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アノニマスターオンライン  作者: 超電撃豚豚丸
第4章「人間の大陸」
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第249話「釜で調合②」

 薬草と蒸留水と魔法の実を入れて棒でぐるぐる混ぜるだけで簡単に回復薬が出来

るんだと思っていた私が間違いだった。そう簡単では無かった。先生からは、ゆっ

くりと均一にかき混ぜないと、しっかりとしたものが出来ないと言われた。

 これ、錬金術のスキルなのか調合のスキルなのか分からないけれど、私はそれも

持っているかどうか分からないでやっているんだけれど、これで誰でも出来る作業

だって言うなら、ちょっと悲しくなってきそうだ。


「先生まだですかー?」

「あと少しね。頑張りなさい。」

「はいー。」

ゆっくりとかき混ぜていく。これ思ったんだけどさぁ。ハンドミキサーって言うか

そういうのがあればもっと楽に終わるんじゃないのかな? え? ダメかな? あ

あいうのの出力を最弱にして、ゆっくりかき混ぜる様な道具を作れば、こんな棒で

ぐるぐるやらなくてもいいと思うんだよね。


「! 色が変わったわよ!はいそこで思いっきりぐるぐる回しなさい!」

「ふぇっ!? お、おおおおおおおおお!」

思わず間抜けな声を上げてしまうってことで全力か! 見ると確かに水色っぽくな

っているというか、なんか少し輝いてきている気がする。うおおおお、回せ回せ!

回すんだあああああ! 初めての調合なんだから、


「あああああああ!」

 釜が光っている。これは、ひょっとすると成功するんじゃないだろうか。期待を

込めてぐるぐる回していくが、面白いなあ。これなら、ばっちりいいものができる

んじゃないだろうか。そう思っていたら、光が更に強くなったと同時に消えた。

 え!? これ成功なの失敗なの!?


「一応成功ね。まぁ後はこの瓶に移していきましょうか。」

「はい。」

釜の中に入っている水色の液体を、おたまですくう。そして先生の持ってきた小瓶

の中にいれ、コルクの蓋をする。


メッセージ:回復薬(小)を手に入れました。


や、やったぁあ!? 回復薬を手に入れたよ! って小ってなんだろ。まさかあま

りいい出来じゃなかったとかなのかなあ。うう。

「これ、もしかするとあんまり出来栄えはよくなかったんでしょうか?」

「ん、まぁねえ。回復薬(小)ってところね。ちなみに私が作った場合は、回復薬(大)

