第316話「スコール」
目標の字数が書けなかったので明日追記しますorz
10/4加筆修正しました。
体調不良が治った後、平日に<アノニマスターオンライン>をプレイする時間はとれなかったが、土曜日になってようやくプレイすることができた。
今日も元気にドラゴンフルーツ集めを頑張ろうと思っていた矢先だった。猛烈な勢いの雨が降りかかってきた。
「ぶあーっ!?」
冷たいという感覚よりも水がかかったという感覚が強かった。現実で雨に濡れるのと同じような感覚だが、こんなに浴びていたら今度はゲーム内で体調不良にでもなってしまいそうだ。
熱帯雨林なのだから当然、雨が降ってくるのは分かっているが、いきなりこの洗礼は酷い。私の運が悪かっただけなのもあるけれど、土砂降りじゃなくたっていいじゃないか。
確かスコール、だったっけ。熱帯雨林で大量に降る雨がこう呼ばれていたはずだ。現実で熱帯雨林になんて行ったことは無いので、貴重な経験が出来たのは良かった。だけど、視界が悪いしジャージはべたつくしでいいことが全然ないな。
そんでもって、たけのこ達は、辺りにはいなかった。どこに行ったんだろうか。どこかで雨宿りでもしているんだろうか。そう簡単に他のモンスターなどにやられるはずはないと思うが、心配なのですぐに探しに行きたかった。でもどこにいるのか見当もつかないなあ。
この状況で動くのは得策ではない、か。ずぶ濡れになっているので動きにくいし。この天候に強い敵なんていてもおかしくないので、そんな奴と遭遇しないとも限らない。
「あぁー折角ログインしたのになんだこれはーー!」
動くに動けないなんて現実で体調不良になっている時でいいんだよ! 折角今日は、熱帯雨林探索をじっくりやっていこうと思ったのにさぁ。あ、そうだ、こんな時はブッチ達にでもメッセージ送っておこう。そうしよう。
マブダチからのメッセージ:おいっす。エリーちゃんは無事に街まで届けたから安心して。ああ、その後は俺たちも分かれて行動しているからね。俺の今いる場所は、おっと誰か来たみたいだ。
返事が早い! そしてなんだ最後の気になる台詞は。思わせぶりな言い方というか勿体つけた言い方をしてと言うか。一体どこにいるって言うんだと気になってきたが、聞いてしまったらまた面倒くさいことになりそうだったのでツッコミはしないことにした。どうせ向こうからまた話しかけてくるだろうし。
マブダチからのメッセージ:ねっこちゃん! ツッコミをいれてくれていいんだよ! ねっこちゃんと言えばキレのいいツッコミだと思うし。頼むよ!
数分するとブッチからメッセージが来た。誰が頼まれてやるものかと思った。というかブッチの奴本当に返事が早いな。余程暇なんだろうか。反応が早すぎだろう。
「はぁ。雨が降っているなんて今日のやる気がどんどん下がってくるなあ。ブッチにメッセージ送って暇つぶしするか、後はエリーちゃんにも送っておくかなあ。」
動けない状態っていうのも経験しておくのはいいことだと思うけれど、ここで全く動けず立ち往生になってしまうのは良くないな。
うーん、しょうがない。もうゆっくりと移動してしまうか。あ、そうだ。ドラゴンフルーツが樹に成っていたと思うんだけれど、どうだろう。ここで当たりを見回してみたけれど、どこにもドラゴンフルーツは成っていなかった。
スコールの影響というのはなんとなく分かるけれど、これまた嫌なタイミングで来てしまったようだなあ。ああ、ドラゴンフルーツをもう一回探せとか、なんだこの罰ゲームは。
昔の絵本か何かで、同じような服装をした登場人物の中から、一人を見つけ出せというものがあったら、今はそれをさせられている気分だ。面倒くさいなあ。
「…音もうるさいな。」
激しく勢いがあるスコールが沢山の木々や草にぶつかりながら地面に落ちていく。すごい音だ。
それにしても、これは、もう災害レベルじゃないか!? とツッコミをいれたくなったが、そんなことを言う相手はいない。こうやってたまに一人になると色々寂しくなるもんだなと思ってため息がでたのだが、そうだ私にはひじきがいるじゃないか。
(母上、お疲れ様です。おかえりなさい。)
やぁやあ、ひじき。こんにちは。私は一人じゃなかったね、ところで、たけのこ達がどこに行ったのかは知らないかな?
(すみませんが、分かりません。私の意識は母上と共にあるので。)
なるほどね、私がいないとそもそも存在していないことになるのか。あれ、それってつまり運命共同体みたいなものだけれど、それでいいの!?
(それが召喚契約ですから。)
といっても、私がいない時は存在すらしなくなるってどうなのかな? 召喚契約を解除すれば自由に動き回れたりしないの?
