第309話「アホなワイバーン」
明日追記します!
9/27追記しました
「空間転移。」
私は、紫色のワイバーンに向けてそのスキルを放った。私の近くに転移させるような感覚で使ってみると、眼前に移動してきた。なんとなく私に背中を向けている状態で、近寄ってきたらいいなと思っていたらその通りになった。隙だらけなので当然鎌で斬り裂いた。
「おりゃあ!」
「グアァァ!? ナニィ!?」
紫色のワイバーンの背中から血飛沫が上がった。鎌は赤黒く輝いている状態なので、どうやら切れ味は抜群のようだ。そしてそのまま私は、何度も鎌で斬り裂き続けた。
「な、なんだと!? なぜワシはここにっ!? というか貴様ぁ!?」
おっと、気づかれたようだ。だけど限界までこいつの背中を鎌で斬り裂き続けた。また空に飛ばれたら厄介だし、ここでひたすら攻撃をしておかないといけないと思った。
「ぬあああー!」
そんな私から逃げるように空を飛び始めた、紫色のワイバーンだった。ちっ、逃げたか。もう少し削っておきたかったけれど、これでそこそこダメージを与えられただろうか。
「ぐぬぅ!? 何をした貴様!」
空から私に質問を投げ変えてくる紫色のワイバーンだったが、私はそれに答えない。そんな義務などない。というかこれ、されてみたかった事の一つだ。
こういう風に敵が何をした! なんて言うとべらべらと種明かしをする漫画のキャラクターなんかがいたりしたけれど、私はしない。なんで敵にばらすんだとよく思っていたので、絶対に話してたまるものかと心に誓っているからだ。
説明しなければ、こちらの優位性を保てるのだから、そんなことを言うわけがないだろう。それにも関わらず説明をして優位性を失くす必要性なんてない。説明することが何かの能力を使う条件だったら分かるが、そんなことはないし。
「真空波!」
「こしゃくなっ! くらえっ!」
紫色のワイバーンは。翼をばさばさと震わせて、そこから風を発生し、真空波の威力をかき消してしまった。へぇーそんなこともできたのかこいつ。弱そうなのになあ。
「浮遊!」
「んっ!? なにっ!? なっ!?」
あっ、やっぱりこれでもバランスを崩すのか。面白いなあ。そのまま落下してくれたら面白いんだけれど。
「うおおおおお!?」
叫びながら、紫色のワイバーンは落ちた。これがオチか? いやいや。何ブッチとかビスケットみたいなことを言ってるんだ私は。それとこれ、コントをやっているわけではないんだと言いたくなった。このワイバーンはやっぱりアホ過ぎる! やる気が削がれる!
「き、キサマァ!? 許さんぞ!」
なんて威勢のいいセリフを吐いているがそれを無視して私は鎌で斬りに襲い掛かった。折角、地べたにきてくれたんだから、このチャンスを逃すわけにはいかない。飛ばれる前にひたすら攻撃するのが重要だ。
「やめろっ!」
紫色のワイバーンは、尻尾を鞭のようにしならせて私に叩きつけてきた。咄嗟のことだったが、鎌を前に出し防御の構えをした。そこへもろに尻尾が当たり、私はそのまま吹っ飛ばされた。うげぇ予想以上の威力だ。こんなアホっぽいから大して強くないんじゃないかと思ったのがいけなかった。
「グァハハハ! みたかザコめ!」
なぜこいつは、こんなにも威勢がいいのだろうか。自分の強さに余程自身があるのだろうが、ここまで思い込みが激しいのはどうかと思うんだけれど。うーん。こういう奴にこそブッチに戦って貰いたかったなあ。きっと、ボコボコにして、鼻っ面をへし折ってくれそうだし。
「ふぅ。ははっ! まさか私みたいなか弱い般若レディを、一撃で倒せないなんてねぇ。いやぁワイバーンって大したことが無いんだねえ。」
すぐに起き当がり、挑発をしてみることにした。この瞬間に、薬草をむしゃむしゃと食べることは忘れない。一撃で倒されず、薬草を食べるタイミングがあれば私は死なないのだ。ふっふっふ、さてどうだ。プライドが傷ついたか?
「運が良かっただけだろう? 命拾いしたなあ?」
「ああ運が良ければ死なない程度の攻撃しかできないお優しいワイバーン様で良かったねえ!」
というわけで煽る。ワイバーンをひたすら煽る。何しろ、私程度を一撃で倒せないなんて、弱すぎると思ったからだ。こんな巨体をしている竜の癖に、実はたいしたことないじゃないかと思っているのも本心ではある。もっと高貴で実力がありそうなイメージがあればよかったのだが、こいつはそのイメージとは大きくかけ離れ過ぎている。私はそれが不満なので、散々罵倒したくなってきている。
「そうだなぁ!? ワシが特別に手加減をしてやったからな!」
「あはは、手加減なんてわざわざするんだぁ!? そんなもの自然とできて当然なんだけどねえ!」
そもそも、こんなに会話している余裕があるのがおかしいんだよなあ。普通に考えたらここまで敵と会話なんてしないだろうし。紫色のワイバーンは、私の話に耳を傾けている時点でたかが知れているといった感じだ。
「う、るさぁああい! 死ねい!」
吐いてきたのが毒の霧だった。あれ、こいつ私に毒が効かないことに気が付いていないのか? それなら好都合だ。まだ空を飛んでいないし、そのまま真っ直ぐいってぶった斬る!
