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アノニマスターオンライン  作者: 超電撃豚豚丸
第4章「人間の大陸」
255/473

第255話「闇の石!」

 棒を持ってみる。何の変哲もないただの棒だ。これで釜の中にある素材石をかき

混ぜるだけの簡単な作業をする。本当にそれだけだ。棒を持つにあたっては、ほと

んど力をこめないようにする。ただ、棒を持つ感覚だけを頼りにする。そして、釜

の中の素材石に棒の先端を当ててみる。何も起こらない。

 闇の素については特別意識をしない。そういうのがこの空気中に漂っているらし

いが、そんな未知の存在なんて私は感じ取れていないわけだし、半ば自暴自棄のよ

うになって、ただ、ひたすら棒を回し続ける。なんだか虚しさを感じる。私は一体

何をしているのだろうと、なんだか今までの人生を振り返りたくなってくる。なん

だこれは、禅の修行でもしているのか?


 あれ、私ゲームをやっているはずなのに、ゲームの中ですごい修行を頑張ってい

る気がしてきたぞ。現実でも日頃お仕事で頑張っているのに、こんな修行もする事

になるなんて少しおかしいんじゃないのかという気持ちになってきたけれど、これ

は趣味でやっていることだし、むしろここで中途半端に投げ出したりしたら、自称

ゲーマーは名乗れなくなるし、自分にも腹が立ってくるのでやめようというつもり

はない。ないんだけれど、一歩も前に進めていないという現実が、ゲームなのにそ

ういう現実が襲い掛かってきているのでなんなんだこれはと言いたくなる。


 闇? そもそも闇って何。部屋を真っ暗にしたらそこに闇があるけれど、そんな

ところに好き好んで集まってくる闇の素とやらはなんなの。そんな不確かなものを

見つけるために頑張っているけれど、そういう不確かな物を見つけるための方法が

確立されていないってゲームの世界としてはどこかおかしいんじゃないか。あまり

にアナログと言うか、なんといえばいいのか、段々私も上手くいかな過ぎて、こう

おかしくなってきている気がする。

 

 そんなに時間が経っているわけでもないんだけれど、意外とこれは辛い。でもこ

んなもので辛いなんて言うのは間違っているような気さえしてくるから不思議だ。

しかし、私は知っている。この苦しみの先に、最高の喜びがあることを。アクショ

ンゲームでどうしても倒せないボスがいた。何度も何度もやられてきたが、徐々に

相手の動きが分かるようになり、最後には倒したことを。何百回もやられた事だが

その一回をきっかけに私は変わったのだ。諦めなければ何度でもやり直しができる

のであれば、余裕だろうと。現実にはコンティニューがないけれど、こうした錬金

術の練習であれば、何度でもやり直しができる。そうだ、それを思えば簡単な事じ

ゃないのか。闇の錬金術を習得するくらい!


 私に不可能はないはずだ。なんかすごい恐ろしいことをやろうとしているわけじ

ゃないし、きっと時間がかかってしまうだけだ。前に進んでいないように見えて、

これでもきっと進んでいるのだ。多分だけれど。一歩を踏み出している状態じゃな

い。もう何歩も進んでいるはずだ。だから私はやれる!


「はずなのにぃ。」

何も起こらないとかいう不思議。何なの、一体何なの闇の素って、そんなものが一

体全体どこにあるっての。くっそお。悔しすぎる。何が闇だっ! よく分からない

ものを認識しろとか、だったらいっそモンスターでも何でもでてくればいいじゃな

いかっ! ねえ!?

(母上。)


 ついに幻聴まで聞こえるようになったかと思ったが違った。ひじきだった。どう

したのかな。何かあった? 笑ってくれよこの私の、この様を。

(母上、その。闇の素についてなのですが。)

ほう!? それはつまり、何か知っているというのかひじき!? 何か知ってそう

な感じだけれどそういうことだよね!? ね!?

(な、なぜかいつもの母上と違いますね。そんなに大変ですか?)


