第319話「黒騎士との決闘?」
黒騎士の剣術が激しさを増すが、私はその攻撃を徐々に読み切れるようになってきていた。黒騎士は恐らく本気で襲い掛かってきてはいないだろう。しかしそれでも激しくなった攻撃も私には届かなくなっている。黒騎士にも疲れが出てきているなんて言うつもりはない。恐らく向こうも何か狙っているだろう。何も考えないで馬鹿正直に攻撃を繰り返しているわけがない。
お互い黙って戦うようになっている。私も黒騎士も一言も発しない。鎌と剣が交差する音が、移動の時に土を蹴る音だけが荒れた熱帯雨林に響き渡る。
どれだけ打ち合っただろうか。私には肉体的な疲労はないが、精神的な疲労はある。黒騎士は恐らく肉体的な疲労があるだろうが、精神的には、良く分からないな。
こいつが生きている人間なのかどうかも分からないしな。鎧の中身が実は空で、それを操っているのはどこかの誰かみたいな事であっても驚かない。そういうことも結構あるし。正体は鎧を操っているモンスターだとかNPCだとかそういうのがいても全くおかしな話じゃない。こいつがどういう存在で何故たけのこ達を襲ったのかも分からないしな。ただむしゃくしゃしてやったとか言うのもありえそうだけれど、そんなことは許さん。
私が魔者だから狙われたとしてもな。この野郎の事情なんか知ったこっちゃないし。私はこいつが気に入らないからここでぶっ倒してしまいたいだけだ。
「戦いの最中で成長するとはな。流石は魔者と言ったところか。」
ようやく言葉を発した黒騎士には余裕といったものが見られなかった。いいや、こういう奴に限って最後の手段だとか奥の手を隠しているんだよな。最初から全力で来いって思っているけれど、そういうことをしないのは本当に馬鹿だなあと思う。そうしていれば私を簡単に倒していたのにな。
私にとっては全力を出されないと言う事は好都合であって、付け入る隙ができる。黒騎士は私をまだまだ弱いとなめてかかっていたからこんな事に成っているし、全力を出さなかったから、私に動きを覚えられてしまった。
これがわざとやっていることでもなんでもないと思うので、この黒騎士、実はかなり頭が悪いのではないかとも思い始めてきた。海底洞窟では圧倒的な強さを誇ってきたし、今だって、そう簡単には倒せそうにないくらい強さをひけらかしている。
それでも、私が勝てないなんてことはなさそうな感じしかない。なんだか段々こいつが大したことのない奴に見えてきてしまった。だけど、私は私でこいつを倒す決め手に欠けている。そして今だこいつに攻撃を当ててはいない。こいつの攻撃は当たらなくなったし、私の攻撃も当たらないという膠着状態になっている。終わらない戦い。終わらせられない戦い。それがずっと続いている。
これをなんとかするためには、私がもっと強くならないといけない。こいつよりも早く動き、こいつに攻撃を当てる。それしかない。黒騎士にまだ攻撃を一度も当てられていない。
「ずあっ!」
「ふんっ!」
やはり剣で防御される。だけど、ここで気づいたことがある。今までは防戦一方だった私が、今度は攻撃に転じている。黒騎士も攻撃は続けてきているが、私はそれを何度も弾いている。おいおいどうした黒騎士さんよぉ。さっきまで鎌を馬鹿にしていたよな! どうだ、鎌は強いだろうという勢いで私は攻撃を重ねて重ねて剣に当てていく。そうだ、この剣をぶっ壊してしまえばいいんだな。
「うぉおおおおおお!」
黒騎士が雄たけびをあげた。これは全力だ。絶対に全力だ。私には分かる。やっと来たか。やっとこさきた。
「まさかここで全力を出すことになろうとはな。黒騎士マーシャル参る!」
まーしゃ、ましゃ、まじゃ、魔者? いやそれは関係ないか。というか本当に黒騎士だったのか。おっとそんなことに夢中になってはいけないな。よし、こいつが名乗ったからには私も名乗ってやろうじゃないか
「私は般若レディねこます! 魔王になる女だぁあああ!」
…やばい。なんか勢いで魔王とか言ってしまった。魔者ですら手を焼いているような状態で何を言っているんだ私は。くそっ!雰囲気に飲まれて言ってしまった! まあいいか!ここはノリだノリ!
「魔王とは、大きく出たものだな。ならばこの俺を倒していくんだな。」
黒騎士が構える。なんだか決闘のようになってしまっている。元々そんな感じだったからいいが、こいつが全力を出すって言うなら私も全力を出さないとな。錬金術士の杖を取り出し、左手に持つ。ここは時間凍結が絶対に必要になるだろう。
使った後のリスクが高いのでそう簡単には使えないので慎重にならないとな。
(おい…。なんで今度はマーシャルと戦ってやがるんだ。)
五月蠅い。邪魔をするな。私は今忙しいんだ。黒騎士の事を何か知っていたとしてもここで話している暇なんかないんだ。ここはさっさと消えておけ。
(いやお前、そいつは。)
魔者の奴がうるさいが聞こえないことにしておく。一騎打ちの邪魔なんてするな。ここはお互い真剣なんだよ。私は、黒騎士マーシャルとか言う奴に思い知らせてやらなきゃいけないしな。たけのこ達が何をされたと思っていやがるんだ! ああ思い出しただけで腹が立ってきた。よりにもよって私がいない時に手を出しやがったからな。
あんなにボロボロにされて、苦しい思いをしただろう。その苦しみをこいつに百億倍にして返さんと私の気が済まない。んががが。
メッセージ:真蛇モードを発動しますか?
