第251話「黒い石」
黒い石。先生から渡されて手に持っているが、さて、どんな効果があるというの
か。妥当な線だと、現在持っている私から生命力を吸い取って、後で回復に利用で
きるなんてところかな。
「これが何で出来ているのかなんていうのは分からないしなあ。」
どこかで見た記憶もないし。先生が闇の錬金術で調合したオリジナルの鉱石って
ことなのかな。まだ正確に生命力を吸引するものって決まったわけじゃないけれど
もし、そうならこういうのを調合するだけでも危険だよなあ。だって、そんな鉱石
を作り出す途中に生命力をガンガン吸い取られてしまったら、作っている最中に力
尽きてしまうだろうし。
あ、なんかこうやって考えるの楽しいな。こういうゲームでの内容を考察したり
するのって好きなんだよなあ。ゲーム好きとか、無意味そうな道具を見つけたりす
ると、これはこうじゃないのかなとか考えたりするもんだよね。映画だって、どこ
かにあった小物が実は重要な道具だったりなんてことがあったりするからそういう
のが見逃せなかったりするし、それが楽しいって言うのもあるもんなあ。
それじゃあ、この黒い石を壊したらどうなるんだろうか。生命力が込められてい
る状態だったとすれば、爆発したりするんだろうか。あるいはそこから生命力が周
囲に広がって回復するなんてことになるんだろうか。あれ? そうなるとこれって
かなり凄い物にならないか? 全体回復の道具があるならかなり便利だぞ。日頃か
らこれを何個か作っておけばいいだけだし、味方の体力がほぼ尽きている時にこれ
を使って全回復すれば形勢逆転だって出来るかもしれない。
「くっ。ただの石一個でこんな事を考えてしまうなんて、先生ってばやるな!」
次は、実際に使えるかどうかだけれど、生命力を流し込むとか強く握ってみるとい
いとかあるのかな。やってみるか。
「ぎゅっと。おっ!?」
石がバチバチと電気のような何かを発している。雷獣破を使っている時のような感
覚に近いな。なんかちょっと手が痺れたような感覚があるな。これ、ひょっとする
と、衝撃とかを与えると、その中に込められた力が作用するってことか? となる
と生命力はあまり関係ないのかもしれないのと、これは先生が込めた力なのかもし
れないな。
威力が低いのは、練習用だからってことなんだろうけれど、これは投げつけて使
うタイプだな。そんでもって、そこで電撃を与えてやるといったところか。ふむ。
しかし、これが暴発したら、たまったもんじゃないな。
それにしても気になったのがメッセージが出てこないことだ。これも道具の一種
だったら、入手しましたとか、アイテムインベントリにいれられるはずなのに。そ
れができないというのがこの道具の辛いところだな。まぁ私の場合は火薬草を大量
に持っているからいいんだけれど、他の属性の道具も持てれば、戦闘方法にバリエ
ーションが増えるので、これも持っておきたいなあ。
「…これに私の雷獣破をこめるなんて出来るんだろうか?」
くっ。やってみたい。すごくやってみたい。もしそれができるなら、消費が激し
い雷獣破を連発する事だって出来るじゃないか。でもそれをここでやって失敗した
ら多分まずいことになると思うのでやらない。危険かもしれないのに何をやってい
るのと、絶対に先生に怒られると思うから。
「あっ、でもここは先生に怒られておくイベントなのかもしれない!」
なんて思わず声に出してしまったが、こういう大失敗をするイベントって物語の序
盤とかにやっておくのが常だと思うし、敢えてここで失敗をしておくことで、あの
時のようにならないように、みたいな更なるイベントが増えるかもしれないぞ。
「…。」
なんてなぁ。私がそれをやるわけがないじゃないか。そういう定番なイベントは
とっくの昔に卒業したのだ。敢えて私がやるわけがなかろう。そんなこれをしたら
その失敗を永遠とくどくどと言われることになるのは目に見えているし。私は、そ
いうことから開放されるのだ。
と言うわけで、馬鹿な真似はやめて、この石の使い所を考えておく。暴発しない
ように、現実で言う梱包材にでも包んでおかないとだめだな。なんて、以前は、リ
ュックに平気で火薬石弾を詰め込んでいた私が言うのも変な話か。とはいえ、今後
は危険な状況が大きく増えるはずなので、暴発対策は必須だ。なので梱包材はなん
としても欲しいなあ。
「あ、後はどれがどれなのか分かるようにしないとな。」
これ、多分必ず黒い石になると思うから、シールか何か貼っておかないと、どれ
がどの属性なのか分からなくなっちゃうな。一属性だけ持っていればそんなのも必
要ないけれど、いくつか持っておきたいので判別できるようにするのは重要だ。あ
るいは、この石の形を変えられれば、これが火の属性とか水の属性なんていうのも
できると思うので、そこは先生に聞いてみるとするか。
他には、武器や防具に仕込んでおくなんてやり方もありそうだなあ。そうだな、
黒い石に、サンショウの重力魔法を込めておいて、前方向にだけ発動できるように
すれば、相手を吹っ飛ばすことができそうだし。武器の方は…。どうだろう。鎌か
ら火が出てくるようにしたらって思ったけれど、それ鎌が壊れたりしないか? そ
ういうのがあるんだったら辞めておきたいところだ。
「うう、先生に早く色々聞きたいなあ。」
まだ全然時間が経っていないのに聞きたいことが沢山ある。これはこうなのか、合
っているのか、こうしても大丈夫なのか、とか。はっ!? 私、今までの人生で一