 そりゃあもう大変過ぎて頭がおかしくなってきそうな勢いだよ。シューティング

ゲームの最高難易度でパターンをいくら覚えても覚えてもきりが無かったときと同

じような感じだ。

(よく分かりませんが、闇の素についてだったらそのお教えできることがあるので

すが、いいでしょうか?)

 ええっ!? ちょっと待ってよひじきさん。私がさっきまで苦労していたのは知

っているでしょう? 当然知りたいに決まっているけれど、それが分かるならもっ

と早く出てきてくれても良かったんだよ!?


(あの、その、母上には師匠がいますので、その人に教えてもらっているのに私な

んかが口出しするのはいけないのではないかと思いまして。)

 いいよ。いいに決まっているよ。大歓迎。いや、そりゃあ私も一人の力で成し遂

げたいことが沢山あるけれど、切羽詰まっている状態だとやっぱりヒントが欲しく

なるもんだよ。私は、優秀でも何でもない凡人だし。ここでずっと悩みっぱなしで

いたら、いつ終わるかも分からないので、何か知っているなら教えて欲しい。


(ええと。では、釜の中にですが。闇の素となる力は確かに存在します。では母上

釜の中でもっとも闇がある場所はどこになりますか?)

 それは勿論底の方にあるよね。それでもって、あとは釜の形かたすると、端っこ

のほうか。もしかすると、この辺りに多く存在するって事?

(その通りです。その場所に最も集中しているので、そこへ棒を向けて、闇に触れ

るように意識を傾けてみてください。)


 ひじきに言われた通りやってみる。釜の端っこに棒を向け、引っ掻き回すよう

な感じというかほじくり返すような感じ。これは、なんだか釜を掃除しているよ

うだ。で、これで闇の素が認識できるようになったりは、していないようだ。う

ぐぐ、でも折角ひじきがくれたヒントだし、これを繰り返しやってみるか。ああ

それか、このまま端っこをぐるぐるしながら、意識しながら、どうかな。ううん

なんだかこれ、綿あめでも作っているような感じがしてきたなあ。

(綿あめ、それはなんでしょうか?)

 ふわふわして甘い食べ物だよ。綿あめマシーンで作ったことがあるけれど、あ

んな感じでやってみるか? まぁそんなんで上手くいくわけがな、え? い、今

なんか一瞬黒い靄みたいなのがつかなかった? 気のせい!? ねえ!?

(私には分かりませんでした。)


 そ、そんな。私の気のせいか。くそう。でも多分今の感覚でいいんじゃないか

と思う。ぐるぐる。ええいぐるぐる。わ、私は綿あめ作りの天才! ってこれな

らどうだっ! あ!? 今、今また黒ずんだよ!? 今度は見てたでしょ!?

「私には何も見えなかったのですが。」

もぉお。どうしてそんなことを言うの! ちゃんと見ていなきゃだめだよ! 全

くもう。よおおし。ここからは綿あめを作るノリでずっとやっていくよ! 綿あ

め。闇の素、綿あめ、闇の素、綿あめ。そして私は無心になっていく。意識は、

全神経は全て棒に集中し、綿あめづくりをしているかのように、釜の中でぐるぐ

る回していく。


 成功させたい。なんとしても成功させたい。その一心で、もうひたすらと釜を

凝視、棒を持って回す。まるで私自身が釜の中の闇に吸い込まれていくように。

そうだ、こうやって闇を意識していけばいいんじゃないのか。自分自身が闇にな

るかのような。この釜の中にある闇の素と同じようなものとなるように。ぐるぐ

る。そうだ、これでいい。わた私は、綿あめを作っているだけ。他にやっている

ことは何もない。闇、そうだ、私は闇。

(母上、大丈夫ですか? なんだか危ない人に見えてきたのですが。)

 

 大丈夫だよ、このまま頑張れば、成功させられる気がしているから。私は、闇

になって、素材石に闇の力を吸収させるだけなんだから。そうだ、これでいい。

何もかもが上手くいかなくても、今は闇の錬金術を学んでいるだけなのだから。

これが私にできる事だ。

(あの、母上。本当にちょっとまずい気がしているんですが、本当に本当に大丈

夫なんですか?)

