第253話「闇の錬金術の基礎」
短いので明日修正したいところです…。
8/2 追記しました。
8/3 なぜかだいこんとサンショウがいることになっていたので修正しました。
「それじゃあ先生。今から私に闇の錬金術を教えてくれるってことですね?」
「まずは本当に基礎だけ教えるわ。それじゃあ地下室に行くわよ。」
やったね。基礎の基礎のようなものだったとしても、正式に闇の錬金術を覚えられ
るなら、幸運だ。
「えーっと。あなた達二人はここで待ってなさい。これはねこますだけに教える事
だからね。」
弟子になったのは私なので、私限定ということか。これはまぁしょうがないだろう。
「分かったやで。どうせワイらが聞いてもよく分からんしな。」
「我々に扱えるようなものでもないので、ここで待つとしよう。」
素直に聞き入れる二匹だった。先生の話を聞いただけで錬金術が使えるわけじゃ
ないのなら、無駄に終わるだろうしね。でも、私の場合は、聞いただけで試しに作
れるようにならないといけないから、必死になって学ばないとな。
こうして、私と先生は、階段を下りて、地下室へと行くのだった。地下室はやは
り薄暗い。すごく目が悪くなりそうな場所だ。こういう所にずっといたら、正確も
闇方向に行きそうになる気がしたけれど、それは口に出さなかった。
「さて、それじゃあお勉強の時間よ。準備は良い?」
薄暗い部屋の奥にあるテーブルで、先生が微笑にしているように見えた。
「はい。大丈夫です。それで、何を調合するんですか?」
肝心のアイテムの話は全然していないんだが、ひょっとすると、この流れだと吸魔
石なのではないのだろうか。
「ここで作ってもらうのは、闇の石よ。」
「なんとなくですけれど、その闇の石を更に調合すると、吸魔石になるってことな
んじゃないですか?」
「その通りよ。といっても、生体調合なしに、そこまで出来るようになるかはあな
た次第ってことなんだけどね。」
難易度の高い物は、作れない、量産も出来ないって言うのは大変そうだなあ。な
んていっても私は作ってみるんだけれどね。それにしても、闇の石かぁ。凄く分か
りやすい名前だけれど、これはどうやって作るんだろうか。
「ん。そんな目をギラギラさせなくてもいいのよ。大丈夫、ちゃんと教えるから。」
どうやら私、必死な顔になっていたらしい。少し先生に申し訳ない気分になった。
「闇の石の作り方は、比較的簡単よ。今回私が買ってきたこの、素材石と部屋の中
にある闇をかき集めて調合するのよ。」
闇をかき集めるっていうのがよく分からないぞ。この室内は確かに薄暗くて闇が
沢山あるような気がするけれど、それをどうやって集めるって言うんだ。
「決まっているじゃない。そこで人が誰しも持っている魔力が役に立つのよ。例え
ば、ほら、これを見て。」
先生は、地下室内にあった、あまり大きくない釜の中に、白い石を入れる。その
後少し長い鉄の棒のようなものを取り出した。それを釜の中に入れようとするのだ
がその棒の先端が歪んで見える。これは、どういうことなんだろう。
「今ね、この部屋には「闇の素」とも言える力が満ちているのよ。この素になる力
は世界中の、ありとあらゆるところに満ちているのよ。」
ゲームではよくある設定の一つだな。魔法を使うのに、大気中に漂っている魔素
だとか、そういうものを利用するようになっていることが多い。この闇の素という
のもその類ってことか。だけど、部屋の中を暗くするだけでそれが室内に満ちるっ
ていうのもなんだかなあ。
「先生。質問いいですか?」
「はいどうぞ。」
「それだと、暑い時なんかに涼しくするために、ええっと冷やす魔素なんかは少な
くなって、逆に寒い時なんかに熱くする魔素が少なくなるってことですか?」
「そうよ。つまり季節や天候などによっても、調合で作りやすさが変わってくるの
よ。」
なるほど、ということは、錬金術の場合は、暑い時に防寒対策用の道具を作って
おき、寒い時に暑さ対策の道具を作ったほうがいいって事でもあるのか。結構手間
がかかるものだなあ。
「錬金術は奥深いってことよ。調合するタイミングによっても、作った物の良し悪
しが変わってくるから、そういうのも調整が必要なのよ。」
いつも最高の状態で調合できるわけじゃないってことか。それでも、常に最高の
品質を保つためにやるべきことをやる必要があるのか。これは厳しいな。数ある職
業の中から、そんな手間暇かかる、錬金術士を選ばなくなるというのも頷ける。私
としても、これはまずいんじゃないのかと、思ってしまった。
私がログインしていられる時間は限られてくるし、ゲーム内で最も都合のいいと
言える時期に調合ができないなんて事も考えられる。そうなってくると、折角いい
素材が集まっても、いつまで経っても品質の高い物が作れないといった状況に陥っ
てしまう。もし、最高品質のものを作り続けるのなら、それこそずっと<アノニマ
スターオンライン>をプレイし続けなきゃいけないだろう。
「大変ですねえ。そうなってくると、二つ道がありますね。」
「あら? どういうこと?」
「一つは、最低品質を常に狙い続けることです。つまり、最低限度の品質を保証で