(むしろ困ります。今の私の存在はとても小さなものなので、母上がいなければすぐに消えてしまうと思います。)
そういう話はしていなかったね、というかひじきともじっくり話す機会をこれまで設けてなかった私も悪かったか。樹海で契約をしてからきちんと話さなかったもんね。よし、ここを動くのもなんだし、少しお話を使用か。
(はい、私は構いません。むしろ大歓迎です。)
それじゃあ、ひじきってもしかしてすごい存在になるのかな? 樹海でなんだか凄い大物みたいな扱いをされた時があったと思うんだけれど。黒アゲハ? だっけ。
(すごいかどうかは分かりませんが、私が成長すれば、それなりにはなれると思います。)
それなりって謙虚だなぁ。きっとすごい存在になれるんじゃないかな。実は色々できたりするもんねひじきは。
(まだまだですよ。母上のフォローと言いますか、もっと魔力が効率よく使えれば色んなことができるのにと思います。)
ああ、私に魔力がもっとあれば良かったんだよねえ。そういう魔力を向上させる方法でもあればいいんだけれど、何かないのかな。
(母上は、魔者という存在であるのなら、これから成長して魔力が飛躍的に上がるなんてことも考えられるのではないでしょうか。)
飛躍的になんてことがあればいいなぁ。あ、あり得るのか。魔者って言うのは私の称号だとして、それが例えばレベルアップに影響するとしたらどうだろう。
何らかの称号を得た後にレベルアップすると特定のステータスのアップにボーナスが追加されるゲームがあった。もしそういう設定があるのだとしたら、魔力がどんどん上がっていくというのは十分考えられるな。
今だと確かに魔者なんて名前があるにも関わらず、大して魔力が無いなんて名前負けしているようなものだしな。ここから一気に魔力が上がって欲しいもんだなあ。
でも私、レベルアップもしているのかどうかも良く分かってないんだよな。このゲームを始めたころよりは大分強くなっているはずだけれど。
(あぁ、私も母上の成長に合わせて強くなっていきますよ。)
おお、それなら私も、更に強くなっていかないとなあ。そんでもって、最終的にはひじきをいつでも召喚できるようにしてあげたいし。というか、むしろ召喚契約とかはなく、普通に存在するようなことになって貰う方法も考えておきたいなあ。
(え、母上は、もしかするといずれは私と召喚契約を解除したいということですか?)
まぁそうだね。だって、今は無理矢理契約させちゃっているみたいで申し訳ない気がするし、ひじきだって凄い存在っぽいから、私のような微妙な奴と契約させちゃっているのも悪いと思っているよ。
(私は、何も困っていないのでどうかずっと契約させて下さい! 本当にそのままでいいんです!)
えぇ!? な、なんで!? 私のような平凡以下で何の才能もなく、一緒にいると苦労ばかりしそうな奴と一緒にいたら百害あって一利なしみたいなもんだよ!? 自分でもここまで言うのもなんだと思うけれど、ろくに戦力になっていないと思うし!
(は、母上はもう少し自分のことを認めてもいいのではないでしょうか。戦いに関してもかなり強いといいますか、毎回生き残れるので凄いと思っていますよ。)
それは悪運が強いだけというか、たまたまなんとかなっているだけなんだよ。毎回苦労するし。今まで苦労しなかった戦いが全然ないし。私はか弱い般若レディのはずがね。例えばこういう風にスコールが降り続いてきたりとかも、運が悪すぎるよ。
(普通なら死んでいてもおかしくないということを幾度となく回避してきているのは凄い事ですよ! 母上は、それだけ強いんですよ! これは本心から言ってます!)
それは多分、私が強いと思うようなレベルではないってことだなあ。私はブッチみたいにどんな攻撃でも回避して、こちらの攻撃だけ一方的に当て続けるみたいなことがやりたいんだよね。それが全くできていない時点、私の自己評価は高くない。あるいは、どんな敵がでてきても楽々鎌で軽く攻撃しただけで倒してしまい、またつまらないものを斬ってしまったか、みたいなことがやれれば変わってくると思うんだけどね。
今現在そういうのが出来るのはうさぎとかを威圧で仕留められるくらいだよ。ははは。はぁ。なんだかなあ。やっぱり私って大したこと無い気がしてきた。
(ブッチ様は、その規格外と言いますか、確かに凄いと思います。)
だよね! でもそれだけじゃないよ! 他の皆も強いんだよ! サンショウなんか私の事を尊敬の眼差しで見てくるけれど、自分はすごい魔法が使えるじゃないかっていつも言いたくなるよ! あんな魔法使われたら私は死ぬって。たけのこも、実は直接戦闘も結構できるようになっているし、今戦っても全く勝てる気がしないよ! エリーちゃんは先日結構レベルアップしたか何かみたいで魔法にバリエーションが増えたとか言ってた気がするし!
…やっぱり私だけほとんど成長していないんじゃないかこれ。鎌とかアイテムが強いだけでさぁ私自身は本当に強くないなあ。というわけでネガティブに成りすぎるので、この件はここまでにしようね。
(は、はい。私は母上が凄い存在だと思っていますからね。)
いやぁ、ひじきはとても優しい存在だねぇ。ママは嬉しいよ。お? 天気が良くなってきたぞ。あぁよかった。これならたけのこ達を探しに行けるな。よし、それじゃあ、ひじきと話しながらそこらを歩くとしようか。