もう、ひじきってば何をそんなに心配しているの、ただ闇を、漆黒の闇をこの釜

の中からすくいあげていくだけじゃない。素材石に闇の力をどんどん吸収させて

いけば、先生みたいになれるはずなんだから。


「ねこます? 何をしているの!?」

「ん? え? わわわあああああ!?」

釜から大きく黒い煙のようなもやが出てきていた。うわっ!? な、なんだこれ

は!? や、やばい雰囲気がする! ちょ、なんでこれ、いつの間にこんなもの

が出てきているんだ。これ、多分錬金術が暴走したとか失敗したとかいうオチだ

よね。や、やばくない!?


「ひ、引っ込め引っ込め! 引っ込まんかい!!」

思わず怒鳴りつける。いや、もう何がなんだか分からないけれど、私が思わず、

闇の素を集め過ぎてしまったのなら、私の意思で自由に引っ込めるはずだと、や

ってみた。すると、どうだろうか。黙々と煙のようにでていた闇が少しずつ消え

ていった。こ、これで正解か?


(母上。闇に意識をとられていたようですよ。)

え、何それ怖い。洗脳されていたみたいな感じじゃん。マジ怖い。

「ねこます! 大丈夫!? だから闇の錬金術は危険って言ったのよ?」

「あ、あー。なんか集中し過ぎたみたいです。でも、これは私には才能が無かっ

たっていうのがよく分かりますね。」

「は、何を言ってるのよ?」

「こういう風に闇に飲まれたりするということは、つまり暴走させてしまうよう

になりやすいってことじゃないですか。あ、言っておきますけれど、これで諦め

るつもりはないですからね。ただ、才能が無いんだなあと落ち込んだだけです。」


制御ができなかったということはそういうことだろう。なぜそのように思ったのか

というと、こういう暴走させるくらいまで闇の力を引き出すことができたというの

は単なる自惚れだと思っているから。誰だってまともに制御する気がなければ、多

分私がしたようなことができるだろう。私がこの手の強力な力を使う上で大事だと

思っているのは制御することだ。制御できない力なんて何の意味もない。そんな危

険な力は使いたくはない。が、まだまだ私には過ぎたものだと実感できた。


「変なところで大人よね。ねこますは。一応言っておくけれど、私だって同じよう

なことは何度もやってきているんだから、そこまで気にしなくていいんだからね?」

おお、先生もだったか。なんだかそれはとても安心できた。同じような失敗をした

事があるってなんか共感が湧くんだよね。


「で、なんでそんなことが起きたの?」

「釜の端っこが闇が深そうだと思ったので、意識を向けてみたらなりました。」

「そう。それじゃあ、闇の素が好みそうな場所が分かったって事ね。つまりそうい

うことよ。どんなことでも些細な事でも意識を向ければ気づけることもあるの。」

 実際には、ひじきに教えてもらったのだが、それを言える雰囲気ではなかった。


「それで、闇の石はできたのかしら。」

「あ、見てみます。あれ? あ。えー。」

「どうしたの?」

「石が消えてしまいました。うう、これは大失敗ですね。はぁ。」

暴走させてしまって、石が消滅してしまったようだ。なんて様だ。折角少しはいい

感じになったと思ったのになあ。これは落ち込む。


「…。ちょっとどきなさい。」

先生が私を押しのけて、釜の中をじっと見つめた。そして、そのまま釜の中に手を

突っ込んだかと思うと、次に何かを掲げた。

「闇の石。できているじゃない。」

「え。ええええええええええええええええええ!?」

 どういうことだよ一体。釜の中には何も無かったのに! あ、真っ黒になりすぎ

て気が付かなかったってことか!?


「ここまで闇と一体化したものが作れたんだから、まぁ暴走はしたけれど合格よ。」

「う、ありがとうございます! 先生っ!」

「あわわ。ちょっと危ないからぎゅっとしないで!」


というわけで、闇の錬金術が初めて成功したのだった。うう、良かった。いやあん

まり良くないけどね。

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