きる程度の物を作れるようになるということです。」
中途半端に品質の良い物があるよりも、最低限度保証ができればいいという物を
作りだしたほうが、一々評判とかを気にせずに済む。最高品質だけ提供できればい
いけれど、それは現実的じゃないし。
「もう一つは、ひたすら作って、最低品質から、最高品質までのものをため込んで
おいて、必要に応じて使うってことです。」
が、これは作るのに時間がかかってしまうので、私としてはあまりやりたいと思わ
ない。私は、先に述べた最低品質の提供の方が気持ちが楽なので好きだ。
「常に最高のものを作り出すって意思が欠けているんじゃないかしら?」
先生が真剣な顔で私の方を見る。
「いいえ。常に最高のものを作り出し続けるというのは、際限なく品質が良くなる
というのも同じです。それをやらなきゃいけないとするなら、私は何か一点だけに
絞ってやりますね。」
私も、珍しく真剣になって答えた。いつだって最高級の物があれば、それは便利
だと思う。が、そんな最高級な物だけを求めるのは、私の場合は厳しい。つまりこ
れは、ベストを目指すよりもベターでといったようなものと似ている。私が目指す
のはそういった考えだ。
「ふ。ふふ。ねこます。あなたの考えが段々分かってきたわ。」
「ええ。どうも私、小心者なんで。」
自分に出来る範囲をやる。身の丈に合った考えをするのが一番いい。自分に何がで
きて何ができないのかはゲームプレイを通して理解してきたし。自分にとって難し
いことをやる必要はほとんどの場合ない。
「あ、でも、ちょっとくらい上を目指したいなんて思う事はありますよ。」
なんて生意気な考えはいつだって持っているので、卑屈というわけでもないのが私
なのだった。
「へぇ、軽く言うけれど、内心では一番上を目指したいって思っているんじゃない
のかしら? どう?」
そんなわけがあるかと。オンラインゲームは沢山の人がいるんだから、軽くてっぺ
んなんて取れるわけがない。もし、そんなことをやろうとしたら、ほぼ毎日ずっと
プレイし続けなければ無理だろう。
「世の中にはねえ、恐ろしく強い奴が沢山いるんだから、てっぺんなんて取ろうと
したら、そいつらと競わなくちゃいけないんだよ。四六時中な!」
「姉御は競いたくないんか?」
「そこまでじゃない。だけど上を目指し過ぎても大変だから、何事も適度にやるの
がいいんだよ。」
無理してゲームプレイをして苦痛がともなうなんて愚の骨頂なので、自分の出来
る範囲でやるのが一番だろうな。
「ねこます。ちょっといい?」
「はい、なんでしょう先生。」
「向上心を持つ事は大事よ。」
というわけで、また振出しに戻るというか、一番じゃなきゃダメというような話に
なろうとしていた。一番にこだわる必要はないんだってば。
「先生は一番ねらってますか?」
「ええそれは勿論。闇の錬金術こそが、全ての錬金術の中で、最も優れているって事
を思い知らせてやりたいくらいだからね。私が活躍できれば、みんなが闇の錬金術の
凄さと素晴らしさを思い知ってくれるだろうし。やっぱり一番になるって、とてもい
いことなのよ。」
建前で褒める輩も沢山いるだろうから、賞賛されていても、実は見下されているな
んてしょっちゅうだと思っている。なんて思っているのは、私が、褒められることに
全然なれていないからだろう。
「まぁそんなものよね。ずっと褒められて認められてきた人と比べたら、そんな事が
一切なく、苦労してもいまいち成果が上がらないと、ねこますみたいになってしまう
かもしれないわねえ。」
えー。まるで私がマイナス思考というか、あまり人間が出来ていないみたいな言い
方じゃないのか。私だってこう見えて前向きに行こうとしているというのに!
「それで、あなたには何か夢はあるのかしら。」
「夢のような事が私が特に何かすることもなく叶う事ですねえ。」
私がお金よ手に入れ! とか、私よ強くなれ! なんて思い込んだら、物凄く強くな
っていたら、夢だよなあと思いつつ、本当に夢だとしか思えなかった。これって聞き
方によっては私が怠けものというか面倒くさがりのような感じだが、そんなに何もし
たくないわけじゃない。
「楽です楽。人生楽があれば楽しかないのがいいです。楽に始まり、楽に終わって、
楽以外なんか全然なくなって、のほほんとしたいんです。」
「そういう目標があるのは良いことだと思うわ。だけど、どこかだらしなく聞こえて
しまうわよ、あなたの見た目としては、箱入り娘というか。ええと、世間知らずなお
嬢様的な、ね。」
あっ、これやっぱり私はぐうたらだと思われているってことじゃないか。先生って
ば私の事がよく分かっているなあ。出会ってまだ間もないって言うのに。実際に私は
面倒事を避けたがるタイプだから、そういうのがあるかもしれないって思うと、凄い
嫌になって、投げ出したくなっちゃうからなあ。
「というわけで、面倒事を避けるための向上心はあるのですよ。」
「ええ。なんだかこういう話をあなたとするのも面倒になってきたので、そろそろ話
を錬金術の事に戻すわよ。」
当然良いに決まっている。私もそういう話の方が好きだし。という感じで、この後も
闇の錬金術の話が続くのだった。