第257話「これから」
明日少し修正します。
今日は、一般的な錬金術の事と闇の錬金術の基礎を教わったが、釜が必要だとい
う事なので、どこかに拠点を作らなければいけないと感じた。この街というか正確
には国であれば先生のアトリエを使わせてもらえるが、自分専用の場所というのが
無いので、欲しくなってきた。
生体調合があればどこでも調合ができるが、私は一般的な調合をしたいので、可
能な限り、釜を使っていきたいと思っている。では、どこで調合するのかというと
当然、魔者の大陸のねこます草原にある丸太の家で、だ。
最初は、魔者の塔にある魔者の部屋あたりでもいいんじゃないかと思ったけれど
自分が作った場所でもないので、どこか居心地が悪いし、それにあそこまで行くの
が面倒なので候補から外した。
人間の大陸、要するにこの場所だけれど、先生のアトリエとは別に、自分のアト
リエを作りたいと言うのもある。が、この街の中だと、ブッチ達が入ってこれない
し、かといってこの街の外にあれば、誰かが見つけてしまうというのが考えられる
ので、どこか隠れ家的なところが作れたらいいのになと思っている。
錬金術のやり方を覚えたら、大体この街には用事がなくなってくる。色々な道具
などが簡単に手に入ったり、他のプレイヤーと交流が図れるというのもあるが、そ
こまでやりたいということではないので、ここから離れても平気になる。とはいえ
ハーツの革製品だとかお気に入りの物はあるので、たまになら寄っていきたいとい
う考えはある。
現時点で一般的なプレイヤーとの交流を控えたいのは、一旦交流が始まると、自
由に動きづらくなる可能性があるからだ。多少仲良くなったりしてしまうと、そこ
で変に仲間意識が芽生えてしまい、大して意味もなく何か遊ぶことに付き合ってし
まうという感じで流されやすくなってしまう。それを避けるためにはやはり、自分
がやりたいと思う事をやるべきだろう。
ブッチやエリーちゃんの場合は、事情が違うと言うか、魔者の大陸出身なせいか
親近感が湧いているし、同じももりーずVの仲間ではあるので、気遣いだとかそうい
う面倒くさそうな事をしなくていいので楽だ。
私は、人間関係で悩むのがかったるいと思っているし、あと腐れなく言いたいこ
とを言い合いたいので、それが出来ないとストレスが溜まってゲームプレイの意欲
が低下してしまう。そんなくだらないことでそこまでなってしまうのが嫌なので、
面倒くさそうな連中には関わりたくない。
オンラインゲームの中にはよく分からない、分かりたくもないローカルルールが
あるのだが、それがつくづく面倒くさいと思っているので、<アノニマスターオン
ライン>では、そういうルールは知ったことかという感じでプレイしていく事に決
めている。
よく分からないルールに縛られながらゲームをプレイしても何の楽しみもない。
そんな感じだから、きっとこれから対立することも沢山あるだろう。その場合は、
私に攻撃してくるなら、やり返すだけだし、私も気に入らないならそれこそ先制攻
撃するだろう。それで全部解決というようなノリで行きたい。
恨みを買ったり、叩かれたりすることもきっとあるだろうが、それこそ、かかっ
てこいといった感じだ。悪役としてプレイするのなら、そういう扱いをされること
こそが本望なのであり、私はそうなりたい。とはいえ、般若レディと人間化してい
る状態で使い分けはするけれど。
「ねこます。あなたは闇の錬金術を使えるようになったけれど、まだまだひよっこ
なんだから、失敗しないように注意しなさいね。」
1階の部屋に戻り、テーブルで先生と雑談をする私であった。
「はい! 先生! 私はこの力を悪用して、私を苦しめる連中に復讐を果たして、
世界を滅ぼしてやるのです!」
「あまりにわざとらし過ぎて、ツッコミを入れるのも気が引けてくるわ。」
「いや、先生。私はやるといったらやりますよ。こう見えても札付きの悪というか
そういう感じですし私。」
「はいはい。この街の住民に何かされて復讐でもしたいってこと?」
何かされたという事は無かったけれど、強いて言えば、偉そうな連中に復讐もと
い八つ当たりをしたいというのがある。これまで私がプレイしてきたゲームでは、
王様だとか貴族だとかがとても偉そうな割に、アイテムの一つもくれないで、今か
ら魔王を倒してこいだの、凶悪な魔物を絶滅させてこいなんて、ただ指示をしてく
るだけだった。このゲームではこれまでにたまった鬱憤を晴らしてやりたい。
「私、王様とか貴族とか偉そうな奴らが嫌いなんです。そいつらの中で傲慢な奴は
問答無用で死を与えてやりたいくらいに。」
「物騒な事を言わないの! まったく。誰かに聞かれてたらどうするのよ。」
「そしたらそいつを地の果てまでも追いかけますよ。それで先生、今さらですけれ
ど、先生には他に弟子はいないんですか?」
「…いないわよ。正確にはいた時もあったけれど全員数日のうちに逃げ出したわ。」
「マジですか。なんて根性がない連中なんでしょう。」
「かっこいいと思ったいたけれど不気味、だとか。やっていることが地味だとか
一生懸命やっても見返りが少ないとか、そんな感じらしいわ。それで、他の職業や
他の錬金術士のところに弟子入りにいったり、ね。」
悲しいオチだなあ。だけど世界中のプレイヤー達のうち、誰一人として正式な弟子
にならなかったっておかしくないか? 先生はそれを隠しているなんてことはない
