第318話「黒騎士」
追記までお待ちください!いつもすみません!
読んでくれている方は本当にありがとうございます!
10/6追記しました。
黒騎士の動きが先ほどよりも素早くなった。ギリギリ回避できていた剣がたまに私の体をかすめるようになってきた。まずいな、じわじわと削られていく。だがここで諦める般若レディ様じゃないっての。
常に薬草を口にしながら戦う。ひたすら回復をし続ける薬草作戦だ。そう、私は薬草を食べる余裕はある。薬草を食べながらこいつに攻撃をし続け、こいつの攻撃を少しずつ食らい続けるという感じだ。
動きには徐々に慣れていく。目が追い付かないかと思ったが、段々と慣れていく。動体視力がいいほうなのか分からないが、ゲームでは敵の攻撃を回避するのに役立っていた気がする。
「どうした? さっきまでの威勢は?」
という挑発をこいつもしてくるが、そんな挑発に私が乗ると思っているのか馬鹿め。散々ネットで煽られてきた私の煽られ耐性を舐めるなよ。
「ほらよっと!」
黒騎士の攻撃は素早いが、それは慣れることができる! ゲームは難しい敵がいても、何度も挑戦し続けることで、いつか必ず勝てるようになると信じてやっているのが私だ。だからこいつにも絶対勝てる。今まで千回、万回はローグライクゲームでは失敗してきたが、それでも沢山の成功を収めてきた。そう、私は諦めの悪さはぴか一なんだ。
「まだ動けるか。ふふふ。」
なんだこいつも戦闘狂か何かか。こういうのは本来ブッチに任せたいところなんだが、私がこんな奴の相手をするはめになるなんてな。よし、お前、ここで調子に乗らせないために私も、動きを更に単調に素早くしていくぞ!
「狐火!」
私は、口から火を吐いた。熱帯雨林で使うなんて、また火災でも引き起こしそうだが、さっきの竜巻でこの辺り一帯の樹々や樹木が吹っ飛んでいるので大丈夫だろうと判断した。ここでの狐火は、こいつに火が効くのかどうかを試してみるところだ。
「ふむ。」
黒騎士は、私が折角吐いた狐火を剣で軽く斬りやがった。というか斬って消し飛ばしやがった。これは、直撃を避けたと言ってもいいんだろうか。防御したということは、鎧が火をかき消してくれるというわけじゃない気がする。とりあえず、狐火はあまり効果を期待できないことにしておくか。ならば次の攻撃に移る。鎌を持って体当たりだ。
「馬鹿の一つ覚えだな。」
そりゃあ、私にはこれしかないんだもの。基本的には鎌で斬ってかかるだけ。あれ、そういえば鎌が赤黒くなっていないな。こいつをぶっ倒すって思っているのに何でだろう。いや、今はそんな事を気にしている場合じゃないな。鎌で攻撃と決めたからには、このまま真っ直ぐぶつかるだけだ。
「貴様が何を狙っているのか知らないが、無駄なことだ。」
何を狙っているのか分からないのに無駄だというのが無駄なことだとツッコミをいれたくなったが黙って攻撃をする。こいつも案外お喋りなんだなあ。ただ黙っていればいいものを。寂しがり屋なんだろうか。だからといって私はこいつを許すつもりは一切ないが。情け無用だ。私の大事な仲間に何してくれているんだと、詫びの一つでもいれろとしか思えなかった。
こいつもさっさと必殺技的なものを放ってくればいいものを全然使ってこない。まだまだ本気じゃないからか? 先に手の内を明かしてくればいいのにな。さっさと全力を出してこいやってんだ。それとも何か。全力が出せないとでも言うつもりか?
「鎌が剣に勝てると思っているのか?」
勝てると思っているから攻撃を繰り返している。この鎌がどれだけのものなのかこいつには分からないようだな。情けない奴だ。この鎌が一体どれほどの草を刈ってきたと思っているんだ。
「剣が鎌に勝てると思っているのか?」
黒騎士のなまくらな剣と私の鎌には歴然とした差があるはずだ。こいつの剣がどれだけ名工が作っていようが、そんなことは私には関係ない。黒騎士が振るう剣など弱者の剣でしかない。私の鎌の方が何億倍も強い!
