第313話「密林で休憩」
密林の北西へ進行する私達だったが、しばらく歩いた後、休憩することにした。薬草で回復はできるけれど、スキルポイントの回復はされていないはずだ。というか未だに私はステータスを見ることを拒んでいるため、残りがどれだけなのかというのが分からない。
一度はステータスを見たほうがいいんじゃないかと思った時はあるけれど、ステータスを見てしまうと、それに惑わされるような気がするので、見たくないという気持ちが今だ根強いので、未だにまともにステータスを見ることをしていない。
さて、そんなプレイスタイルなので、どの程度自分が消耗しているのかも、自分の能力ですらよく分かっていないというのが現状だ。今、休憩しようと思った理由については、なんとなくとか勘でというのが正直なところだ。
私は、スキルポイントって少しずつ自動で回復しているんじゃないかと考えている。だからスキルが使えなくなったとしても、しばらく待てば、また使えるようになるのも思っている。
今は、枯渇はしていないけれど、今日は連戦しているので、このままだと嫌なタイミングで使えなくなってしまう気がしていたので休憩をとる必要があると判断した。
「ここで、毒狸の母とか、強そうな敵が出て来たら大変だからねえ。」
ここで私は瓶に入った蜂蜜を舐めていた。蜂蜜もスキルポイントが回復するはずだが、これは数が限られてくるので、あまり使いたくはなかった。
私は、在庫が限られているアイテムはあまり使いたくなかった。使わなければ宝の持ち腐れだとしても、入手方法が限られているものなので、闇雲に使ってしまうと大事な時に使えなくなってしまうし。
「ドラゴンフルーツさえ手に入れば…。」
「ねこますサマハ、ドラゴンフルーツヲドノクライアツメマスカ?」
「最低10万以上は欲しいなあ。」
「え。マスター、そんなに集めてどうするんですか?」
「いや、そんなにってそれっぽっちだよ。」
あっという間になくなってしまうじゃないか。本当にすぐになくなってしまう量だ。ももりーずVのメンバー全員に分けたとしてそこか何個も食べていたらすぐに枯渇してしまうだろう。こういう時、そんなにあるんだからなくなるわけがないというのが実に危険だ。回復アイテムなんて沢山使っているうちになくなってしまうからだ。私にはそういう経験がある。だからここでは沢山集めておかないといけない。
「ねこますドノ。タベキレナクテコマルノデハ?」
「セッカクモッテイテモ、クサッテシマウウノデハ。」
あ、そうか。今更だけれどここでプレイヤーの私とNPCの皆では考え方の境界線ができてしまうんだな。私はアイテムインベントリにしまっておけば問題ないんだけれど、そのあたりの説明ってなんとなく理解しては貰えてないって言うのが分かっていたけれど、うーん。あれ? そういえば薬草は別に何も言われなかったなあ。薬草って腐らないんだっけ? そういえばそれも知らないな。腐った薬草なんて聞いたことが無い。もしかして、腐った薬草から何か新しいアイテムが作れたりするんだろうか。うわ、なんか急に気になってきたなあ。
「えーっと、薬草もそうだけれど、私にはアイテムが腐らせることなくいくつでも持てる能力があるんだ。」
こういう説明で良いんだろうか。NPCにゲーム内の事を話しても、きちんと解釈をされないような気がするんだけれど。
「アァソウデシタネ。ヤクソウハ、イッパイモッテイマシタネ…。」
ん? どこか遠い目をしてどうしたんだろう、たけのこ。この説明で理解して貰えたのかな。
(母上は不思議な能力を持っているって事でいいんですね。便利で良いですね。)
そういうことだねー。すごい便利だねこの能力。何て、ブッチもエリーちゃんも持っているけれど。他のプレイヤー達はどうなのかなあ。もしアイテムがいくらでも持てる能力が実は何かの特殊能力だったりしたら、狙われそうな気がするけれど、そのあたりは分からないからなあ。
「それで、だ。私はドラゴンフルーツを大量に所持できるから集めておいて損はないんだよ。というかそんな能力があるんだから、集めておかなきゃむしろ損する。」
そしてここで集めたことで私は体力も、スキルポイントも死なない限りはずっと回復し続けられる不死身の存在になれる! ということだ。それが私の目標だ。なんとしても生き残る事。生きてさえいれば、薬草とドラゴンフルーツで回復できる。そういう状態に持っていきたい。
更に将来的な構想がある。自動回復だ。錬金術で薬草やドラゴンフルーツを持っている分だけ、自動で回復できるようなアイテムを作り出したいと思っている。今だといちいち食べて回復しているがそれもしないで回復できるようにしたい。そうすれば、食べている最中の隙もなくなるので、かなり強靭な存在になれるだろう。
最終的には、どんな攻撃でもやられないだけの体力を持ち、攻撃をくらってもすぐに全回復できるようにしたい。そして、どれだけスキルを使っても自動で回復し続けて、スキルを無限に使えるようになりたい。これが私の理想の状態だ。
なーんて考えてはいるものの、これが出来るかどうかも分からない。こんな能力はゲームバランスの崩壊を招くので、そんなことは許されないだろう。<アノニマスターオンライン>ならそんなこともやりかけないだろうけれど、いくらなんでも絶対に死なないキャラクターとか狡いってことになる。もしもできたとして、すぐに修正されてしまうことだろうな。
「ねこますサマハ、ヤハリムテキニナリタイノデスネ!」
そうと言われればそうなんだろうけれど、無敵か。確かにそんな気がする。無敵になれば、ゲーム内で心配する事なんてなくなるしなあ。ん? 無敵という事は最強ということでもあるか? 微妙に違う気もするけれど、そんな気がしてきた。あれ、私ってば結構強さに固執している部分があったのか?
