第298話「襲われた理由」
ゴーレムの残骸を見て思う。赤黒くなった鎌の威力が凄まじいなと。もしかして
何でもで斬れてしまうんじゃないだろうか。いや、やっぱり落下時の勢いが凄かっ
たから斬れたというのもあるか。真空波も撃ったっけ。うーん、そうなると一概に
この鎌の威力とだけは言えないか。
私は、これまでずっと鎌の強化メッセージが表示されるたびにキャンセルをして
いるけれど、キャンセルしても何かが強化されていくということなんだろうか。そ
れがあるということは、やはり自分の選択肢が正しかったと思えた。安易に強化を
すると、それ以上成長しなくなるというゲームがあるので、そういうものだと思っ
てやったが正解で良かった。
ゲームによっては、さっさと強化したほうがいい場合があるので、もしもそっち
の方だったらどうしようかと思った。ああ、でももしかしてさっさと強化したほう
が強かったりしたんだろうか。何て言っても、もうどうなっていたのかなんて分か
らないか。よし、鎌は今後も強化しないで使っていく。こうしよう。まぁ勝手に強
化されているのかもしれないけれど、それはしょうがないな。
「ねこますサマ! オツカレサマデシタ!」
「オツカレサマデス!」
「オツカレサマッシタ!」
「みんなも頑張ったよ! お疲れ!」
みんなが私の元に駆け寄ってきた。あぁ終わった終わった。疲れたなあ。で、だ。
私もそうだけれど、この面子はもうちょっと鍛えないとだめだ。このゴーレムが
手強かったとはいえ、決め手に欠ける。今後もこういう固い敵が出て来たら、一匹
倒すだけで死力を尽くさなければいけないの駄目だ。
ブッチがいれば、きっと接近戦でひたすら殴りまくって沈めていた思う。いや、
あれは特殊な部類だろうけれど、攻撃を徹底的にかわし続けられるようにならない
と、結局強敵が出て来たらどうしようもない状況になるしな。あれが目標だ。私も
今回は、あのゴーレムの巨体に迫られて攻撃をくらってしまったし、精進せねば。
「それにしても、こいつは一体どこからやってきたんだろうな。」
「ムカッテキタホウガク、ハ、ワカラナイノデスカ?」
あ、そういえば、どっちだったっけ。忘れてしまったなあ。戦うことに集中してい
たしこれはしょうがないか。だけど、こいつがまた現れたりしたら大変だな。こう
いう奴が何匹も襲い掛かってきたとしたら…。それはまずいなって。あれ? 何だ
っけ、何か忘れているような。あー、まずい思い出せない。
「ねこますドノ。ドウシタ?」
「忘れていることを思い出そうと。うーあー。」
思い出せ私、こういう時に思い出せないことが重要な事だったりするのに、忘れ
て後で痛い目を見る物語の主人公を沢山見てきたじゃないか。私はそうなりたくな
いんだ。だから思い出すんだ私。なんだったっけ。ゴーレムに関係するというか、
あー。ゴーレムといえばボスと戦っていたようなもので、そのボスが…。
「ボス!!!」
「ワォゥ!?」
私が急に叫んだものだからたけのこがびっくりしたようだ。そうだ。この荒れ地
にすげー強いボスみたいな奴がいるって確かくろごまが言ってたじゃないか。とい
うことは、このゴーレムがそれだったってことはない…か? それならこいつを倒
して終わりということになるんだろうけれどな。こいつよりも強い奴が控えている
かもしれないというんだったら、それは…まずいなぁ。即隕石拳を撃つくらいの覚
悟をしておかないといけない。
「もしかしたら、こいつより強い奴が出てくるかもしれない。」
「エ!? コンナオソロシイヤツヨリモデスカ!?」
イッピキメが驚嘆の声を上げた。私も同じ気持ちだ。このゴーレムよりも強い奴
が襲い掛かってくるかもしれないというのは結構まずい状況なわけだし。といって
