第287話「発生源」
後日加筆します。
9/5加筆しました。
どこから熊が大量発生しているのか、それを突き止めなければ勝ち目がない。私
は、必死になって気配感知を使ってみるが、それらしい反応が掴み取れなかった。
だが、ここで助けに来てくれたブッチ達がいるのだから、その期待に応えなければ
とリーダーとして責任があった。ゲームで必要以上に責任を感じるというのは疲労
の元でもあるが、こういう展開に燃えないわけがない。私が頑張れば敵を倒せると
いうのなら、私が必死にならないわけがない。いくらいつもずぼらで、戦いに必死
になりきれない私がいたとしても、こればかりはなんとしてもやり遂げたかった。
周辺には熊がうじゃうじゃと湧いてでている。動きも結構素早いのだけれど、こ
れは、たけのこが回避してくれている。たけのこはいつの間にか、かなり成長して
いたようで、これじゃあどっちが主なのか分からなくなりそうだった。初めに戦っ
て勝てたのはかなり運が良かったと実感した。なんて懐かしがっている暇はなく、
私はこの中からどこから発生しているのか発見するのに注力していく。
「たけのこ! 私が敵の発生源を突き止めるまで頑張って!」
「ガッテンショウチ!」
「ねっこちゃん! ここは俺たちが食い止める! 先に行くんだ!」
「おい、それは死ぬかもしれない発言だぞ!」
「ねこますさん! あたし達はちょっと熊の様子を見てきます!」
「待て、それも死ぬかもしれない発言だぞ!」
おい、ここは茶化したらいけないタイミングだろ! 私が今ここでいつものよう
に緩い展開になってしまったら、また気配感知がまともにできなくなって、危機的
状況に陥ってしまうんだぞ。だから辞めてくれ。ああそうか、いつもこういう状況
下で悪ふざけする癖があるからみんなにも伝染してしまったか。ああもう、分かっ
たよ、分かりましたよ! こんな状況でも心を乱さずにやってやりますよ。なぜな
ら私がリーダーだからね!
「ガウァッ!」
熊が唸る。暴れる。増える。そんな状態が長く続いたが、私は極限まで集中する。
気配感知を使う事だけに神経を研ぎ澄ましていく。威圧をコントロール出来た時の
事を思い出す。このゲームのスキルというものに対して理解が深まったあの時の事
をだ。
スキルは通常感覚的に発動することができるというのが素晴らしいのだが、ただ
それだけでは、十分に使いこなせていないというのが分かっている。やり方は多々
あるが、恐らく意識的にスキルを使おうとすると、その意識に合わせた形でスキル
は調整されていく。これがスキルを使いこなせている状態だと私は気が付いた。つ
まり、ただスキルを使おうと思っただけだと精度の低いものになり、スキルを使い
こなそうとした場合は、精度の高いものへと変わる。
これはゲームによくある裏設定というか、通常は分からない隠れた機能なのだろ
う。使うタイミングによっては威力が上がったり、他のスキルと連携されるような
機能があるなど、様々なゲームであったりする。格闘ゲームで言えば、キャンセル
技などが近いかもしれない。ある特定の動作と次の動作が絶え間なく続けることが
できる動きを動作のキャンセルと言う。通常パンチを使えば、使った後腕の位置を
元の位置に戻す動作が発生する。だがパンチの次にキックを使えば、その元の位置
に戻る動作をせずにそのままキックを撃てるといった寸法だ。
このように、使い方を覚えるというこでスキルもキャンセルしたり、あるいは、
威力が向上したりすると私は推察した。だから、だからこそだ。
「気配感知!!!」
周囲を俯瞰するような感覚で、全方位を見渡すような感覚を意識的に広げてみる。
そんな感覚が分かるわけがないと否定しては駄目だ。<アノニマスターオンライン
>なら出来るはずだ。VRゲームであるが、現実の感覚以上の感覚を与えてくれてい
る。それならば、私はその感覚に近づいていくだけだ。
感覚があると知っているだけではだめだ。感覚を実感しなければ意味がない。そ
んなものが一朝一夕で身につくはずもないが、私は戦いを重ねてきた経験で、それ
を今、この瞬間に掴み取る。必ずそれを成し遂げなければいけない。
ゲームは楽しまなくちゃ絶対に駄目だ。その楽しいと言う感じが特に強いのは、
こういう戦闘に、競争に勝つことだ。そうだ、負けたら当然悔しい。私は負けるた
めに戦っているわけじゃない。この状況で負けたらかなり悔しいので負けたくはな
い。いや、負けたくないという言い方ではないな。勝ちたい。勝って喜びたい。勝
てば大体嬉しいし。負けたら腹が立つし。いたって単純な物の考えだ。だがそれが
私に勝利を呼び込んでくれるはずだ。
今、私は何をしたいのか。気配感知で熊の発生源を探る。そしてその発生源を見
つけてどうするのか、倒したい。倒して勝って喜んで、その後に…。
「私はぁ!草刈りがやりたいんだよ!!!!!!」
とどのつまりそうなんだ。私は草刈りがやりたいのに邪魔をしてくるこの熊共の存
在が目障りなのだ。折角ここまで帰ってきて、目と鼻の先の所で邪魔をされて、腹