になるんだけれどね。」


うっわ。やってしまったようだ。明確な失敗ってわけではなさそうだけれど、大して

効果が無い物を作成してしまったらしい。そりゃそうか。初めてでいきなり上手くい

くなんて都合のいい展開はないよね。こういう時は魔者だからとか錬金術士なんだか

ら、一回で上手くいくかもしれないなあなんて少しは思っていたけれど、やはり甘い

考えだったか。


「まぁ。及第点ってところよ。失敗したら、黒い煙が上がってとても残念なことにな

っていたしね。」

「そうですか。ってえ? 黒い煙? って言う事は。」

 先生の服が黒いのはそういうことか。

「あのね。私だっていつもいつも成功しているわけじゃないの。これまで何度も失敗

してきたわ。だけどね、それで諦めていたらいつまで経っても上達しないのよ。」


それは分かっている。痛いほど分かっている。勉強でも仕事でもそうだ。分からない

からといって何もしないのでは成長はまるでしない。そして、自分で積極的にやって

いこうと取り組んでいかないと何度やっても上手くいかない。それは身に染みている。


「そうですね。次はもっといくように、失敗しないようにって気持ちが大事ですね。

というわけで頑張っていきたいと思います!」

「あーえっと。蒸留水がもうないのよ。だからまずはそっちを沢山作らないとね。」

「えぇぇ。」


うう、材料が無いのならどうしようもないか。ってあれ。蒸留水? そういえば、水

って言えば浮遊の川でとったのを空き瓶に入れておいたけれど。これって使えないの

かな。


「先生、これって代わりになりませんか?」

「え?」

水の入った瓶を先生の前に差し出した。あの川の水って確かすごい綺麗だったし、蒸

留水代わりみたいに使えたりしないのかなあなんて思ったんだけれど、どうだろう。

まぁ使えなきゃ使えないでいいんだけれど。

「これは、純度、ええと品質がとても高い水ね。川の源泉なんかでしか手に入らない

とても貴重な物を一体どこで…。」


 ここで私は気が付いた。魔者の大陸って、もしかすると錬金術の素材というか材料

の宝庫なのではないかと。いやそもそもそうか。錬金術を作ったのが魔者という設定

があるのだとしたら、その魔者が低品質のものを使用するわけがないだろう。という

事は、あそこで色々探せば、貴重な物がたくさん見つかるってことだろう。や、やば

いぞ。これはやばい。緊張してきた。


 仮に魔者の大陸が他のプレイヤーにばれた場合、あるいは運営が公開した場合、一

気に世界中から人が押し寄せることになるんじゃないだろうか。そこでみんながねこ

ます草原で薬草を取り合ったり、浮遊の川の水を枯渇するぐらいまで取ったりなんて

ことがあり得るだろう。

 なぜなら、このゲームで稼いだお金を現実のお金にすることが出来るのだから。こ

これは凄く恐ろしいことになってきたぞ。私達ももりーずVのメンバーがそれらを独占

していると知られた場合なんかはまず散々叩かれるし、身元がばれたりしたら、それ

もそれで現実に影響を及ぼすだろう。


「どうしたのねこます? 固まっちゃって。」

「いや、ちょっと恐ろしいことになってきたなあと。」


 いやでも、そこまで意識する必要はないか? だけど、金の亡者なんてどこにでも

いる気がするし。それが関わってくると、ろくでもないことにしかならないのは、私

は百も承知だ。

 こういう時、運営側って私を守ってくれるとか、なさそうだな。というか逆に運営

側は私が魔者の大陸にいたって事知っているはずだよな。運営側の誰かが私の情報を

漏らしたらとか、ううっ、疑り深い自分の性格が嫌になってくるけれど、この手のゲ

ームで、お金が関わってろくでもないことになった事例はいくつも知っているだけに

悪い想像ばかりしてしまう。


「あ、えーっと。それで、この瓶はそこまで多く持っていなくてですね。」

「うーん。あと、5個は出せる? それなら蒸留水の代わりにもなるはずなんだど。」

「あ、大丈夫です。どうぞ。」

「本当に、薬草と言いこの水と言い、あなたはよほど特殊な場所にいたようね。」

「あ、あはは。」

 ここで余計な詮索をしてこない、というのがいい先生だというのが分かる。やはり

この闇の錬金術士を選んでよかった。だけど、魔者の大陸なんて場所にいたなんて言

っても信じてもらえるとは思えないし、そもそも話したらとんでもないことになるの

で言えないんだけれどね。


「それじゃ、次は生体調合。やってみなさい。」

「え? 嫌です。」

沈黙が訪れた。近くで見ていただいこんとサンショウも固まっている。誰も何も言わ

ない。気まずい時間が訪れる。なんだ、どういうことだ。いや、いやに決まっている

よね。生体調合をやりたくないからここで普通の錬金術を習っているのだから、あれ

のほうが精度が高かったとしてもやりたくはない。


「何が嫌なのよ!?」

「だって自分の口の中にいれるとかお行儀が悪いとかなんか、そう、気持ち悪さがあ

るじゃないですかっ!?」

「あーー! 錬金術を、調合を気持ちが悪いって言ったぁ!」

「言ってません! 生体調合が嫌なだけです~!」

「分かってるわ! 錬金術をやっているのなんてどうせ根暗とか言うんでしょ! あ

なたもそう思っているんでしょ!」

「そんなこと思ってないです!」

「なら生体調合くらいやりなさいよ! 出来るんでしょ!」

「嫌です!」

 嫌なものは嫌だ。今までどれだけの薬草を口の中に入れて火薬草にしてきたと思っ

ているんだ。それに慣れてしまって、調合ってこんなもんなんだろうなとか思ってし

まっていた私がいたのも嫌だったし。便利だとしてもまずは普通の調合ができるよう

になりたいんだよ!


