第266話「次はどうする?」
先ほどの戦闘でかなり消耗したので、何個か薬草を食べておくことにした。ブッ
チにも私が持っている分の薬草を渡して回復して貰った。
「やあやあ、ありがとうねっこちゃん。楽しませてもらった上に薬草まで。いやぁ
嬉しいなあ俺。至れり尽くせりで。こんな気分よく戦えたの久々だと。」
その場に座り込んでいるブッチは、かなり上機嫌だった。そんなに満足して貰え
るとは思わなかった。おっと、ここで聞いておきたいことがあったんだった。
「うんお疲れ。それでさ、神殿にはプレイヤーもいたと思うんだけれど、そんなに
相手にならなかったの?」
ブッチが私と戦うことになったのが、手ごたえのない敵ばかり相手にしていたか
らだったようだが、プレイヤーはそこまで弱かったのがが気になる。もっと色んな
動きができてもよさそうな気がするんだけれど。
「ん? えーと、みんな同じような戦い方なんだよね。何をするにしても、補助魔
法みたいなの使って、そこから攻撃を仕掛けてくるんだけれど、その動きがみんな
一緒なんだよ。いや、微妙な違いがあるんだけれどみんな同じ。それが分かってる
もんだから、相手にならないって感じ。」
なるほど。動きがほぼ固定されているのなら、一度でも倒してしまえば、それが
分かってしまうから、楽に倒せてしまうと言うわけか。でも、いくら何でもみんな
がみんなそんな動きになるものなんだろうか。
「なるものなんだよね。最適化された動きと言うか、無駄な動きが無くなるから、
確かにいい所ではあるんだけれど、それは動きを読んでくださいと言ってるのも同
然だからねえ。それで最適化された動き以外をしてくるプレイヤーもいるかなあと
期待したら、全然いなかったんだよね。ため息が出てきたよ。」
一般的なプレイヤーという事だろう。ブッチが言うような最適化された動きじゃ
ない動きをするプレイヤーも当然いるだろうが、偶然このあたりにはいなかったと
いうことだ。上級プレイヤーとでも言うべき存在は、こんなところで燻ってなく、
きっと難易度の高いダンジョンにでも挑戦しているのだろう。
「あれ。でもそうなると、私だって同じようなものじゃなかった?」
ふと気になったのだが、私だって一般プレイヤーだし、あっというまに倒されても
おかしくなかっただろう。それにも関わらず、引き分けのような結果にまで持ち込
めたのはどういうことなんだろう。
「ねっこちゃんは、動きがトリッキーというか、なんでそこでそれをやるのって言
う無駄な動きがあるから、逆にこっちがはらはらさせられるからね。」
「そうなのか。え?」
無駄な動きとはなんだ! こちとら必死になって動いていると言うのに。お笑いを
とるためにやっていることではないんだぞ。真面目にやっているんだぞ。
「私は、いつも真面目に戦っているよ?」
鬼気迫るようにブッチに問いかける。無駄な動きがあるとは信じられないし。
「そうなのは分かってるけれど、なんか気が抜けるような攻撃と気が抜けない攻撃
を連続でやってくるから、どうもペースが乱されるんだよ。特に気が抜ける様な攻
撃が何なのこれって感じで急に強力な攻撃になったりするし。ねっこちゃんは戦い
慣れした人相手にはかなりいい感じで戦えると思うよ!」
褒められているのか馬鹿にされているのかよく分からない評価だ。うう、私とし
ては純粋な強さというか、ブッチみたいに何でも出来そうな頼られる系くらいにな
りたいんだけどなあ。中途半端さが残ったままかあ。
「二人ともお疲れ様でしたー。って言いたいところですけれど、こんなところでい
きなり戦ったら駄目だと思うんです。他のプレイヤーが近づいてきたら、それこそ
まずいことになるじゃないですか。」
いつの間にやら近づいてきていたエリーちゃんから注意された。私も熱中してし
まったけれど、ブッチが我慢できないって言うから付き合っただけなのに!
「いやあ、ねっこちゃんが戦うのが我慢できなくてどうしてもって言うから、こう
なったんだよねえ。」
「それは私じゃなくてブッチだろ!!」
「あれ? そうだったっけ。」
こんな風にとぼけるんだもんなあ。参っちゃうな。
「ねこますサマ、ブッチドノ、ミゴトナタタカイデシタ。」
「すごかったチウ。第一ご主人が突然消えたりしていたのも驚いたチウ。」
「ブッチドノヲ、ホンロウシテイルノハカンシンシマシタ。」
「マサカ、アノヨウニコウゲキヲアテルナド…。」
おっ!? みんな私の事褒めてくれてない! やっぱりね! 私は頑張ったよ。こ
んな強そうなプレイヤー相手に、庶民系というか凡人プレイヤーの私が十分健闘し
たんだから、褒めたたえられてもいいよね!