「無敵になれば、死なないから無敵になりたいのかなあ。」
自問自答してみるが、多分そういうことだろう。いや、何をするにしても、敵からやられるなんてことが嫌なので、そうなりたいだけだろう。これは私のゲーム経験が影響していると思うけれど。
一瞬の判断が命取りの格闘ゲームやローグライクゲームやシューティングゲーム、そして当然アクションゲームもそうだ。大体、これらのゲームでは上級者用の難易度設定だと、ちょっとしたミスでも許されない。<アノニマスターオンライン>でもきっとそうだろう。だからそういうミスに対する保険的な意味合いで回復アイテムが大量に欲しくなってしまっている。
…なんてこうやって頭の中でまとめていたらこれ、ゲーム中毒みたいな考えでもあるか。頭が固くなってきているな。レトロゲームなんかやっていると本当にアイテムをひたすら集めないと勝てないボスなんかが多かったのもあるしなぁ。
「これから先、待ち受けているのがクロウニンと、あとすごい強そうな奴らだからなあ。」
「ねこますサマナラ、カテマスヨ!」
という応援をたけのこからうけたので、もふもふするのであった。あぁ癒される。大分大きく成長したたけのこだけれど、相変わらずのもふもふっぷりだ。私なんか全然変わっ…たか。主に装備が。この装備内容を人に見せつけたらそれだけでおかしな人だと思われそうな感じだもんなぁ。種族が般若レディですと言っても信じてもらえないどころか原型をとどめてもいないので、ある意味では大道芸人と誤解されてしまってもおかしくないな。
「そうだねー。あぁー、これから戦いが待っているかと思うと緊張してくるなあ。」
今はそれに備えている状態だけれど、ここでも紫色のワイバーンと戦ったり、その前にはそこのビスケットの元となったゴーレムと戦う羽目になったりと、結構色んな所でいざこざが発生するから、やっぱり一筋縄ではいかないだろうな。
「ねこますドノハ、ナニカオオキナモクテキガアリマスカ?」
まぁそれなんだよね。特にないというのが本音なんだけどね。いや、実際問題<アノニマスターオンライン>は新時代のVRゲームだからこうして初めて今すごい夢中になっているけれど、それだけを延々とやりつづけたいというわけでもないし。
今の所このゲーム内での大きな目的というのは、具体的に説明できない。ただ遊びたいから遊ぶというのがそうなんだけど。
現実のようにお金を稼ぐことが出来るというのが引っかかっているけれど、仮にそれが軌道に乗ってしまったらどうなるんだろうか。このゲーム内でずっと仕事をすることになるんだろうか。それはそれで、なんだか浮足立っているような気がしてならないな。
「うーん。無い!」
ただ自分が思うがままに、自由にゲームをプレイしたいというのが目的と言えばそうなんだろう。その中でああしたいだのこうしたいって事が出てきているだけかな。今は、移動が楽になりたいとか強くなりたいとかそういうのがあるくらいで、それが大きな目的ではなくて、自由にやりたいっていうのが目的だと思う。
「だけど、なんでも自由にやっていきたいね。」
般若レディのまま街の中に入るとかもいつかやってみたいと思っているし、それこそももりーずVのメンバー全員で入ってみたいという気持ちもある。やりたいこと自体は沢山あるな。
「自由。そうだ、自由だな私は。何でもやってみたいなぁ。」
そう考えてみると、今まで自由にやってきたつもりで自由じゃなかったような気がする。あっ! そうか、それもこれも魔者とか言う称号のせいじゃないか! いつの間にか縛られるようになってしまったし! そうだ、これが目的だよ!
「ごめん! やっぱり大きな目的あった!」
「なんですかそれ?」
「私は、魔者を辞めたい!!!!!」
思わず大きな声を上げてしまったが、結論としてはこうだろう。いや本当になんでこんなことに気が付かなかったんだろうか。魔者でいるから魔者に縛られるのなら、そんな称号はいらない。これを辞める方法を探すべきだった。そうだ、そうしよう。魔者の称号を捨てる方法を探そう!