「な、なんちゅう低レベルな争いや。ワイはこれまで姉御をよく見てきたはずやが、

まさかこんな駄々っ子のような事を言うとは思わんかったで。」

何を言うか。私は嫌な事は嫌だと、はっきり言うタイプなんだぞ。


「ふふん。やっぱりねこますはおこちゃまだったのねぇ。」

「そうです。私はお子様だったのです! というわけで、普通の調合を教えてくださ

い!」

「あのねぇ。せいたいちょうごうっていうべんりなちょうごうがあってねぇ。」

うっわ、うざいぞ先生。その喋り方はうざい。心底うざい。やめてくれ。ああでもな

んかキャラクターに合っている気がする。

「あっはっは。なんですかその喋り方は。」

「今よ!えいっ!」

「もぐあっ!?」


私が笑った瞬間を見計らって、先生は口の中に魔法の実を入れてきた。そして喉がつ

かかえそうになった瞬間次に薬草と水も含ませた。なんだこの手慣れたやり方は!?

お、おぶえええええええええ。


メッセージ:回復薬(大)を手に入れました。


「ぐえー。」

そのまま、口の中で生成した回復薬を吐き出した、と思ったら、瓶の中に入った回復

薬になっていた。ふ、ふざけるなよこの仕様。なんなんだよ。やめてくれよ。なんで

瓶付きで口の中から出てくるんだよ。おかしいだろ!!

「死んだンゴ。」

「生きてるよ!」

ああ、もう、思わず突っ込みをいれちゃうしさぁ。それに出来上がったのが、普通の

調合で出来たものよりも品質のいい、回復薬(大)だとぅ。ふざけるなあ。私の青春を

返せ!


「ほら見なさい。こんな立派な物ができたじゃない。これが何か分かる? 私が作っ

た時と同じ回復薬(大)よ! 生体調合はやはりベストな状態のものを作り出し、とて

も凄い能力なのよ。使っていかなきゃ才能の持ち腐れよ!」


才能と言われても困る。そういえば別なオンラインゲームをやっていた時もこれと似

たようなことがあったっけ。効率を重視するなら、ある装備をするといいと教えられ

たんだけれど、その装備の色がショッキングピンクで、他の装備と合わせるとかなり

変だったので、装備するのを拒絶したときだったな。能力が上がったとしても、それ

が自分の望むものとは違うんだったら、やっぱりやりたくはないよね。


「先生。私は釜で調合をしたいんです。釜こそ私の夢なんです。」

「泣き落としは通じないわよ。それと、生体調合だけ使えなんて言うつもりもないん

だから話を聞きなさいよ。」

腰に手を当てながら、先生は私に説明する。あ、なんかちょっとだけ威厳を感じる。


「まずね、生体調合はあなたの体で行うんだから、一気に調合できる数が限られるで

しょ? その体の中にどれだけの素材が入ると思っているの?」


…。ああっ! 確かに! そ、そうだよ。私の体に入る分しか調合はできない。だか

ら大量に作ろうと思ってそれができないじゃないか。


「一方、釜だったら、かなり大きい物もあるから、大量に作ろうと思えば、一気にか

かなりの数が作れるわ。それと、時間がかかるって点も調合になれていけば短縮する

ことも可能なのよ。」

 そ、そうだったのか。だったら、釜を使って錬金術ができるってことじゃないか。

これは聞いてよかった。なんだ、私の早とちりだったんじゃないか。


「一長一短ってわけね。使い分けとしては、貴重な素材を無駄にしたくない場合なん

かは生体調合、沢山作りたいときは一般的な調合ってことよ。」

「おおおおお! それはいい考えです!」

でもなんか自分じゃそんなことも考えつかなかったのが情けない。やっぱりこういう

事に関しては感覚が鈍くなるのかなあ。

「姉御、いつもなら自分で思いつきそうなのになぁ。」

「ねこますサンは何かに夢中になっていると、こうなりますから。」

「む、そうやなあ。」

 うぐぐ。言い返せない。なんか本気でやりたいことがあると、視野が狭くなことが

多いんだよねぇ。もっと冷静になりたいって言うのはあるんだけれど。


「というわけで、とりあえずあと4個、回復薬(大)を生体調合しなさい。」

「ええっ! やっぱりそれは嫌です!」

「…。それを売ればかなりの素材を買えるお金になるんだけどねぇ。あーあー。」

「やりましょう!」


素材をたくさん買えるならそれを基にまた色々と調合ができるようになるじゃないか。

それならここは我慢だ。ここで我慢して、調合を覚える。それがいいじゃないか。今

後は極力、口の中に入れないように作るために、ここは我慢だ。


「あ、私が欲しいって思ったものもたまに生体調合してね。我が弟子ねこますよ。」

「うぐぐ。わかりましたよ先生。」


このゲームで錬金術を究めるために、やってやりましょうじゃないですか!

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