第321話「復活の儀式」
明日追記します。
10/9追記しました。
「むしゃむしゃむしゃむしゃ! むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ! むしゃ! ああああああ!」
「母上! 頑張ってください!」
(はははははははははは!)
私は、ひたすら薬草を食べていた。真剣に薬草を食べていた。必死になって薬草を食べていた。なぜこんな事になったのかと言うと、私の生命力がガンガン黒騎士に流れ込んでいるためだ。
私の生命力を分け与えればいいという話だったが、それだけでは全然足りないということが発覚し、薬草を食べてその分を補填していくということになった。
ひじきによると、黒騎士の復活には想定していた以上の生命力が必要になったということだった。普通はここまで必要にならなかったようなのだが、黒騎士はかなり上級のモンスターに位置づけられていたようなので、復活にかかる生命力が膨大になってしまったということだ。
「むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ!」
(ほれ、もっと食べろ! 食べ続けないと死ぬぞ! はははははは!)
ひじきが発動させた契約は、途中で解除することができなかった。つまり、黒騎士を復活させる分の生命力を私からどんどん吸い取られてしまっている。しかも強制的に。なのでこのままだと私の生命力が尽きることになる。尽きたらどうなるのかというと、当然私が死ぬことになる。そんな馬鹿な話があっていいものかと思ったがそういう仕様らしい。
私は、死にたくない一心で薬草を食べ続けている。ふざけるんじゃないと思いながら食べ続けている。魔者は私の頭に不快な笑いを届けてくる。多分こうなることを知っていたのだろう。無性に腹が立っているがそれは後で文句を言ってやろうと思う。
食べなければ死ぬ。これが今の私にとって一番大事な事だった。ちなみに魔力の方は大して必要じゃなかったらしいのでこちらについての問題はなくなっている。生命力、ただひたすらに生命力が必要なだけだ。
あれだけ鎌で斬り裂いて倒した黒騎士だったのに、今度は復活させるために死力を尽くすことになるなんて皮肉な話だ。って言ってるそばからなんだか生命力がとられていってる感覚がある!
「むしゃむしゃむしゃむしゃ! ふじゃけんな! むしゃむしゃ!」
(マーシャルをあれだけ傷つけて倒しちまったんだからそりゃこうなるよなあ。けどあいつを復活させようとするなんて無茶な話をよくやる気になったよなー。ははは。)
私がやろうとしていたことは、どうやらかなり大変な事だったと今さらながら後悔しているが、もう遅いのでやり切るしかない。幸い、薬草はかなりあるのでなくなることはないだろうが、ここで私が少しでも食べるのを中断すれば生命力が尽きることは間違いないだろう。
薬草はあまり噛まずに、そのまま飲みこむような勢いで食べているが、胃の中がどうなっているのかなんてこえとは考えないことにした。
これまでもそうだったが、薬草を食べて満腹になるなんてことはなかったし、きっと食べた時点で消滅してしまうのだろう。このあたりはゲーム的な設定で感謝している。
「むしゃむしゃむしゃあ!!!」
百個、千個と、どんどんなくなっていく薬草。こんなに食べているのに、この黒騎士は復活しないとかふざけるんじゃないぞ。お前の生命力は薬草千個以上なのかとツッコミをいれたくなる。
これを途中で辞めることが許されないって言うのがきつい。なんでこんな事に成っているんだと思いながら食べ続けている私がいた。これからは、こういうことを軽い気持ちで引き受けないようにしようと心に固く誓った。
(くっくっく。こんなに薬草を食べまくっている情けない魔者なんてお前くらいなものだろうな。)
私の仲間に襲い掛かって傷つけやがった黒騎士をわざわざ復活させようとしている心優しい魔者も私しかいないっての!あぁもう腹が立ってくる。むしゃむしゃぁ! 私は草食動物じゃないだっての。それに私は薬草を食べるのが専門なんじゃなくて、集める方が専門なんだよ。こうやって減っていくのを見て、悲しくなってくる!
「ねこますサマ。ガンバッテクダサイ。」
「ワレワレモオウエンシテイマス。」
「マスター。頑張って!」
たけのこ達が私の元に戻ってきていた。薬草をたくさん食べたので傷についても問題はなくなったが、みんなの目の前でこの黒騎士を助けようとしているのがなんか嫌だなあ。今は薬草を食べまくっているからなんで襲われたのかまでは聞けていないし、ああもう。食べても食べても終わりが見えない! 折角ここでドラゴンフルーツを集めに来ているのに逆に薬草が無くなるとか酷すぎる! 私はもっと薬草を大事にしたいのにさあ!
「むしゃむしゃむしゃむしゃあああ!」
むしゃくしゃしているからむしゃむしゃしている。うん、面白くない。つまらない。ええいそんなこと考えている場合じゃないんだよ。ここで食べることに集中しなきゃダメなんだ私は! 黒騎士もそこに寝転がっていないでさっさと復活しろっての! これだけ食べているんだから何とかなってくれてもいい頃だろう!