「ハハハハ!? 馬鹿な奴め! 自ら死を選ぶとは!」
こいつ、まさかついさっき私に毒の効果が無かったことに気が付いてないのか? うーん。やっぱりアホだ。ワイバーンってもっと賢いって思っていたんだけど、いやよそう。多分こいつが特別なだけだ。もっと高貴なワイバーンもいるはずだ。
「どりゃあっ!」
私は、毒の霧をもろに浴びたがやはり何も効果が無い。そしてそのまま鎌で紫色のワイバーンの体を斬りつけに行く。この鎌はサイズが小さいので、こういう巨大なモンスター相手には少しずつしか削っていけないのが欠点だなあ。斬る力は上がっているけれど、もっと広範囲になればいいんだけれど、これはどうしようもないか。
「なっ!? キサマ!? またしても!」
そりゃあね、私は攻撃できる機会が限られてくるんだからこいつに接近して攻撃をしていくよ。勿論折角ここまで近づいたんだ。これだけで終わるはずがない。
「雷獣破! おりゃああ!」
左手で雷獣破を放った。発動は、以前と比べると大分早くなったが、まだ徐々に威力が上がっていってるようだ。このまま決めてやる!
「ががががっ!? な、んだこれはあああ!?」
そして鎌をしまい。右手でも雷獣破を発動させる。チャンスが無いかもしれないなら、ここで一気に決めるべきだと判断した。
「ダブル雷獣破だあああああ!」
両手からほとばしる電撃が、紫色のワイバーンの全身に襲い掛かった。衝撃で爆音が唸る。凄まじい一撃だ。今までで最高の威力かもしれない電撃だ。しかし、これで他追えるとは思っていない、毎度のことだが、大体こういうとどめの一撃になりそうな攻撃をした後に、最後の力を振り絞ってくるのがこいつらボス級のモンスターだ。
「グアアアアアアアア! ギャアアアアア!」
断末魔みたいな悲鳴を上げているけれど、これでも多分倒していない。私は、ここで次の一手を考える。そうだ。この攻撃が終わったらすぐに火薬草を投げまくろう。それでこいつを爆発させよう。ここは、密林だけれどしょうがない。危険なこいつを倒すためだ。火災になろうが何しようが構わない。
だけど気になっている点。結局今回も私が戦っているじゃないか! ここは、たけのこやリザードマン達にもうちょっと頑張ってもらう所なのに! うがー! 上手くいかな過ぎる! なんでこうなるんだろうなぁ!
「ギザマアアア! ワシをナメルナアアア!」
やっぱり来るか! 瀕死時に強くなる本気モードが! 毎回これがくるのがもううんざりさせられるけれど、ここで私の雷獣破が消えかかっていたのでこのまま火薬草を投げつけていくことにした。
「うるさい! これでも食べとけ!」
大量の火薬草を取り出し、どんどん投げつける。ただひたすら投げつける。威力が弱かろうがどうしようが、投げつけ続ける。
「グアッ!? ゴアッ!? コザカシイゾオ!」
紫色のワイバーンは、爪で私の体を斬り裂こうとした。しかし、それは私に届かなかった。この時私も鎌を取り出したからだ。そして紫色のワイバーンの爪と、私の鎌が衝突した。
「ガァアア!?」
「うわあああ!?」
とてつもない衝撃が私の全身に襲い掛かってきた。え。何だこれ。<アノニマスターオンライン>をプレイしてきて今までで一番の衝撃だ!? ここまで衝撃があるのか!? 現実以上に凄まじい勢いを感じたし、半端ないぞ!? って、なんだこれ、私の鎌が赤黒くじゃなくて真っ黒く輝いている!?
「ガガガ!? キ、キサマ、まさか魔者!?」
ええい! そういう思わせぶりな事を言うんじゃない! そして今はそんなことどうでもいいんだ。お前の爪を砕かない事には、この状況から抜け出せないんだしな! このまま、このまま全部を斬り裂いてやる!
「ぶった斬る!!!」
力任せに、勢いに任せて、私は鎌を全身全霊で振るう。このまま絶対にぶった斬ってやるという思いを込めて、振るう。何かが弾ける音が聞こえたが、それが紫色のワイバーンの爪だった。よっし! こいつの爪を砕いてやったぞ!
「グアアアア!? クソッ! まさか魔者だったとは! 迂闊だった! だがワシはただでは死なんぞ!」
あっ!? これ呪いとかそういうのをかけてくるパターンだ! 死ぬ間際になんかこう嫌な攻撃をしてきて、しばらくステータスが下がったりするとか、イベントをクリアするまで解決しないような問題が発生する奴だ。それは嫌だ! 面倒くさいし絶対に嫌だ!
「ははは! 貴様を道連れにしてやる! この呪いをくらえば貴様は確実に死ぬ!」
「何ぃ!?」
「ははは! だがもう逃げられんぞ! ワシもこれで死ぬが、貴様もあの世行きじゃ! ここで仲良くあの世に行くんだ! ハハハハ!」
「そんなの!かわして、やる!」
「無断だぁ! ワシから大分距離をとらないとなあ! ははは! くらええ!」
「空間転移いいいい!」
うん。普通に、紫色のワイバーンを密林の奥の方に飛ばした。
…え、これで終わり?