第26話「まさかの」
大蛇は動かない。復活する様子はない。鎌や骨でどついてみたり、モーニングスターで
叩いたり、爪で斬り裂いても動く事は無かった。だけど安心ができない。
「ねっこちゃんビビりすぎっしょ。」
「画面をスクロールすると復活する敵とかよくいたからしょうがないっての!」
必死こいて倒したら即復活とかふざけるなと思ったものだ。あれは今でも許せない。
「とりあえず、ブッチ、こいつの口の中に火薬草ぶん投げて。」
「うわぁ。顔も残酷だけど心も残酷だあ。」
「お前が残酷だよ!失礼な奴だな!」
「まぁやりますよー。ほいっと。」
大蛇の口の中に火薬草が投げ入れられる。そして、牙がなくなったようだ。まずはこれで
少し安心といったところか。
「さすがにこいつは食べないよねたけのこも。」
「ドクガツヨイトオモイマスノデムリデスネ。」
狐火で加熱したらどうなのかなって思ったけど、今は使えないのだった。火薬草だとこの
ままだと肉ごと吹っ飛ぶだろうし。
「いやぁそれにしてもきつかったなぁ。あー倒した倒したー俺MVP。」
「みんなMVPだろ!」
「一番楽しかったのが俺だと思うから、俺がMVPかなーって。」
「私もたのしか、まぁ楽しかったよ!うん!勝ったし!」
薬草を食べたら火薬草が出来るなんてとんでもない事実が発覚したおかげで倒せたわけだ
けれど、そんなのは予想外過ぎる事実だ。
「ところでなんでその火薬草?が作れるようになったの?」
「狐火のスキルが影響しているみたい。使えない状態でも調合ができたみたいなんだ。」
そして次の瞬間にブッチが大笑いした。
「それ、それそれそれ!いやあもう薬草を口の中にいれて調合とか斬新な錬金術過ぎてもう
俺笑うしかないなーって思ったよ。あーおもしろーあははははははははははははははは!」
何だコイツ、急に腹を抑えて笑い始めやがったぞ。私だってそんな調合があるなんて夢
にも思わなかったっつーの。子供の頃に、ガムをチョコレートを一緒に食べるとガムが溶
けるとかいうのをやったくらいだ。
「ねっこちゃん。がまぐちの錬金術士とか名乗れそうじゃない!?」
「却下。もっとこう花と夢の錬金術士みたいなのがいい。」
そういうとまたブッチが笑い始めた。こいつ笑いすぎだろ。何がそんなに面白いんだ。
「あーもうねっこちゃん面白いなあ。というわけでこれからもよろしくね。」
「え?何?私たちについてくるの?」
「いやーせっかく会えたし。ねっこちゃんたちに会えなかったら洞窟に延々と閉じこって
飽きてやめていたかもしれないしさ。まあログインした時はよろしく。」
「お、おう。」
こいつなかなかいい奴だよな。ちょっとノリが軽いけど。
「さてと、この蛇からは結局何もでなかったし、最後は派手に火薬草投げつけて死体処理
と行こうかな。」
「まだやるの!?」
当たり前だろう。死体が残っているというのがまず安心できない。何かアイテムも手に
入りそうもないし、ここで完全に消えていただく他ない。元々木箱から禍々しいオーラが
でていたくらいなのだから、この大蛇の死体が残ることでこの地に悪影響を及ぼすことも
考えられる。だから私は、妥協しない。
「そういえば木箱ってどこいったんだっけ。」
「見事にぶっ壊れたね。破片も爆発でどっかなくなっちゃった。」
最初はどれだけ攻撃しても壊れなかったのに、開けたら耐久値がなくなるってことか。
「得るものが全然なかったなあ。」
「ワタシガアケタカラデショウカ・・・。」
たけのこがしょんぼりしている。ああもう。責めてないって!
「大丈夫!あの木箱は最初からなんかやばかったわけだし!たけのこのせいじゃない!」
主としてフォローする。それにしても、骨折り損のくたびれ儲けって感じもするなあ。
この勝利はものすごく嬉しいってのはあるけどご褒美くらいあってもいいんじゃないか。
「割に合わなかったって気がするなあ。それともこういう奴は超低確率で激レアなアイテ
ムを落とすとかあるかもしれないけど。」
激レアかあ。欲しいなあ。
「そんなこといってもどうせ手に入らないしってことでそろそろ爆発させるよー。」
「はいはい。」
「ヨロシクオネガイシマス。」
大規模な爆発が発生する見込みなので二人には一応、距離をとってもらう。連続で爆発と
かさあ、やったか!?っていってやってないってノリな気がして不吉だよね。でもやるだ
けやっておかないと気が済まないのでよしやろう。吹き飛ばすぞ大蛇!
「よーし!いっくよー!芸術は爆発だああああああああああああ!」
火薬草をどんどん投げつけていく。激しい爆音が鳴り響く。すごい衝撃だ。これでこの大
蛇とはお別れだ。ふー。きつかったけど本当に楽しかったなあ。多分これで復活とかはな
くなるだろうし、やっとこさ安心だあ。というところで──
「グエー死んだンゴ!いやこれは死ぬンゴ!やめちくりー!」
「は!?」
「え!?」
「ム!?」
突如聞こえた声に私たちはあっけにとられたのだった。