第285話「蜂蜜だ。」
いつも通り、明日追記します。
9/3追記しました。
蜂蜜だ。それしかない。他の皆になくて私にあるもの。それは蜂蜜だ。そんな安
直な理由だとは思えないが、それしか思いつかない。熊がそこまで蜂蜜に固執する
ものなのかと思えば、分からないが、これはゲームだからそういう風に設定されて
いることもあるだろう。
うさぎが人参好きだとか、パンダが笹の葉を好きだと現実で認識されているのと
同じようなノリで設定されていてもおかしくはない。だから多分、この場合は、私
が蜂蜜を持っているから執拗に狙われているのだろう。さて、この状況で蜂蜜をど
こかに投げつければ、簡単に分かる事なんだろうけれど、もし本当に蜂蜜だったら
熊が一斉に向かってくるかもしれないのが怖い。
猫にマタタビを渡すようなものだし、好物があると知った動物なんかは、ものす
ごい勢いで迫ってきてもおかしくない。血の匂いを嗅いだ鮫やピラニアなんかが興
奮状態になって暴れる様な感じになるかもしれない。それが今ここにいる大量の熊
達で発生したらまずい。またしてもこの森を燃やさなきゃいけないはめになる。燃
やさないことに気を使ってはいるけれど、いっそさっさと燃やしてしまえばいいと
すら思い始めてきた。それじゃあ、どうしようかな。
「蜂蜜! 多分蜂蜜だ!」
一応これだけでブッチとエリーちゃんは分かると思ったので叫んで連絡してみた。
「あり得る! じゃあそれ置いていって貰えれば熊が俺に集中するかな!?」
「私が一杯持ってるから、私狙いは変わらないと思う!」
「有る分全部だしてもいいよ! ってああもう俺は今ねっこちゃんと話しているん
だっつーの! 邪魔をするな!」
戦いながら会話できるっておかしいと思うんだよなあ。それに狂戦士はもう効果
が切れているはずなのに、まだ全然動けるなんて、どれだけタフなんだ。熊の事を
タフと言っていたけれど、本当にタフなのはブッチじゃないか。
「熊に蜂蜜を投げつけてやれば、蜂蜜欲しさに他の熊がその熊に襲い掛かるんじゃ
ないでしょうかってアイスアックス!」
それは私も考えたんだけれど、殺到してこないかが気になっていたところだ。え
えいもう何も考えずやってしまうか。決断がいつも遅くなるのが私の悪い所だし、
ここはさっさと勢いでやってしまおう!
「よおおおおおおし! これでも、くらえええええええ!」
私は即座にアイテムインベントリから蜂蜜の入った瓶を取り出し、それを遠くに
いる熊に向かって思いっきり投げつけた。勿論蓋を外して。幸運な事に、熊に命中
してくれたので、後はどうなるのかを待つだけだった。
「グオオオオアアアアアアアアアア!」
「ウオアアアアアアアアアアアア!」
「ボアアアアアアアアアアアアアア!」
熊達が一斉に、蜂蜜をかけられた熊に向かって突進を始めた。目の色を変えて遅
いかかっていた。怖いなーって、うわ、何匹化は私の方に襲いかかってきたぞ。臭
いが残っているからか!
「真空波!」
鎌から放たれる真空波が、熊を切り刻む。これで足止めができるとは思わなかっ
た。そう、興奮状態で痛みが分からなくなっているのでそのまま向かってきた。が、
私も私でもう少し接近戦に慣れておかなきゃいけなかったと思ったので、そのまま
鎌で熊に攻撃することに決めた。
腕を振り上げて、私に攻撃を仕掛けてくる熊だが、これは大丈夫だった。まだつ
いていけるレベルだ。ブッチのように一瞬でワープしてくるような理解できない攻
撃よりも回避するのは楽だった。
「グオァアアア!」
「おりゃっ! ずりゃっ!」
隙を見ては、鎌で斬っていく。この鎌、ずっと前から使っていて強化も何もして
いないのに、切れ味は結構いいんだよなあ。それに丈夫だし。実はこれが最強の武
器だとしてもおかしくないと思っている。
「おらっ! でりゃっ!」
「グオオオオアアア!」
あっやばいっ。鎌での夢中になりすぎてしまい、これは当たると思っていたら、本
当に熊の剛腕の餌食になってしまい、数メートル吹っ飛ばされてしまった。
「ったぁ!? こいつ!」
久々にもろに攻撃をくらった。まずいな。どれくらいくらったか分からないので、
薬草をもぐもぐしないといけないと思っていたらすぐに突進してきた。ったくもう
そんなに私が好きなのかこの熊は! 私が好きなのはこんな猛獣じゃなくて、可愛
らしいテディベアだよ!
