第25話「投げろ!」
薬草を口に含んでは、火薬草にして吐き出す作業を調合なんて言うのは、おこがましい
と思う。だが、これが決め手になると確信したからには、やらないわけにはいかない。私
は、勝つためなら手段を択ばないタイプなのだ。そして負けるのは大嫌いだ。
二人が待っている、だからこそ、早く作らなければと必死で火薬草調合を繰り返す。口
の中に沢山薬草を頬張る。まるでハムスターのようだ。っと笑いをとろうとしているわけ
じゃない。これでも必死なんだ。あといくつあれば、大蛇を倒せるのかが分からない。だ
から、とにかくありったけ作らないといけない。
時間がなく焦燥感に苛まれる。急げ、急ぐんだ私。たけのことブッチが頑張っているに
しても、一撃食らったらおしまいなんだ。うおおおおお。だめだ終わらん。よしもういく
つか口の中に含んだまま行こう!
「ふがふがふが~!」
火薬草は数十個はある。多分投げれば効果がでると思う。直感でしかないが、これなら
絶対いけるはずだ!よし、あと少しで大蛇のところだ。
「ふぁがってー!!!」
「!?」
ブッチとたけのこが私に気づき、いったん大蛇から距離をとった。はっきり喋れなかっ
たけれどなんとかなりそうだ。
「ふがふええええ!」
火薬草を3個まとめて思いっきり投げつけた!
「シャアアアアアア!」
大蛇がそれに噛みつこうとする。そして──。
爆発と同時に、轟音が唸った!3個分だったからか爆発の規模が大きい。だけど予想以上
だ。これは絶対に効いているはずだ。よし、このまま体に向かっても1個投げつける。数を
絞ったのは、あまり連続して使うとこっちにまで被害がありそうだし、煙で位置を見失う
可能性を考慮したからだ。やみくもに投げればいいというものではないだろう。
煙が収まる前に、口の中で調合が完了した火薬草を吐き出す。
「ブッチ!この火薬草でダメージを与えられそうだから使って!」
「おおお!?なんでそんなもん手に入ったのか分かんないけどありがたく使うよ!」
何故最初から使わなかったんだと言わないあたり察しがいいなこいつ!
「さっきのであの威力だから、これならいけると思う。よし、俺はこっちからせめる!」
そして、私から離れるブッチ。ここでようやく煙が消える。大蛇は、
大蛇の顔半分が焼けただれていた。体についても火傷が見える。形勢逆転というのはまだ
早いと思うが、このまま火薬草をひたすら投げつければ勝てるだろう。油断しなければ。
こういうのは、一瞬の油断が命取りだ。いつものゲームうんちくを語らせてもらうと、弱
ったふりや死んだふりをするモンスターもいると思われるので、絶対に油断はしない。息
の根を止めても、木端微塵にしても、最後まで気を抜かない。幽体になって乗り移ってく
る可能性だってある。ってそんなこと考える前にまずは、火薬草だ。
「蛇はー外!サイコロプスーは家!」
節分じゃねえよブッチ!そんなお気楽ムードでやっているんじゃねええええ!茶化すな!
一個一個丁寧に蛇の体に当てていくのはすごいけどな!
「ねこますサマ。ワタシハドウシマショウ?」
「このリュックに火薬草を入れたから、向こうにいるブッチに渡して!ぶつけないように
気を付けてね!爆発するからね!」
「カシコマリマシタ!」
たけのこにリュックを咥えさせる。私は自分の分は確保しているから大丈夫だ。また少
し口に含み、火薬草を調合する。
「シャアアアアア!!!」
爆発で苦しみながらも暴れだす大蛇。これだよ、こういうのが怖いんだ。しまうまの時
みたいに、ピンチになると強くなるのかもしれない。一筋縄ではいかないってか。
「般若レディこと、ねこます様の錬金術士デビューなんだからな!とくと味わえええ!」
大蛇は予想以上にタフなのでどんどん火薬草を投げつけないといけなかった。もしもこ
れがなかったら相当やばかったのだと今さらになって恐ろしく感じた。
「しゃ・・シャ・・アアアア」
大蛇の胴体の一部が抉れていた。幾度となく発生する爆発に耐え切れなくなったのだろ
う。よし、もうひと踏ん張りだ。やるぞ。その時にはもう、たけのこはブッチにリュック
を渡し終えていた。何か急展開があっても、これでなんとかなるだろう。
私は、火薬草を1個ずつ投げつけていく。じわじわと弱らせるようなやり方だが、どの
程度ダメージを与えているのか確認するためにはこうするしかない。ここまできたら大量
に投げつけてもいいとは思ったが、第二形態の心配もしている。後は。
「ねっこちゃん!こいつ脱皮みたいなことするかもしれないから気を付けてね!」
私が考えていたことをまた当てやがるブッチ。以心伝心というかなんなんだこいつ。私の
考えでも読めるのか。まぁおかげで楽できるわけだが。
「わはってるー!」
薬草を口に含みながら答える。あとは私がいくつ火薬草を調合できるのかが問題か。現
在も火薬草の在庫はあるし、薬草も大量にあるが、調合ができなくなってしまったら元も
子もない。そういう面についても心配はしなければならない。
「ガァ、ガァ・・ガ。」
全身に爆発を浴びた大蛇は満身創痍のようだった。そして、そのまま固まり、横たわった。
まだぴくぴくと動いている。まだ死んではいけない。仮死状態になって体力を回復させて
いるだけかもしれない。だから私は。
「生かして返さんからな!」
まだ火薬草を投げつける。泣きっ面に蜂という奴かもしれない。爆発の衝撃で蛇の全身が
動く。
「グアア・・アアア!」
なんだよやっぱり息があるんじゃないのかこいつ!危うく騙されるところだった!
「おまけだくらいな!」
もう1個火薬草を投げつける。今度こそ息の根を止めてくれる!完全に沈黙しないと、い
やしたとしても私は安心しないと決意している。こうして、火薬草を何度も投げつける作
業を続けて。
大蛇は身動き一つとらなくなった。