私の鎌と黒騎士の剣は何度も激突する。剣は私の鎌よりも圧倒的に長いが、それでも私は攻撃をし続ける。電撃の鞭やカブトスピアーだってあるが、ここでは何よりも鎌だ。これが一番使いやすいし、下手に他の武器を使ったところで付け焼き刃みたいなものだ。
「これ以上は無駄のようだな。さっさと片付けるとするか。」
その瞬間、心臓を鷲掴みされているかのような感覚が私の全身を襲った。それと同時に私の方もなんだか戦闘のスイッチが入ったかのように全神経が研ぎ澄まされる。黒騎士の動きは全く見えなかった。一切見えない。だがどこから斬りつけてきたのかが分かる。分かった。だから私は、さっきまでと同じように鎌を振る。だが、私の鎌は空を斬るだけで、黒騎士の剣に当たる事は無かった。
背筋が凍る感覚、黒騎士の剣が迫ってきている。咄嗟にしゃがむが、黒騎士は、そのまま私の腹を蹴り飛ばしてきた。これはもろにくらってしまった。転がりながらも口の中に入れた薬草を飲み込み、すぐに立ち上がる。次の薬草を取り出して口の中に含む。黒騎士が追撃をしかけてきていた。
剣術だけじゃない、体術だって凄まじいのが黒騎士のようだ。これが本気なのかそれともまだ本気なのかは分からないが、このままでは太刀打ちできないだろう。
「どうした? やはりその程度だったか?」
こういう言葉を今までどれだけ言われてきただろうか。お前は雑魚だとか、お前は使えない奴だとか、お前なんかいなくてもいいとか、散々だって気がする。オンラインゲームでは本当に数えきれないくらいこいつのような事を言いだす奴が多かった。と言ってもそれは実在する人間だったけれど。こいつは恐らくNPCだと思うので、なんだかこいつが言うのも滑稽に感じられた。
私の攻撃が届かない。黒騎士に当たらない。黒騎士の攻撃が私に何度も襲い掛かってくる。致命傷だけは避けているような状態だ。これも長くは続かない。そう思えてきたのだが、甘い! 甘すぎるぞ黒騎士。私は耐える女なんだ。へこたれないのが私の特徴だぞ。さぁまだまだやれるぞ。
「期待外れだったな。このまま葬り去ってやろう。月影斬。」
黒騎士が剣を振ると、三日月のような模様を描いた刃が襲い掛かってきた。そして次の瞬間にそれは漆黒の刃へと変貌した。私はそれをくらえばきっと死んでしまうかもしれないと思った。だから私は、強く鎌を握りしめて、慎重にその刃を。鎌で斬り裂いた。鎌は赤黒く輝いていた。しかしすぐにその輝きを失った。
月影斬。これも覚えた。こいつが仕掛けてくる攻撃を覚えたぞ。さぁ他には一体どんなスキルがある? どんな攻撃を私に見せてくれる。さっさと技を出しやがれ。
「どうした? 自分のスキルが2つも破られて声も出ないか?」
「そうだな。ならばこのスキルも見せてやろう。奥義・黒曜竜刃断!」
私にスキルが破られたことが悔しかったのかは分からないが、本気の剣術を見せてくれるようだ。奥義と来たからには軽々しく放つものじゃないだろう。やっとこさ本気か。さて、目の前に竜でも切れそうな強大な闇の刃が振り落とされようとしている。こんなものを受け止められると思っているのか。この鎌でさっきみたいに斬れというのか。無茶ぶりだろう。
「終わりだ。死ね。」
「空間転移。」
遠くへ、どこか遠くへ飛ばすイメージを強くしてそれを黒騎士に向かって放った。100メートルとかそんなものでは足りないだろうが、それでもどこか遠くへ飛ばすイメージを膨らませる。空間転移だって私の意思が強ければきっとそれに応えてくれるだろうと期待する。どこか遠くへ行け、黒騎士という気持ちを込める。ひたすら願う。
直後に私の鼻先5cm近くに黒い刃が現れており、それが地面に激突して、巨大な衝撃が辺り一面を襲った。私に直接当たらなかったとは言え、地面が深く抉れていた。
危なかった。だがこれも覚えた。まだまだスキルはあるかもしれないが、こうやってどんどん覚えていくべきだ。
「まさか、貴様が空間転移などを使えるとは思わなかったぞ。面白いことをする。だがそれが何度も通用するとは思わんことだな。」
すぐに近づいてくる黒騎士だった。当然私だって何度も通用する相手だなんて思っていない。このスキルはあくまで緊急回避専用みたいなものだし。だけど今のタイミングでは絶対に使わないといけなかった。ここで使わなかったら私は負けていたし。
こいつが近づいてくるまでの間、私は蜂蜜と薬草を食べ終わっていた。ひたすら飲み食いしながらうする戦いとか結構きついが、これも私の仲間を虐めたこいつを倒す為と考えると奮起することができる。
「火薬草。」
ここで軽くこいつに向かって投げてみたが。簡単にかわされてしまった。それは当然分かっていたので黒騎士に向かって斬りかかりに行く。これも当然かわされる。どれもこれも、黒騎士は簡単に攻撃を避けてしまう。
私は気になった。どうして私程度の攻撃を直接食らうつもりが無いのか。こいつは一発も食らいたくないと思っているのだろうか。それとも紙装甲というか、実は防御力は大してないんじゃないのかとも勘繰ってしまう。纏っている鎧や兜を傷つけたくないなんて思っていてもおかしくはないな。
「何度も言うが、何を狙っていても無駄だぞ。」
無駄ねぇ。それはお前が倒せない敵だったらそう思うんだけどな。だけど違うな。こいつは絶対に倒せる敵だ。これまでのゲーム経験で倒せない敵というのは沢山存在してきた。そんな奴はいくら攻撃しても傷つかないし、そもそも傷つけることができなかった無敵の存在だった。
無敵の存在だったら堂々と構えていればいいのだがこいつはそうじゃない。攻撃を防ごうとするしかわそうとする。それは無敵じゃないって事だ。それなら勝つ方法があると考えていいだろう。
私はこいつへの挑戦者だ。こいつに勝つために戦っている。そして今までもずっと私は挑戦者だった。何千回もプレイして攻略したゲームだって沢山あるのだから、こいつにちょっと負けそうになったからといって諦めるような奴じゃない。
こいつはゲーマーを舐めている。執念深いのがゲーマーなんだよ。さっきは駄目だったから次はこうしようとか、今度はこうならないようにしようって経験で徐々に追い詰めていくんだ。それがゲーマーなんだよ。こいつは分かっていない。
だから私は絶対にこいつを倒せると思っている。こいつは絶対に私には倒されないと思っているだろうが、そんな奴は絶対に倒すと私は誓っているんだ。さぁ、いくらだって鎌を振るってやるぞ!