「グオァアアア!」
「っさい! 熊はこれでも食っとけ!」
倒れ込んでいる噛みつこうとしてきたので、火薬草を口の中に放り込んでやった。
何かを投げつけるというのが頻繁になってしまったからか、命中率が結構上がった
なあと感じた。
「ヴォアハッ!?」
口の中で爆発したようで、よろめく熊。その隙を逃さず、口が開いているので、ど
んどん火薬草を投げつけてやって倒した。やはり体内への攻撃は弱いか。
「ったくもう。薬草を使わせやがって。」
「ねっこちゃん! 油断し過ぎぃ! 俺の攻撃をかわせるんだからあんなの容易く
よけてくれなきゃだめじゃないか!」
えー。そんな無茶を言わないでくれ、私は戦闘強じゃないんだから、攻撃をかわ
しまくるのなんて苦手だよ。むしろ今まであまり当たらなかったのは運が良かった
だけなんだよ。
「私は非戦闘員みたいなものだからしょうがないよ。」
「ええっ!!? あっ…! うんそうだね…。」
なんだその驚きようは。まさか私を戦闘員みたいなものだと思っていたのか。い
やブッチのようにとまでは言わないまでも多少は戦える程度なのにな。いつでもど
こでも戦いたくなるタイプじゃないんだから、もっと後方支援的な感じになりたい。
「それで、そっちはどうなって…ぅぉあ…!。」
蜂蜜を巡って熊同士で争い合っていた。まず一匹にべたべたと付着したはずだけれ
ど、そこから一斉に狙われたようだ。そして一匹目の熊に攻撃した熊には、蜂蜜の
臭いがついたようで、更に他の熊から狙われていた。仲間同士で争い合うなんて、
なんて見苦しいのだろう。よし、それじゃあ二個目を投げるか。
「さぁこれでも舐めとけ!!」
熊の群れに向かって、蜂蜜を2瓶投げつけた。とても勿体ないんだけれど、生き
残るためというのを考えたらこの程度はしょうがないだろう。全く使わないでとっ
ておくと言うのも宝の持ち腐れだし。
「グアッ!? グァアアッ!?」
また熊同士で激しい争いが始まった。このまま自滅を狙いたいところだが、そう
上手くはいかないだろう。こういうのは大体匂いなどに慣れてしまい、最終的には
効果の効き目が薄くなるのが定番だ。
「伸びろ黒如意棒!」
「!?」
くろごまが私の後ろから黒如意棒を伸ばして攻撃を仕掛けた。どういうことかと思
ったら、頭上の木から、熊が飛び掛かっていたようだ。危うく攻撃されるところだ
った。そういえば熊って木登りが得意だったっけ。失念していた。
「ありがとうくろごま!」
「いえっ! ですがお気を付けください。熊共は蜂蜜で理性を失い、何をしでかす
か分からないでござる!」
それは困るんだけれど、蜂蜜を使わないと、全部の熊が私達に向かって突撃して
くるから使わないと言う選択肢はない。それにしても、このきりがない状態をどう
打破していけばいいんだろうか。やはり森に火を放つしかないんだろうか。あるい
はこのまま退却すればいいのだろうか。いや、それはまずいか。この状態で草原に
帰って追いかけてきたら、草刈りどころではなくなる。ということは何か、こいつ
ら全員の息の根を止めなければならないじゃないか。
無限湧きじゃなければ倒しきることはできそうだけれどってああそうかこいつら
がどこから発生してきているのか突き止めればいいのか。出現している場所を特定
すれば。そこを入れなくすることもできそうだしな。
「こいつらの出所を探るので、たけのこ! 背中に乗せて!」
「ハイッ! カシコマリマシタ!」
「えっ? ねっこちゃん?」
「どこから無限湧きしてきているのか探してみるんだよ! 私に襲い掛かってくる
かもしれないけれど、私がやるしかない!」
たけのこと一緒なら、この森を颯爽と駆け抜けてくれそうなので、熊から逃げる
ことも可能だろう。ブッチに任せたかったというのもあるが、これだけ大量発生す
る熊をブッチ抜きで倒すほうがきつい。よってここは私が行くべきだった。気配感
知もあるし、突然出てきた場所を探せばいいだけだろう。
「そんなわけでこれ土産! みんな頑張ってくれ!」
蜂蜜を5瓶も熊に向かって投げつけた。ああー勿体ない。せめて容器だけでも回収
したかったけれどそれも難しそうだ。くそう、もうこの熊同士で見苦しい争いをし
て沢山自滅してくれることを祈るしかないな。
「ねこますサマ! ドチラニムカイマスカ!?」
「とりあえず、えーっと、西か。そっちっ!」
「ワカリマシター!」
気配感知でうじゃうじゃ湧き出ているようなところがあったので、たけのこにそこ
まで向かうよう指示をした。それにしてもたけのこ、サイズが大きくなったもんだ
なあ。私を乗せて軽々と動けるようになるなんて。あぁもふもふも素晴らしい。
「たけのこも立派になってねぇ。このまま頑張って敵の本拠地を見つけようね。」
「ハイ! ねこますサマト、マタイッショニブタニクをタベルタメガンバリマス!」
うっ。生肉の思い出が蘇ってくる。それはもういいんだと思いつつも、やはり私の
中では強烈な思い出だった。たけのこにとってはいい思い出なんだろうな。いや、
私も嫌な思い出ではないんだけれど、ってそんなこと考えている場合か! さっさ
と敵の位置を探らねば、って多い!
「ねこますサマ!?」
「くそー。これじゃしらみつぶしだな。だけどやるっきゃないか。たけのこ、敵の
多い所に一緒にきてもらうけれどいい!?」
「モチロンイキマス! コンナクマナド、ワレワレノチカラガアレバタヤスクタオ
セルハズデス!」
おお、心強いなあ。やっぱり一番最初に仲間になっただけあってすごい安心感が
あるなあ。これからはもっと一緒にいられるようにしよう。
「グアアアアア!」
「ゴアアアアア!」
「たけのこ! 熊は基本無視でよろしく! こいつらは倒しても倒しても、きりが
ないからね! こちらがなんでこんなに出てくるか今は探してるところだから、余
計な力は使わないようにね!」
「ムズカシソウデスガ、ガンバリマス!」
たけのこも頑張ってくれるようだし、私も全神経を集中させて、探索しないとな。