第267話「お金などの話」
みんなで話し合った結果、エリーちゃんだけで町に行くということが無くなった。
一人で行くのは心細いというのが理由だったのと、どうせ私もまた戻ってくる必要
があるので、その時に一緒に行こうということになった。
結局、私達は、これから魔者名の大陸に戻ることになるが、現状抱えている事を
整理してみることにした。
まずは、クロウニン。現在ジャガーコートとゴーストロガノフと接触したが、そ
のどちらともまだ戦う事にはなっていない。どっちかが、いや恐らくは、ゴースト
ロガノフと敵対状態のようなことになっていると思われる。クロウニンは、一匹ず
つと戦うようになっているようなので、その間は他のクロウニンに狙われると言っ
た事がなくなる。なので、どちらかとは、そう遠くないうちに戦う事になるだろう。
が、魔者の大陸内では出現しない可能性もあり、もしかすると、魔者の大陸に延々
と引き籠っていればいいのではないのかもしれない。
次に、他プレイヤーとの交流。今回の町への潜入では、特に誰かと関わることが
無かったが、これを行いたいといったところだ。このゲーム内の出来事が、右も左
も分かっていない状況下にあるので、その辺の情報収集を行いたい。だけど今から
魔者の大陸に戻るので、これもまた次回こちらに来てからということになる。情報
収集担当は、主にエリーちゃんに任せることになりそうだ。理由は、やはり盗賊な
のでそういう役割を持ってほしいと思ったから。嫌がるかなあと思ったら、思いの
ほかやる気に満ち溢れていたので、頑張ってもらう。
最後に、魔者の大陸での活動なのだが、これは当然草刈りだ。誰が何と言おうと
草刈りだ。薬草を大量に消費してしまったので、使った分以上集めたいと考えてい
る。生体調合で、火薬草にもしておきたいので長期間滞在したいと考えている。し
かしながら、移動に時間を要するため、何か解決方法が無いのかも考えていかない
といけない。
魔者の大陸と言えば、ドラゴンフルーツを集めるのもそうだ。もう全然なくなっ
てしまったので、毒狸の熱帯雨林に行きたい。ここにいる毒狸の母とは因縁がある
のでぶっ倒したいと考えているが、あまり強くなっていない気がするので、あの時
の強さを考慮すると返り討ちにあいそうなのが悩みどころだ。でも、ブッチには譲
る気がないので、私がなんとかしないといけないな。
そしてねこます草原の近くに家を建てたので、拠点化することが望ましかったの
だけれど、移動の事を考えるとそれも現状では難しいと考えている。だけど調合を
する都合上、あったほうがいいのは確かなので、ここに釜を設置したい。
うん、見事に私の目的ばかりなのだけれど、ブッチなんかは、強い奴と戦えれば
大体なんでもいいのでなんとかしてくれというのが要望だった。そんな要望にどう
こたえればいいのか分からないけれど、魔者ということで私が色んな奴らから命を
狙われるはずなので、その護衛をしてくれと頼んだ。命を狙われるなんて羨ましい
などと言われて困惑したけれど、代わってくれと心の底から思っている。全く、ど
うして私じゃなくてブッチが魔者にならなかったのか。
エリーちゃんは、早く町に行きたいというのもあったらしいけれど、よく考えて
みたら早く行かなければいけない理由が無いそうなので、私と一緒に行くことにな
った。確かに一人だけで行くのって心細い気はしてくるから、これで良かった気が
する。私だって、サンショウとだいこんが付いてきてくれなかったら不安になって
いたかもしれないし。
たけのこ達について、なのだが。ここでなんとかしたいことがあった。私はもう
少し、たけのこを優先にしてどこかに出かけたい。このゲームを始めてからすぐに
仲間になったのがたけのこなのに、最近じゃ全然一緒じゃない。これが私の中で気
がかりになっていることだったので、今後はたけのこをメインで連れまわせるよう
にしていきたい。そういえば、たけのこも最初の頃よりもサイズが一回り以上大き
くなってきているので、もしかして名のあるモンスターか何かなのではないかと思
い始めてきているが、どうなのかは分かっていない。先生が、狼はレアであるかの
ようなことも言ってたし、伝説の魔獣的な感じであってもおかしくないのかもしれ
ないなあ。
他の仲間たちと言えば、くろごま達がそうなんだけれど、やっぱり平等に仲良く
するなんて出来ない。難しすぎる。もっと親交を深めたいという気持ちがあっても
時間はないし、行く場所によって都合が変わってしまうのでどうにもならない。こ
これについてはやはり、私の人間化のようなスキルが必要だ。これが仲間全員が覚
えられれば、人間達のいるところだろうがどこだろうが問題なく行くことができる
ので、こういったスキルの習得について調べていきたい。
「あぁ、またねっこちゃんレベルの相手と戦いたいなあ。あ、ねっこちゃんもう一
回俺と戦わない?」
「嫌だよ!」
なんてやり取りをしたりしているが、全員が満足ができるような事ができるかと
言われればそうでもないからなあ。これで問題があるから、いっそブッチには好き
勝手に色々言ってみてもいいとも言ってみたんだけれど、驚いたことに断られた。
「え、何が不満なの?」
