第244話「魔法の実」
すみません。また後日更新コースです!orz
7/24加筆修正しました。
私もだいこんも特に何もしていない。サンショウがひたすら重力魔法を威力を抑
えて撃ち続けるだけで、どんぐりが落ちてくるからだ。私は、その間本を読んでい
るのだが、暗くて見え辛いのが難点だった。照眼でも使えばいいんじゃないかと思
ったけれど、何故か使えなかった。他のスキルが使えるのになんでだ。なんとなく
この見た目が影響しているのではないかと思ったけれど、それが正解なのかは分か
らない。
「おっ。また落ちてきたで。おもろいなあ。でも、他にも何か落ちきて欲しいやで。」
森の中をうろちょろ歩いているのだが、どの木からも、どんぐりしか落ちてこない。
どんぐり森とでも名付けてしまってもいいのではないかと思うくらいどんぐりだけだ。
魔者の大陸のねこます草原でとれるのも薬草だけだったし、何か一種類しか取れな
い場所ってことになるんだろうか。あれ、ちょっと待てよ。薬草は、こちらの大陸で
は貴重らしいが、もしかすると、むこうだとこのどんぐりは貴重ってことになるんじ
ゃないだろうか。ただの予想になってしまうけれど、ひとまず、沢山採取しておくべ
きだろう。
「あ。」
そういえば肝心な事を忘れていた。このどんぐりを触ってみればいいんじゃないか。
もし魔法の実だったら、入手したってメッセージが表示されるだろうし。さっきも触
らなかったし、どれどれ。籠の中のどんぐりは、結構あるな。これを触ればいいんだ
よね。
「姉御、どうしたんや、籠を覗き込んで。」
やばい。これ結構きつい。ちょっとしたホラーじゃないか。いや、これは分かる人に
しか分からない感情だ。沢山どんぐりを拾って家の中に帰ってきてしばらく放置して
いたら、真っ白い虫が何匹も出てきたなんて、もうね。ううう、これは、触りたくな
いなあ。ううぅ鳥肌がでているような気がする。なんだこれは、私はこんなどんぐり
なんかにびびっているのか、ううう。
「姉御、なんか顔色が悪いやで。やっぱりこれが苦手なんか?」
「私に苦手なものなどない!」
という勢いに任せて、籠の中のどんぐりに触れた。触れた瞬間にぞわぞわした感覚に
襲われて、すぐにその場から離れる。
メッセージ:魔法の実を手に入れました。
くぅう。やっぱりこれが魔法の実か。大丈夫なのかこれ。中に虫が入っている魔法の
実とかあったりするんじゃないだろうなぁ。ううう。嫌だなあ。なんでよりによって
見た目がどんぐりなんだよおおおお! ああもうトラウマを克服しろってことだね。
はいはい分かりましたよ! やってやりますよ! ブッチとエリーちゃんにどんぐり
みたいな道具を手に入れたよって一応報告でもしておくかな!
エリーからのメッセージ:私、実はどんぐりって苦手なんですよ。子供の頃にちょっ
と色々ありまして。
これは私と同じことがあったなきっと。絶対虫だ。虫に違いない。子供の頃にどん
ぐりに触れたことがあるなら、絶対みんな知っているはずだ。ブッチも、ひょっとす
ると、びびっていたりしたのかな。
マブダチからのメッセージ:いやーガキの頃に、どんぐりを沢山とってきて、ダンボ
ールの中に入れてたら白い虫がやべーくらいわいてて驚いたんだよなー。というわけ
でこのゲームにいるか分からんけど気をつけてね。
なんでそんな軽い感じなんだ! そういう経験をしてきたのなら、もっとびびって
もいいはずだろ! くそー。ブッチは虫とかそういうのには全然びっくりしたりしな
いのか。なんかもう少しびびったりしてもいいんじゃないのか。くやしいなあ。
「これはもう克服するしかないか。」
苦手だった野菜を食べられるようになるまで頑張った時を思い出す。風邪を引いたとき
に苦い風邪薬を頑張って飲んだときを思い出す。そうだ、私はこういうちょっとしたこ
とを乗り越えてきたじゃないか。子供の頃は駄目でも、大人になれば、そういうのだっ
て平気になるはずだ。
「う、うりゃりゃあああ。」
メッセージ:魔法の実を入手しました、魔法の実を…。
籠に入ったどんぐりじゃなく魔法の実はどんどん私のアイテムインベントリ内へと移
動していく。よし、いいぞ。
「私が別な場所に保管しているから、もっともっと採ってね!」
「かしこまりました!」
「…薬草並みに集めたりなんてことにはならないんか?」
どんな効果かは分からない。だけど魔法の実なんて言うくらいだから、魔力が回復する
みたいな効果があるかもしれない。それを考慮すると、やはり大量に集めるのがいいと
思うんだけれど、この森にある実が全部なくなるなんてことになったら困るので、ある
程度採り終わったら、一旦帰らないとな。
「それにしても、サンショウはそれだけ魔法を撃ちまくれるね。」
「この程度なら、すぐに魔力が自動回復するので何度でも撃てますよ。」
サンショウは、まさかの魔力自動回復スキル持ちだった。ということは、サンショウ
の魔力は枯渇しづらいってことか。なんてことだ、やはり、リッチというのは伊達じゃ
ないってことだな。
「おかげで沢山、魔法の実が集まるよ! 流石サンショウ!」
「流石やでサンショウ! 流石ワイの後輩!」
サンショウは、少し照れた顔をしたと思ったら、勢いよく魔法を連発する。魔法の実が
沢山落ちてくるので、それを掴んでいく。そして、その時だった。空から魔法の実以外
の何かが落ちてきた。な、なんだなんだあ?
