第258話「闇が深い?」
またいつものパターンになってしまいました…。
結局、先生の所には何日もお世話になったので、ホテル代が無駄になってしまっ
た。何も言わずに他の場所で宿泊するのも礼儀がなってないと思ったので、ボハリ
テホテルで謝ってきた。あまり気にしてなさそうな気がしたけれど、どこか寂しそ
うに映ったが、しょうがない。前払いした料金は別にどうってことない金額だった
ので、そちらについては特に問題は無かった。
その後は、先生のアトリエでお世話になった。といってもひたすら錬金術の基礎
となる勉強だけだったけれど。
「基礎の基礎しか覚えられていないのと、素材が全然手に入っていないので、調合
できる回数が少なかったのが残念でした。」
「素材については、その本が役に立つから、旅をしている時もちゃんと読むのよ。
それから、時々顔を出しなさい。絶対に来いとは言わないから。」
ここでじっくりと学びたい気持ちがあるのだけれど、そればかりしていたら、他
に何もできなくなってしまうので、一旦区切りをつけることにした。そうしておか
ないと、ずるずると、錬金術を学ぶだけになってしまうから。
先生とは、一旦別れの挨拶をすることになったが、この街に来たら必ず来ようと
思ったのだった。割とあっさり別れが、お礼としてお金と薬草と火薬草などをいく
つか置いていった。こっそり置いていったのに、すぐばれていきなり追いかけられ
て返品されたのが残念だった。
先生、やっぱり結構いい人なんだよなあ。だというのに今までまともな弟子が一
人もできなかったのは何か他にも理由があるんじゃないだろうか。明らかにおかし
いと思う。こういうNPCだったら、一般的なゲームプレイヤーにも絶対に好かれるは
ずなのに、どうして弟子がいなかったのかなあ。
「ねぇ二人とも、先生ってなんで弟子がいなかったんだと思う?」
「闇が深いからやないんか?」
「ええ。あれだけ闇が深いのであれば近寄りがたいのではないかと。」
よく意味が分からなかった。闇が深いっていうのはどういうことだろう。何かに気が
ついていたのだろうか?
「闇が深いって私にはよく分からなかったんだけれど、何したの?」
「ファッ?」
大根が素っ頓狂なこえを上げた。サンショウもどこか呆気にとられたような顔をして
いる気がした。え、何だ。何があったんだ。この二人、先生に弟子ができなかった理
由にずっと気が付いていたとでも言うんだろうか。
「姉御、本当に何も気が付いておらんかったんか?」
「ええ。何? まさか先生が幽霊だったとかそういう事を言うんじゃないよね?」
大体こういう事のオチはそんなものだったりするけれど、そういった素ぶりは特にな
かったし、それに幽霊だったとしても別に怖さは感じなかった。
「普通に人間やで。なんやが、闇っていうのは言葉通りなんや。闇の錬金術とか言う
のをやってるせいか知らんのやが、闇が濃くて、生命力的な物を周りから奪っていた
と思うんやで。」
「え。」
そんなことには一切気が付かなかった。それが理由だとしたら、一人も弟子ができな
かったことには合点がいく。でもたったそれだけでか。後、それなら私はどうなって
いるんだ。
「姉御は、元が般若レディやから、そういったもんに耐性があるんやないかな。」
知らない間に耐性を獲得していたらしい。般若レディだからか。えぇ、でもそんな
耐性なんてあるものなのか?
「ワイらにも何の影響もないんやが、一般的な人間とか、あれに気圧されたり、生命
力とかそういうのが奪われ続けて、参ってくるんやないか。」
「私が補足します。ドーラ殿の闇は、相当深いです。人間達は、それが恐ろしくて、
普段はドーラ氏をあの場所に隔離しているといったほうが正しいのだと思います。当
の本人も気が付いていると思います。そして、買い物に一人で行っていたのは、恐ら
く街の中で自分の扱いを見られたくなかったのでしょう。」
なんていう辛い事実。先生そういうことはっきり言ってくれりゃあよかったのに!
それじゃあ私の目標は、先生の闇が深い事の解決ってことだな。闇の錬金術をやって
いるからなのか、それとも元々なのか分からないけれど、それは生活する上だと困る
だろうから、弟子として尽力せずにはいられないだろう。
「あー。闇が深いとか全く分からなかったから、そういうのが分かるようにもなりた
いなあ。」
「姉御は耐性があるからそもそも分からないってだけやと思うで。これからも分から
ないと思うで。」
「ということは、闇が深いというのを見るためには、それ専用の道具が必要になるっ
てことか。」
うー。どれくらい闇が深いのか知りたいなあ。気になってきた。
「あ、そうか、よく考えると威圧みたいなものかな?」
「言われてみれば確かに似ている気がしますね。」
なるほど、威圧は単に相手を委縮させるけれど、そこから更に体力を奪うみたいにな
っていたら、そんな状態で弟子入りするなんて無茶だもんなあ。あ!? 大事な事に
気が付いたんだけれど!
