第247話「アトリエへ帰ろう」
明日修正します…。7/27修正しました。
メッセージ:どんぐり虫のエキスを手に入れました。
なんだよそのエキスはとツッコミを入れたい。そしてそのエキスとやらは、どん
な風にアイテムインベントリに入っていると言うんだ。蜂蜜のように瓶入りってこ
とになるのか。それはちょっと違うんじゃないかとも思ったけれど、ゲーム的設定
と思えばしょうがないか。
ここでアイテムが手に入ったってことは、今回の敵はプレイヤーじゃなかったと
いう事なんだろうか。それともプレイヤーだったけれど、こういうモンスター系の
場合、倒すとアイテムが手に入るという事なのかもしれないな。
「それにしても、どんぐり虫ってそのまんまじゃないか。」
もっと捻りがあってもよかったと思った。まぁ、どんぐり虫って言葉自体はとて
も分かりやすいとは思うけどね。
「よく知らんけれど、なんでこんなところにモンスターがおったんや?」
先生は、ここら辺でに出てくるはずがないというような事を言っていたはずなの
に結局出てしまった。本当に、何が原因なんだろうか。
さっきエキスが手に入ったけれど、私の場合は、何かそういうモンスターを呼び
出してしまうエキスと言うかフェロモンを発しているのではないのだろうか。大体
色んな奴らに絡まれるし。
「たまたま運が悪かっただけじゃないかな。」
そのたまたまがいつも連続で続いている気がするけれど、それもまた、偶然という
ことに過ぎない。そういえばゲームでは幸運というステータスの数値があったな。
幸運が高いと、お金が沢山手に入ったり、攻撃を回避できる確率が上がったりと、
色んな面で役立つことが多い。
「姉御は不運続きな気がしとるで。」
それは言わないで欲しい。確かにそうだけれど自覚したくない事だし。全く、日
頃の行いがいいはずの私に対して、それじゃないんじゃないだろうか。
「ねこますサマ。やりましたね。この森の制圧を成し遂げましたね。」
「いやいや、そんな制圧なんてしていないよ。というか様付けは辞めてってば。」
こんな森を制圧してどうしろと言うんだ。この森のボスみたいな存在になったら
何かいいことがあるなら別だけれど、そうでもないのなら、大して嬉しくはない。
それにここは、先生が住んでいる場所なのだから、私が牛耳るなんてことは納得が
いかないし。
「姉御は、こんな小さい所どうでもええってことやな。流石やで! もう世界その
ものを自分のものにしようってことなんやな。」
<アノニマスターオンライン>の世界全体を自分のものにできるプレイヤーになん
てなれたら、現実でもすごいお金持ちになっているのではないだろうか。私がそん
なお金持ちになったら、美味しい物食べたり、広い家で暮らしたりと、そんなのを
望んでしまうな。そして、贅沢しまくるかと言えば、そこまでしないとは思う。だ
って、私はお金のかかる趣味はそう多く持ってないし。
「さて、と。なんか無駄に激戦があったけれど、そろそろ先生の所に戻ろうか。」
当たりは日が暮れてきている。こんなに遅くなって、どうしたのか聞かれそうだ。
ここで、どんぐり虫人間を狩っていましたなんて言ったところで到底信じて貰える
と思えないなあ。本もじっくり読み込めなかったし。どっと疲れた。なんでこんな
無駄な争いをしなければいけなかったんだろうか。
「サンショウ。どんぐり虫人間って知っている?」
「いえ、知りませんが。そんなものがいたのですか?」
サンショウが私の所に来る前に決着をつけたので、サンショウはその姿を目撃し
ていなかった。
「あの不気味な虫が人間みたいなっとったんたんやで。気味が悪かったやで。」
「人間はみんな気味が悪くて当然ですし。」
ある意味正解だなあと思った。
「あ、危ない危ない。人間化しないといけなかったな。」
危うく般若レディの姿のままで先生と会う所だった。今はまだ、般若レディって
事をばらすつもりはない。というか別に本当の事を言わなきゃいけない理由もない
ので、説明が必要になった時は伝えようと思っている。
「さぁ早く帰ろうって、……。ねえ誰か道分かる?」
「分かりませんね。」
「知らんやで。」
(母上、私なら案内出来ますよ。)
「やっぱり、ひじきは優秀!!! 流石だよ!」
何て言うと、サンショウとだいこんはちょっと落ち込んでいた。いやだって、き
ちん帰りの道を覚えているなんてすごいじゃないか。こんな広そうな森の中で、ど
う歩いて帰ればいいのか分かるのなら、すごい助かんだよ。何ていうのも私も帰り
道がよく分からなくなっていたからなんだけどね。
「姉御、さては姉御も帰り道が。」
「はいはい、良いからひじき、案内してね。」
(はい! 泥船に乗ったつもりでお任せください!)
あっ。それはたまに私が頭の中で考えていたキャッチフレーズ。こういうところで
使ってくるとはなかなかやるじゃないか、じゃない! 何それ!? 実はひじきも
適当な事言ってたの!?
