第240話「ドーラ探し」
扉はぶっ壊れた。私がダブル雷獣破で壊すことに成功した。正確には壊れたとい
うか消滅したと言ってもいいかもしれない。なんか消し炭のような跡だけ残ってい
て、扉自体が存在しないようになっているからだ。やっぱり結構な威力だったんだ
なあと思うと同時に、この扉にあった障壁のような物も、かなりの物だったという
のがよく分かった。
どれぐらい苦労して作ったものだったのかは分からないが、私が必死こいて使っ
たダブル雷獣破でやっと壊せるものだったので、もしも量産できるなんて言われた
らどうしようもないなあ。
「お邪魔します!」
と言ったもの不法侵入だ。これは苦情を言われてもしょうがない。そもそも器物
破損もしているんだから色々とまずい。こんなことやったら間違いなく法の名の元
に拘束されてしまうだろうに、たまたま誰もいないから助かっているだけだ。
「…なんか色んなものが置かれているやで。」
フラスコのような物からルーペやら、鎌やら、ビーカーやら、いかにも何かの研
究をやっていますという雰囲気のあるアトリエだった。本棚には本がびっしり詰ま
っている。だけど、気になる事あった。
「部屋散かし過ぎ!」
なんか色んな物が床に散乱している。もしかするとさっき私がやったせいなのか
なとも思ったけれど違うだろう。生ものだとかも色々落ちているのでとにかく臭い
し空気環境とか色々まずそうだ。なんか埃っぽさも感じる。これは駄目だろう。一
体いつから引き籠っているんだ。
「…人の気配がするような。」
ゴミ屋敷だからどこかに埋もれているってことなんだろうか。それくらい汚い。と
いうかどこかで寝ているかもしれないのか。このゴミの山のどこかで、錬金術ばか
りやっているドーラがいるということだろう。
「姉御、その前に戻らなくてええんか。」
「あぁ、一応戻っておくかなあ。」
モンスターとか言われて突然通報されることも考慮しておく。起き上がってきてい
きなり叫ばれたら色々とまずいので極力こそこそしておこう。人間化、っと。ああ
また体が窮屈な感じがするなあ。嫌だなあ。
「なぜこれだけ散らかっているんでしょうか。」
「ずっと休まずに働いているからじゃないかなあ。そんな状態で掃除とか何をする
にしても面倒だなあと思うようになりそうだ。」
私も、似たようなことになったことがある。が、流石にここまではやったことがな
いけれど。
「おーい、この中のどこかにいるドーラ。聞こえてるー!?」
アトリエ中全体に響き渡りそうな声で叫んでみる。返事は何もない。ん!? これ
はもしかすると、もしかするんじゃないか!?
「姉御、どうしたんや? なんか急に楽しそうな顔つきになったやで。」
「ドーラは何者かの手によって封印されていて、こちらからしか封印に干渉できな
くなっているのかもしれないからだよ! 何者かっていうのは分からないけれど、
すっげー強そうな奴だと思う!」
ああ、なんかこういう設定なのかもって考えるのが好きだったから、こういう展開
もあるんじゃないのかななんて期待してしまう。
「よし、ここは一旦片付けよう。薬品類は触ったら危険そうなので極力騒がす、壊
したりしないように気を付けよう。」
こうして、アトリエ内にいると思われる、ドーラ探しを開始した。しかし、この
ゴミの山に埋もれているなら死んでいてもおかしくないような気がするなぁ。本当
にここにいるのかは怪しいけれど。
「うう、甘い匂いと汗臭い匂いとあと色々混じった匂いがする。」
ケーキっぽい残骸と、よく分からない固形物が入り混じっている。これ、毒物かも
しれないと思ったけれど、私は毒耐性を持っているから平気なだけかもしれない。
全く、とんでもない部屋だ。
「とりあえず、全部外に出そうか。」
まずは、ひたすらゴミを外に出すことにした。こんなに沢山の物が散乱していて、
うっかり踏んづけたりするのも嫌だし。ただし、私が持っている火薬草のような危
険な物があるかもしれないので慎重に運び出したい。ただ、それにしても。
「こんなところで掃除をするはめになるなんて。」
現実の、自分の部屋は一応掃除しているけれど、現実でやっていることをゲームで
もやるのはなんだか面倒くさくなってくる。というかもしかして、ドーラの狙いっ
てこの部屋を片付けさせることだったんじゃないのかとすら思えてきたぞ。
もしかして、ここをこじあけた上で掃除してくれる奴を弟子にしようとか考えて
いたりしないだろうか。…考えすぎか。
「なんや。姉御は掃除できないタイプなんか。」
「できるっての。これを全部外に出すだけっていうのは、毒物とかそういうのがあ
るかもしれないし、危険だからだよ。」