これは、確かスライムを倒した時の。あぁ。発動するか。はい! 発動しろ!
メッセージ:「白蛇だいこん」がこの場にいないため発動に失敗しました。
ならそんなメッセージを表示するんじゃねえ! だいこんがいないと発動ができないとかどういうことだよ! もうそんな力に頼らなくても私はこの黒騎士をぶっ倒してやるっての!
「行くぞ!」
黒騎士が持っていた剣の大きさが変わった。ただの剣じゃない。かなり巨大な大剣だ。これを私に振るってこようっていうのか! いいじゃないか受けて立つ!
(母上! ダメです! その剣を受けては!?)
頭の中でひじきの声がこだましたがその声を聞き入れるわけにはいかなかった。この巨大な剣が、例えさっきの黒曜竜刃断とやらと同じ威力だったとしても、私はこの鎌で受け止めなければ気が済まない。あいつはこの鎌も馬鹿にした。千を、万を刈ってきたこの鎌を。この鎌はあいつの大剣に負けるようなことがあってはならない。それが私の誇りだ。
執念だ執念。これがきっと私の鎌に力を与えている。そうだろう。そうだな。だってこの鎌が今までよりもずっと赤黒く輝いているし。これであいつの大剣をぶっ壊してやれって事だろう。
「こっちも行くぞ!」
「うおおおおお!」
右手の鎌を振り上げる。そして、黒騎士の大剣とぶつかる直前に私は、それを使った。
「時間凍結。」
そして私は、そのまま黒騎士の腹を鎌で何度も斬り裂き、すぐに時間凍結を解除した。
「なっ!? ぐあっ!? なんだと!?」
これが狡い? そんなわけがない。私は決闘をするなんて言った覚えはない。これが卑怯? そんなわけがない。私は鎌だけで戦うなんて言った覚えがない。勝つためには手段を択ばない。それが私だ。私はこいつを倒すことだけが大事だ。倒し方なんてどうでもいい。倒せればそれでいい。勝ち方にこだわるようなことをする余裕なんて一切ない。
黒騎士は苦しむ。身動きが取れなくなっている。そこへ私は更に攻撃を加えていく。ふぅ、こいつは海底洞窟でも私になめた態度をとってきたからな。偉そうに上から目線で。その時からずっと許せなかった。こいつがどこの誰だろうがここで倒す。私は地面に突っ伏している黒騎士を更に鎌で何度も斬りつけていく。何度も何度も。繰り返してこいつが何もできないようにする。
ひょっとしたら復活の可能性があるかもしれないと入念に攻撃をしていく。こいつが苦しみあえぐ姿を見ていて、たけのこ達も同じ目に遭ったのかと思うと苛立った。
「ぐぐ、まさかこんなことになろうとは。」
こいつから何か聞き出せることがあるかもしれないがそれも興味が無かった。私は基本的にそういう設定的な事は分かればいいと思っている程度だからだ。
今までプレイしてきたゲームでもさっさととどめをさせばいいのに、なかなかとどめを刺さずに敵の話に耳を傾ける主人公がいて散々腹が立った。だから私はここでこいつには何も話させずに黙々と攻撃を加えていく。当然こいつの持っている武器も遠ざける。こいつの顔は見えていないが顔の確認も必要ない。魔者が何か語り掛けてくるがそれもどうでもいい。無視する。
あぁ、なんだかすっきりする。私はこういう風にゲームをしたかったんだなあと実感した。いつも必ずいいところで、ワンパターン通りに進む設定ばかりがあって、それが嫌だった。
なんでこういう風にまずとどめを刺しておかないんだろうと思ったが、自分がそれをやったことで、手っ取り早く終わって清々しい気分になった。
「ふーっ。手こずらせやがって。こいつ。」
確実にとどめを刺したはずだが、私はまだ安心していない。こういうのが怨霊になったりするのが定番だし、どこかで復活を遂げるなんて事もありそうだからな。こいつと同じような奴も沢山いるかもしれないし。それは油断ならない。
(おいおい、マジで、マーシャルを倒しちまったのか。)
魔者の声が聞こえてくる。うるさいなあ。私はこいつに酷い目に遭わされたんだから、こいつにはちゃんとあの世にいって貰わないと困るんだっての。
(容赦なさすぎだろ。お前、魔者の中でも好戦的なほうじゃないか。)
私に手を出さなきゃここまでしなかったっての。私と私の仲間に一切攻撃をしてこないならこんなことにはならないんだよ。私にはそれくらい大事だったんだから。別に私に対してだけ攻撃をしかけてきていたらここまではしなかったよ。
(お前、マーシャルはこの大陸を管理している奴でもあったんだぞ。それがいなくなったらどうなることになるのか分かっているのか。)
そんなことは知らない。これから苦労することになっても知らない。私は思った通りにやりたいようにやっただけだし。ここでそれをしなかったらむしろそっちの方が問題だった。
(はぁ、やれやれ。そんじゃちっとばかり俺と話そうか。)
なんだ、説教タイムか。こっちがやれやれだっての。
設定どおりに進まなきゃいけないというのが苦手で、ひねくれた行動をとるのが自分です。
この小説は特にそんなひねくれた自分が書きたかったものでもあります。