「魔者様はやはり凄まじいですね。私が一発も当てられなかったブッチ殿相手に、
攻撃を当ててしまうなんて。」
うんまぁ偶然の産物なんだけれど、ね。
「ほらブッチ。みんな私を褒めてくれているよ! 超凡人プレイヤーの私なんかが
頑張ったってさぁ! 凄い事だと思わない!?」
「えっ!? あ。うん。え? いやあねっこちゃんが凡人だとか誰も思っていない
と思うんだけど。」
「あたしもそう思います。ねこますさんって、何故か自分を過小評価していること
が多いですよね~。」
え。何を言ってるんだろう。私は凡人だろう。たまたま魔者とかいうのになれたか
らスキルが使えているだけだろうし。それに、私がもっと凄いプレイヤーだったら
今までの敵とかも、もっと簡単に倒せていただろう。
「私が本当に凄かったら、グローリーアントとかも鎌でえいって刈っただけであっ
さり倒せたり、100人いるプレイヤーを1秒で倒したりとかできるはずだよ。」
「何だって!? そんなプレイヤーがいるかもしれないのか! もしかして、ねっ
こちゃんはそういうプレイヤーと面識を持ったってこと!?」
「いきなりがっつかないでよ!? そんなプレイヤーいないよ! 私がそのくらい
強くなれたら、もっと自分を評価するよって話だよ。」
誤解させてしまったようだ。強敵と聞くと、なんでそんなに燃え滾るんだろうな
あブッチは。私なんか強敵を相手にしたらまず勝てないので、どう対処すればいい
のかってことばかり考えてしまうと言うのに。あぁ、強いって羨ましいなあ。
「それで、話をしたいんだけどいい?」
「えっ!? 俺への愛の告白かい!? 照れるなあ。」
「これから先どうするのかなーって事なんだけれど、あっ、これエリーちゃんに頼
まれていた服ね。」
サロペットやらロングTシャツやら、人間っぽく見られそうな服を渡した。
「うわぁ。ありがとうございます! これで私もあの街の中に入れますね!」
「そうだねえ。で、ブッチにはメッセージで連絡したけれど。」
「兜が無かったってね。でもいいよ。仮にあったとしても、多分受付とやらで外せ
とか言われると思うし。そうなったらやっぱり俺は入れないんだろうな。」
ため息交じりに話すブッチだった。何とか町の中に連れて行ってやりたいんだけれ
どその方法が無いんだよなあ。道化師としてそのままの姿で行こうものなら、今度
はサイコロを外せなんて言われかねないし。
「ねっこちゃんがさっき俺との戦いで見せたあの土に潜って行くのはどう?」
「やってみないと分からないけれど、不法入国になるから、後が怖いね。」
それさえなければ良かったんだけれどなあ。
「まぁ、そのうち私が錬金術で姿を変えられたりできるように頑張るから、それま
での辛抱だよ。」
「今すぐ作って~。」
「材料も何もかも分からないから無理だな。」
先生の下で修業したといってもまだ基本だけだしなあ。
「で、エリーちゃんは、これから町の中に行くのかい?」
「はい! ブッチさんには悪いと思っていますが、やっと入れるので楽しみだった
んです!」
「いや、それはいいんだけれど、お友達とは連絡とれたりするんだろうから、しな
いのかなーって。」
「え。あぁ。」
言い淀むエリーちゃんというか、何か少し気落ちしたような感じがする。
「ももりーずVを抜けて友達とのゲームプレイを楽しむと言うのもいいかもしれない
し、これまで出来なかった基本的な事も学べてうはうはかもしれないよ! さぁ今
こそ決断の時だ! どっちに転んでも俺は泣いてやるよ!」
「わざとらしい事を言って何がしたいんじゃい。」
思わずブッチをこづいた。うーん。エリーちゃんも私達とはいてくれるとは言って
くれていたけれど、やっぱりここで友達と会えるなら別れるというのも手ではある
んだよなあ。
「いえ。私はももりーずVに残りますし、友達には会いませんよ。」
「お、決意が固そうだけれど、なんでそうしようと思ったの?」
「決まっているじゃないですか!」
あれ、なんか目が輝いているぞ、そして私の方を見ているぞ。な、なんだなんだ。
「実は、ねこますさんと薬草を売ってお金を稼いだことをメッセージでや取りして
いたんです。それだったら、このメンバーにいてお金を稼いで、現実でもお金を手
にできるかもしれないじゃないですかっ!」
あ、職業が盗賊だけあってお金大好きだったか。そうかそうか。それでもって現実
でもそのお金が稼げるかもしれないと。確かにそうだ。魔者の大陸に行って、薬草
を集めまくって、こちらで少しずつ売っていけば、それだけで利益になるし。とい
うか、やはり金か!? エリーちゃん、金の亡者になっていないかい!?
「金の亡者になっていく気がするんだけれど、友達の方が大事じゃない?」
「私の事を嘘つき呼ばわりしましたし、それから微妙な仲だからいいんです! だ
からもうそんな友達よりも現金のほうがいいです!」
「言い切った! まじぱねえっすエリーさん。俺尊敬するなぁ。仲間にして。」
「もう仲間だろ、何言ってんだ。」
「おっ!? ねっこちゃん、今のは点数高すぎるよ。」
「ねこますさん、これからも私はももりーずVでやっていきますよ。お金もそうです
が、こちらのメンバーと一緒の方が楽しいと思いますし。」
それは願ったりなんだけれど、現実の友達と距離ができてしまうのはなーなんて
考えたけれど、それは私の責任でも何でもないからいいか。過剰に干渉するのもよ
くないし、エリーちゃんが自分で決めた事だし。
「で、エリーちゃんは一人で町に行くってことでいいのかな?」
「えー!? ねこますさんは付いてきてくれないんですか!?」
「うえっ!? 私はまだ行ってきたばかりだしさ。それにブッチにも悪いかなあと
か思ったり、あと、あとさ。」
「?」
「草刈りがしたいの! もういい加減草刈りしてなくてイライラしているの! だ
から私は今から魔者の大陸に戻って草刈りをするつもりだったんだよ。うああああ
草刈りがしたい!」
禁断症状的なものがでてきてしまった。本当に草刈りがしたくてたまらない。なの
で残念ながらここで町に戻りたくはない。それに一旦町から離れますと先生に行っ
た手前、すぐに戻るのもなんだか恥ずかしいし。
「というわけで、どうするか、もう少しみんなで話し合おうか。」