むしろ私は綺麗好きな方だ。空気環境が悪いと、体調不良にもなりやすいし、そう
いうところをしっかりしておかないとゲームプレイにだって支障がでる。だから、
こまめに掃除はしている。
「液体の汚れは、これで拭くしかないかないか。」
いくつか布があるので、これを雑巾にしていくしかないな。これも沢山あるわけじ
ゃないから、勿体ないんだけど、やっていくしかない。
「ねこますサン。部屋に箒がありました。」
「お、サンショウナイス。それ使って床にあるゴミはどんどん外に出して。」
「かしこまりました。」
他にも一応掃除用具がないか探してみたが、箒が何本かと、雑巾っぽいものと後
バケツを見つけた。なんだ、一応あるんじゃないかと思ったのだが、どれも新品だ
ったので、掃除用具があるのに掃除は一切していなかったというのがよく分かった。
どこまで駄目な奴なんだろう。
いや、ここまできたらなんとなく分かるんだけれど、これは、弟子にならない方
がいいのではないか? こんな掃除も片付けもまともに出来ない錬金術士とか、危
険極まりないだろう。少し教わったら、後は逃げ出したほうがいい気がしてきた。
闇の錬金術士ドーラは絶対にずぼらでいい加減な性格をしている。そうに違いない。
「汚ぃ。臭いぃ。なんて事だぁ。」
これならまだ、魔者の塔とかブッチ洞窟とかのほうが綺麗だ。絶対にそう思う。あ
あいうモンスターの巣窟よりも汚いとかたまったもんじゃない。こんな汚い場所に
いたら、心も絶対に荒んでしまうだろう。ああ嫌だ嫌だ。
「ひじき召喚。」
「母上?」
「なんかこう超パワーで、この辺のゴミを綺麗にするようなことを頼みたい。」
「浄化の力でしたら、母上の魔力をお借りすればある程度は出来るはずです。」
「えっ!?」
冗談で言ってみただけだったのに、そんなことができたのか。なんて優秀なんだ。
私は単に私の苦しみを共に分かち合う仲間を増やそうと思って召喚しただけだった
のに、これは好都合だ。
「母上、酷いです。」
あっ、考えていることが丸わかりだったようだ。ごめんごめん。というわけで私の
魔力をがっつり使っていいので、さっさとこの汚物を浄化してください。お願いし
ます!
「浄化!」
ひじきの羽から、黒く淡い光が放たれる。え。浄化って言ったらなんていうか真っ
白っていうか綺麗な色って言うか、そういう感じがするんだけれど、なんかこれだ
と浄化というか汚染しているっぽくない? 大丈夫なのかな。
「安心してください。全て綺麗になりました。」
「え、そう? って・・・は?」
色んなゴミが散乱していたが、それらが全て灰になっていた。砂粒のような感じ
にも見えるけれど、これは、灰だ。浄化したというのは本当のことだったようだが、
灰になるというのを見るとなんだか浄化したという感じがしない。
「あとはこの灰を外にだせばいいだけか。よし、箒でさっさと出してしまおう。」
最初はかなり時間がかかると思っていたけれど、これならあっさりと終わるだろう
なんて思っていたら、結局時間がかかった。灰は山積みだったので、それを外に出
していくのは手間だった。やれやれ。
「で、綺麗なアトリエになったけれど、ドーラはいないね。」
「姉御! そこに何かあるやで。」
「地下に行けそうな感じがするよね。」
持ち上げられそうな床があったのだが、持ち上げるのではなく、横にスライドさせ
ると、なんと地下への階段が現れた。うん、大袈裟な感じがするけれど、このくら
いはやっておかないと気分が乗ってこない。
「よっし、じゃあこの地下室に多分ドーラがいると思うから行ってみよう。」
が、その前にだ。
「サンショウはここに残っていて。」
「なぜでしょう?」
「こういう時は、入り口を防がされて逃げられないようにされる時があるからね。
それをさせないようにだよ。絶対に守ってね。」
絶対に逃げられないようにしてくる展開が嫌いだし、最初から逃げ道を確保して
おかないのも嫌だったので、ここはきっちりしておく。サンショウに任せておけば
安心だ。だけど、サンショウの方に強い敵が出て来たらとも考えたが、その時はそ
の時でしかない。
私を罠にかけようっていったってそうはいかないぞ。ここまでの展開が仕組まれ
ていたなんてことも十分あり得るんだからなあ! ふっふっふ。私が今まで味わっ
てきた苦い記憶は言っているぞ。用心しろと。
「ではさっさと行ってくるよ。」
「お気をつけて。」
「うん。私に何かあったとしても絶対ここは守ってね。ここから脱出できなくなる
ほうが問題だから。」
「はい!」
サンショウが自信満々に答えてくれる。よし、ついに闇の錬金術士ドーラとご対面
できるかもしれない。期待しよう。