「俺がいない間にねっこちゃんが強敵と戦うのを独り占めしちゃうかもしれないの
が絶対に嫌だ! 大体ねっこちゃんの近くには強敵がうじゃうじゃしてくるから、
なるべく離れたくない! モてる女が羨ましいよ!」
「そんなのにもてても全然嬉しくないし!」
強そうな敵に好かれるなんて嫌に決まっているじゃないか全く。もっと可愛らし
いモンスターとかに好かれてみたいよ。はぁ。
「ねこますさん。肝心な事を話していないと思います。」
突然エリーちゃんが声を上げた。どうしたんだろうか。
「ん? えっと何をかな。」
「お金、の事です。」
おっとぉ。そこにきたか。金の切れ目が縁の切れ目と言うし、ここは本気になって
話合わないといけなかったな。さて、どうするか。
「人間の大陸で薬草が高額で売れたということですが、それならば、あたし達が集
めた分を少しずつ出荷して売るだけで、お金持ちになれる、ということですよね?」
「あー。そういえば、このゲームのお金、現実に換金できるんだっけ…。それは、
確かに魅力的と言うか悪魔の誘いと言うかやばそうだねー。あはは。」
「ブッチさん。これは、かなり恐ろしい事なんですよ? ここでの稼ぎが現実で稼
ぐ何倍にもなったらどうするんですか? 仮に…その。一気に数百万円とか手に入
ってしまったら。」
「えっ!?」
「は!?」
ブッチと私の声が響き渡った。いや、流石にそこまで期待はしていなかったんだけ
れど、そのレベルなわけ? 冗談じゃないよね? 薬草集めが一攫千金になるとは
思ったけれど、それ、かなりやばいレベルじゃない!?
「あの…。そういうレベルでお話をしていますよ。ねこますさんの話からすると、
薬草はかなり貴重なものになるはずです。それを大量に出荷していくだけで、利益
を上げられるのであれば、そのくらい稼げてもおかしくないかもしれませんよ。」
そそそそそそそそ、それはちょっと怖くなってきたよ。お金になるっていっても、
どうせよくて数千円から数万円程度だと思っていただけに、いきなりそんな事を言
われてしまうと小心者な私は、膝ががくがくしそうになる。
「ぶぶぶぶぶぶ。ぶっち。エリーちゃん。そ、それ心臓に悪い話じゃない?」
声が震えてしまった。いやだって、そんなのないでしょ。
「あたしも本気で言ってますよ。だからその、ちょっと怖くなってしまって。」
「うへぇ。俺もそれはびびってしまいそう。冗談だと思いたい。」
現実のお金に換金できてしまうって、そんなのがあっても、かなり稼がないと無理
だろうと思っていただけに、それがいざ、出来てしまうとなると話が変わってくる
な。あ、ここで分け前の話か。三等分ってことでいいのかな。
「分け前とかの話なら三等分でいいんじゃないのかな。」
「ねこますさんが多く貰うべきだと思います。」
「俺もそう思う。」
「なんで!?」
こういう時、報酬を多く受け取ることになるのってかなり怖いんだけれど。貰った
分だけしっかり働けよって話にもなるし。そういうことはあまりしたくない。とい
うかゲームなのに現実の金の話をする今が信じられないくらいびびってるっての。
「あたしの場合は、そもそも外に出ることができたのがねこますさんがきっかけだ
ったので。それだったらねこますさんが多く貰うべきだと思っています。」
「あ、俺も同じだ。でも俺も金欲しいー。」
「あ、あたしもです。」
みんなお金が欲しいのは分かる。が、そこで私がお金をがっつり持っていくのもな
んだか申し訳ない気がしてくる。
「これって現実で稼ぐよりも簡単に稼げてしまうかもしれないって事だよね。」
待て、まがりなりにも私は社会で働いているのだが、あくせく頑張っているよりも
このゲームをやっている時の方が稼げてしまうなんてなったらそりゃあなんだって
なってしまいそうな気がしてくる。怖い、あまりに怖い。お金の力って怖すぎる。
堕落してしまいそうだ。こっちでお金が稼げるからもういいやってなってしまわな
いだろうか。うう、なんだこれ。お金が貰えるかもしれないのに、そのせいでスト
レスになってしまいそうだぞ。
「分かった。ひとまず私の取り分を多めに、そこからブッチとエリーちゃんに配分
って形にするよ。でも私達全員で分けてもかなりの金額になったりするのかな。」
「だと思いますよ。」
「一気にお金が入ったら、働かなくても良く…はなりたくないね。うん。あぶく銭
だって思ったほうがいいな。俺はそこまで堕落したくないし。」
ブッチの言う通りだ。所詮あぶく銭だと思わないとだめだ。ここで楽して稼いで
しまったら日常が崩壊する。断言できる。そんなことにならないように、私達は注
意していかないといけないな。
「精神的にきついなあ。お金ががっぽりかもしれないのに。」
「あたしもですよ。ああ、でもお金ががっぽり手に入ってからなので、捕らぬ狸の
皮算用って奴ですね。」
「あ、狸って言えばねっこちゃんが確か。」
「譲らないからなっ!」
はぁ、お金の話は極力したくないけれど、こうやって真面目に決めることができる
ならやっておかないわけにはいかないからな。今後も注意して相談していく事にし
よう。
そう簡単に一攫千金なんて出来ないと思いますけれど
夢のある話をしたかったので書いてみました。