が立っているのだ。私がようやく薬草を集められて嬉しい気分になっていたのに、
それをこんな形で害されるなどあってはならない。強い苛立ちを感じた。だから、
それを思いっきりこのスキルにぶつけてみた。絶対に探す、絶対に探る、なんとし
ても敵を叩く。無数の熊に襲われようが知ったことか、と。
そして、その想いをスキルにぶつける。頭の中で一瞬電気のような何かが走った
ような気がする。熊の発生していると思わしき位置が分かったような感覚がある。頭
の中でこのあたりにいるに違いないという感覚だけが残る。まだ確信していないが、
きっとこれが正解だろうと思った。
「飛行!!」
私は、たけのこに飛行を使う。たけのこは空に浮かび上がった。あっという間に森林
の上へと昇っていく。
「ねこますサマ!?」
「このまま北西に向かって突き進んで!」
「! ワカリマシタ!」
そこが怪しい。北西の方向に何かおかしな反応がある。しかし、そう思っていた時だ。
「…これは絶景だ。」
空からこのあたり一帯を見渡すと、果てしなく続く森林だった。まさかここまで長
く続いていると思わなかった。凄い、ただひたすら凄い。もうこれは森林というより
も大森林とでも言ったほうが良かっただろう。
っと感動している場合じゃなかった。集中力が途切れやすいのが私の弱点なのだか
ら、取り乱さないようにしないといけない。このまま北西、敵の発生源まで一直線に
行き、それを叩かなければいけない。
たけのこは、空を駆け抜けていく。熊の発生源に向けて。私はまだ意識を緩めない。
もっと気配感知への意識を強くするために。
「ねこますサマ! ヤハリヒコウハスゴイデス!」
はしゃいでしまう、たけのこだった。確かに飛行はすごい。凄いのだが私自身を対象
にできていない。が、これも恐らく私がスキルの真価を発揮できていないだけだと思
う。もっと集中すれば、私自身の飛行させることができるはずだ。っと今は飛行より
も気配感知だ。こっちのスキルの効果を強化することが重要だ。
「そうだね。でもあんまりはしゃぎすぎないでね!」
というわけで、今は上空から敵の動きを見ているのだが、位置がはっきりとは分か
らないというか、木々の葉で覆いつくされているので、具体的な位置がむしろどこら
へんなのか分かりにくくなった。これは高すぎだ。もう少し低空飛行をしてもらうよ
うにたけのこに頼む。すると、ぼんやりと敵の位置が分かるようになった。やはり距
離も関係してくるか。
「ん!? たけのこ! もうちょっとだけ上昇して!」
「ハイッ! ムムッ!?」
「グォア! ウォアアア!」
木をよじ登って、こちらを見上げてくる熊が何匹もいることに気が付いたので、手
の届かない位置まで上昇して貰った。が、もうそろそろ飛行の効果が切れると思うの
で、着地点を決めなければいけない。
「どこだ。どこにいる…。」
焦燥感が全身を襲ってくる。迂闊に下りれば、無数の熊の餌食になるだろう。それ
はまずいと思ったので、対策を一瞬で寝る。蜂蜜をここから落とすことだ。そうすれ
ばそこに一点集中していくことだろう。やはり勿体ないということで戸惑ってしまう
がそれをしなければやられるかもしれないのなら、投下するべきだ。
「オラァァア!」
ふと、下から叫び声が聞こえてきた。これはブッチだ。木で熊を吹っ飛ばしているよ
うだ。やばいなああれ。私にもあんな力があれば、そうだ。力だ。とにかく力じゃな
いか。ここは、ブッチのように自信を持とう。今だけでもいい。ここは大事な場面な
んだから…集中!!!
思わず目を閉じると、気配感知が強くなった気がした。これは、視覚を遮断したこ
とで集中力が増しているとかそういうのなんだろうか。漫画なんかでよくある設定だ
けれど、いざ自分が体験してみると、なるほどこういうものだったのか。
目を閉じていると、青い点と赤い点が見えてきた。青い点は、恐らくブッチ達だ。
赤い点が、きっと熊だろう。その赤い点だが、とても大きな反応がある。とても、と
ても大きい赤い点。そこに恐らく、熊のボスか何かがいる!
「たけのこ! むこうにそのまま突進しながら降りて!」
私は、西方向を指さしてたけのこにお願いした。
「カシコマリマシタアア!」
一直線に西方向に突き進んでいくたけのこ。もう飛行の効果は途切れるだろう。そこ
で先ほど考えた通り、蜂蜜を何個かばらまいた。すると案の定、熊達同士で争いが始
まった。
「よおおおおし! いいぞ!」
あと少しで、着陸だった。その着陸の瞬間。私は、恐怖した。異様な気配が私の全
身を襲った。な、んだこれ。冷や汗が出ているような感じ。ただのゲームをしている
だけ、なのに現実で銃口を突きつけられたかのような、そんな衝撃が走った。何かが
いるのは分かった。だけど、まさかこんな。いや待て待て。これは、きっと敵の威圧
だろう。それにしたって。
「グォア。」
着陸をした私とたけのこの前にただの一匹の熊がいた。ただの熊だった。いや、違
った。その熊は子熊だった…。