もこの荒れ地の何処にいるかもわからない奴相手にびびってもしょうがないけれど。
私がログアウトしている間に、たけのこ達が遭遇したりしたら最悪な事になる。そ
れをなんとかしたいのだけれど、なんともならない。
うーん。この件についてだけ問い合わせしてみてもいいのかなぁ。仲間になった
モンスター達が死んだ場合はどうなるのか、って。最近はそれを気にしてばかりに
なってしまった気がする。単純に考えれば、死亡扱いになるわけだから、二度と復
活しないというのが当然だけれど、仲間になったら、プレイヤーのように復活する
ような設定が適用されてもいいんじゃないだろうか。もし、そうじゃないのなら、
モンスターを仲間にして強くなるようなプレイヤーなんかリスクが高すぎるし。そ
こらへんがどうなっているのか。
だけど、これを聞いてみんなが死んでも安全って言うのもおかしな話になってく
るし、聞きたいような聞きたくないようなどっちの気持ちもあるなあ。ああ悩まし
いことだな。
「ねこますサマ。ナニカ、カンガエゴトデスカ?」
「あ、うん。ボスがまた出たら嫌だなあってのと、どんなのがでるのかと。」
もしも、あのゴーレムが中ボスクラスで、こいつの何倍も大きいゴーレムがボスだ
ったりしたら。あるいは更に大きなゴーレムがいたらなんて考えるのと頭が痛くあ
ってくる。こういう悪い予想は当たることが多い気がするから、きっと私達だけで
戦うことになるんだろう。
(母上。それならもっと私を頼ってください。)
お、ひじき! すっかり忘れて、じゃなかった。うん。いやそうじゃなくて、え
っと、そうだね。ひじきも頼らないとね。いかんいかん。そういえばひじきも全然
召喚していなかったりするじゃないか。というかそれで拗ねてあまり声をかけてこ
ないのだろうか。うっ。私としたことが、もうちょっとコミュニケーションをとら
なきゃいけないな。
(あのぅ。何を思ったのかほぼ筒抜けなんですが母上。)
うっ。いやぁ悪いごめんね、ひじき。それで、頼って欲しいって言うのは。
(全然私の出番がありません。私、実は結構色んなことができるんですよ。)
だけどそれって、私の魔力を使ってやるんだよね。私、魔力が大して多くないから
そこで使われてしまうと、結構まずいことになると思うんだけれど。いや、ひじき
くらいしか魔力を使わないとは思うんだけれど、何かしたときに魔力がなくなって
ましたっていうのも困るかもしれなくて。
(でも、母上が魔力を使ったところなんて私以外ではありませんでした。)
図星ぃ! はぁそうだね。そうでした。ごめんなさい私が忘れていただけでした。
あっだからそんなに怒らないでね。
(はぁ。母上、いいですか、私は母上の魔力を借りれば、様々な魔法が使えます。)
ほうほう。でもまさか、氷魔法とか使えたりしないよね? あればさっきの戦いと
か楽だったけれどね。
(申し訳ありませんが、使えますよ。)
何だとぉおお!? 氷魔法が使える!? 嘘でしょ!? そんなぁ! だったら熱
疲労だとかの作戦も試せていたじゃないかぁ。うわぁ。なんてオチだよ。もうそれ
だったら先に行ってくれても良かったじゃないか!
(嘘です。)
嘘か! そんな子に育てた覚えはママありません! だめじゃないか。そんなブッ
チみたいな冗談を言ったら。一応さっきまで私達苦労していたんだからね! そん
なこと言ったら駄目!
(嘘が嘘です。氷魔法使えますよ。本当です。)
ひじき、意外とお茶目なところあったんだね。うん、お母さんが悪かったから、今
後はもうちょっと助言してくれたり色々教えてくれたら助かるなあ。
(では、母上も、もう少し私に声掛けしてください。)
はい。頑張ります。それで、頼って欲しいって話だけれど、何かできることがある
の?