「ヴォオオオオオ!」
上を見ると、巨大な虫が落ちてきている、と思った瞬間に地面に激突した。砂埃が軽く
舞い、巨大で緑色の不気味な虫が姿を現した。げぇえ!? なんだこいつ。私が昔見た
どんぐりの中にいた白い虫の色違いみたいな奴じゃないか。そして本当にでかい! 全
長3メートルくらいはあるぞ。おいおいい。先生! 危険なモンスターはでないって言
ってたじゃないかあああ!
「うげぇ。なんやこいつ。かなりキモイやで!」
「サンショウ! さっさと倒して!」
「え、ねこますサンは戦わないのですか?」
「まずはサンショウに頑張ってもらうんだよ!」
それであっさり終わってくれればいいのだけれど、どうなることか。重力魔法一発で簡
単に決着が付けばいいのにな。
「南無阿弥陀仏!」
「ヴォエア!」
巨大な緑色の虫が、サンショウが放った重力魔法の黒紫色の球にむかって、何か液体の
ようなものを吐き出した。すると、重力魔法が消滅してしまった。ど、ど、どういう事
だ。なんで消えてしまったんだ!?
「む。では、これならどうだ! 南無阿弥陀仏!」
また重力魔法を使うかと思いきや、今度は無数の氷の刃を飛ばす魔法だった。サンショ
ウってばやっぱりこういうのも使えるんだなあ。折角リッチっていう高位種族なんだか
らもっと色々使えばいいと思うんだけれど、重力魔法を好んでいるから、あまり使いた
がらないんだよね。
「ヴォエヴォエエ!」
氷の刃も、巨大な緑色の虫に命中する事は無かった。先ほどど同様に、魔法が消滅し
てしまった。えーっと、この光景を目の当たりにしたら当然分かる。こいつの吐き出す
液体は魔法を無効化してしまうってことだな。ってなんでだよおい! サンショウとの
相性が最悪ってことは、つまり、ここは私が戦わないといけないってことじゃないのか。
ふざけるな! こんな気持ちが悪い虫と戦えるわけがないだろう! ただでさえ子供の
頃にトラウマだったっていうのに、ここにいるのは3メートルだぞ!
「人間化解除ぉおお!」
やるしかないんだからしょうがない。というわけで久々に般若レディとしての出撃だ。
ここに先生が現れたりしたらちょっとまずいと思ったけれど、そこそこ森の奥の方に来
ているので、遭遇することはないと思われる。これなら一安心だって言いたいところだ
けれど、やっぱり危険があったじゃないか! 凶悪なモンスターなんか出ないって言っ
てたのに! 出るんだよね! 出て欲しくない時に限ってさぁ。しかもサンショウが戦
えないとかもういい加減にしてくれ。
「サンショウ、こいつには魔法が効かないみたいだから私がやる。」
「おお、ねこますサマ。よろしくお願いします。」
「あぁやっぱりその姉御が一番おちつくやで、ほな、その虫よろしく頼んだで。」
私も般若レディで動いている時がすごい落ち着く。人間化は絶対に窮屈だと。あれは動
きにくい格好だからっていうのもありそうだけれどね。やっぱりジャージは動きやすく
て最高だ。
「真空波!」
近寄りたくない。近寄りたくないから真空波で遠距離攻撃を選択した。これが巨大な
緑色の虫に飛来していく。あ、これも無効化されたらどうしようか考えてなかった。だ
けど魔法じゃないからきっといい感じで当たるのではないだろうか。
「ヴォーエッ!」
また液体を吐いてくるが、こいつ、実はこの攻撃しかしてこないんじゃないのか?
それだったら別に大した事はない気がしてきた。だけど油断はしない。突然自爆してく
るモンスターなどもいるので、それについて警戒しておく。
「ギュエエエエ!?」
おっと、真空波は液体で打ち消されず、そのまま巨大な緑色の虫に突っ込んでいったよ
うだ。そして命中した部分からは、血飛沫。じゃないうわぁなんかさっきのから吐いて
くる液体が飛び散っている。ってうわぁぁあああああああ!? 危うくかかるところだ
ったよ。うう、やっぱりこいつ嫌いだ。
「姉御、いつもはもっと突っ込んでいっとると思うんやが。」
「今、だいこんをあいつの近くに投げ飛ばして、火遁とか使っちゃおうかなぁ!?」
「冗談やで。すまんやで。」
ここで火は使えない。森が燃えてしまったら困る。復旧するとしても、この森の中に、
先生のアトリエもあるのだから、ここが火事になってしまったら、とても困ることにな
ってしまう。先生が路頭を彷徨う原因になってしまう。それは駄目だ。なので、火を使
わない戦い方をしないとな。
「ひたすら真空波を撃つ作戦しか思いつかない。」
「ねこますサマ。我も手伝います。あの液体によって魔法が無効化されてしまうのでし
ょうから、我はあやつの死角から撃ってみます!」
「よし頼んだ!」
確かに、さっきからあの液体に邪魔されていたんだから、それが吐かれない位置からな
ら、魔法も当たるだろう。ということは、私よりもサンショウを主軸として戦ったほう
がいいんじゃないか。うん、それがいいな。
「だいこん、ちょっとばかり攻め込んでみるので私の肩の上に載っておいて。」
「お、姉御は苦手だったのに、もう適応したんやな。流石やで。」
適応していないよ。我慢しているだけだ。こんな緑色してうねうねしている不気味な奴
の相手なんか本来は絶対にしたくない。だけど、こいつを倒さないと、色々と困る事に
なるので絶対倒さないといけないな。やったろうじゃないですか!