なんて思い始めてきたが、それは良く分かってないのでいいや。
だけど、この後も質問攻めにしてやったって言うのに全然答えられないとか腹が立ってしょうがなかった。何なんだよもう。折角倒して、折角復活させたって言うのに、何の意味があったって言うんだ。嫌になってくるなあ。