「むしゃ、まだおわらないの? むしゃむしゃむしゃ。」
行儀が悪いのは分かっているが聞かずにはいられなかった。後、どのくらい薬草を食べ続ればいいのか分からないのが気になってしょうがなかった。このまま延々と強制ログアウトさせられるまで食べ続けなければいけない状況になったら、ここまでの努力が水の泡になるので、答えが知りたかった。だけどひじきから帰ってきた返事はと言えば・
「すみません母上。後どのくらいなのかというのも私には分かりません。」
という無慈悲なものだった。えー!? 私は終わりの見えないレースをし続けなきゃいけないのか。そんな馬鹿な。黒騎士め、許さんぞ。なんで私がここまで苦労してお前を復活させてやらなきゃいけないのか。お前が復活したら、絶対にぼこぼこにしてやるからな。
そう思ってからも更に食べ続けて、気が付けば2時間以上経過していた。ひたすら薬草を食べ続けている。なんでこんなことになったんだと思いながら食べる。今、私は人生で一番大食いをしていると断言できる。胃袋の概念が無いようなのでただひたすら食べることを続けている。私の腹の中にどんどん薬草が収まって、消えていく。
途中、昔倒したソルジャーゼブラの事を思い出した。確かあいつは薬草を沢山詰め込んでやって窒息させて倒したはずだけど、腹の中に入ったらすぐ消えるというのなら、おかしくないだろうか。敵に対してなら回復させずに食べさせることができるようになっていたということなんだろうか、これは今後も検証が必要だな。
こんな感じでもう薬草を食べながらも頭の中で色々考えられるようになってきた。もう2時間も続けているせいなのかどうかは分からないけれど、今後は戦闘中も食べながら考えることが出来る気がする。今までもやっていたのはあるけれど、気がそれるというか、集中力を欠いていたほうが多かった。
ここで、薬草を食べながら他の事をやる事になれていけば、今後の戦闘も楽になるだろう。そうなるとこの薬草食べ放題というか食べなきゃ死ぬ儀式も役には立っているだろう。これで私が死ななきゃいい結果で終われるのだが、やっぱりまだ終わらない。生命力がどんどん削られていくのが感覚だけでも分かってしまう。
そう、これも今回の事で覚えたことだ。今までは、自分の生命力が削られているという感覚なんて全くなかったのだが、延々と生命力が吸い取られているので、徐々にどの程度生命力がなくなっていってるのかが感覚的に分かるようになってきた。怪我の功名というのは変な話だが、このおかげで今後は自分がどれだけ生き残れるのかが分かるだろう。
(なかなか粘るな。マーシャルの生命力はかなりのものだというのに、それを全回復させるためによくもまぁそこまで薬草を食べられるもんだ。)
魔者がまた何か語り掛けてくるが、大体私に対する煽りだけなので無視している。が、なんか聞き捨てならない台詞だった。全回復だと? なんでわざわざ全回復って話になる。もしかして、黒騎士って復活自体はもうしているってことじゃないのか?
おい魔者、お前どういうことだ!
(おっと口が滑ったなあ。まぁそういうことだ。こいつ復活はもうしているようだぞ。で、折角なんてお前が全回復してくれるまで知らぬ存ぜぬをしようとしているってことだ。)
な、な、なんだとおおおお!? 黒騎士、お前ふざけたことやっているんじゃないぞ。ということは、私はもう薬草を食べなくてもいいんじゃないか?
(いいや、ここでやめたらマーシャルに生命力が吸い取られてお前が死ぬだけだぞ。マーシャルは全回復するまで契約完了と認めないらしいな。)
ふざけるなこの黒騎士。いい加減にしろ。我儘すぎだろ。私にやられた腹いせか!? お前が先にこっちに手を出してきたくせに、ふざけるなと。完全復活しないと私を認めないだあ!? おう、じゃあやってやろうじゃないか。このまま薬草を食べて食べて、お前の生命力を完全回復してやろうじゃないか。その後またボコボコニしてやるから覚悟しておけよこの野郎。
ああ、すごい腹が立ってきた。こんな何時間もかけてやる必要がなかったことを、黒騎士のせいでやるはめになったとか、納得がいかない。今後、こういう契約をやるときは絶対に注意だ。私は過去に苦しんだことを決して忘れないんだからな。ゲームで失敗してきたことは、これから同じような事があったときに必ず活かしているんだ。黒騎士のせいでこんな風になりましたってことは、黒騎士が何かやらかすたびにねちねちと言い続けてやる! 私はそういうところ根に持つタイプなんだからな!
(お前って執念深そうだよな。)
魔者、お前もおしゃべりになったもんだなあ。なんでそんなに喋りまくっているんだ? もしかして私が黒騎士を倒したからそのせいか? それで喋れるようになったってか?
(そうだな、お前がちょびっとだけましなレベルになったからだな。)
魔者も、黒騎士も私をブチ切れさせたいらしいな。こいつら、本当に後で覚えてろよ!