(そんなことないです。軽い冗談ですよ。)
はぁなんだ、良かった。ひじきは結構真面目なのに、ブッチみたいな事を言いだし
たらどうしようかと思ったよ。
(母上…。ではしっかりご案内します。そこを右に曲がってください。)
ここからは、ひじきの的確な案内のおかげで、先生のアトリエまで簡単に戻る事
ができた。これは便利だ。便利過ぎる。なんて素晴らしい案内役なんだ。私は道を
一切覚えなくてよくなるんじゃないだろうか。ひじきのような、優秀な地図的存在
がいれば、様々な地域を支配できたも当然ってなりそうだ。
「はぁ。結局ワイの出番はちょっとだけやったか。もっと活躍したいやで。」
「役割が決まっているだけいいじゃないか。私にとっては最高の乗り物になってい
るしさ。」
「おおきにやで。ワイも、姉御にもっと頼って貰えるように、移動速度の向上と乗
り心地の向上を目指すで。」
という事だったので、魔者の大陸に戻る際にはだいこんには一生懸命頑張ってもら
うことにした。
「あ、見えてきた。って先生がいる。」
アトリエの前に、ドーラ先生が立っていた。私達がいつ帰ってくるのか心配だった
のだろうか。うーん。なかなか可愛げのある先生だなあ。
「遅かったじゃない。」
「あはは…。これには訳があって…。」
「…とりあえず中に入りなさいよ。」
「はい。」
思わず、子供の頃に門限を破ってしまった時の母を思い出してしまった。あの時も
こっぴどく怒られたっけなぁ。心配してくれたっていうのは分かるんだけれど、そ
の後の罰でゲーム禁止期間があったのが辛かったな。
「で、何で遅くなったのよ。」
先生の家の中に入り、椅子に腰かける。やっぱり怒っているなぁ。こういう時は
すぐに終わればいいと思うけれどそうもいかないか。
「どんぐり虫っていうのが出てきたんですよ。あ、えっと、魔法の実はきっちりと
ってきましたよ。これですよね?」
結構沢山とってきた魔法の実がたくさん入った籠をテーブルに置く。目的は達成し
たはずなので、文句は言われないだろう。
「呆れたわ。まさかこんなに採ってくるなんてね。まぁ沢山採りたくなるのも分か
るけれど、無理したら駄目よ。採取は帰りの事も考えてやらないと。泊りで採取す
る時なんかは事前準備必須なのよ?」
今回は泊まりではなかったけれど、確かにこのままの勢いだと泊まりというか夜
通し採取することになっていたかもしれないな。どんぐり虫の件を除けば平和だっ
たとは思うけれど、もっと遠くに行くときは気を付けないといけないな。とはいえ
これまでもそんな感じで旅というかゲームプレイしてきたので慣れてしまっている
んだけれど。
「はい。すみませんでした。それで、どんぐり虫って知りません?」
「聞いたことが無いんだけれど。本当にいたってこと?」
「あーえーっと。そいつを倒したらこれが手に入ったんですよ。」
と言って、どんぐり虫のエキスを取り出した。あ、これも瓶に入っているぞ。無色
透明の液体か。これを使えば魔法を無効化できるのかな?
「これが…?」
そう言って、先生は、どんぐり虫のエキスが入った瓶を手に取り、じっくりと眺め
ていた。うう、あいつのエキスとか言うだけで若干気持ち悪さを覚えるんだけれど
アイテムとして有効だったりするとそれはそれでなんだか嫌な気持ちになるな。
「これは、魔力を吸収する液体ね。とんでもない代物だわ。」
見ただけで分かったのか。流石闇の錬金術士とでも言ったほうがいいんだろうか。
「錬金術の素材としてはかなりのものよ。私も欲しいぐらいだわ。」
「え? じゃあ先生にあげますよ。」
そういった瞬間、先生の目が大きく見開かれた。えっ、まさかこれが欲しかったの
だろうか。
「な、な何を言ってるの!?」
あっ、動揺している。やっぱりそうだったらしい。何かに使いたかったって事なの
かな。それだったら私としては使って構わないんだけど。
「え。いやだって、それどんぐり虫のエキスなんで。結構気持ちが悪い奴で、それ
を見るたびに思い出しそうですし、ああいや、そんなことで調合したくないって事
ではないですけど。」
出来れば触ったりしたくないと言うのがある。さらに言えば、これを使って生体調
合なんてやれと言われた日には吐いてしまう気がする。いや、絶対に拒絶反応がで
るこれは。私には分かる。だから先生に使ってもらったほうが有効活用ができるし
いいと思った。
「あのね。弟子が折角とってきた素材を師匠である私が貰うなんてわけにいかない
でしょう。確かに欲しいのは認めるわ。だけどね。そういうのは間違っていると思
うのよ。」
「あ、そういう面倒くさいやり取りはマジで勘弁して下さい。私はこれに愛着も何
も一切持ってないので、情け容赦なく釜にぶち込んでやってください。お願いしま
す。」
こういう時はさっさと本音を話すに限る。先生にぱぱっと使ってもらったほうが私
としても余計な思い出になったりしなくなるし、あの気持ちが悪い奴の事を忘れや
すくなるはずだからだ。大事に取っておくなんてことをしたら、攻撃された時の事
を思い出したりしてまた嫌な思いをするだけだし。
「あーもう。分かったわよ。それじゃあこれは私がありがたく使わせてもらうとす
るわ。で、それはそれとして、私はこの森に長年住んでいるんだけれど、そんな虫
には一回も会ったことが無いわ。どうやってあったの?」
「沢山魔法の実をとりまくっていたら、出ました。」
「沢山って、私も籠一杯とったことくらいあるけれど、それで出たことは…。」
籠一杯、だけじゃないんだよなぁ。籠十杯分くらいはあるよなぁ。となると、これ
が発生条件だったってことなのかな。あまりに取りすぎていたから自粛しろという
ことで、あんなモンスターにおそわれてしまったと言うのか。何ていう事だ。こん
なことがあったという事は、薬草をとっていた時なんかも同じことがあってもおか
しくなったかもしれないのか。いや、それともこことだけか。まぁとにかく、今後
は採りすぎないようにしよう。