「ねこますサマ? ドウシマシタ?」
「ああ、ちょっとひじきと会話していたんだ。ごめんね。召喚するとそれも魔力を
消費するからしないんだけれど、私とは繋がりがあるから会話できるんだ。ちょっ
と今会話中だから待っててね。」
周りからは、何をしているのかさっぱり分からないので、私が棒立ちしてぼーっと
しているようにしか見えないのが残念だな。おっと、それでひじき。
(魔力感知です。)
ん? 魔力感知? 気配感知とはまた違ったものなのかな?
(はい。魔力のある者を広範囲で察知できます。それと、魔力の流れなども見えるの
で、敵が使おうとしてくる魔法がなんなのかも分かるようになります。私がそれを
使えば、母上にも伝わります。)
なるほど。あれ、ちょっと待てよ? 敵が使おうとしてくる魔法が分かる?
(魔力がどのような現象を引き起こすのかというのが分かるようになるんです。例え
ば火の魔法を使ってこようとすればそれが瞬時に分かります。)
いや、私もそれは分かったんだけれど、魔力感知でそれができるなら、気配感知
では敵がどんな動きをしてこようとするのかが分かるって事じゃないのかな、と。
いや、プレイヤーなら無理か? それとも。プレイヤー相手でもできるとか。おっと
今は魔力感知の話だったね。
(いえ、その話もするつもりでした。つまり魔力感知と気配感知を同時に使えば、確
実に敵のいる位置をとらえることが出来るはずです。)
ほうほう。魔力と気配の両方で敵の動きを読むということか。それで、この辺り一体
にいると思われる強そうな敵の位置も分かるのかな?
(母上の使い方次第になりますが。可能です。)
うん。一応言っておくんだけれど多分やるとまずいことになる。
(なぜです?)
敵にも私の位置がばれるってことになるんじゃないかなそれ。
(え。)
私の予想。魔力感知や気配感知を広範囲で使ったら、それを使ったことが分かる敵と
いうのも存在するだろう。そもそもそれらも魔力やスキルを使ってやっていることな
のだから、いわば、逆探知、この場合逆感知か、されてしまう可能性が高い。ここで
それを使ってしまったら、それに感づいた奴が襲い掛かってくるかもしれない。
(あ、りえますね。)
でしょ? だから安易にそれを使ったらまずいよ。ああいや、ひじきの提案は良い事
だとは思っているよ、それに私が言ってることが正しいってわけじゃないと思うし。
あれ、だけど。私、気配感知は前より使えるようになっていたんだよな。初めてこの
荒れ地に来た時は使えなかったし、その後も使いこなせてはいなかった。それで、こ
の間ちょっと使えるようになって…。
「あああああああああああああああああ!?」
私か!? 私が気配感知の効果を高めてしまったから、何かいるぞってことでこのゴ
ーレムが襲い掛かってきたってことか!? あ、在りえるぞ! うわぁ、なんてこと
だ! 辻褄が合うじゃないか! こいつが私の方に向かって的確に移動してきたのも
気配感知を使った奴がいるぞって判明したからだよきっと! うわぁ、気配感知って
使いすぎるのもだめなんじゃないか。なんだこのスキル! 使いにくいっ! 相手か
らも襲われるかもしれない事を考慮しろってことじゃないか。うう、折角いい感じで
使えるようになってきたのに!
「ド、ドウシマシタ!?」
「いや、まぁちょっとショックを受けただけ。」
はぁ、それじゃあ一旦気配感知を切るか。また同じような事が起こっても嫌だし。は
ぁ。なんて事だよ全く。
(母上、元気出して下さい。)
うん。頑張るよ。あはは。
深淵をのぞく時深淵もまたこちらをのぞいているのだ的なオチでした。
一方的にというのはなかなかいかないものだと思っています。