番、先生とやらに頼っているかもしれないぞ。ろくな先生にあたらなかったとかい
うわけでもないけれど、聞きたいこと、知りたいことが沢山ありすぎて、それがど
いうものなのか、早くはっきりさせたい。そして次のステップに進みたいと、もの
凄く思ってしまっている。
そうか、これは自分に興味があることだからか。対して興味が無いことは無関心
で覚える気なんか全然ないけれど、やっぱり自分が好きなことは自然と覚えていっ
てしまうもんだよね。これが、知識欲って奴か。あぁ知りたいなぁ。これを使って
もっと便利に戦えるようにとかそんなことばかりが浮かんでくる。あぁ先生早く帰
ってこないかなぁ。こんなことなら無理矢理にでもついていけばよかったなあ、あ
あもう。
「もしかして、今日はずっとこの黒い石の有効活用方法を考えるだけで終わってし
まうんじゃないだろうか。」
私一人だけがいるアトリエでそんなことを呟いてしまった。だって誰もいないし。
そうだ、ブッチにでもメッセージを送っておくか。今修行中だよって。
マブダチからのメッセージ:俺も街に入りたくなってきたよ。なんとかなら、ない
よなー。ここら辺の敵が、張り合い全然なくってさぁ。
神殿にでてくる敵をボコボコにしているようだが、やりすぎて飽きてきたような
感じなのかな。それならここに招待したいってところなんだけれど、現状、私のよ
うに人間化することができないので、門前払いを食らってしまう。ブッチを人間に
見せかける方法、あるいは姿を隠す方法を探さないといけないのと、たけのこ達も
入れるようにしたいんだけれどなぁ。それも、どれくらい時間がかかるのかも分か
らないのが辛い所だ。
だけど、闇の錬金術って言うくらいだから、影に隠れて何かすることくらいでき
そうな気がしている。闇なんだからそれくらい出来るだろうという安易な考えだけ
れど、闇なのに闇を扱えなかったらそれこそ名前負けしているだろう。
その後もああだこうだと、考えてみたが、一向に時間が経過していない気がした。
あれ、流石に遅すぎないか、というのと、思い出したことがある。錬金術士の杖の事
だ。これを先生に見せるかどうかといったところなのだが、まだやめておいた方がい
いのかなあなんて思った。
多分、錬金術士の杖とか、魔者が使っていたとしたら、とんでもないことになる気
がするし。先生に見せたら、多分それがなんなのか、すぐに分かってしまいそうだ。
「姉御。帰ったで。いやー姉御がいないとすぐに籠にいっぱいになってもうたで。」
「ただいま戻りました。」
だいこんとサンショウが帰ってきてふと思い出した。あ、これならひじきと会話もし
ていればよかったじゃないか。ねぇ?
(母上はすごい夢中になっていたので邪魔するのが悪いと思って黙ってましたよ。)
えー。そういう時でも話しかけていいよ。今度からはそうして貰おうか。
(いいんですか?)
勿論だよ。というか一人で色々考えていても前に進まなかったりするし、それなら何
か話したほうが気がまぎれるってもんだよ。
(分かりました。これからはもっと声がけしたいと思います。)
そんなわけで、もう少しひじきと会話することになった。
「姉御、魔法の実をいっぱいとったんやで。」
「今日もお疲れ様。ところで魔法の実以外は何も手に入らなかった?」
「やはり今日も何もありませんでした。」
「そっかー。」
なぜ一種類しか出ないんだろうか。もっと色々素材が手に入るところだったら良か
ったのに。それか、素材が沢山沢山手に入る場所はどこか遠くにあるのかなあ。そこ
まで行くのも結構大変そうな気がするなあ。
「念のために聞いておくけれど、どんぐり虫人間みたいなのとは遭遇してないよね?」
「当然やで。あんなのとまた出くわしたら姉御のところまで一目散に逃げてくるで。」
出会いたくないモンスターではある。しかし、有益な素材を持っているのであれば、
戦える限り戦いたい。そして当然勝ちたい。そのためには、私がもっと強くならない
といけないんだよね。
「姉御の方は順調やったんか?」
「そこそこねぇ。先生に聞きたいことが大量にできてしまっているから、それを早く
解決したいなあってうずうずしているよ。」
「その黒い石1個でそんな色々やれるなんてすごいやないか。」
「確かに、流石ねこますサンです。」
「先生がいなくて何も進んでいないんだからそういうことは言わないの!」
何の成果もあげていないのに、褒められるなんて嫌すぎる。
「いやー。姉御はもっと褒められていいはずなんやで。そこまで謙遜しなくていいと思
うやで。もっと自分に甘くした方がええで。ワイみたいに。」
自分に甘かったのかだいこん。なんて今さらか。私だってもう少し自分を甘やかした
いと思うけれど、本当に何も解決していないからなあ。それが解決して有効活用ができ
るようになってからが本番だし。
「それじゃあ姉御はまだ、その作業を続けるんか?」
「大体考えとかまとまったんだけれどねえ。この黒い石一個の事だけだけど、私が考え
られそうなことは徹底的に考えないと、先生にも失礼だからね。」
ベストを尽くさないとだめだろう。中途半端は良くない。この黒い石を使って何がで
きるのか、先生が帰ってくるまで限界まで考えよう。そしてそういう癖をつけるように
しよう。
諦めてしまっては、いい考えだって出なくなる。だから間抜けだったり、役に立たな
そうな考えであっても、考えることだけはしておこう。それこそが何かをする上で、と
ても重要な事なのだから。