んだろうか。あるいは、別な場所で闇の錬金術が学べたりしているから、敢えて、
このドーラ先生のところでは学ぶ必要が無いってことなのだろうか。
「先生以外に闇の錬金術士がいないっていうのも不思議だと思ったんですが。」
「私以外誰もまともにやろうとしなかったのよ。」
「でも、先生! 冒険者たちとか色々かなりの人がこのナテハ王国に訪れているの
に、誰一人として闇の錬金術を学ばないっておかしくないですか?」
そうだ。絶対におかしい。これほどおかしいことはない。奇特な人間なんて沢山
いるはずなんだ。ゲーマーはこういう希少価値のあることに夢中になるはずなんだ。
「本当にまともにやろうとしている人はいないわよ。これはきっと、錬金術を習得
しようとすれば、それだけに集中してやっていかないといけなくなるのが大きいの
よねきっと。」
待てよ。ひょっとして、<アノニマスターオンライン>では、プレイヤーが一人
しか作れないことも起因しているってことなのかな。それだと、他の職業で集中し
てやってみるとかもできないし、錬金術だけずっと学んでいくのはリスクが高いか
らと判断した、とか。でもそれにしたってなあ。ううん、でもやり直しが効かない
なんて考えたらそうなるのかな。
「ん? となると、私みたいに最初から錬金術をやりたい! って思った上で、更
になんとしても闇の錬金術をやっていくぞ! ってかなり特殊ってことですか?」
「そうなのよ! ねこますみたいに真剣にやろうとするなんて稀なのよ! あなた
はとても貴重な人材なのよ!」
なんていうことだ、みんなそこまで根性なしだったのか。こういうリスクがありそ
うなことほどやってみるべきだと思うのに、やっぱり攻略情報とかそういう情報を
見てから始めたってことなのかなあ。でもそういうのって、先にプレイしていた、
所謂、人柱になってくれたプレイヤーがいたから分かったことだと思うんだけれど
なあ。石橋を叩いて渡りたくなる気持ちも分かるし、失敗したくないっていうのも
分かるけれど、それはちょっとなあ。
「ああでも、私も安定した道を選びたいなあって思ったことはありますよ。でも、
それが許されない環境なので。」
だって私、魔者だし。
「闇の錬金術じゃなきゃだめな理由でもあるの?」
「強力無比な攻撃ができるようにならないと、凶悪な敵を倒せないので。他の錬金
術も色々あるみたいですけれど、それ以上の威力が出せないと、私の死亡が確定す
るんですよ。」
グローリーアントを倒せたのは隕石拳のおかげだけれど、あれを何発も撃ちこめ
るわけじゃない。他のクロウニンを相手にしている途中で、決め手にかけるような
状態になるかもしれない。例えば隕石拳が回避されていたらどうなってしまってい
ただろうか。ただ無駄打ちして突き進んでいたというオチになってしまう。
そんなリスクがある状態を放置したくない。常に何らかの対策方法を持っておか
ないと、思わぬ反撃を食らうかもしれない。それは困る。リスクがある攻撃をする
なら、その後の事も考えておかないといけない。予め準備できることを徹底的にや
らなければ死ぬのならば、それをやるしかないし。
「はぁ。そんな凶悪な敵と戦うって、あのクロウニンでもあるまいし。」
あれ、先生ってクロウニンを知っていたのか!? 物知りだなあ。それともなんだ
ろう。まさかクロウニンってかなり有名ってことなのかな?
「先生。もし、そうだとしたらどうします?」
「……。本気なの?」
真剣な顔でこちらを見る先生だった。私も少し緊張してしまった。
「まぁ、そのくらいの敵を想定しているんですよ。闇の錬金術を学んでいるのもそ
いうことです。」
生き残るための闇の錬金術だ。私は、これができなきゃ死ぬっきゃないってほど
追い詰められているようなものだ。
「それならもっとたくさん闇の錬金術を学ばないといけないわね。」
うっ、先生の厳しい視線が…。調合するのはいいんだけれど、あまりにがっつきす
ぎるのもちょっと、なんて思ってしまった。
「姉御は、戦いでいつも苦労しとるようなんや。だから道具が沢山欲しいらしいん
やで。」
「そうよねぇ。ねこますってばかなり華奢というか、戦闘なんて苦手って感じがす
るのよね。」
人間化している時の私の見た目は確かに脆そうだなあ。なんだか弱そうに見える
ので、カツアゲされたりしそうだ。
「実際戦闘は不得意ですよ。だからこそ、錬金術で便利な道具を造りだして戦える
ように準備しておかないといけないんですよ。」
そういえば、人間化している時も戦わなきゃいけない時がくるかもしれないし、
その時にも攻撃できるように道具を沢山用意しておく必要があるな。般若レディで
いるときよりも弱体化していると思うし、この状態でも戦えるようにしないとな。
「そこは、仲間に頼ればいいと思うのよ。あなた一人で戦うわけじゃないのでしょ
う?」
「いい案だと思いますけれど、大体追い込まれて私一人になったりするんです。な
ので、それを打開するためにも、沢山道具を造っておかなきゃいけないんです。ど
んな場所にどんな物があるのかっていうのがさっぱり分からないので。
仲間がいるから一人じゃない、なんとかなるなんて甘い考えを持っているとしっぺ
返しがあると。
「はぁ。あなたは変な所意固地になるわよね。ならば私も徹底的に教えてあげるん
だからね!
「なぜならばなのかはよく分かりませんでしたが、ぜひ一緒に協力してください!」
先生の知識を少しで良いから吸収して、もっと戦えるようになるために頑張るぞ!