「私もこのまま闇の錬金術をやったら、闇が深いとかってなるんじゃないかな!?」
「ありえるで。」
なんということだ。くそっ。先生はそういう事を教えてくれなかった気がするんだけ
れど!? あっそうか。私を道連れもとい仲間にしたかったからか! それならしょ
うがないな! そんでもって闇の錬金術を使わないと、どのみち詰んでいくのだから
これは本当にやむをえないぞ。
「姉御、それで姉御が忘れている事なんやが。リュックはどうなったんや?」
「完全に忘れていました。」
あ、結構日付経ってっているけれどってそこまで経ってもいない気が。ああ、でも出
来ているかもしれないし、顔出しはしておこう。闇の錬金術に夢中で危うく忘れると
ことだったけれど、リュックだって超大事だし。それが終わった後は、ブッチ達と連
絡とって、次やることを決めていこう。
「それじゃあ、リュックが完成しているかもしれないので、ハーツに顔を出してみる
とするか。」
商業区の北西の店舗まで行くことにしたが、魔者の試練がまた出てこないことを祈
るしかない。あれは嫌なタイミングで発生するので、こういうちょっと行って済ませ
ようなんて思っている時に限ってなるので、それが発生しないことを願うばかりだ。
まぁ、つい最近起こったばかりだし、そう簡単にはならないだろうとは思う。
先生のアトリエがあった南東の森からの異動なので結構歩くことになる。同じ国の
中にあるというのに移動が大変だなあと実感する。いつも思うんだけれど移動がネッ
クになりすぎているなあ。だいこんが使えればいいんだけれど、ここで巨大化して移
動したら話題になってしまうだろうし、下手に使えないのが痛すぎる。
「最初は新しい体験ができるからいいんだけれど、何度も同じ道を行ったりすると、
段々それも飽きてくるものだから、面倒くさくなってくるんだよね。」
「そういうときこそワイの出番なのに、ここじゃだめなのが残念やで。」
「この国にいる間の移動手段を考えなけれいけませんね。」
他のプレイヤーの移動方法が知りたいけれど、そういうのを知ることができそうな場
所が酒場やらになるのかな。でも未成年のプレイヤーもいるだろうから、そういうの
に配慮した設定もされているはず。だとするとどこかに初心者用の情報交流場なんか
がありそうな気もするんだけれど、ガイドブックでは見なかったというか、錬金術の
事とかのほうが優先だったので、多分見逃した。
情報は命なんて言うくらいだが、その情報をゲーム外で調べるのは避けたい。いつ
ものことだけれど、そういう情報を予め知っておくというのは、新しい経験をする事
ができなくなるのが嫌なのでやりたくない。ゲーム内で人づてで聞いたりするのはい
いと思う理由は、ゲーム内だからとしか言いようがない。
他のプレイヤーがゲーム外で調べたことをゲーム内で話しているだけだったとして
も、自分でやるのとは違うので一応グレーゾーンとして扱うことにはしている。
そうだよ。そこで情報屋だよ。どこかにそういう情報通のNPCがいないものだろう
か。そいつにお金払って聞ければ一番いいと思うんだけれど、このゲームに探偵だ
とか情報屋がいるかどうかも分からないしなあ。そいつを見つけることも今後必要
になってくるな。
「やりたいことが多すぎて、追い付かない状態になってきた気がする。」
「姉御はいつもそんな状態やないか?」
レトロゲームで言えば、船などの乗り物を手に入れた時の気分だな。急に行ける
場所が増えてやりたいことが多くなって何からやろうか迷うような状態だ。人間の
大陸と言う新しい場所に来てから世界が広がったので、やりたいことが多くなって
本当に困っている。
「強くなりたい。家が欲しい。錬金術もっとやりたい。アイテムが欲しい。それか
らえーっと。」
声に出してみるがざっくりとはこんな感じだな。クロウニン退治とか魔者について
調査だとか、他にダンジョンだとかに行ってみたかったり、他のプレイヤーとの交
流ができるようにしたりと、幅広くやっていきたい。
「姉御って、実は大きな目的はないんやないのか?」
「自由気ままに好き勝手にやりたい放題にやれるようになりたいっていう一番我儘
な目的があるよ。」
「おぉ。ねこますサンならきっとどんなことでもできるようになるでしょう!」
いやサンショウ、そんな期待した目でこっちをじっと見つめるんじゃない。イケメ
ンがこっちを見てくるというだけで周りからの視線も増えるんだぞ。
「ダンジョン攻略とかもありそうだけれど、美味しい物探しなんていうのもいいし
自由に何でもできるっていいけれど、何かこれはやっておかないとって目的は立て
ておかないといけないね。」
これを目的として動くって言うのを決めておくのはいいことだろう。<アノニマス
ターオンライン>の世界観がどのようになっているのか、なんて言うのでも良さそ
うだ。未だにどんな世界なのかよく分かってないのが困りものだしね。
「後は乗り物というか移動手段の確保は絶対する。街中を移動するだけでこんなに
時間かかるのは絶対に嫌だ。」
「せやな。でもいざとなったらワイを使うんやで。」
「だいこんサンが巨大化したら、人間どもを轢き殺しそうですよ。」
「アカン。それは恨みを買ってまうで。」
「というわけで、だいこんはお休みしなさい。ここでは別な移動手段を考えておく
から。」
「お荷物になっていくワイであった。ワイもなんか役に立てるようになりたいんや
で。このままやとワイが活躍できないやで。」
「それも考えておくよ。」
あれ、これってどんどんやりたいことが増えて結局どれもこれも上手くいかなく
なるオチじゃないのか。まぁいっか。期限なんて決まってやることじゃないし。自
由に気ままにやっていくとしよう。